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Wi-Fi 6Eって何?Wi-Fi 6と何が違うの?国内の対応ルーター登場時期などを整理
2022年4月5日 06:22
比較的新しいノートPCを中心にWi-Fi 6Eに対応した無線LANの搭載が始まっている。「Wi-Fi 6」に「E」が付いた新しい規格だが、これはどういったもので、どんなメリットがあるのだろうか? そして、今、買っておくべきなのか? ここでは、Wi-Fi 6Eとは何で、対応PCを選ぶメリットがあるのかを解説する。
徐々に登場してきたWi-Fi 6E対応PC
本誌に掲載された記事でも、度々目にするようになってきたが、Wi-Fi 6Eに対応したノートPCをちらほら見かけるようになってきた。本校執筆時点(2022年4月2日)で、ざっと探してみたところでも、以下のようなPCがWi-Fi 6E搭載と紹介されている。
Wi-Fi 6は、2018年末から国内でも対応Wi-Fiルーターが登場しており、すでに主流となるまでに普及しているが、Wi-Fi 6Eに対応したWi-Fiルーターは、海外ではたまに目にすることはあっても、国内ではまだ見かけない。
こうした状況で、Wi-Fi 6Eに対応したPCと言われても、そこにメリットを感じないのも当然だ。しかし、PCを1年以上利用するのであれば、今、Wi-Fi 6E対応機種を選んでおくメリットはある。
2022年年末には、徐々にWi-Fi 6E対応ルーターが登場することが予想されており、拡張された帯域を使った干渉の少ない快適な無線LAN環境を手に入れられる可能性がある。
Wi-Fi 6Eとは何か?
Wi-Fi 6Eは、一口に説明すれば、利用可能なチャネルが多いWi-Fi 6だ。
基本的な仕組みは現状のWi-Fi 6(規格で言えばIEEE 802.11ax)と同じだが、5,925~7,125MHzという今までWi-Fiでは使っていなかった周波数帯域を利用可能にすることで、より多くの接続を可能にし、干渉の少ない、快適なWi-Fi環境を実現できる。
まず、現状のWi-Fi 6の電波の利用状況を見てみよう。2.4GHz帯と5GHz帯が利用できるが、話を単純化するため、2.4GHz帯は省いて、5GHz帯の利用状況を以下に示す。
現状の5GHz帯は、5,150~5,725MHzの帯域が利用可能となっており、これが20MHzごとに36~144の20個のチャネルに分割されている。36~48がW52、52~64がW53、100~144がW56と呼ばれている。
このチャネルは複数束ねることで高速な通信を実現しており、Wi-Fi 6では最大で160MHz幅まで確保できる。Wi-Fi 6の最大速度は、一般的なノートPCで現状2,402Mbpsとなるが、これは160MHz幅を利用した際の値となり、80MHz幅のときは1,201Mbpsとなる(いずれも2ストリームMIMO利用時)。
さて、160MHz幅で複数のチャネルを束ねると、高速化はできるが、その分、1つのアクセスポイントが占有する電波の帯域が広くなる。同じチャネルの電波が近く(隣家など)にあると、それが干渉の原因となるためだ。
このため、近隣と干渉しないように160MHz幅の帯域を確保しようとすると、上図のように現状の5,150~5,725MHzの中では2つしか確保できない(正確にはW56側は若干ずらせるので、組み合わせはもう少し多い)。
市販のアクセスポイントの中には、標準で160MHz幅をオフにし、80MHz幅で利用するようにしている機種もあるが、それは最大速度よりも干渉を防ぐことの方が重要と考えているからだ。干渉が発生すれば、結局速度が低下するか、アクセスポイントが自動的に80MHz幅にダウンして接続するようになっている。
Wi-Fi 6Eで拡張される6GHz帯
160MHz幅を最大で2つしか確保できないのでは、せっかくのWi-Fi 6の実力を生かすことができない。また、次世代のWi-Fi 7(IEEE 802.11be)は、これをさらに拡大し320MHz幅で利用することが想定されている。
つまり、圧倒的に周波数帯域が足りないわけだ。
そこで、Wi-Fi 6Eでは、利用可能な周波数帯域を現状の2.4GHz+5GHz帯から、さらに6GHz以上(5,925~7,125MHz)へと拡張することが想定されている。
5,925~7,125MHzは1,200MHz分も帯域があるため、160MHz幅であっても干渉しないように7つ分も帯域が確保できる。これなら、四方に隣り合う隣家で、別々の帯域を設定することが可能で、160MHz幅を干渉しないように使い分けることができるわけだ。
まとめると以下のようになる。
- Wi-Fi 6Eの基本的な仕組みはWi-Fi 6と同じ
