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Wi-Fi 6Eルーターを買うにはまだ早い?既存のWi-Fi 6E対応機器はつながらない可能性も
2022年9月10日 07:13
【訂正】初出時に「既存のWi-Fi 6Eモジュール搭載PCやスマートフォンに対して、同一の技術基準適合番号での追加認証であれば、ファームウェアやドライバのアップデートによって6GHz帯に対応可能」と記述していましたが、総務省関東総合通信局より訂正が入りました。
正式には、6GHz帯を含む、新たな技術基準適合番号の申請が必要になるため、同じ型番の製品でも異なる認証の製品として扱われます。本記事は初出時に、従来の同一認証番号とする場合のガイドラインと同様の対応がWi-Fi 6Eでも適用されるのではないか、という総務省関東総合通信局の見解を元にしておりましたが、9月15日に訂正が入り、従来のガイドラインには該当せず、新たに認証番号を取得する必要があるとのことです。そのため、これに該当する本文の内容を修正しました。
ついに6GHz帯が解放され、国内メーカー2社からWi-Fi 6E対応製品が発売された。しかしながら、現時点では接続可能なPCやスマートフォンが存在しない。本稿では、Wi-Fi 6Eの概要をおさらいしつつ、現時点でWi-Fi 6Eが抱える課題を考えてみる。
6GHz帯開放でWi-Fi 6Eがスタート
9月2日に公布された「電波法施行規則等の一部を改正する省令」により、ようやく国内でもWi-Fiでの6GHz帯の利用が可能になった。
今回開放されたのは、これまで固定衛星や固定電気通信業務で利用されていた帯域の一部となる5,925~6,425MHzだ。米国では、Wi-Fi 6E向けに5,925~7,125MHzが解放されているが、国内では放送事業などの干渉を避けるため、前半の500MHz分が解放されたことになる。
これにより、これまでのWi-Fi 6は、通信に2.4GHz、5GHz(W52/W53/W56)の周波数帯を利用可能だったが、今回の省令によって新たに「Wi-Fi 6E」として6GHzを利用可能になったことになる。
各ルーターメーカーは、事前にティザー広告を掲載するなど、その登場を予告していたが、今回の公布を受けて、早速新製品を発表した。もちろん、実際に利用するには対応PCやスマートフォンが必要で、これはまだ未確定な部分が多いのが難点だが、これで日本でもWi-Fi 6Eが本格スタートしたことになる。
当面は「快適」が保証されるWi-Fi 6E
Wi-Fi 6E対応ルーターは、言わば「スーパーハイウェイのチケット」だ。
大渋滞で身動きの取れない一般道の2.4GHz帯どころか、高速なのに混んでいて、たまに通行止め(DFS)まで起きる5GHz帯を横目に見ながら、周りに誰もいない新設の6GHz帯高速道路をスイスイと走ることができる。
Wi-Fiは、すでに次世代のWi-Fi 7も見えてきているが、こうした通信規格としての進化は、例えるなら車としての進化だ。荷台が大きくなり、トレーラーのように何台も連結して大量の荷物を運べるようになる。
これに対して、今回のWi-Fi 6Eは道路の進化だ。今までは車線を増やすなどして対応してきたが、今回は道路そのものが新設された。
Wi-Fi 6Eのメリットをもう少し、具体的に見ていこう。
Wi-Fi 6Eでは、前述したように、新たに解放された6GHz帯を通信に利用できる。この帯域は、20MHzごとに191、195、199……283と合計24のチャネルに分かれており、Wi-Fi 6Eでは最大で8つのチャネルを束ねることで、合計160MHz幅を一度に利用する高速な通信が可能になっている。
Wi-Fiに限らず、電波を利用した通信は、同じ周波数帯で同じタイミングで利用すると干渉が発生するため、近隣のアクセスポイントと、このチャネルが重ならないように設定する必要がある。
従来の5GHz帯では、この160MHz幅のチャネルを最大で2系統までしか重ならないように確保することができなかったため、前後左右に隣接する家ですでに160MHz幅が使われていると、干渉を避けられなかった。
今回の6GHz帯は、現状においては、そもそも周囲に6GHz帯を利用するアクセスポイントが存在する可能性が低いので、干渉をほぼ気にする必要がないうえ、使われていたとしても、6GHz帯でさらに3系統、重複しないチャネルを設定できる。そのため、ほぼ干渉しないWi-Fi環境を構築することが可能だ。
また、従来の5GHz帯のうちW53とW56は、環境によってはレーダーなどとの干渉が発生する可能性があり、干渉が発生した場合に一定時間通信が停止したり、チャネルが強制的に切り替わったりする「DFS」(Dynamic Frequency Selection)という仕組みが搭載されているが、6GHz帯はDFSが不要となっているため、こうした通信断も発生しなくなっている。
このほか、同じ帯域に存在する機器が、必ずWi-Fi 6以上であるメリットも大きい。従来の5GHz帯は、Wi-Fi 6だけでなく、Wi-Fi 5などの古い規格でも接続可能な帯域だ。こうした古い規格の機器は、通信速度が遅いため、より多くの時間、電波を占有し、それに足を引っ張られる形でWi-Fi 6などの機器の速度が遅くなる可能性がある。
要するに、同じ車線上に速度の遅い車がいるため、思うように速度を上げられないわけだ。
