レビュー

18コア/36スレッドの怪物CPU「Core i9-7980XE」を検証

~ついに登場した超メニーコアは異次元級の実力

 2017年5月に発表されたSkylake-Xの上位モデル「Core i9-7980XE」がついに発売された。

 同CPUはIntelのハイエンドプラットフォームで新ソケットとなるLGA2066向けのSKU。コンシューマ用のCPUとしては、18コア/36スレッドという驚異のコア数を誇る。“Core -X”シリーズとして投入され、これまでになかった“Core i9”というCore i7よりも上をいく性能を実現しているのが特徴だ(Intel、18コア/36スレッドに達した「Core i9-7980XE」を発表。新ソケットLGA2066導入参照)。

 Core Xシリーズには18コアだけでなく、16/14/12/10/8/6コアのCPUがラインナップされており、製造プロセスルールは14nm。DDR4-2666対応で4チャンネルをサポート。CPU側のPCI Expressレーン数は最大で44基に達する。

 今回は最上位のCore i9-7980XEに加え、16コア/32スレッド動作のCPU「Core i9-7960X」をテストする機会が得られた。ベンチマーク結果をお伝えしよう。

18/16/10/8コアの4モデルをテスト

 今回はCore i9-7980XEとCore i9-7960Xに加えて、10コアのCore i9-7900X、8コアのCore i7-7820Xもテストする。

 4モデルのおもなスペックは下記に掲載した。基本クロックはCore i9-7980XEが2.6GHz、Core i9-7960Xが2.8GHzだ。Turbo Boost(TB)の上限クロックはCore i9-7920X以上は共通で、TB 2.0が4.2GHz、TB 3.0では4.4GHzとなっている。このTBのクロックはCore i9-7900Xなどに比べると100MHzずつ低い。

 3次キャッシュ容量は1コアあたり1.375MBずつ増えており、18コアのCore i9-7980XEは24.75MBとなっている。TDPは、6~12コアモデルは140Wであるのに対し、14コア以上の3モデルは165Wとなっている。

【表1】今回テストするSkylake-X各モデルのおもなスペック。
Core i9-7980XECore i9-7960XCore i9-7900XCore i7-7820X
開発コードネームSkylake-XSkylake-XSkylake-XSkylake-X
コア/スレッド数18C/36T16C/32T10C/20T8C/16T
基本クロック2.6GHz2.8GHz3.3GHz3.6GHz
TB2.0クロック4.2GHz4.2GHz4.3GHz4.3GHz
TB3.0クロック4.4GHz4.4GHz4.5GHz4.5GHz
3次キャッシュ24.75MB22MB13.75MB11MB
PCIe 3.0レーン44レーン44レーン44レーン28レーン
対応メモリDDR4-2666×4chDDR4-2666×4chDDR4-2666×4chDDR4-2666×4ch
TDP165W165W140W140W
アンロック
実売価格($1,999)($1,699)12万円前後72,000円前後

全コアターボクロックをチェック

 一般公開されているスペックに加えて、今回テストする4モデルについて、定格動作時に全コアがターボするときの上限クロックを確認してみた。確認方法は、全スレッドをフルに使うCINEBENCH R15/CPUを実行して、HWiNFO 64でクロックをモニタするというやり方で行なっている。

 Core i9-7960XとCore i7-7820Xが4GHzであるのに対し、Core i9-7960Xは3.6GHz、Core i9-7980XEは3.4GHzだった。

 要するに、Core i9-7980XEのフル性能は18コア3.4GHzであり、Core i9-7960Xは16コア3.6GHzで、Core i9-7900Xは10コア4GHzだということだ。コアが増えるほどに上限クロックは下げられており、これが性能にどのように影響するかが注目点の1つになる。

【表2】全コア動作時の上限クロック
CPUコア/スレッド数上限クロック(※全コアフル動作時)
Core i9-7980XE18コア3.4GHz
Core i9-7960X16コア3.6GHz
Core i9-7900X10コア4GHz
Core i7-7820X8コア4GHz

