笠原一輝のユビキタス情報局

曖昧な指示で全部やってくれる。AIエージェントが変えるPCとソフトウェアの新常識

NVIDIA GTC 26の講演でNVIDIA ジェンスン・フアンCEOはOpenClawは2026年に急速に立ち上がっていると説明(GTC 26で撮影)

 先月のことになるが、筆者はAdobeが開催した「Adobe Summit 2026」、Google Cloudが開催した「Google Cloud Next '26」という2つのコンベンションに参加してきた。前回の記事では後者で発表された、Google Cloudの新しいAI演算用プロセッサ「第8世代TPU」(TPU 8t/8i)を解説した。

 今回の記事では、両イベントでどちらの企業も強調した「AIエージェント」が、そしてその発展形となるエージェント型AI(Agentic AI)ないしはフロンティア・エージェントがコンピューターのソフトウェア環境をどのように変えていこうとしているのか、現状をリポートしていきたい。

ソフトウェアは事前定義型からAIによる動的動作型へと転換している

Adobe Summit 2026の基調講演にゲスト登壇したNVIDIA CEOのジェンスン・フアン氏(右)、左はAdobe CEOのシャンタヌ・ナラヤン氏

 Adobe Summit 2026の基調講演に登壇したNVIDIA CEOのジェンスン・フアン氏は「コンピューティングの形は従来の事前に記録して検索するというモデルから大きく変わる。これからは文脈に合わせて、ユーザーのアイデアをリアルタイムに形にしていくように変わっていく」と述べ、特にソフトウェアが検索と事前に作り込まれた機能を組み合わせるという形から、AIにより動的に機能が作られて適合的に実行されていく、そうした形に変わっていくと指摘した。つまり、現在ソフトウェア産業は「事前定義型からAIによる動的動作型」へと大きく転換している時期だというのだ。

 PC上で一般的に使われているMicrosoft 365 App(Word/Excel/PowerPointなど)やAdobe Creative Cloud(Photoshop/Lightroom/Premiereなど)などが端的な例だが、基本的にはソフトウェア開発者が意図した動作をする、というのがこれまでのソフトウェアの常識だった。そのうえで、ソフトウェアにユーザーが検索したりなどして得たデータを活用して文章などを作成する……それがフアン氏の言うところの「事前定義型のソフトウェア」だ。

今や業界全体のエヴァンジェリストのように各イベントにゲスト登壇するジェンスン・フアン氏(左)

 しかし、今それはAIのために大きく変わろうとしている。その背景にあるのは、言うまでもなくLLM(Large Language Model)のような大規模なAIモデルが当たり前になりつつあるからだ。OpenAIのGPT、AnthropicのClaude、GoogleのGemini、MetaのLlama、AmazonのNovaなどの最先端モデルが登場したことで、ソフトウェアが自分で判断して動作する「動的動作型」になりつつあるというわけだ。

すでにソフトウェア業界の注目はAIモデルからAIエージェントへ

Google CloudもGeminiだけでなく、AnthropicのClaudeなどの提供を開始

 ただ、既にソフトウェア産業は、そうしたAIモデルの開発競争から、その上で動くソフトウェア実装の方に焦点は移り変わりつつある。最近のAIを話題にしたテックカンファレンスに参加していて感じることは、以前ほどはAIモデルが話題として取り上げられなくなったということだ。今はAIモデルからどのようなアプリケーション(後述するAIエージェント)を、どのように構築していくか、そちらに興味が移り変わりつつある。

 以前は、そうしたAIがテーマのカンファレンスに行くと、各企業ともに「自社で開発したAIモデルがすごい、あるいはうちが提供しているAIモデルはすごい」というアピールに余念がなかった。特に2023年から2024年ごろはAIモデルの出来が、AIのアプリケーションの出来を左右すると考えられていたので、各社とも自社が提供しているAIモデルのアピールに余念がなかったのだ。

 ところが、昨年(2025年)ごろから風向きが変わってきた。というのも、AIモデルの進化が早すぎて、半年前には一番だと思われていたAIモデルが半年後にはもう陳腐化して競争力がなくなっていることが起きたからだ。「Geminiすげー」、「GPTすげー」と言っていた人が、半年後にはもう「Claudeすげー」と言っているような状況が起きていて、どれがすごいとか議論しても結論がコロコロ変わる状況が現出している。

 これにより起きたことは、ソフトウェアベンダーが、AIモデルとアプリケーションの構造を分離するというトレンドだ。利用しているAIモデルが陳腐化しても、AIモデル自体をよりよいものに変えてしまえば良い。そのために、利用できるAIモデルは自社開発のAIモデルだけでなく、他社開発モデルも含めて提供し、ユーザーが選び、ソフトウェア自体がよりよいものを選べるようにする。こうした「AIモデルのマルチベンダー化」と呼ばれる状況が発生し、AIモデルは「複数の中からその時点で一番良いものを選ぶ」という形に変わっていったのだ。

Adobeは昨年自社モデルだけからサードパーティモデルも提供することに方針を転換(2025年10月のAdobe MAXで撮影)

