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Adobe、Photoshop生誕30周年を祝う機能強化アップデートを配信
~塗りつぶしやぼかし機能などがより強力に
2020年2月19日 23:00
Adobeは2月19日(現地時間)、「Photoshop」が満30年を迎えたことを祝い、新機能を提供すると発表した。
デスクトップ版(Windows/macOS)、モバイル版(Photoshop iPad)のそれぞれに提供され、デスクトップ版では「コンテンツに応じた塗りつぶしワークスペース」の改善や、「ぼかし(レンズ)」のGPU対応などといった機能強化が図られており、Photoshop iPad版では「オブジェクト選択ツール」、「文字の書式設定」など追加されている。
2月19日はPhotoshopの誕生日。1990年の初期バージョンから30周年を迎える
Photoshopは、元々はミシガン大学の学生が開発したソフトウェアをAdobe(当時はAdobe Systems)が買い取り、1990年2月19日にその最初のバージョン1.0をApple Macintosh向けに発売したのがはじまりとなる。
いわゆるビットマップ画像編集ソフトで、写真やイラストなどの加工に便利なことから、デザイナーやイラストレーターなどの支持を受け、瞬く間に普及していった。
当初はMacintosh版だけが販売されていたが、その後Windows版も追加され、両プラットフォームで同じように使えるようになり、現在にいたっている。
昨年の10月に行なわれたAdobe MAXでは、iPadOS版が追加されており(Adobe、iPad版Photoshop CCを発表。Creative Cloudも更新参照)、おおよそ同じ機能がそれぞれのプラットフォームで利用できるようになっている。
近年のAdobeアプリは、Adobe Senseiと呼ばれるマシンラーニングを利用したAIプラットフォームが活用されている。PhotoshopにもAdobe Senseiを利用した新機能が用意されており、その代表例は「オブジェクト選択ツール」(Object Selection tool)、「被写体を選択」(Select Subject tool)と呼ばれる機能だ。
Adobe Sensei登場以前には、こうしたオブジェクトの選択はユーザーがマウスなどで被写体の縁を細かくなぞって選択する必要があった。たとえば被写体が人間の場合、体部分などは割と簡単に指定できていたが、髪の毛などの細かな縁は指定するのに膨大な時間がかかっていた。
しかし、Adobe Senseiにより「被写体を選択」が使えるようになったことで、大雑把に被写体を指定するだけで細かな選択はAIが自動で行なってくれるようになっている。これにより、クリエイターの生産性を向上させることに大きく貢献している。
デスクトップ版では「コンテンツに応じた塗りつぶしワークスペース」と「ぼかし(レンズ)」を強化
デスクトップ版のPhotoshopでは「コンテンツに応じた塗りつぶしワークスペース」、「ぼかし(レンズ)」などが強化されている。
編集メニューにある「コンテンツに応じた塗りつぶしワークスペース」(メニュー内では「コンテンツに応じた塗りつぶし」)は、写真などから物体を切り抜いたあと、その切り抜いた周囲の状況に応じて塗りつぶしを自動で行なってくれるという機能。たとえば、風景写真で邪魔な物体だけを消したいというときにこの機能を利用すると、切り抜いた後の周囲をPhotoshopが自動で判別して、そこに物体がなかったかのように自動で色を塗りつぶしてくれる。
今回のアップデートでは新しい「適用」(Apply)というボタンが追加されており、これを利用することでワークスペース内で複数の選択範囲を作成し、複数の塗りつぶしを適用できる。これにより塗りつぶしの細かな設定や調整が可能になる。
従来は物体ごとに一度「OK」ボタンを押し、別のレイヤーとして「コンテンツに応じた塗りつぶしワークスペース」を何度か適用する必要があったので、作業効率が大幅に改善する。Adobeによれば、この機能の実装についてユーザーからの要望が多かったという。
フィルターメニューにある「ぼかし(レンズ)」では、GPUを利用したレンダリングの活用により大幅な高速化を実現した。この機能は、スマートフォンなどで撮影したボケ味のない写真を、一眼レフのカメラで撮影したかのように背景だけぼかすといったことできる。
CPUに大きな負荷がかかるこの機能をGPUで処理することで、適用時の品質も大幅に改善される。なぜかと言えば、GPUに対応したことで新しいアルゴリズムが適用されるためで、これまで以上に高品質なぼかし処理が可能になるからだ。
このほかにも、macOSのダークモードへの対応、Photoshop全体の性能強化を実現しており、マウスでの操作感が改善しているとしている。
また、Windowsのデジタルペンへのネイティブ対応も強化されており、「WinTabを金輪際使う必要がなくなった(you no longer need to use WinTab)」としている。その真意は記事執筆時点では明らかではないが、素直に読めばWinTabのサポートが削除され、今後はWindows 10の「Windows Ink」などのネイティブAPIだけに一本化されていく方向性だと考えられるだろう。
Photoshop iPad版では「オブジェクト選択ツール」と「文字の書式設定」の機能が追加。PSDCの読み込み速度も改善
昨年の11月のAdobe MAXで公開されたiPadOS版のPhotoshop(正式名称はPhotoshop iPad版)は、デスクトップ版のPhotoshopと同じ開発コードを利用しており、iPadでもデスクトップ版と同じように使えるようにしたものだ(Photoshop、Aero、Illustratorという3つのiPad用アプリが示すAdobeソフトの方向性参照)。
現時点ではデスクトップ版のPhotoshopのすべての機能を利用できるわけではないが、将来的には全機能を実装予定。また、デスクトップ版との違いとして、UIがiPadOSのタッチ前提のものであるため、マウス操作が主体のデスクトップ版とは当然操作感が異なっている。
今回のアップデートでは、そうした未実装だった機能のうちのいくつかが追加されている。そのなかでも最大のものは、昨年のAdobe MAXでデスクトップ版に追加されたAdobe Senseiのマシンラーニングを利用した「オブジェクト選択ツール」(Object Selection tool)の実装だ。
すでにPhotoshop iPad版には昨年の12月に「被写体を選択」(Select Subject tool)という機能が実装されていた。どちらもマシンラーニングを利用して物体を切り抜くという意味では同じなのだが、「被写体の選択」が1つの物体を切り抜くのに向いているのに対して、「オブジェクト選択ツール」は複数の物体や、物体の一部などを選択したいときなどに有用な高度なツールになっている。そのため、より短い時間で複数の物体を選択&切り抜いて、ほかの画像に貼りつけたりといったことが可能になる。
また、デスクトップ版Photoshopではおなじみの機能となる「文字の書式設定」(Type settings)も今回のアップデートで追加されている。写真などにテキストを追加するときに、行送りや垂直/水平比率などが行なえるようになる。さらに、将来のバージョンでは「Refine Edge Brush」という境界をなぞることで、より詳細な境界の指定が行なえる機能を搭載予定であることも明らかにされた。
このほか、Adobeは同社のCreative Cloudのクラウドストレージに、PSDファイル(クラウド版PSDとかPSDCなどと呼ばれ、拡張子は.psdc)を保存する場合に、75MB以上のファイルの保存速度を大幅に改善した。すでに10MB以上75MB未満のファイルサイズでの速度向上は昨年の12月に実現されていたが、ユーザー側の回線次第ではあるものの、75MB以上のファイルのアップロードとダウンロード速度が90%向上するという。
なお、Adobeによれば、デスクトップ版Photoshop、Photoshop iPad版のアップデートは即時開始される予定で、Creative CloudツールやApp Store経由で順次配布が行なわれるとしている。