Ryzen Threadripper 1950Xも加えてテスト

 今回のテスト環境は以下のとおり。

【表3】今回のテスト環境
Skylake-X環境Ryzen Threadripper環境
CPUクーラーCorsair H115i
マザーボードASUSTeK ROG STRIX X299E GAMING
(UEFI Version 0802)
ASUSTeK PRIME X399-A
メモリCrucial Ballistix BLT2K8G4D26AFTA
(PC4-21300 DDR4 SDRAM 8GB×2)×2組
グラフィックス機能ROG STRIX-GTX1070-O8G-GAMING
(NVIDIA Display Driver v385.69)
システムSSDSamsung SM961
(MZVKW512HMJP/512GB、MLC)
電源Seasonic SS-660XP(80 PLUS Platinum)
OSMicrosoft Windows 10 Pro(1703)
電力計Electronic Educational Devices Watts up? PRO

 マザーボードはASUSTeKのゲーミングマザー「ROG STRIX X299E GAMING」、メモリはPC4-21300(DDR4-2666)モジュールを4枚利用。マザーボードのUEFIセットアップでXMPプロファイルをロードしている。ロードのさいに問われる「all core enhancement」機能に関しては、有効化すると実質的にかなりのOC動作をすることになるため、当然ながら「No(無効)」を選択している。

 また、今回はSkylake-Xの4モデルのほかにAMDのRyzen Threadripper 1950Xを比較対象として加えた。こちらのマザーボードはASUSTeKの「PRIME X399-A」を使っている。

 2ダイ構造のRyzen Threadripper 1950Xでは、メモリのアクセス方法が異なる2つのモードが存在する。標準の「Distributed(UMA)」と「Local(NUMA)」両方をテストしている。

 CPUとマザーボード以外の環境は共通だ。CPUクーラーはコルセアのH115iを利用している。今回、電源プランはIntelの推奨にあわせて「高パフォーマンス」で統一した。

Core i9-7980XE
基本クロックは2.6GHz、TB 2.0の上限クロックは4.2GHzだが、全コアが動作するさいの上限クロックは3.4GHz(独自調査)だった
Core i9-7960X
基本クロックは2.8GHz、TB 2.0の上限クロックは4.2GHzだが、全コアが動作するさいの上限クロックは3.6GHz(独自調査)だった
Skylake-X環境のマザーボードはASUSTeKのゲーミングモデル「ROG STRIX X299E GAMING」を利用した。標準装備の無線LAN機能はオフにしている
Ryzen Threadripper環境では、ASUSTeKのシンプル仕様のスタンダードマザー「PRIME X399-A」を利用した
マザーボード以外のハードウェアは共通。メモリは8GBのPC4-21300モジュールを4枚利用した。Crucial Ballistixの2枚組セット「BLT2K8G4D26AFTA」を2組利用している
Corsairの簡易水冷クーラー「H115i」を利用。ファン制御はCorsair Link 4を使い「Balance」設定で行なっている。Ryzen Threadripper付属のリテンションパーツにも対応している

CINEBENCH R15では超メニーコアならではの異次元のスコア

 定番ベンチマークの結果から見ていこう。

 CPUが利用可能なすべてのスレッド数(最大256スレッド対応)でCGレンダリングを行なうCINEBENCH R15の「CPU」スコアでは、Core i9-7980XEの18コアの威力がストレートに反映されている。

 これまでコンシューマ向け最速であったRyzen Threadripper 1950Xを約11%上回り、16コアのCore i9-7960XもRyzen Threadripper 1950Xを上回っている。10コアのCore i9-7900Xとの比較では、Core i9-7980XEは約53%、Core i9-7960Xは約45%高速化している。

 一方、シングルスレッドでレンダリングを行なう「CPUシングルコア」のスコアは最大クロックの高いCore i9-7900XとCore i7-7820Xのほうが少し上だ。

CINEBENCH R15

 PCMark 10は、総合スコアではCore i9-7900Xが頭1つ上で、ほかのSkylake-Xはほぼ似たようなスコアとなった。Core i9-7900XはWebブラウジングやアプリケーション起動などライトな処理を中心としたEssentialのスコアがとくによく、オフィスアプリケーション中心のProductivityでも優れたスコアをマーク。Core i7-7820Xもよいスコアであり、このあたりは高クロック動作がきいているのだろう。

 一方、3DCGレンダリングや写真編集などクリエイティブアプリケーションのテストであるDigital Content Creationでは18コア、16コアの上位モデルのほうが速い。ただ、Core i9-7980XEとCore i9-7960Xでは、コア数の少ない後者のほうがよいスコアだ。