- Wi-Fi 6Eは従来の2.4GHz+5GHzに加え6GHz以上の帯域を利用可能
- 160MHz幅を重ならないように2+7の9つ分確保できるため干渉を避けやすい
Wi-Fi 6Eが利用可能になるのは今年末と予想
冒頭でも触れたように、ノートPCなどのクライアント側は、すでにWi-Fi 6Eへの対応が開始されている。
ノートPC向けであれば、IntelのAX210またはAX211(Intel Evoプラットフォーム向け)がWi-Fi 6Eに対応しているので(Wi-Fi 6向けはAX200およびAX201)、これらを目安に購入すればWi-Fi 6Eが利用できることになる。また、AMDプラットフォーム向けに、MediaTek製のWi-Fi 6E対応モジュール(MT7921K)を採用したマザーボードも存在する。
一方、アクセスポイントは、米国では、ASUS GT-AXE11000やNETGEAR RAXE500など、すでにWi-Fi 6E対応製品が販売されているが、日本ではまだ製品は発売されていない。
というのも、6GHz帯のWi-Fiでの利用は、まだ日本では認可されていないためだ。
現状、総務省の情報通信委員会での審議が行なわれており、2月に実施された審議で「6GHz帯無線LANの導入のための技術的条件に関する報告書(案)」が提示された(情報通信審議会 情報通信技術分科会 陸上無線通信委員会 第70回)。
6GHz帯は、アンライセンスバンドとして免許不要で利用できる帯域となっており、Wi-Fi以外のシステムでも利用している。現状、衛星通信システム、電波天文、放送番組中継システムで利用されており、これらとの共用に関する検証と対策案も上記資料で示されている。
まだ検討課題は残っているようだが、6GHz無線LANの技術的条件案が示されたことで、今年中にはWi-Fi 6Eの利用が可能になると予想される。
実際、ビジネス分野で高いシェアを持つシスコシステムズは、3月31日の記者発表で同社のWi-Fi 6E対応製品が2022年末には利用可能になる目途を示している。
グローバルで展開するメーカーは、すでにWi-Fi 6E対応モデルをラインナップしているため、日本で6GHz帯が認可され次第、技適などの要件を整えるだけで、比較的速い段階で日本市場に製品を投入できる見通しだ。
一方、国内メーカーも準備を進めているが、こちらは今のところ動向が聞こえてこないため、製品の登場はもう少し先になると予想される。
互換性は問題ないが利用周波数帯に注意
既存のWi-Fi 6対応製品との互換性については、ほぼ問題ない。
前述したように、Wi-Fi 6Eは技術的にはWi-Fi 6と同等で、利用可能な周波数帯のみが異なるだけなので、Wi-Fi 6対応のノートPCやスマホなども問題なく、Wi-Fi 6E対応アクセスポイントに接続できる。
ただし、アクセスポイント側のチャネルがWi-Fi 6Eで拡張された6GHz帯に設定されている場合、Wi-Fi 6対応クライアントでは、この周波数帯を認識できないため、接続できないことになる。
このため、アクセスポイント製品のほとんどは、おそらくトライバンド対応が中心となるはずだ。2.4GHz+5GHz+6GHzの3つのバンドを同時に利用可能にすることで、5GHz帯で従来のWi-Fi 6対応機の接続をまかないつつ、Wi-Fi 6E対応機は6GHz帯に接続するという使い分けになる。
年末から2023年前半までは、ほぼハイエンド(5万円以上かそれ以上の)機種が中心となり、手が出しにくい状況になると予想される。
Wi-Fi 6の普及はこの2年ほどで低価格化が進んだ要因も大きいため、一般にWi-Fi 6Eが普及するのは、2023年よりさらに先になるかもしれない。
対応PCは買っておいて損はない
結局のところ、Wi-Fi 6E対応ノートPCを買うか、見送るかという判断だが、個人的には買っておいて損はないと考える。クライアントの場合、Wi-Fi 6対応とWi-Fi 6E対応で、大きな価格差があるわけでもないので、コスト的な負担も大きくない。
もちろん、自宅のアクセスポイントがWi-Fi 6E対応になるのは、もう2~3年かかると考えられるが、その前にオフィスなどの環境がWi-Fi 6E対応に切り替わる可能性もある。1つのフロアに複数のアクセスポイントを設置したいオフィスには、干渉を避けやすいWi-Fi 6Eはうってつけだからだ。
このため、オフィスなどへノートPCを持ち込む可能性がある場合は、Wi-Fi 6E対応機を購入するメリットがあるだろう。また、イベントなどの大規模な会場などでも使われる可能性があり、Wi-Fi 6E対応ノートPCを所有していれば、空いている快適な6GHz帯を堪能することもできる。使える帯域は多いに越したことはないわけだ。