特集

「Wi-Fi中継機」は本当に効果があるのか?戸建てとマンションで電波の届き具合を検証。中継機が速度低下を招くことも……

TP-LinkのWi-Fi 6対応ルーター「Archer AX55」とWi-Fi 6対応中継機「RE600X」

 「Wi-Fiがつながらない……」、「通信が途切れる……」。こうした悩みの救世主となる可能性があるのが「Wi-Fi中継機」だ。アクセスポイントからの電波を中継することで、通信エリアを広げたり、通信速度を向上させたりすることができる。中継機の効果を3階建て戸建てと2LDKマンションで実際に検証してみた。

電波を中継する「Wi-Fi中継機」

 Wi-Fi中継機は、文字通り、Wi-Fiの電波を中継するための装置だ。

 Wi-Fiは、アクセスポイント(親機)とPCの間の通信に電波を利用するが、通信距離が長かったり、間に遮蔽物が存在すると、信号が減衰してつながりにくくなったり、速度が低下したりする。中継機は、アクセスポイントとPCの間で、電波をいったん受け取り、それを再び他方へと送信し直すことで、こうした現象を防ぎ、より快適な通信環境を実現することができるものだ。

電波を中継することで通信エリアを広げたり、高速化したりする中継機

 製品としては、以下のようなものがある。コンパクトでコンセントに直結するタイプが多く、価格も通常のWi-Fiルーターに比べて安くなっているため、自宅や小規模なオフィスなどのWi-Fi環境改善に使われることが多い。

【表】各社のWi-Fi中継器
メーカー製品名実売価格通信速度
TP-Link RE600X8,000円前後1,201+574Mbps
TP-Link RE505X7,600円前後1,200+300Mbps
バッファロー WEX-1800AX46,500円前後1201+573Mbps
エレコム WTC-X1800GC7,500円前後1,201+574Mbps
アイ・オー・データ機器 WN-DAX1800EXP5,800円前後1,201+574Mbps
ネットギア EAX802万9,000円前後4,804+1,147Mbps
ネットギア EAX201万6,000円前後1,201+574Mbps

 なお、中継機と似た製品として「メッシュ」が存在する。メッシュは、複数のアクセスポイントを組み合わせて使うことで、より広いエリアをカバーできるようにしたり、通信速度を向上させたりできるWi-Fi機器だ。

 使い方や効果は中継機もメッシュもほぼ同じで、製品としても現状はほとんど違いがない。たとえば、今回、テストに使用したTP-Linkの中継機「RE600X」は、同社の独自メッシュ規格「TP-Link One Mesh」に対応しており、同じTP-Linkの製品と組み合わせて使うことでメッシュ接続される。

 以前は、中継機は場所によって接続先のSSIDを使い分ける必要があるなど、機能や使い方に差があったが、最近では中継機側の機能が進化して同一SSIDでの接続に対応していたり、前述したように中継機がメッシュ自体に対応していたりすることで、機能的にはほぼ差がない状況だ。

 ただし、メッシュの場合、複数台で適切なルートを選択できたり、ネットワーク全体を制御できたり、トライバンド対応で中継専用の帯域を利用できたり、中継の速度が2,402Mbpsと高速だったり、より高いスペックの製品が多い。高い速度を実現したいのであれば、メッシュを選択するメリットが大きいだろう。

実際の住宅環境で中継機の効果をテスト

 それでは、本題の中継機の効果について見ていこう。今回、検証を実施したのは、木造3階建て3LDKの戸建て住宅と、鉄筋コンクリートマンションの2LDKの住宅の2つの環境だ。

 それぞれの環境で、Wi-Fi 6ルーターを単体で使用した場合と、中継機を使用した場合で、各部屋でどれくらいの速度差があるのかをiPerf3を使って検証した。もちろん、実際の効果は設置場所の環境や周囲の状況によって異なるため、今回の検証結果は一例に過ぎない。あくまでも参考値として考えてほしい。