同様の理由で、Wi-Fi 6以上で定義されている高度な通信機能(OFDMAやDL MU-MIMO)などを使えない場合もある。つまり、6GHz帯は、単純に空いているだけでなく、最新の速い端末だけが接続できる専用道路ということになる。
性能は「空き具合」と「電波強度」の天秤
このように、いろいろな意味で空いていている6GHz帯を利用可能なWi-Fi 6Eだが、通信の仕組みとしては、従来のWi-Fi 6と変わらないため、劇的に速度が向上するようなものではない。
もちろん、現状、周囲で5GHz帯が混雑しており、干渉が発生してしまっている場合は、干渉のない6GHz帯を利用することで、スループットは向上するが、干渉がなければ互角、もしくは5GHz帯より少し低い速度になる可能性がある。
「少し低い速度になる可能性」があるというのは、6GHz帯の出力に関係している。
現状、Wi-Fiの出力を表すEIRP(Equivalent Isotropic Radiation Power)の値を比較してみよう。EIRPというのは「実効輻射電力」のことで、放射状に広がる理想的なアンテナシステムに換算したときの出力を表す値だ。電波の出力、ケーブルの損失、アンテナの利得を考慮して計算された値となっている。
チャネル | 屋内限定 | 屋内および屋外 | |
---|---|---|---|
5GHz帯 | W52 | 200mW相当 | 登録局で1,000mW |
W53 | 200mW相当 | × (屋内限定) | |
W56 | 1,000mW相当 | 1,000mW相当 | |
6GHz帯 | - | 200mW相当 | 25mW相当 |
これを見ると分かる通り、今回、開放された6GHz帯は、EIRPが屋内限定(LPI)の場合で200mWと、W52/W53と同じになっている。
一方で、5GHz帯のW56は1,000mWとなっており、もっとも出力が高い。ただ、前述したようにW56は干渉が発生する可能性があるので、干渉の度合いによって、空いている6GHzとどちらが快適になるかが変わることになる。ざっくり比較すると以下のようになる。
「干渉のないW56」 > 「干渉の少ないW56」 ≧ 「6GHz帯」=「干渉のないW52/W53」 ≧ 「干渉の大きいW56」 > 「干渉のあるW52/W53」
このため、Wi-Fi 6Eを導入することで、快適になるかどうかは、理論上は、どの帯域を利用しているか、およびどれくらい干渉が発生しているかによって異なる。
しかしながら、今回、Wi-Fi 6E製品を発売したメーカーに話を聞くと、こうした対策として6GHz帯のアンテナにかなり工夫していることが伺える。搭載されている無線チップや処理能力も向上しているため、単純に製品の世代が新しい分、高速になることも想定できる。
このあたりは、正直、ケースバイケースと言えそうだ。
既存のWi-Fi 6E対応デバイスの接続は?
このように、Wi-Fi 6Eは、正直、かなり期待が持てる規格であり、後述する実際の製品の完成度も高い。
しかしながら、現状( 2022年9月上旬時点 )の課題は、接続できるPCやスマートフォンが国内にほぼない点だ。
PCに関しては、現状はIntel AX210/211(Coreとのセット向けの型番)、もしくはAMD RZ616(160MHz幅対応)/RZ608(80MHz幅までの対応)を搭載した製品が存在する。スマートフォンに関しても、本稿執筆時点では対応機種が少ないが、GoogleのPixel 6シリーズやGalaxy S22シリーズなどが対応している。
なお、国内で人気のiPhoneシリーズは13まではWi-Fi 6Eに非対応で、新型のiPhone 14シリーズもWi-Fi 6E非対応であることが、スペック表から判明している。
しかしながら、例え手元にWi-Fi 6E対応機器あったとしても、本稿執筆時点では、いずれの端末からもWi-Fi 6Eアクセスポイントに6GHzで接続できない。
なぜなら、これまでWi-Fi 6Eの6GHz帯は、国内では使用できなかったため、出荷時に6GHz帯が無効にされているためだ。
メーカーによっては、今後、アップデートプログラムの適用によって利用可能になるとアナウンスしている場合もあるが(※注22参照)、今のところ具体的なスケジュールや方法は明らかになっていない。
また、すでに市場に出回っているWi-Fi 6Eモジュール搭載製品について、後から認証された6GHz帯の利用が法的に許可されるかどうかも分かりにくい。
この点について、関東総合通信局に問い合わせをしてみたところ、「既存のWi-Fi 6製品はWi-Fi 6Eに対応させるには、新たに認証番号を取得する必要がある」ということだ。
つまり、同じ型番のモジュールであっても、6GHz帯認証前の機器と認証後の機器で番号が変わることになり、6GHz帯で接続可能なのは、認証後の番号のモジュールのみで、認証前の番号の場合は6GHz帯が使えないことになる。
すでにWi-Fi 6Eとして販売されている機器に対して、実際にどのように対応するかはメーカー次第となるが、法的には既存のWi-Fi 6製品がファームウェアやドライバのアップデートだけでは6GHz帯に対応できないことになる。
もちろん、既存の2.4GHzや5GHzで接続することは問題ないが、肝心の6GHz帯にPCやスマートフォンから接続できないとなると、魅力が下がってしまう。このあたりの対応は、今後数カ月で明らかになってくるため、メーカーのサポートページなどに注目する必要がありそうだ。
それでもWi-Fi 6Eは買う価値がある?
