笠原一輝のユビキタス情報局

Tiger Lake搭載ノートの性能はメーカーの熱設計次第で大きく変化

~Intel副社長のクリス・ウォーカー氏にインタビュー

Tiger Lakeのウェハを手に持つIntel 副社長 兼 モバイルクライアント事業部 事業部長 クリス・ウォーカー氏(出典 : Intel)

 Intelは9月2日(現地時間)に、開発コードネームTiger Lakeの最新CPU「第11世代Coreプロセッサ」を正式発表した。

 Tiger Lakeは、L2キャッシュを1.25MB(従来世代は512KB)に強化したCPUのWillow Cove(ウィローコーブ)と、Xe-LPの開発コードネームで知られ、IntelがディスクリートGPU向けに開発した「Xe」の内蔵GPU版となる「Iris Xe Graphics」を内蔵。Ice Lakeベースの第10世代Coreプロセッサと比較して性能が強化されている。

 その発表会後に、ノートパソコン向けプロセッサ事業を率いるIntel 副社長 兼 モバイルクライアント事業部 事業部長のクリス・ウォーカー氏にお話をうかがう機会を得たので、その模様をお伝えしていきたい。

Iris Xeの性能は薄型ノートパソコンでAAAタイトルを1080pでプレイするには十分な性能

第11世代Coreプロセッサ(Tiger Lake)のパッケージ。左が薄型ノートパソコン用のUP3パッケージで、右がより小型用のUP4パッケージ(出典 : Intel)

――グレゴリー・ブライアント氏(Intel上級副社長 兼 Intelクライアントコンピューティング事業本部長)は記者会見のなかで、Tiger Lakeで1080pのPUBG(PlayerUnknown's Battlegrounds)が薄型ノートパソコンで十分プレイできるようになると述べた。

 これまで薄型ノートパソコンのほとんどではAAAタイトルのゲームができる性能がなかったことを考えると、とても重要な進化だと思うが、Tiger Lakeはゲームチェンジングな製品になり得るのか?

Intelが公開した1080pゲーミングでのフレームレート。最低限プレイ可能な30fpsを超え、ゲームによっては60fpsを超えている(出典 : Blueprint Series 11th Gen Intel Core Processor、Intel)

ウォーカー氏(以下、敬称略) 第11世代Coreプロセッサは、低消費電力で薄型軽量のフォームファクタを維持しながら画期的な性能を提供する。おっしゃるとおり、ゲーミングの性能は、われわれがこの製品でどんなことを提供できるのかの良い例だと思う。

 われわれはこの製品に10nm SuperFinの技術を、そしてデザインに新しいアーキテクチャにどのように落とし込んでいくかをずっと検討してきた。

 ゲーミングに関しては、ご存じのとおりゲーミングパソコンというゲームにだけフォーカスした製品群が存在している。今回のプロセッサはもちろんそうした製品を置き換えるものではない。

 しかし、今後は今皆さんがビジネスに普通に使っている薄型軽量のノートパソコンで、AAAのタイトルがプレイできるようになる。それに加えて、長時間のバッテリ駆動、すばらしいコンテンツクリエーションの性能を提供し、それはユーザーが日々使っているアプリケーションの性能を向上させるものだ。

――発表会のプレゼンテーションでは、90%のディスクリートGPU(dGPU)を搭載した薄型ノートパソコンを性能で上回ると説明した。Tiger Lakeが登場することで、そうした薄型ノートパソコン向けのGPU市場は縮小していくのだろうか?

ウォーカー 大事なことは機能として何を提供できるかだ。われわれのIris Xe Graphicsはコンテンツクリエーションやゲームで十分な性能を発揮するが、同時に低消費電力にも最適化されており、十分なバッテリ駆動時間、十分な薄さ軽さを提供している。それに加えて、AV1のハードウェアデコードなどの新しい機能や、4つのディスプレイへの出力などの機能を提供している。

 OEMメーカーにとってのメリットは、dGPUと同じ性能でありながら、dGPUを採用した場合に必要になる余分な電力を減らせることだ。それはバッテリ駆動時間の延長につながるし、基板を小さくして熱設計をより簡易にできるため、さらに薄型軽量なシステムを設計可能になる。