 その分かりやすい例は、AdobeとMicrosoftだ。Adobeは当初「Firefly Model」と呼ばれている自社開発のAIモデルを開発し、それを利用して画像生成や動画生成などのコンテンツ生成サービス「Firefly」や、PhotoshopなどのCreative Cloudアプリケーションの生成AI関連機能の提供を行なっていた。

 しかし、昨年から自社モデル「Firefly Model」だけを提供する方針から大胆に方針を転換し、GoogleのGemini Flash Image(いわゆるNano Banana)など、サードパーティモデルの導入を開始して、既にPhotoshopの最新版などではGemini Flash Imageを選択することが可能になっている。

 Microsoftは生成AIブームの当初から、自社のSaaSやAIアプリケーション用のAIモデルにOpenAIのGPTのみを採用してきた(顧客にAI開発環境を提供するAzureでは他社モデルも提供していた、現在も同様)。しかし、今年3月の発表で、AnthropicのClaudeもAIモデルとして選べるようにしたことを明らかにし、同時に後述するAnthropicのエージェント型AI(あるいはフロンティア・エージェント)となるClaude CoworkのMicrosoft版となるMicrosoft 365 Copilot Coworkのプレビュー版提供を明らかにしている。

Microsoft 365 CopilotもAnthropicのClaude OpusをAIモデルとして選択できるようになっている

 今回Google Cloudは、従来は自社モデルのGeminiとオープンソースモデル(GPT OSSなど)のみを提供してきた、同社の顧客向けのAIモデルラインアップにAnthropicのAIモデルを追加したことを明らかにしている。このように、Geminiを推しているGoogleでさえ、今や複数のモデルを提供し、ユーザーがよりよいものを選択できるようにすることを選んでいる。

 むろん、今後もAIモデルの開発は重要だ。たとえば、今もっとも注目を集めているAIモデルは「ワールドモデル」と呼ばれる物理モデル向けのAIモデルだ。今後そうした新しいモデルの開発は続くだろう。しかし、アプリケーションを提供する側は、どのAIモデルを選ぶかよりも、他社モデルを含めて提供できるAIモデルを増やす……そうした方向性に変わりつつあるということだ。

AIエージェントはローカルアプリからも利用できるようになる

AIエージェント、AIエージェントとソフトウェア企業は連呼するような状況

 そうしたAIモデルに代わって、今米国のテックカンファレンスで、もっとも注目を浴びているのが「AIエージェント」だ。最近のテック系カンファレンスではAIエージェントの話ばかりが取り上げられる状況だ。

 AIエージェントとは何かと言うと、ChatGPTやCopilotといったAIチャットボット(ないしはAIアシスタント)に、AIが自動で処理する機能を追加したものと定義されている。誤解を恐れずに言うと、AIチャットボットはLLMなどをAIモデルとして採用しており、LLMが応答することで、ユーザーの質問に答え、画像生成のAIモデルと組み合わせて画像を生成、プレゼンテーションのスライドを作成するといった機能を提供している。

AIエージェントを構成するソフトウェアモデル、複数のソフトウェアを組み合わせてAIエージェントを構築していく(Google Cloudの例)

 AIエージェントも基本的にはその背後でLLM、生成AIなどのAIモデルが動作していることは同じだが、同時にメモリバンク(過去の問い合わせ履歴を記録するもの)、ID管理、セキュリティなどのより高度な機能が実装されている。さらに外部のデータベースやハードウェアとやりとりを行なう手順(プロトコル)を定めたMCP(Model Context Protocol)やエージェント同士がつながって動作するための手順を定めたA2A(Agent to Agent)、さらにはスキルと呼ばれる機能を追加するアドオン機能などが用意されているのが一般的だ。

 これらを利用すると、より進化したAIの活用が可能になる。たとえば、旅行系のAIエージェントであれば、OTA(Online Travel Agent、日本で言えば楽天トラベルなど)にAIがアクセスして、ユーザーの条件(なるべく清潔で安いホテル)をAIが自動で考えてホテルを予約してくる。ユーザーがOTAのどのアカウントを利用しているかはID管理機能が管理し、過去の検索履歴などはメモリバンクが記録しており、それらを参照しながらユーザーの好みに近いものをAIが選べる。

 従来のソフトウェア、たとえばOTAが提供している旅行アプリでは、ユーザー自身が自分の好み(たとえば安いものから表示とか、星が4つ以上を検索、など)を検索時に指定する必要があった。しかし、AIエージェントでは、ユーザーが指示を出すときに「清潔で安くて良さそうなホテル」みたいな曖昧な指示だけで、AIエージェントがそうしたホテルを選んできてくれて、同時にユーザーが指示すればその予約まで完了する、そこが大きな違いになる。

OutlookやWordにはMicrosoft 365 Copilotの機能が既に統合されている。Microsoft Wordでは既にAnthropicのAIモデルを選択できるようになっている
AcrobatのAIアシスタント機能、Creative Cloudのユーザーであれば年額8,000円のAcrobat AIプランを追加すると利用できる

