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キーボードの革新的機能でゲームが上手くなる?界隈を賑わす「ラピッドトリガー」って何だ?

 主にFPSプレイヤーの間で、キーボードの「ラピッドトリガー(Rapid Trigger)」という機能が注目されている。一般的なキーボードと比べてキーの反応が高速になるという、ゲーミングキーボードの最先端機能と言えるものだ。

 ラピッドトリガーがどんなものかを理解するためには、ゲーミングキーボードの進化の歴史を学んでいくのが分かりやすい。順を追って解説していこう。

キーストロークを細かく認識できるキースイッチの開発

Razer製キーボードのラピッドトリガー(高速トリガー)の説明

 ゲーミングキーボードとされる製品は古くから存在するが、それら全てがラピッドトリガーに対応するわけではない。ラピッドトリガーを実現するのに必要なハードウェアとして、キーストロークの深さを細かく認識できるタイプのキースイッチがある。

 一般的なキーボードのキースイッチは、ある1点までキーを押し込むと入力の判定となり、逆にある1点まで戻すと入力が離れた判定になる。スイッチとしてはごく当たり前の挙動だ。

 そこにゲーミング向けのスイッチとして新たに登場したのが、キーがどの深さまで押されたかを認識できるキースイッチ。従来のキースイッチをオン・オフのみのデジタル入力として、ストロークの深さを認識できるものをアナログ入力と呼ぶこともある。ゲームパッドにおけるオン・オフのみのボタンが、アナログスティックなどの多段階認識になったというニュアンスだ。

 キーストロークの深さを認識する仕組みは、光学式や磁気式など製品によって異なる。キーの押下圧の違いなどは当然あるが、使用感として大きな違いはなく、一般的なキーボードと同じように文字入力などに使っても何ら違和感はない。

 ではこれで何ができるかというと、キーの入力判定を好きな位置に設定できるようになる。一般的なキースイッチは、たとえば入力判定位置が深さ2mmにあるものは、それ以外に変更はできない。しかしキーストロークの深さを認識できるものなら、その位置を1mmに浅くもできるし、3mmに深くもできる。認識精度とストロークの範囲が許す限り、入力判定位置の深さを自由に調整できるわけだ。

 この入力判定位置のことを「アクチュエーションポイント」と呼ぶ。ゲーム用途では、アクチュエーションポイントを浅い位置に設定することでキー入力の反応速度を上げる、という使い方が多い。キーを押し込む距離がmm単位で短くなるだけではあるのだが、実際の使用感はかなり違って、キーを押した瞬間に反応するという実感がある。この違いは数msの世界で争われるゲームにおいては大きい。

アクチュエーションポイントの設定画面。たとえば3mmであれば、キーを3mm押し込むと入力判定となる。一般的なキースイッチならここは固定値になる
アクチュエーションポイントをより浅い1.5mmに設定すれば、3mmの時よりキーを押した時の入力タイミングが早くなる

 さらに入力がオフになる場所も別途設定が可能で、これは「リセットポイント」と呼ばれる。アクチュエーションポイントのすぐ上に設定されるのが一般的だが、製品によってはあえて距離を離すことも可能だ。

 アクチュエーションポイントの設定が可能になったゲーミングキーボードは、ハードウェア的な進化の最先端にある製品と言える。

入力のオン・オフを最速にするラピッドトリガー

 そこからさらにソフトウェア的に進化させてできたのが、本題のラピッドトリガーだ。

 従来はアクチュエーションポイントを限界まで浅くしても、リセットポイントはそれよりも上である必要があった。そうすると、特にキーを深く押し込んだ場合などでは、キー入力は高速にできる一方、キー入力がオフになるのは逆に遅くなってしまう。キーを押せばすぐ反応するが、離した時には遅くなるため、ゲームによっては優位性がなくなるし、操作感も変わってしまう。

 そこで発明されたのが、キーが押されている間は入力オン、キーが戻り始めたら入力オフ、という挙動。こうすると、入力オンはキー入力とほぼ同時、入力オフは指を上げ始めたのとほぼ同時になり、どちらも高速に反応できる。ユーザーが入力をオン・オフしたいタイミングに限りなく近い挙動が実現できる。これがラピッドトリガーだ。

 ラピッドトリガーの挙動を実現するためには、1点でオン・オフする従来型のキースイッチではなく、キーストロークの深さを認識できるキースイッチが必要となる。従来からアクチュエーションポイントの設定が可能としていた製品が、ソフトウェアのアップデートでラピッドトリガーの挙動に対応する場合もある。今後は最初からラピッドトリガーに対応した製品が増えてくるだろう。

一般的なキースイッチのイメージ図。入力とオフの判定はそれぞれの点で行なわれる(資料提供:Razer)
ラピッドトリガー有効時のキースイッチのイメージ図。キーを押し始めたらすぐ入力がオンになり、離すとすぐ入力がオフになる(資料提供:Razer)

ラピッドトリガーを使うとどうなる?