 われわれは、SuperFinと新しいアーキテクチャをうまく融合させることで、よりよいゲーム体験をユーザーに提供可能にした。もちろんそれはデスクトップ向けビデオカードのような100fpsを超えるような性能ではないが、1080pのゲームをプレイするには十分な性能だ。そうしたニーズのためにdGPUを搭載していたOEMメーカーは、もうdGPUは必要ないと考えるだろう。

――モバイル向けのDG1に関しては今回発表されていないが、OEMメーカーがdGPUとしてノートパソコンに実装することは可能か?

ウォーカー 現時点で発表されているOEMメーカーの製品は、IntelのdGPUを搭載しないシステムになっている。しかし、近い将来にリリースする新しいプラットフォームでは、DG1を搭載したものが登場することになるだろう。

新しいオペレーティングレンジの導入により、同じCPUでもメーカーのデザインによって性能が変化

第11世代Coreプロセッサ搭載システムを紹介するIntel 副社長 兼 モバイルクライアント事業部 事業部長 クリス・ウォーカー氏(出典 : Intel)

――次はCPUの性能に関してうかがいたい。CPU性能についてはCPUコア数だけで決まるわけではないと、私たちの読者もよく理解している。しかし、今AMDは8コアのCPUをモバイルスペースにも提供しており、4コアと8コアという数字の差を説明しやすいのも否定しがたい事実だ。それに対してIntelはどのよう考えて、どのようにメッセージを出しているか?

ウォーカー それに対するわれわれの答えはクリアだ。重要なことはリアルアプリケーションでの性能だ。たとえば多くの人々が使っているコンテンツクリエーションアプリなどでの性能だ。それこそがユーザーが実環境でアプリケーションを使う上で重要な指標になってくる。

 たとえばユーザー数で言えば、Cinema 4Dのような特化したプロフェッショナルが使うアプリケーションより、AdobeのCreative Cloudのような一般的なプロフェッショナルやコンシューマで使うアプリケーションのほうがユーザー数が多い。

 AdobeのアプリケーションではAIのパワーを利用して、第11世代CoreプロセッサとIris Xe Graphicsへの最適化が行なわれている。そうしたユーザー数が多いアプリケーションがよりよく使えるというのが重要だと考えている。

 われわれの競合との競争という観点では、すばらしいプロセッサ、すばらしいノートパソコンというのは、ユーザーが毎日使うアプリケーションをよりよく使えるということにある。それは生産性向上ツール(筆者注 : Officeアプリなど)であり、コンテンツクリエーションであり、かつ超低消費電力で動画や音楽の編集ができることだ。

 われわれはデモで、AMDの製品よりもリアルアプリケーションで高い性能を発揮することを示した。それはCinebenchで数字の大小を競うよりも意味があることだ。

SKUの表にはTDPに替えてオペレーティングレンジという数字が入れられている(出典 : Blueprint Series 11th Gen Intel Core Processor、Intel)

――Tiger LakeではTDPに代えてオペレーティングレンジという、より幅広いサーマル設定がされている。その狙いは?

ウォーカー われわれは従来の1つの固定された熱設計の枠という考え方に代えてオペレーティングレンジという新しい考え方を提案した。

 われわれが重視しているのは、絶対的な性能というのはもちろんなのだが、ACアダプタを取り外したときの性能も重視しているということにある。バッテリ駆動時の性能に関しては大きな差をつけており、一貫した性能を発揮できている。

 とくにEvo platformでは数々の認証試験を行なっており、ACアダプタを接続していても、バッテリ駆動時にも、ユーザーが同じようなすばらしい体験、すばらしい性能、すばらしい応答性を得ることが可能だ。

 これはノートパソコンユーザーにとってはとても大事なことだ。なぜならばノートパソコンは、会社の机の上で使われるだけでなく、喫茶店でも、ソファーの上でも、どこでも仕事ができるからだ。

 今回の発表では競合であるAMDとの比較データを公開している。その詳細を見ていただければわかるが、AMDのシステムは最大限性能を発揮できるモードに設定してテストを行なっている。とくにゲーミングユーザーにとっては、われわれの設定はまだ低いほうのモードの設定であるのに対してだ。

 また、別のドキュメントで公開しているように、AMDベースのマシンはより高いほうのオペレーティングレンジで動くように設定している。さらにもう1つ指摘しておきたいのは、われわれはより薄型軽量なシステムを使っており、熱設計の枠という意味では決して有利ではないということだ。その意味では両社製品の比較はフェアに行なっている。

――新しいオペレーティングレンジに関して、エンドユーザーに対しての説明が難しくなったとも考えられるが?

