レビュー
Xeon W-1200と第10世代Core両対応のW480搭載マザー「Supermicro X12SCA-F」
2020年7月6日 06:55
Intelは5月13日(現地時間)に、第10世代Core vProプロセッサとともにワークステーション向けのXeon Wシリーズを発表し、それに対応するチップセットであるIntel W480を発表した。
発表済みではあるものの、6月末現在、CPUは国内での店頭販売はされておらず、ややレアな存在だ。今回Supermicroから、最上位であるXeon W-1290P(ES)と、これに対応するIntel W480チップセットを搭載したマザーボード「X12SCA-F」が送られてきたので、レビューをしていこう。
シングルスレッド重視のアプリに好適なXeon W-1xxxシリーズ
これまでXeon Wは、ハイエンド向けプラットフォームであるLGA2066およびLGA3647で展開してきており、メインストリーム向けのLGA1151ではXeon Eブランドとして投入してきた。最新のモデルは2019年第2四半期に投入されたXeon E-2200シリーズで、最上位は8コア/16スレッド/3.7~5GHz駆動のXeon E-2288Gとなっている。
今回のComet Lake世代では、ついにXeon Wとして統一されたことになる。ただ、LGA2066とLGA3647との差別化をわかりやすく区別するために、W-に続くモデルナンバーは「12xx」(Xeon W-1200シリーズ)という、これまでにない数字で展開されている。
Xeon W-1200シリーズのコア数は最大で10、AVX512やDL Boost命令は非対応。CPU内包のPCI Expressレーンは16で、メモリはECCには対応するが、Registered非対応のため、最大容量は128GBまでだ。ステッピングはいずれも最新のQ0となっているため、ダイが薄くなってソルダリングでヒートスプレッダと接合されるという、放熱性の高いものになっていると思われる。
Xeon W上位と比較したさいに、最大コア数や最大メモリ容量、PCI Expressのレーン数、DL BoostやAVX512命令のサポートといった点で劣るが、動作クロックが高く、CPUのシングルスレッド性能を重視するアプリケーションや、1~2 GPU程度で十分なワークステーション用途には好適だ。
たとえば、一般的なオフィス用途ではもちろんのこと、写真編集やイラスト制作、音楽制作、CADや3D CADなどが挙げられる。これらのアプリケーションの処理は一般的にデータの相互依存性が高いほか、設計も比較的古いため、多コアよりシングルスレッド性能を重視したほうが性能が上がる可能性が大きい。
よって、並列化可能で最新命令が使える科学演算やディープラーニング分野では、引き続きXeon W-2200/3200系が担うことになるが、それ以外のプロフェショナルユースではXeon W-1200を選択することになるだろう。
質実剛健なX12SCA-F
さて本題のX12SCA-Fだが、このXeon W-1200シリーズをサポートするIntel W480チップセットを搭載したワークステーション向けのマザーボード。流れ的には、Xeon E-2200シリーズをサポートしたIntel C246チップセットを搭載した「X11SCA-F」の正統後継となる。
Intel W480は、コンシューマ向け最上位のIntel Z490と比較するとオーバークロックが非サポートとなる代わりに、vProおよびIntel TXTへの対応、基本的な管理機能などを提供している。そのため企業内で使用したさいに、管理者がリモートでアクセスしてトラブルシューティングを行なったり、メンテナンスを行なったりすることが可能だ。
CPUはXeonのほかに、第10世代CoreやPentium/Celeronも搭載可能。Xeon W-1200が一般小売で出回っていないので、Coreで代用するのもアリだろう。ただ、このうちvProが使えるのは一部SKUのみとなるほか、ECCメモリには非対応となるので注意は必要だ。
X12SCA-Fは、従来のX11SCA-Fの特徴であったPCIスロットは踏襲している。これはその前の世代「X11SAE-F」や「X11SAT」から引き継いだ特徴で、古い拡張カードが利用可能となっている。一方でU.2は完全に省かれ、SATA 6Gbpsは8ポートから4ポートへと大幅に削減された。ストレージがM.2へ移行しているのに加え、SSDやHDDが大容量化しているのでニーズが少なかったのかもしれない。