 ではラピッドトリガーがゲームにおいてどんなメリットがあるのか。特にラピッドトリガーの恩恵が大きいとプレーヤーの間で話題になっているのが、FPSの「VALORANT」だ。実際にどんな挙動が可能になるのか、プレイ動画で比較してみよう。

 今回試用した機材は、Razerの「Huntsman Mini Analog」。当初はアクチュエーションポイントの設定が可能なキーボードとして登場したが、後にソフトウェアアップデートでラピッドトリガーに対応した。

ラピッドトリガーが反応する距離も設定できる。今回は押した時、離した時の両方で最小幅の0.1mmを選ぶ

 まずはラピッドトリガーを設定せず、アクチュエーションポイントを「Huntsman Mini Analog」で最も浅い1.5mmに設定してプレイした。A/Dキーを底まで押してすぐ離すという、キーを叩くような操作で、左右方向に細かく移動する動きをしてみると、こんな感じになる。これはこれで別に違和感はない。

ラピッドトリガー無効時

 続いてラピッドトリガーを使用した場合。押した時と離した時の両方を0.1mmで認識するよう設定し、同じ操作で左右方向へ細かく移動してみた。筆者の手での操作なので操作ごとのブレはあるものの、ラピッドトリガー使用時の方が入力がオフになるまでの時間が短いため、その分だけ明らかに移動距離が短く、繊細な操作が可能になる。

ラピッドトリガー有効時

 この辺りの挙動がゲームでどれだけのアドバンテージになるかは、ゲームタイトルによっても異なるだろう。たとえば「VALORANT」では静止状態での射撃精度が高いため、止まってから撃つと有利になるのだが、敵を見つけたらすぐ止まって撃つという挙動のためにラピッドトリガーが効果的に働く。

 ただ入力のオン・オフがプレイヤーの感覚に近づけられるという点では、おそらく多くのアクションゲームでメリットがある。動きたい時に動き、止まりたい時に止まるという反応がよくなり、プレイヤーのイメージした通りの動きにより近づく。

 ちなみにラピッドトリガーをオンにした状態でテキスト入力をしてみたところ、特に問題はなく普通に入力できる。いつもよりキーの反応が早く出るので若干の違和感はあるが、キー入力方法を何か意識して変える必要はない。

 もしこの挙動がゲーム以外では気に入らないのであれば、各メーカーの設定ソフトウェアで、ゲームプレイ時とそれ以外でプロファイル(デバイスの設定)を切り替える機能などを活用するといい。

 ゲーム用と一般用で2つのキーボードを用意するという手もあるが、ラピッドトリガーに対応するゲーミングキーボードはスイッチの耐久性が高く、キータッチも優れているものが多い。場所を取らないという意味でも、1つの製品でまかなう方が幸せだと思う。

ラピッドトリガー対応製品

 ここからは本稿執筆時点でラピッドトリガーの対応を謳っている製品を紹介する。近日発売のものも含め、日本国内で入手可能な製品はできるだけ挙げていくが、それ以外にも将来的なアップデートで対応を表明しているものもある。今後は新製品、アップデートを含めて対応製品が増えていくはずなので、メーカー各社の最新情報にもご注目いただきたい。

キーボードもファームウェアアップデートが可能になり、発売後に対応する製品も増えている

 ラピッドトリガー対応製品は非常に高い注目を集めており、品切れになっている製品も多い。欲しい製品がある場合は、ショップの入荷状況を入念にチェックしておくといいだろう。一部を除き、価格は10月4日時点でのAmazonの情報を掲載しているが、こちらも在庫の影響か価格が不安定になっているのでご注意いただきたい。

Razer「Huntsman Mini Analog」

製品情報
●キー配列:英語配列●インターフェイス:有線(USB)●本体サイズ:293.3×103.3×36.8mm●重量:446.5g●実売価格:1万9,800円前後

 今回の解説で使用したもので、60%キーボードと呼ばれるコンパクトな製品。Razerアナログオプティカルスイッチを採用し、1つのキーにストロークの深さに応じて2つの機能を持たせる2段式アクチュエーションを使用できる。ラピッドトリガーを使用するには、設定ソフト「Razer Synapse」のインストールが必要。

Razer「Huntsman V2 Analog」

製品情報
●キー配列:日本語配列/英語配列●インターフェイス:有線(USB)●本体サイズ:446×141×45mm●重量:1,240g●実売価格:4万2,900円前後

 「Huntsman Mini Analog」のフルサイズ版。こちらは英語配列だけでなく日本語配列も用意されている。マグネット式のレザーレット製リストレストが付属する。側面にはUSB 3.0ポートがあり、ほかのUSB機器を接続できる。ラピッドトリガーを使用するには、設定ソフト「Razer Synapse」のインストールが必要。