ウォーカー われわれは最適化したデザインを提供している。それがユーザーへの説明だ。異なるOEMのシステムでは、異なるデザインが採用されるだろう。今後はOEMメーカーがそれぞれ最適化して、それぞれに特色のある製品を提供することになる(筆者注 : つまり性能はOEMメーカーの熱設計により違ってくる可能性があるという意味)。

 明確に申し上げたいのは、TDPのように熱設計を固定することがエンドユーザーの利益ではないということだ。そしてこれはわれわれの競合にとっても同じことが言える。今後性能は実際のリアルアプリケーションで計測していくことが当たり前になるだろう。

 そうしたこともあり、われわれはEvo platformという新しいブランドを導入した。Evoでは確実にユーザー体験、性能、応答性、それに加えて画面サイズ、狭額縁化、短い充電時間などをOEMメーカーが動作検証することで、ユーザーに対して一定水準以上の性能を担保する仕組みだ。

Evo platformは、新しいノートパソコンの性能、応答速度やバッテリ駆動時間などをユーザーに説明するためのブランド

Evo platformのロゴマーク。Evo platform認証を受けたノートパソコンにはこのマークが貼られることになる

――Evo platformはTiger Lakeのみに有効か? そしてそれはなぜか?

ウォーカー そのとおりだ。なぜかと言えば、Project Athenaの第2世代のスペックを決めるにあたり、いくつかのテストを追加したからだ。

 たとえば、Webベースの追加テストや、バッテリ駆動時間へのより厳しい要求などがそれにあたる。これにより、最初の世代のProject Athenaに比べて性能やバッテリ駆動時間が延びており、それを実現するにはTiger Lakeが必要だと考えている。

 また、グラフィックスではIris Xeの性能が必要で、そのためにはEU数が多いSKUが必要だし、デュアルチャネルメモリが必要だ。それにより、よりよいコンテンツクリエーションの性能や、よりよいゲーム体験を実現できる。これらの理由で第2世代のスペックに合致するのはTiger Lakeだと考えている。

――OEMメーカーやIntelにとってEvoブランドのほうが上に来るのか、それともCoreブランドのほうが上に来るのかどちらなのだろうか?

ウォーカー われわれのキャンペーンは、Evo Powered by Coreというかたちになる。Evoは新しいフォームファクタであり、応答性であり、バッテリ駆動時間にフォーカスしたブランドになる。

 このキャンペーンは年末商戦に向けて展開していくし、来年(2021年)にはvProの機能を追加する。第11世代CoreプロセッサとしてはこれまでどおりCore i3/i5/i7として展開するが、それに付け加えて、プラットフォームレベルでの良さを強調するブランドとして、Evoがあるというかたちになる。

――EvoはIntel Inside Programの対象か?

ウォーカー そのとおりだ。CoreとEvoはわれわれのパートナーとの共同マーケティングの対象となる。これから世界中で大規模なキャンペーンを行なう予定で、それは日本市場も対象になっている。

 現在ソーシャルインフルエンサーのような方々と打ち合わせも行なっており、一般消費者に対するメリットをアピールするキャンペーンを来月(10月)から行なっていきたいと考えている。

――今後は14nmから10nmへシフトしていくのだろうか?

ウォーカー われわれはモバイル製品に関しては10nm、とくにSuperFinに対応した製品を拡張していく計画だ。第10世代の製品に関しては、依然として14nmを利用していくし、CeleronやPentiumに関してもそれは同様だ。

 しかし、今後開発する将来のモバイル製品については新しいトランジスタにフォーカスしていく。