PCMark 10 v1.0.1275

クリエイティブアプリケーションの作業例

 クリエイティブアプリケーションを使った具体的な作業の例を見よう。

 Lightroom CC 2017ではRAWデータ100枚をJPEGに変換する時間を計測したが、処理が軽いためか、Skylake-X間ではわずかな差しかついていない。それでもCore i9-7960Xまでは上位モデルのほうが上だが、Core i9-7980XEはCore i9-7900Xより少しだけ時間がかかっている。

Adobe Lightroom CC 2017

 Photoshop CC 2017では、RAWデータに対して負荷の高いフィルタ処理や色調補正などをバッチ処理で行なった。こちらも全体に差は少ないものの、Skylake-Xモデルのグレードどおりの序列となった。

Adobe Photoshop CC 2017

 Premiere Pro CC 2017では、ビデオクリップ7本をエフェクトで連結したプロジェクトを4Kムービー(H.264/MP4)として書き出す時間を計測した。こちらもグレードどおりの序列。Core i9-7980XEとCore i9-7960Xとの差は小さいが、Core i9-7960Xは対Core i9-7900X比で約23%、対Core i7-7820X比では約36%と、はっきり高速だ。

Adobe Premiere Pro CC 2017

 TMPGEnc Video Mastering Works 6では、Premiere Pro CC 2017と同じ素材を使ったプロジェクトをフルHDムービー(H.265/MKV)として書き出す時間を計測した。ここではまたCore i9-7960XがCore i9-7980XEを逆転して最速となっている。

 このクリエイティブアプリのテストでは、Ryzen Threadripper 1950Xは全体的にSkylake-Xに対して分が悪い。Core i9-7900Xを少し上回るテストがいくつかあるものの、Core i9-7960Xを上回るテストはなかった。

TMPGEnc Video Mastering Works 6

3D/VR系のテスト結果

 3DMarkはFireStrikeでは、物理演算をCPUで行なう「Physics」やCPUとGPUが連携して演算を行なう「Combined」ではコア数の大きなモデルのほうがよい傾向だ。

 ただ、PhysicsではCore i9-7960XがCore i9-7980XEを逆転しており、Combinedでも両者は同じようなスコアで、総合スコアでもCore i9-7960Xがもっともよいスコアとなっている。

 DirectX 12の技術を活用したTime Spyでは、Graphicsの値はほぼ横並び。CPUのスコアはFireStrikeのPhysicsと同様、コアが多いモデルのほうがよい傾向があるが、Core i9-7960XがCore i9-7980XEを逆転している。

3DMark v.2.3.3732 / FireStrike
3DMark v.2.3.3732 / Time Spy

 VRMarkのOrange RoomはCore i9-7900XとCore i7-7820Xのスコアがよい。シングルスレッド性能の比重が大きいか、マルチスレッドでも10コア以上の超メニーコアを使い切るような処理はないのだろう。

VRMark v1.1.1272 / Orange Room
VRMark v1.1.1272 / Orange Roomフレームレート

 Ashes of the Singularity:EscalationではDirectX 12モードで1,920×1,080ドット、「Standard」設定で計測した。コアが多いモデルのほうがよい傾向はあるが、やはりここでもCore i9-7960Xがトップだ。

Ashes of the Singularity:Escalation

高画質設定のゲーム配信で超メニーコアの本領発揮

 FINAL FANTASY XIV:紅蓮のリベレーターベンチマークでは、1,920×1,080ドットフルスクリーンで最高品質設定のスコアを計測。さらに1,920×1,080ドットウィンドウ表示での実行画面にマイク入力音声を加え、OBS StudioでTwitchに配信(同時に録画)したさいのスコアも計測した。

 そのさいに記録されたエンコード中のドロップフレームについても掲載した。OBS Studioの出力設定は以下の画面に掲載したように、あえて高画質な設定にしている。

 通常状態ではCore i9-7960Xが少しよい程度で大差ないスコアとなっているが、配信中のスコアは差が出た。Ryzen Threadripper(Distributed)含めて16コア以上のモデルは通常時の85%以上のスコアが出ているのに対し、Core i9-7900Xは67.5%と低いだけでなく、目視でも一時的にカクつく場面が確認できるなど、スコア以上に苦しい状況だった。

 また、Core i7-7820Xはスコアの低下こそ少ないが、派手にドロップフレームが発生しており、OBS Studioに高負荷の警告表示が出るほどで、映像が完全に破綻してしまっていた。ドロップフレーム数はCore i9-7960Xがもっとも少なく、ついでCore i9-7980XE、Ryzen Threadripper 1950X(Distributed)の順で少なかった。