 なおRazerでは本機の新型となる「Huntsman V3」シリーズが今冬発売予定。ラピッドトリガーが標準対応となりキーボード側で調整が可能になるほか、押下圧がより軽い40gに変更される。サイズもフルサイズと60%に加え、テンキーレスも用意される。

SteelSeries「Apex Pro」

製品情報
●キー配列:日本語配列/英語配列●インターフェイス:有線(USB)●本体サイズ:436.7×139.2×40.3mm●重量:971g●実売価格:25,200円前後

 磁気センサーを使用したOmniPoint 2.0 HyperMagneticスイッチを搭載。1つのキーに2つの機能を搭載させる2-in-1アクションキーが使用可能。小型の有機ELディスプレイを搭載し、本機のみで設定変更できる。USBポートも搭載する。

 なお「Apex Pro」はフルサイズだが、同じくラピッドトリガー対応のシリーズ製品として、テンキーレスの「Apex Pro TKL」、60%キーボードの「Apex Pro Mini」、60%キーボードでワイヤレスの「Apex Pro Mini Wireless」がある。さらにそれぞれの英語配列の製品もあり、好みのサイズと配列の製品を選べるのも本機の魅力だ。

SteelSeries「Apex Pro TKL(2023)」

製品情報
●キー配列:日本語配列/英語配列●インターフェイス:有線(USB)●本体サイズ:355×128×42mm●重量:960g●実売価格:29,700円前後

 製品名に2023とある通り、「Apex Pro TKL」のリニューアル版で、現時点ではテンキーレスサイズのみが用意されている。OmniPoint 2.0 HyperMagneticスイッチの採用やラピッドトリガーの対応は変わらないが、筐体が新しくなり、一部のキーのサイズが変更されている。

 ワイヤレス版の「Apex Pro TKL Wireless(2023)」もラインナップされているほか、英語配列も選べる。

東プレ「REALFORCE GX1」

製品情報
●キー配列:日本語配列/英語配列●インターフェイス:有線(USB)●本体サイズ:365×143.1×38.2mm●重量:1,300g●価格:3万3,000円

 静電容量無接点方式のスイッチを採用した高級キーボードで知られる東プレの「REALFORCE」シリーズの、ゲーミング向けを謳うテンキーレスの製品。キーは静音仕様で、押下圧が全キー45gと30gの2種類に、それぞれ日本語と英語の配列を選べる。AキーとDキーの同時押しを無効化するKill Switch機能を搭載する。

 「REALFORCE」シリーズの元々の人気もあってか、執筆時点では本機は全モデルが品切れの状態。現在は以前の受注分を10月中旬までに発送予定で、その後に販売再開できるよう準備を進めているという。

Wooting「Wooting 60HE」

製品情報
●キー配列:英語配列●インターフェイス:有線(USB)●本体サイズ:302×116×38mm●重量:605g●直販価格:25,100円から

 オランダのベンチャー企業が開発し、ラピッドトリガーの先駆者と言われる製品。60%キーボードで英語配列のみ。レイアウトはシンプルだが、左側に黄色いストラップが付いているのがユニーク。

 基本的に直販サイトからの購入となり、価格は25,100円から。日本への発送にも対応しているが、発送方法により3,200~6,300円の送料がかかる。

DrunkDeer「DrunkDeer A75」

製品情報
●キー配列:英語配列●インターフェイス:有線(USB)●本体サイズ:335×140×29mm●重量:715g●実売価格:19,300円前後

 磁気式スイッチを採用した製品。英語配列で、テンキーレスより少し小さい75%キーボード。IP66の防水防塵に対応する。香港の企業のようだが、Amazonにも出品しており、日本国内から安価に購入できるのも魅力。

エレコム「V_custom VK600A」

製品情報
●キー配列:日本語配列/英語配列●インターフェイス:有線(USB)●本体サイズ:322.4×124.7×36.2mm●重量:662g●価格:2万2,980円

 10月18日に発売予定の新製品で、磁気式アナログスイッチを採用した65%キーボード。押下圧は30gから60gへ徐々に重くなる設計。1つのキーに2つの機能を割り当てる2ndアクション機能を搭載する。ほかの機器を接続可能なUSB 2.0ポートも備えている。ホワイトとブラックの2色展開。

CORSAIR「K70 MAX」

製品情報
●キー配列:日本語配列●インターフェイス:有線(USB)●本体サイズ:442×166×39.2mm●重量:約1.39kg●実売価格:3万3,000円前後

 磁気式のCORSAIR MGXスイッチを採用したフルサイズのゲーミングキーボード。デュアルポイントアクチュエーションにも対応し、1つのキーに2つの機能を設定することも可能となっている。発売時点でラピッドトリガー機能の対応が予告されており、現時点ではベータ版ファームウェアを導入することで利用可能になる。