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Wi-Fi 6Eを導入して分かった6GHz帯のメリット。5GHz帯との差を比べてみた
2022年11月29日 11:00
2022年11月29日、VAIOからWi-Fi 6Eを利用可能にするアップデートプログラムの提供が開始された。対象となるモバイルノート「VAIO SX12(VJS125)」を試用することができたので、早速、Wi-Fi 6Eの6GHz帯の速度を5GHz帯と比較してみた。Wi-Fi 6E導入にどれほどの効果が見込めるのか、明らかにしていきたい。
Intel AX211搭載の12.5型モバイルノート12「VAIO SX12」
VAIOによる9月のニュースリリースで予告されていた通り、一部VAIO製品に対して、Wi-Fi 6Eを動作させるアップデートプログラムの提供が開始された。
同社は、Wi-Fi 6E対応のIntel AX211搭載PCにおいて、発売当初からアップデートプログラムによって6GHz帯が利用可能になることを利用者に予告していたが、その約束通り、アップデートプログラムの提供を実現したことになる。
アップデートプログラムの詳細については、VAIOによる告知を参照してほしいが、対象となるのは以下の製品となる。
- VAIO SX12(VJS125シリーズ)
- VAIO SX14(VJS145シリーズ)
- VAIO S15(VJS155シリーズ)
- VAIO Pro PH(VJPH23シリーズ)
- VAIO Pro PJ(VJPJ22シリーズ)
- VAIO Pro PJ (VJPJ22シリーズ)
このうち、今回テストに利用したのは12.5型液晶搭載で899gと軽量なモバイルノートとなる「VAIO SX12(VJS125)」だ。
軽量なわりに、各部の建付けがしっかりとしており、いかにも作りこまれた印象があるモデルで、液晶を開くと自然にキーボードが傾斜し、打鍵のしやすさと冷却性能を両立させている。個人的にVAIO製品を実際に手に取ったのは久しぶりだが、VAIOならではのスタイリッシュさもさることながら、キー操作時の快適さなど、改めて作りこみの良さに気づかされた印象だ。
それでは、本題に戻ろう。今回のモデルのスペックは、Core i5-1240P、メモリ16GB、Windows 11 Pro搭載だったが、いずれのモデルも無線モジュールとしてIntel AX211を内蔵しており、発売時点からハードウェア的にはWi-Fi 6Eに対応していた。
しかしながら、日本でWi-Fi 6Eの6GHzの利用が認可されたのは、2022年9月2日とつい最近であり、発売当初はソフトウェア的に6GHz帯が無効化されていた。この無効化されていた6GHzが、今回のアップデートプログラムによって、いよいよ利用可能になったことになる。
Wi-Fi 6と6Eの違いについて知りたい方は、以下の過去記事を参照されたい。
最新ドライバ「22.180.0.4」を利用
まずは、アップデート前後の状態を比較してみよう。
前述したように、内蔵される無線モジュールはIntel AX211だが、アップデート前と後では適用されるドライバが異なる。
アップデート前のバージョンは「22.120.0.3(2022/01/31)」となっていた。Windows 11標準のインボックスドライバは「22.0.1.5」なので、それよりは新しいドライバにアップデートされているが、Intelのサイトで配布されている本稿執筆時点(2022年11月23日)の最新版のドライバは現時点では「22.180.0.4(2022年11月15日リリース)」なので、最新版ではない。
一方、今回のVAIOのアップデートで提供されたWi-Fi 6E対応のドライバも、「22.180.0.4」となる。つまり、Intelのサイトで公開されている最新のドライバとまったく同じになる。
ちなみに、先行してドライバを公開したNEC PC向けドライバのバージョンは「22.170.4.2」となる。こちらはIntelのサイトでは公開されていないドライバだが、VAIO提供のバージョンは、さらに新しいことになる。
技適番号はどうなったのか?