このようにWi-Fi 6Eによって、新しい6GHz帯が使えるメリットは、非常に大きいが、現状は用途が限られる印象だ。
具体的には、メッシュや中継のバックホールとしての活用が見込まれる。コストはかかってしまうが、Wi-Fi 6Eルーターを2台以上利用して、メッシュや中継を構成する際、アクセスポイント同士の通信に6GHz帯を利用することで、干渉をほとんど受けないクリーンなバックホールを構築できる(バッファローWNR-5400XE6ではEasyMeshではない通常の中継モードでのみ6GHzバックホールをサポート)。
従来の5GHz帯では、メッシュや中継のバックホールが周囲からの干渉を受ける可能性があり、それにより全体の速度が低下するケースがあったが、現状ほぼ周りに利用者がいない6GHz帯をバックホールに利用すれば、こうした心配がない。
正直、現時点の筆者宅であれば、「6GHz帯はオレのもの」と無双することができる。
こうしてバックホールとして当面は活用しつつ、対応クライアントが出揃った段階で、PCやスマートフォンなどの接続に活用するというイメージになりそうだ。
いずれにせよ、今まで2つの選択肢しかなかった帯域が3つに増え、しかも、最新のトライバンド対応製品なら、それを同時に使えるのだから、Wi-Fi 6Eそのものには大きな価値がある。
今までのWi-Fiの規格もそうだが、登場直後は、常に「クライアント待ち」という状況だった。その状況は今回も変わらないが、だからこそ、利用者が少ない、ガラガラの帯域を堪能できるとも言える。そこに価値を見出せるのであれば、Wi-Fi 6E対応製品に投資する価値はあると言えるだろう。
最後にWi-Fi 6Eに対応するルーターを見ていこう。
バッファロー「WNR-5400XE6」
バッファローの「WNR-5400XE6」は、最大2,401Mbps(6GHz)+2,402Mbps(5GHz)+573Mbps(2.4GHz)でEasyMeshにも対応したWi-Fi 6E対応ルーター。2.5GBASE-T×1(INTERNET)+1000BASE-T×3の有線LANを備えており、ミドルハイのレンジに相当する製品。
実売価格は単体モデルで2万2,980円となっており、決して高くない(むしろ半導体不足や為替を考えるとかなり努力した)価格の製品となっている。
従来の同社のデザインとテイストが若干異なるが、本体に厚みを持たせることで上部に3次元的にアンテナを4本配置。うち2本は6GHz帯専用とすることで、快適な通信が可能としている。また、有線ポートを底面側に配置し、接続のしやすさや配線のスッキリ感を演出している。
INTERNETポートのみだが、2.5GBASE-Tにも対応している。EasyMeshは規格として6GHz帯をサポートしていないが、独自技術により、クライアント接続用のフロントホール側で6GHz帯を利用可能にしている。
また、EasyMeshではなく、通常の中継モードで利用することで、6GHzをバックホールとして利用できる。EasyMeshペアリング済みの2台セット「WNR-5400XE6/2S」は4万3,980円前後で購入可能。
NEC「Aterm WX11000T12」/「Aterm WX7800T8」
NECプラットフォームズの技術の集大成と言える強力なWi-Fi 6ルーター「Aterm WX11000T12」。フラグシップのAterm WX11000T12は、最大4,804(6GHz)+4,804(5GHz)+1,147Mbps(2.4GHz)と、すべての帯域が4ストリームに対応したトータル12ストリームの製品だ(実売価格5万円前後)。
有線LANも10GBASE-T×2を搭載しており、WAN、LANともに10Gbpsで通信可能。本体サイズが大きいが、アンテナはすべて内蔵。デザインがスッキリしており、実際に設置すると圧迫感はない。
機能も豊富で、トレンドマイクロのセキュリティ対策機能を利用できる。2台セットで利用した場合、メッシュを簡単に構築可能で、6GHz帯をバックホールとして利用できる。有線10Gbpsと組み合わせることで、実効速度で2.5Gbps前後と最強のバックボーンを構成可能となっている。
一方の「Aterm WX7800T8」は、同じくトライバンド帯だが、2,402(6GHz)+4,804(5GHz)+574Mbps(2.4GHz)となっており、有線もすべて1Gbps対応。