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512GBじゃあ足りるわけがない!ポータブルゲーミングPCのストレージ増設、どれがいい?

 ポータブルゲーミングPCのストレージ不足は深刻だ。まず昨今のゲームのディスク使用量は10GB超えが当たり前。筆者のSteamライブラリを調べてみたら、もっとも容量が多かったのは「Forza Horizon 5」で146.44GBに達した。これでは、数本ゲームをインストールするだけでストレージがいっぱいになってしまうポータブルゲーミングPCは多いことだろう。

 その上ポータブルゲーミングPCはストレージの増設は換装の難易度が高い。そもそもデスクトップPCやゲーミングノートPCのように、M.2 SSDを2枚挿せるモデルは存在しないので、いざストレージ不足に直面しても躊躇している方が多いのでは?

 そこで今回の記事では、ポータブルゲーミングPCで、システムドライブの換装、モバイルストレージの装着、そしてmicroSDメモリーカードの装着した場合、それぞれどのぐらいのパフォーマンスを発揮するのかベンチマークを実施してみた。いままさにストレージ不足に悩まされている方の参考になれば幸いだ。

ストレージを増設する3つの方法

 ポータブルゲーミングPCでストレージを増設する方法は概ね3つある。

 まず1つ目は内蔵SSDを換装してしまうこと。予算があり、ある程度のスキルがあればこの方法がもっともスマートだ。ただし内蔵SSDの換装は分解、再組み立てという作業が発生するので難易度が高く、またメーカー保証が切れてしまうというデメリットもある。

これは今回の記事のために天空から借用した「ONEXPALYER X1 mini」。キックスタンドは4本のプラスネジで取り外せ、すぐM.2 SSDスロットにアクセスできる。システムストレージを換装しやすいポータブルゲーミングPCだ

 2つ目の方法はモバイルストレージ。最近のポータブルゲーミングPCはインターフェイスにUSB4を採用している機種が多く、最大転送速度(理論値)はUSB 3.2 Gen 2であれば10Gbps、USB4であれば40Gbpsとなる。対応モバイルストレージを接続すれば、多くのアプリが快適に動作することを期待できるわけだ。

 ただし外付けということで、短いUSBケーブルを使用したとしても、ブラブラとぶら下がってしまう。持ち運び時には取り外すなどの一手間が発生するのだ。

USB 3.2 Gen2、USB4対応モバイルストレージは高速だが、接続したままではポータブルゲーミングPCの携帯性がスポイルされてしまう。もっと短いケーブルでつなぎ、背面などに貼り付けるのならアリか?

 3つ目の方法はmicroSDカードを装着するという方法。ほとんどのポータブルゲーミングPCにスロットが用意されているので、手軽に装着でき、本体内に収まるので邪魔になることはない。またほかの方法に比べて価格もリーズナブルだ。

 しかし、最新の製品は高画素アクションカメラ、ドローン用のために高速化されているというものの、速度はモバイルストレージなどと比べてもグッと落ちる。また、2TB以上の大容量は選択肢が比較的少ない。この点を割りきれるかどうかが問題となるわけだ。

ポータブルゲーミングPCのmicroSDメモリーカードスロットはプッシュイン・プッシュアウト方式。押し込めば出っ張りはないので、ポータブルゲーミングPCの携帯性に影響を与えない

 なお、今回はベンチマークを実施しないが、「ポータブルeGPU」を使用するという方法もある。たとえば「ONEXGPU」は「AMD Radeon RX 7600M XT」を内蔵したポータブルeGPUで、底面にM.2 2280 SSDを装着可能。ポータブルゲーミングPCに接続すれば、グラフィック性能を大幅に強化すると同時に、ストレージ容量も追加できる。

 ただし「ONEXGPU」自体が9万9,980円(記事執筆時点)で、別途M.2 SSDも用意する必要がある。さらに「ONEXGPU」を駆動するためにはACアダプタが必要。ややハードルが高すぎるということで、今回の記事には検証を含めていない。あくまでも選択肢の1つとして考えられるというところだ。

「ONEXGPUポータブルeGPU国内正規版(AMD Radeon RX7600/8GB DDR6/NVMeスロット/300W)」(9万9,800円)。底面にM.2 2280 SSDを装着可能だ

各製品の仕様上の速度はイメージ以上に大差ある

 さてベンチマークの前に、今回使用した製品を手短かに紹介しておこう。システムドライブと換装するM.2 SSDはNextorageの「GシリーズME NN4ME-2TB」(以下GシリーズME)、モバイルストレージはサンディスクの「サンディスクエクストリームポータブルSSD - 1TB(ブラック)」(以下ポータブルSSD)、そしてmicroSDメモリーカードは同じくサンディスクの「サンディスクエクストリームmicroSDXC UHS-Iカード - 256GB」(以下microSDXCカード)を使用した。

 仕様上のリード、ライト速度を見ていくと、「GシリーズME」はリード7,400MB/s、ライト6,200MB/s、「ポータブルSSD」はリード1,050MB/s、ライト1,000MB/s、「microSDXCカード」はリード190MB/s、ライト130MB/sとなる。

 つまり、「GシリーズME」は「ポータブルSSD」に対してリードで705%相当、ライトで620%相当、「microSDXCカード」に対してリードで3,895%相当、ライトで4,769%相当の速度ということになる。規格が異なるとは言え、想像以上の速度差だ。