続いて、技適番号を確認してみよう。
今回のVAIOに搭載されているIntelの無線モジュール(Intel AX211D2W)は、以下のように6GHz帯に関する技適の第2条第79号(車載などのVLP)、第2条第80号(屋内限定のLPI)に規定する特定無線設備の証明済みだ。
Intel AX211D2W→003-220257(2.4/5GHz番号は003-210037)
一方、今回のVAIO SX12(VJS125)で、もともと取得されていた技適番号は2.4/5GHzに関する以下の「003-210037」になる。
ドライバアップデート後も2.4/5GHz帯で接続するので、この番号を維持したまま、新たに取得した以下の6GHz帯に関する番号も付与されることになる。
- Intel AX211D2Wの6GHz帯番号 : 03-220257
現状、VAIOに限らず、国内の多くのPCは、内蔵されるIntelのモジュールの技適番号を利用する方式が採用されている。具体的には、Intelからメーカーにモジュールが納入される際、そのパッケージおよびマニュアルに記載されている技適番号をメーカーが確認するという方式だ。
総務省に問い合わせたところ、このように内蔵モジュールが技適表記の要件を満たしている場合は(今回はパッケージとマニュアルの記載)、そのモジュールを内蔵するPCそのもの(マニュアル・画面表示含む)に技適の表示がなくても構わないとの回答を得た。
VAIO株式会社に問い合わせたところ、同社ではPCの製造過程において、Intelのパッケージの技適表示を同社自身によって確認し、技適取得済みであることをPC購入者に知らせるためのシールを、本体に付与するという方式を採用している。
つまり、今回のIntel AX211のケースであれば、技適番号の表記についてはIntelが実施していることになる。このあたり、具体的な手続きは製造工程の内部的な処理になるため、我々が知ることはできないが、おそらくメーカーに対してIntelから6GHzの新しい技適番号が何らかの形で発行されたことで、技適の要件を満たしたのだろう。
しかしながら、今回VAIOでは、ユーザーへの認知を目的として、もう一段階の工夫をしている。
具体的には、「VAIOレスキューモード」というUEFIやリカバリツールなどを呼び出すための画面に6GHz帯の技適番号を追加することで、PC上でも6GHz帯への対応を確認可能にした。ワイヤレスWAN対応モデルは従来から、同画面で技適番号を確認できたが、Wi-Fiモデルにも新たに確認画面を追加し、そこで確かめられるようになったわけだ。
前述したように、今回のケースでは内部のモジュールが技適の要件を満たしていれば問題ないため、メーカーとして技適番号の表記は必須ではないのだが(総務省にも確認済み)、あくまでもユーザーに安心して使ってもらうために表記を追加したことになる。
6GHz帯が本領を発揮するのは5GHz帯が混雑しているケース
肝心の実力を見ていこう。以下のグラフは、木造3階建ての筆者宅の1階に、アクセスポイントを設置し、各階でiPerf3による速度を計測した結果だ。
アクセスポイントには、バッファローの「WNR-5400XE6」を利用した。最大2,401Mbps(160MHz幅時)に対応する製品で、WANポートのみながら2.5Gbpsポートも搭載するWi-Fi 6E対応製品だ。
今回はアクセスポイントモードとして動作させ、2.5Gbps対応のWANポートをLANポートとして利用し、PCを有線で接続してiPerf3のサーバーとして稼働させている。
結果を見ると、6GHzだからと言って特に高速であるという印象はない。それもそのはずで、基本的に利用する周波数帯が異なるだけで、基本的な仕組みは従来のWi-Fi 6の5GHz帯と変わらないためだ。
なお、グラフの青バーの3階窓際(最も遠い地点)について、「6GHz」の結果が落ちていることに気が付くかもしれない。これは、6GHz帯の出力の影響だろう。
5~6GHz帯で利用する電波は以下のように規定されており、現状のWi-Fi 6E対応アクセスポイントはLPIの屋内限定で通信することになる。
- 5GHz帯 W52/W53 : 屋内限定(W53は登録で屋外利用可能)
- 5GHz帯 W56 : 屋外利用可能
- 6GHz帯 VLP(Very Low Power) : 車載などの限られた空間
- 6GHz帯 LPI(Low Power Indoor) : 屋内利用限定
そして、このような用途の違いによってそれぞれの帯域のEIRP(Equivalent Isotropic Radiation Power : 無線LANの電波の強さを示す値。アンテナなどを考慮して換算した値)が異なる。5GHz帯のW52/53が200mW、W56が1W、6GHz帯が200mWとなっている(子機側はすべて200mW)。
6GHzは、EIRPが屋内向けに抑えられているうえ、そもそも周波数そのものが高いので、長距離で若干不利な傾向がある。これが今回のテストの結果に表れた形だ。
では、6GHz帯のメリットはないのか? というと決してそうではない。6GHz帯は、現状W56で義務付けられているDFS(Dynamic Frequency Selection : レーダーとの干渉を避けるための検知とチャネル変更の仕組み)が不要なうえ、周囲に利用者がほとんどいないため、干渉の心配がない点にある。
これを確認できるテストが次の結果だ。アクセスポイントを2台用意し、片方で5GHz帯(100ch)の通信を常時発生した状態で、Wi-Fi 6E対応のもう片方で5GHz(同じ100ch)と6GHzでiPerf3の速度を計測した。
Wi-Fi 6Eのアクセスポイントで5GHzを利用した場合、もう1台のアクセスポイントがまったく同じチャネルで通信しているため、干渉をまともに受け速度が半減していることが分かる。
一方、Wi-Fi 6Eのアクセスポイントで6GHzを利用した場合は、もう1台のアクセスポイントとは利用する周波数が異なるため、干渉がまったく発生せず、フルスピードで通信できている。
現状、家庭の周囲でも5GHz帯の利用は増えているので、今回の結果ほど極端ではないにしろ、5GHz帯は周囲から何らかの干渉を受けているケースがほとんどだ。窓際で速度が落ちたり、周囲で利用者が増える時間帯でWi-Fiの速度が低下したりするのは、この影響の可能性もある。
しかしながら、今の6GHz帯はまず周囲にアクセスポイントが存在することはない。このため、まるでガラガラに空いた高速道路のように、何も邪魔されずに通信できる。これがWi-Fi 6Eの6GHz帯を使うメリットということになる。
このように、Wi-Fi 6Eをようやく利用可能になったわけだが、現状はパフォーマンスが大きく変わるわけではない。
ただ、今回のVAIOを使ってみると分かるが、6GHzの電波は今なら周囲にほぼ存在しない。要するに現時点であれば、少なくとも自宅の周辺の6GHz帯は「オレの電波」的な使い方ができることになる。このメリットは大きいだろう。