ただ、新たに2.5Gigabit Ethenretを備えたため、ネットワーク上のファイルへより高速にアクセスできるようになった。加えて、USB 3.1(10Gbps)も2基から4基に増えている。おそらくこのあたりもSATAポートを減らした原因だろう。
このほか、ASPEED製BMC(IPMI対応)「AST2500」によるリモート管理機能や、DisplayPort、HDMI、DVI、ミニD-Sub15ピンという4系統のディスプレイ出力を備えている点もユニークだと言える。なお、ミニD-Sub15ピンはAST2500からの出力であり、標準ではこちらが優先されているため、Intel CPU内蔵のGPUを使うにはBIOSでIGFXをオンにする必要がある。
X11SCA-Fと比較して強化されたのはCPUの電源周りで、コア電圧供給部が5フェーズから6フェーズに増えている。これに伴いVRMのレイアウトも変更された。Xeon E-2200のTDPは最大95Wだったのだが、Xeon W-1200のTDPが最大125Wに向上したためだ。もっとも、W480チップセットではオーバークロックができないうえに、高効率なDrMOSを採用しているので、発熱にさほど配慮する必要はなく、控えめなヒートシンクである点は変わらない。
ファンのピンヘッダは5基と比較的豊富。また、簡易水冷ポンプ向けのヘッダを用意している点も近代的な設計だ。
BMCのデフォルトパスワードはユニークなものに
同社の製品は、ちょっと前まではIPMIのデフォルトパスワードは共通で「ADMIN」として設定されていた。ところがIPMIを使わないという理由でこのデフォルトパスワードを変更せずに使い続けた場合、第三者がLANケーブルをBMCに接続すれば、容易にアクセスできるという問題を抱えていた(当然その先にはOSのパスワードなどが待ちかまえているが、ユーザーがローカルで操作している場合はその画面が筒抜けとなる)。
そこで、Supermicroの本社所在地である米国カリフォルニア州では、2020年以降すべてのインターネットに接続可能な製品について、メーカーにユニークなデフォルトパスワードを設定することを義務付けた。Supermicro製マザーボードの場合、そのパスワードは2枚のシールに印刷されており、うち1枚はマザーボード本体、もう1枚はCPUカバーに貼付されるかたちとなっている。
むろん、本機も2020年に出荷された製品であるため、このポリシーに準じており、筆者の元に届いたサンプルではUSB 3.0コネクタの右側にシールが貼られていた(CPUソケットにはES品があらかじめ装着済みだったため、CPUソケットカバーのシールの有無は確認できなかった)。
電源周りはMPS製で統一
それでは搭載部品について見ていこう。まずはもっとも重要なCPU周りからチェックしていくと、PWMコントローラにMPS(Monolithic Power Systems)製の「MP2975」、コア電圧と内蔵GPU電圧供給用フェーズに同じくMPS製の「MP86945A」が使われている。
このうち前者についてはデータシートがない。Comet Lakeに対応したPWMコントローラの詳細について、今のところデータを公開しているメーカーは少ない。
一方後者はハイサイドMOSFET、ローサイドMOSFET、およびドライバを1つに統合した、いわばDriver MOSFETの類だ。最大出力は60Aと同社の上位製品に採用されているものと比較するとやや控えめなのだが、5フェーズで300A出力できるし、オーバークロックには非対応なので十分だ。
データシートを見るかぎり、1.2V出力の場合おおむね90%以上の効率を実現しており、出力電流が20Aのときの損失はわずか1.5W程度。仮にCPUが125Wの消費電力で約1.2V程度の電圧であった場合、1つのフェーズにかかる電流は多くても21A程度、全フェーズでの損失は単純計算で7.5Wなので、本製品に装備された小さなヒートシンクでも十分に対応できるレベルだろう。
なお、コアおよび内蔵GPUフェーズ後段のインダクタは100℃環境下で飽和電流が70AのVITEC製「59PR75-151」が使われており、こちらも性能としては十分に余裕を持っている。
このほかのI/Oやシステムエージェント用への電源供給にも、MPSのシンクロナスステップダウンコンバータの「MPQ8645P」および「MPQ8633」が使われており、電源周りはMPS製で統一されていることがわかる。
実装部品少なめで、独特の最短配線は健在