FINAL FANTASY XIV:紅蓮のリベレーターベンチマーク
OBS Studio 20.0.1
OBS Studioの配信/録画設定内容

消費電力と温度

 システム全体の消費電力をElectronic Educational Devices製「Watts up? PRO」で計測した。

 高負荷時については、3種類計測している。CINEBENCH R15/CPUは、演算処理がヘビーなため、CPU(キャッシュ含む)に負荷が集中する。Premiere Pro CC 2017は、超メニーコアにとっては演算処理の負担はそこまで大きくないため、メモリやストレージの負荷も大きいと思われる。

 この2つの状況ではだいたい同じ傾向で、Core i9-7960Xが一番高く、その次がCore i9-7980XE、Ryzen Threadripper 1950Xだ。CINEBENCH R15でははっきりCore i9-7980XEのほうがCore i9-7960Xより性能は上なので、コアを使い切れていないというわけではなく、18コアがフルに稼働しても3.4GHzでは16コア3.6GHzより電力は低いようだ。

 また、FINAL FANTASY XIV:紅蓮のリベレーターベンチマーク(配信時)は、CPU、メモリに加えて、ビデオカード、データバス、有線LANまで幅広く負荷がかかることになるため、どれもほかのテスト時より電力が大きい。やはりCore i9-7980XEはCore i9-7960Xの関係は同じだ。ここでRyzen Threadripper 1950Xの電力が一気に上昇しているのも興味深い。

システム全体の消費電力

 温度については、消費電力計測時と同じテストについて、IntelプラットフォームではHWiNFO 64 5.56、Ryzen ThreadripperではCoreTempを使って計測した。どちらもCPU内部のサーマルダイオードの値を読み取っているため、絶対値は必ずしも正確ではなく、本来横並びで比較できるものでもないのだが、アイドル時と高負荷時の差分から発熱の傾向は知ることができる。

 もっとも温度が上昇しているのはCore i9-7900Xで、超メニーコアのモデルは意外と温度上昇は少ない。各コアに分散して負荷がかかることから熱密度という面では有利で、放熱しやすいのだろう。比較的コアが少なくてもクロックの高いモデルのほうが放熱のハードルは高いのかもしれない。

CPU温度

強烈なインパクトの超メニーコアモデル

 今回のテスト結果を見ると、最上位のCore i9-7980XEではCINEBENCH R15のCPUスコアなどで強烈なインパクトのある性能を記録しているが、その下位のCore i9-7960Xと小差、あるいは逆転を許しているテストが多く、Core i9-7960Xのバランス、コスト効率がよいように見える。

 両者はTurbo Boostの上限クロックは同じであるし、マルチスレッド対応のアプリケーションでもそういう傾向であることから、シングルスレッド性能がどうというよりは、マルチスレッドに最適化された処理において全18コアがフル稼働するときのクロックが3.4GHzであることが影響していると思われる。

 18コア3.4GHzと16コア3.6GHzのどちらがよいか、当然アプリケーションの処理内容との相性によって変わってくるわけだが、今回にしても一般には多コアが有利に働くとされるテストを中心に行なっているので、Core i9-7980XEはかなりクセが強い、真価を発揮できる状況を選ぶCPUと言えそうだ。

 もっとも、発表の段階からして、「何が何でもAMD、Ryzen Threadripperの上を行く」ための製品であることがありありと感じられただけに、そのあたりも承知でリリースしていると思われる。実際、その目的をはたすに十分なインパクト、性能を発揮している。

 Ryzenの登場以来、IntelとAMDの競争が激しくなっている。こうした激しい競争は市場を活性化させ、ユーザーにとって利益をもたらすことも多いが、競争に勝つために、必ずしもユーザーを見て開発されたわけでもない製品が出てくることもある。そうしたことも頭に入れて、冷静に判断する必要があるだろう。

告知

本日(9月25日)20時より、“改造バカ”高橋敏也氏と、“KTU”加藤勝明氏が生配信にてCore i9-7980XEをレビューします。同CPUのベンチマークデモや特徴解説のほか、ライバルのAMD Ryzen Threadripperとの比較も行なう予定です。ご期待ください。

『史上最強18コア、Core i9-7980XEを入手!Threadripperとの頂上対決だ!』9月25日(月)20時配信
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