 そのような「AIエージェント」が注目を集めているのは、AIチャットボット(AIアシスタント)からAIエージェントへの進化が、非可逆的なソフトウェアの大転換だと考えられているからだ。それはWebアプリケーションのようなWebブラウザで利用するようなアプリケーションだけでなく、ローカルのアプリケーションもそうだ。

 現在読者の皆さんがPC上で利用しているMicrosoft 365のようなOfficeアプリケーション、Adobe Creative Cloudのような写真や動画の編集ソフトなどにも、AIエージェントが取り込まれて、AIが動的に考えながら処理を行なっていく、そうしたソフトウェアが今後は続々と登場していくということだ。

 既にMicrosoft 365にはMicrosoft 365 Copilotの機能が統合され始めており、AdobeのAcrobatにもAIアシスタント機能が搭載されるなどしており、そうしたことは長い目で見ると、AIエージェント実装の第一歩になる。

 冒頭で紹介した、NVIDIA フアンCEOの「事前定義型からAIによる動的動作型への大転換」というのはまさにそういうことで、今ソフトウェアはAIエージェントによって大転換期を迎えているということだ。

さらに自動化を進めたエージェント型AI、Copilot CoworkやOpenClawなどに注目が集まっている

Microsoft 365 Copilot Cowork、フロンティアベータとして提供が開始されている。ここではメールで受信した特急の電子チケットの領収書を元に、カレンダーに自動登録をプロンプトで指示すると、その特急の時間を検索して調べて時間を特定し、ひな形を作ってくれて人間が登録ボタンを押すとカレンダーに登録される。これまで1つ1つ手で内容をコピーして作成していたことを考えると、効率は向上する

 こうしたAIエージェントの先にあるのが、「エージェント型AI(Agentic AI)」や「フロンティア・エージェント」などさまざまな呼び方があるが、より自律的な動作ができるようになったAIエージェントで、その中でもユーザーがPC上で行なっているような操作をAIが代替してくれるエージェント型AIが大きな注目を集めている(なお、エージェント型AI/フロンティア・エージェントとAIエージェントの境界は曖昧で、エージェント型AI/フロンティア・エージェントもAIエージェントでもあるので、区別されない場合も少なくないが、ここでは別のモノとして扱う)。

 それらの先陣を切ったのはAnthropicが提供しているClaude Coworkだ。そのMicrosoft 365版が「Copilot Cowork」で、既に法人向けMicrosoft 365 Copilotを契約しているユーザーは、テナント管理者が有効にすれば利用することが可能になっている。

 Claude CoworkやCopilot Coworkでは、従来のAIチャットボットではできなかったような、ファイルの編集やソフトウェアの操作といったより進んだ自動化が実現されており、ビジネスパーソンのビジネスプロセスの自動化ツールのような機能をもっている。

GTCでNemoClaw for OpenClawについて説明するNVIDIA ジェンスン・フアンCEO(GTC 26で撮影)

 さらに、こうしたSaaS(クラウド側で実行されるソフトウェアサービスのこと)のエージェント型AIだけでなく、オープンソースのエージェント型AIも大きな注目を集めている。それが「OpenClaw」で、AI開発者のピーター・シュタインベルガー氏が開発したオープンソース(MITライセンス準拠)のソフトウェアだ。

 OpenClawは今ものすごく注目されており、PCの次の使い方として大きな注目を集めている。OpenClawの特徴は、オープンソースソフトウェアとして提供されるため、ローカルのハードウェアリソース(CPU、GPU、NPUなど)を活用して使えることで、一度環境を構築してしまえば、無償で利用できることにある。

 OpenClawでできることは多彩で、PCでユーザーができることのほとんどは、AIが代替して自動でやってくれる、そうしたエージェント型AIだと考えれば良い。このため、多くの企業がOpenClawに注目しており、3月にNVIDIAが開催したGTC 26では、フアンCEOの基調講演でOpenClawが取り上げられたほか、セキュリティの機能がないに等しいOpenClawにエンタープライズレベルのセキュリティ機能を統合したNemoClaw(ニモクロー)が発表されるなどしており、次のトレンドとして注目を集めている。

 このように、エージェント型AIは今、これまでのクラウドベースから、ローカル実行へと移行が始まっている状況だ。OpenClaw自体はオープンソースであるため、NVIDIAのNemoClawのように自社のソフトウェアに組み込んで、ユーザーに提供する……そうした展開も当然考えられる。

 既にPCのSoCは、CPU、GPU、NPUと多彩なプロセッサを搭載しており、こうしたエージェント型AIの実行も可能なような性能を備えつつある。また、こうしたローカルソフトウェアをより快適に走らせるために、デスクトップPCやワークステーションといったより強力なGPUを備えたPCが再び注目されるようになっている。

HPが発表したHP IQ(HP Imagine 2026で撮影)

 HPは3月に行なった「HP Imagine」で「HP IQ」というオンデバイス型のAIエージェントを発表している。それがエージェント型AIに進化することは当然予想されており、今後徐々にPC上でもエージェント型AIが実装されていく……そうした時代に近づいているのが今だ。