機能がシンプルなため、このほかのチップ実装は最小限となっている。BMCコントローラはASPEEDの「AST2500」で、別途Samsung製のDDR4メモリ「K4AG165WE-BCRC」とセット。BMC専用のネットワークコントローラとしてRealtekの「RTL8211F」を備える。
一方、本機のシステム上から利用できる2.5Gigabit EthernetはIntelの「I225-V」で、Gigabit Ethernetは「I219-LM」。このうちvProの管理機能が利用できるのは後者のみだ。オーディオコーデックはRealtekの「ALC888S」で7.1ch対応だが、音が鳴れば十分というレベルだろう。
PCIスロットだが、Intel W480チップセットは当然PCIスロットをネイティブでサポートしていないため、IDT製のPCI Express変換チップ「89HPEB383ZBEMG」を介して実装される。なお、電圧は5V専用だ。
ちなみにX12SCA-Fでも、Supermicroお得意の最短配線は健在である。コンシューマ向けのモデルと比較して実装パーツが少ないため、その配線長はさらにアグレッシブだ。配線を短くするということは、それだけデータの移動にかかるエネルギーロスや時間が削減されることになる。ここでもSupermicroの強いこだわりが感じられる。
その一方で、PCI Expressスロットやメモリスロットは金属のカバーで覆われ、強化されている。もともとコンシューマ向けのゲーミングマザーボードで多く採用されているアイディアなのだが、高信頼性を必要とするワークステーションでも有効であることは明らかだろう。
なお、BIOSのUI自体は以前テストした「C9Z490-PGW」と共通のUI。オーバークロック向けの項目がなく、BMC関連の項目が追加されている以外、特筆すべき点はない。なお、同社の以前のXeon W向けマザーボード「X11SRA-F」はPOSTがかなり遅いうえ、Windows 10のS3サスペンドをサポートしていなかったが、X12SCA-Fでは起動がかなり高速化されており、サスペンドもサポートしているため、より一般的なPCに近い感覚で利用できる。
期待どおりの高性能を発揮
それでは最後に簡単に、本製品がCPUなどの性能をきちんと引き出せるかという観点で簡単に検証していきたい。今回用意した環境は、CPUがXeon W-1290P、メモリがCrucialの「Ballistix Tactical Tracer RGB」DDR4-2666 8GB×4(合計32GB)、ビデオカードにColorfulのGeForce GTX 1660「iGame GeForce GTX 1660 Ultra 6G」、SSDに「Crucial C400」、OSにWindows 10 1909など。
ベンチマークはCINEBENCH R20とSiSoftware Sandra。比較用に以前テストしたCore i9-10900KとSUPERO C9Z490-PGWの環境を用意した。
注意したいのは、Core i9-10900K環境ではBIOS上でCPU性能プリセットを「Performance」に設定している点。X12SCA-Fの環境はPL1/PL2の設定が参照できないが、CINEBENCH R20中のパッケージ電力は180Wで遷移した。一方Core i9-10900Kのデフォルト設定では、PL1の時間が過ぎたあとPL2である125Wに制限されるので、何回ベンチマークしてもX12SCA-Fより性能が低くなってしまった。Performanceプリセットに設定すれば、電力制限は300Wになるのでこの状況は回避できる。
今回はあくまでもマザーボードが問題なくCPUの性能を引き出せていることを検証するためのテストであるのだが、X12SCA-FとXeon W-2190Pの性能は期待どおりだ。Xeon W-2190PはCore i9-10900Kとほぼ同スペックのCPUであるのだが、仮にX12SCA-FにCore i9-10900Kを搭載した場合、同じスコアになると想像される。
コンシューマ向けCPUも選べる高い自由度が魅力
これまで同社のマザーボードを数々試してきたが、X12SCA-Fは幅広いプロシューマにフォーカスした製品だけあって、抜群の安定性と使いやすさを備えている印象だ。
本製品はXeon W-1200シリーズのみならず、第10世代CoreやPentium、Celeronなども搭載可能。加えて、メモリもECC対応/非対応を選べる。会社内の導入においては、同じマザーボードを選んでマネジメントの煩雑性を軽減しつつ、ワークロードや用途に応じてCPUとメモリの選択を変えられる柔軟性を持ち合わせていると言えよう。社内である程度の規模で導入するならひじょうに有力な選択肢だと言える。