GシリーズME NN4ME-2TBサンディスクエクストリームポータブルSSD - 1TBサンディスクエクストリームmicroSDXC UHS-Iカード - 256GB
規格PCIe Gen4 x4USB 3.2 Gen 2microSDXC
リード(MB/s)7,4001,050190
ライト(MB/s)6,2001,000130
サイズ約30×22×2.5mm100.54×52.42×8.95mm14.99×10.92×1.02mm
重量実測2.63g実測55.44g実測0.27g
実売価格3万9,000円前後1万9,000円前後1万4,000円前後
「GシリーズME」は「ポータブルSSD」に対してリードで705%相当、ライトで620%相当、「microSDXCカード」に対してリードで3,895%相当、ライトで4,769%相当の速度
GシリーズME NN4ME-2TB」(実売価格3万9,000円前後)

気になるベンチマーク結果はいかに?

 さてそれではようやく本題に入ろう。今回、ストレージ速度を比較するためのベンチマークとして、下記の4つを実施している。

  • ストレージベンチマーク「CrystalDiskMark」
  • ゲーム「Cyberpunk 2077」の起動時間
  • 圧縮ファイル「63.8GB」の同じドライブに対する展開
  • 「3DMark」を同じドライブに対してインストール

 これら4つのベンチマークを通じて、実際の使用感としてどのぐらいの違いが発生するのかを見ていきたい。

 まず、ストレージベンチマーク「CrystalDiskMark」の結果だが、これはそれぞれのストレージのスペック上の速度(理論値)がストレートに現われた結果となった。ただし、「GシリーズME」の「microSDXCカード」に対する速度がリードで7,071%相当、ライトで7,011%相当とさらに開いている。

 サンディスクの「microSDXCカード」はスペック上の速度がリード190MB/s、ライト130MB/sとなっているが、今回テストに使用した「ONEXPALYER X1 mini」のmicroSDメモリーカードスロットがボトルネックとなっているわけだ。

左上から「ONEXPALYER X1 mini」標準のM.2 SSD「HS-SSD-DK4000 1024G」、「GシリーズME」、「ポータブルSSD」、「microSDXCカード」の結果だ
CrystalDiskMark

 ゲーム「Cyberpunk 2077」の起動時間はちょっと意外な結果となった。標準のM.2 SSD、「GシリーズME」、「ポータブルSSD」はほぼ横並びで30秒前後。「microSDXCカード」から起動した場合でもプラス約9秒しか起動に時間がかかっていない。せっかちな筆者でも「microSDXCカード」でもゲームの起動なら十分待つことができる。

「Cyberpunk 2077」の起動時間

 圧縮ファイル(63.8GB)の同じドライブに対する展開は、大きな差が開いた。「ポータブルSSD」は標準のM.2 SSDに対して221%相当、「microSDXCカード」は標準のM.2 SSDに対して363%相当の所要時間がかかっている。

 このベンチマークは、ネットワークからダウンロードした圧縮ファイルをインストールすることをイメージして実施した。頻繁にアップデートファイルが提供されるゲームなどでは、「ポータブルSSD」、「microSDXCカード」では多少待たされることを覚悟したほうがよさそうだ。

 なお、標準のM.2 SSDと「GシリーズME」では、「CrystalDiskMark」のベンチマークスコアとは逆転する現象が見られた。複数回ベンチマークを実施しても同じ結果だ。リードとライトを繰り返すような処理を、「GシリーズME」は苦手としているようだ。

圧縮ファイル(63.8GB)の同じドライブに対する展開

 「3DMark」を同じドライブに対してインストールするというテストでは、「Cyberpunk 2077」の起動時間とほぼ同じ傾向が見られた。標準のM.2 SSD、「GシリーズME」、「ポータブルSSD」がほぼ横並びで、「microSDXCカード」のみ約100秒の時間がかかっている。とは言っても、標準のM.2 SSDに対して「microSDXCカード」の所要時間は135%相当だ。「CrystalDiskMark」のベンチマークスコアほどの差ではない。

「3DMark」を同じドライブに対してインストール

まずは手軽&低コストで導入できるmicroSDカードを試してほしい

 今回4種類のベンチマークを実施してみたが、「CrystalDiskMark」ではスペックに近いリード、ライト性能が出ており、特に「GシリーズME」の突出したスコアには驚かされた。

 しかし、今回実際にそれぞれの環境で「Cyberpunk 2077」をプレイした時の体感的な感想としては、「Cyberpunk 2077」の起動時間に近い。確かに多少待たされることはあるが、我慢できないほどではない。いずれも読み込みが終われば、当然引っかかりなどはないのだ。

 もちろん圧縮ファイル(63.8GB)の同じドライブに対する展開など、作業によっては大きな差がある。同様に読み書きがひっきりなしに発生するRAW画像の現像などでは、実際の処理速度にはっきりとした違いが出る可能性がある。

 すべてのゲームで実用的な速度を得られるとは限らないが、まずは手軽、そして比較的低コストで導入できるmicroSDメモリーカードでのストレージ増量を試してみてほしい。もちろん根本的に解決したいのであれば、M.2 SSDを換装しよう。「GシリーズME」は実売価格3万9,000円前後。2TBという容量を考えれば、決して高くはないはずだ。