 使用した機器は、以下の通りだ。それぞれの機器を取扱説明書に従ってセットアップし、使用するチャネルなどすべて標準設定のままで検証した。

Wi-Fi 6ルーター
TP-Link「Archer AX55
実売価格:1万円前後
最大2,402Mbps(5GHz)+574Mbps(2.4GHz)に対応したWi-Fi 6ルーター。外付けの4本のアンテナを持ち、有線LANはすべて1Gbps対応。5GHz帯の2402Mbpsは、2ストリームMIMO、160MHz幅で実現される
中継機
TP-Link「RE600X
実売価格:8,000円前後
最大1,201Mbps(5GHz)+574Mbps(2.4GHz)に対応したWi-Fi 6中継機。アンテナ内蔵で、有線LANは1Gbps×1を搭載する。TP-Link One Meshに対応しており、上記Archer AX55との組み合わせではメッシュで動作する

検証1:戸建て住宅

 木造3階建て住宅では、上下方向の通信となる。木造のため、電波は比較的届きやすいが、上下に距離が離れているのが特徴となる。通常、Wi-Fiルーターのアンテナは水平方向に広がりやすいように設計されているため、今回のテストではアンテナを斜めに傾け、上方向に届きやすいように調整して検証している。

 まずは、設置時のチャネルをチェックしておこう。Wi-Fiルーター設置時に自動的に選択されたチャネルは、5GHz帯が44chで、2.4GHz帯が10chとなった。

ルーター単体での結果

 Wi-Fiルーター単体では、以下のような環境でテストを実施した。1階にWi-Fiルーターを設置し、2階、3階(窓際のもっとも離れた地点)で計測している。

1階にWi-Fiルーターを設置し各階で計測

 結果は、以下の通りだ。同じ1階で600~700Mbps、2階で200~300Mbpsとなった。3階は、上りと下りで差があり、上りは72.5Mbpsだったが、下りは196Mbpsと200Mbps近い速度となった。

 筆者の経験上、iPerf3で100Mbpsを超えれば、実用にほぼ問題はないので、3階の下り196Mbpsというのはなかなか優秀な結果だ。これならば中継機を利用しなくても、単体のみで十分に実用に耐えると考えられる。

 Wi-Fi 6は、従来のWi-Fi 5に比べて、長距離でも高い速度を実現しやすい。この2年ほどで登場した製品は、チップの性能も向上しているため、よほど広い住宅でない限り、単体でも十分な性能を発揮できるはずだ。

Wi-Fi中継機利用時の結果

 一方、Wi-Fi中継機を利用した場合のテストは、以下のように設定した。中継機は3階の階段付近に置いてあり、1階に設置したWi-Fiルーターの真上に位置するうえ、階段によって遮蔽物が少なくて済むため、中継の帯域を確保しやすい。

 実際にどれくらいの速度で中継されているかは、Wi-Fiルーターの設定画面で確認可能で、今回のケースでは、以下のように5GHz帯が648Mbpsで中継されていることが確認できる。

2.4GHz帯で258Mbps、5GHz帯で648Mbpsの速度が出ている

 中継機利用時やメッシュ構成時は、この中継の帯域(バックホール)が非常に重要だ。複数機器を接続した場合、バックホールに通信が複数端末の通信が流れ込むため、この帯域が十分に確保できないと、電波の受信感度が高いのに実行速度が遅いという結果になってしまう。

 結果は、以下の通りだ。ルーター単体の場合と比べて、あまり速度に差がない。3階は、上りの速度が72.5Mbps→146Mbpsと向上しているが、下りは10Mbpsほどダウンしている。

 今回の中継機は5GHz帯の最大速度が1,201Mbpsとなっており、前掲の画面の通り、中継の実際のリンク速度も648Mbpsとなっている。中継機の設置により、3階の端末の電波強度自体は高くなるが、中継速度に足を引っ張られて実行速度が伸びない状況だ。

 2階は、下りが330Mbps→175Mbpsとダウンしており、単体の方が速い結果になったが、これは中継機やメッシュではよくある現象だ。

 何が起きているのかというと、2階から1階のWi-Fiルーターに直接つながるのではなく、2階から3階に設置された中継機を経由して1階のWi-Fiルーターに接続されている。

 2階の端末は、1階のWi-Fiルーターと3階の中継機の電波状況を比べた結果、3階の方が近いと判断し、そちらに接続されているわけだ。これにより、中継のロスが発生してしまい実行速度が低下していることになる。

 これを避けるには、中継機をもっと離れた場所に設置する(2階の端末から見て、1階のWi-Fiルーターより遠くに置く)必要があるが、それは家の構造上不可能なので、これが限界ということになる。

 結論としては、今回の木造3階建て住宅の場合であれば、単体で十分で、中継機を利用すると、3階でわずかながら通信速度は向上するが、逆に2階での速度低下も見られるため、中継機の利用はあまり効果的とは言えないという結果になる。

検証2:マンション

 続いて、鉄筋コンクリートのマンションでの結果を見てみよう。こちらは、水平方向のみのテストのため、アンテナは立てた状態のまま使用している。自動選択されたチャネルは、2.4GHz帯が6chで、5GHz帯が48chだった。

ルーター単体での結果

 ルーター単体のテストでは、以下の図のように回線が引き込まれている部屋にWi-Fiルーターを設置し、同じ部屋、廊下を挟んだ向かいの部屋、壁を挟んだリビングの3カ所でiPerf3の速度を計測している。

 結果は、以下のようになった。廊下を挟んだ向かいの部屋では、下り414Mbpsと単体でもかなり高速だ。

 一方、リビングでは下り139Mbpsと速度的には十分だが、地点2と比べるとかなり落ち込んでしまう。ドアを経由する場合は高速だが、やはり鉄筋コンクリート製の壁が間に存在するケースでは、速度の低下が大きい。

 しかしながら、もっとも離れたリビングでも100Mbps以上の速度が実現できているので、単体でも実用上は問題ない。

中継機利用時の結果

 続いて中継機を利用した場合の結果だ。今回の環境では、廊下に中継機を設置した。各部屋の中間的な位置になるうえ、廊下の場合、見通しが良く、各部屋にドアで接続されるため、壁が間にある場合に比べて電波を通しやすいためだ。

 中継の速度は、以下のように2.4GHz帯が275Mbpsで、5GHz帯が432Mbpsとなった。木造住宅と比べると、やはり中継の速度が若干低い傾向が見られる。

 結果は、以下のようになった。地点3のリビングは下りが139Mbps(単体時)→248Mbps(中継時)と100Mbpsも向上している。単体時は、壁を越えてリビングに到達する必要があったものが、廊下の中継機経由の場合、ドアを経由できるようになった恩恵が大きいと考えられる。

 一方で、地点2のWi-Fiルーターの向かいの部屋では、下りの速度が単体時414Mbps→中継時287Mbpsと低下している。

 これは前述した木造3階建て住宅の場合と同じ現象だ。直接Wi-Fiルーターに接続した方が高速だが、途中に中継が入ってしまっているため、速度が低下してしまっている。中継機やメッシュの場合、遠距離は恩恵を受けるが、このように中距離が低下することは珍しくない。

SSIDを使い分けるのも1つの手

 以上、今回は、2つの環境で中継機の効果を検証した。Wi-Fiルーターから離れた場所の通信環境を改善するために中継機は有効だが、実効速度で考えた場合、中距離で中継のロスが発生して速度が低下する場合もある点に注意が必要だ。単純な電波強度やヒートマップでは、実際の速度までは分からないため、iPerf3などで計測する必要がある。

 こうした現象は、中継機だけでなく、メッシュでも同じなので、利用時は、すべての場所が高速化するわけではないということを頭の片隅に入れておくといいだろう。

 なお、中距離の速度低下を軽減するには、2通りの方法が考えられる。1つはトライバンド対応の高速なメッシュ製品を使うこと。トライバンドで中継専用に高速なバックホールを用意できれば、中継のロスを最小限に抑えることができる。

 もう1つはSSIDを分けて使うことだ。最近の中継機は利便性を考慮して1つのSSIDで運用が可能になっている。移動時のローミングもスムーズなのでメリットは大きい。

 しかし、Wi-Fiルーター(親機)と中継機で、あえてSSIDを分けて運用すれば、長距離は中継機に接続し、中距離はWi-Fiルーターに接続するといったように、ユーザーが自分で接続先を選択できる。これにより、速度の低下を抑えることも可能だ。

 とは言え、こうした使い分けは設定も運用も面倒なので、中継機を使う場合は、デメリットもある点を覚悟して利用することが重要だ。