イベントレポート
Intel、同社初の単体GPU「DG1」搭載ビデオカードを初披露。開発者向けボードは第1四半期中に出荷
2020年1月10日 02:00
Intelは1月7日~1月10日(現地時間)に米国ネバダ州ラスベガス市で開催されている世界最大のデジタル関連展示会「CES 2020」の開幕前日となる1月6日に記者会見を行ない、同社が開発している次世代GPUアーキテクチャとなる「Xe」(エックスイー)に基づいたクライアントPC向け単体GPUとなる「DG1」を搭載したノートPCのデモを行なった。
そして、9日には、そのDG1の開発用ボード「DG1:Software Development Vehicle」を、第1四半期中にソフトメーカーに出荷する計画であることを明らかにするとともに、PCI Expressのアドインカード形状になっているビデオカードを公開した。
十数年ぶりに単体GPU市場に新規参入するIntel、2社の競争から3社の競争へ
Intel副社長兼Intel Graphics Technology & 単体グラフィックス事業部事業部長のアリ・ラウシュ氏は「Intelはこの10年で初めて単体GPUを出荷する。これにより市場には3社がそろうことになりユーザーの選択肢は大幅に広がっていくだろう」と述べ、Intelが単体GPUビジネスに復帰することは、市場に対してよい影響を与えると強調する。
現在単体GPUは、AMDとNVIDIAしか提供していない。しかし、過去には、Intel自身もIntel 740という単体グラフィックスチップ(当時はまだGPUという呼び方をしていなかった、GPUという用語が使われるようになったのは、1999年にNVIDIAがGeForce 256を発表して以来)をリリースしていた。そのほかにも過去には、AMDが買収したATI Technologies、NVIDIAが買収した3Dfx、Intelが買収したChips and Technologies、Matroxなどのプレイヤーがおり、激しい競争が行なわれていた。
しかし、2000年代に入り、競争の結果として技術革新に追従できなかった企業は、ATI TechnologiesとNVIDIAの2社に集約され、そのATI TechnologiesをAMDが買収して、現在のAMDとNVIDIAによる2社だけが単体GPUを搭載する市場ができあがった。AMDがATI Technologiesを買収したのは2006年だったので、それから14年近く2社だけによる競争という状況が続いていた。
Intelはこれまで複数世代のグラフィックスアーキテクチャ(Intel Graphicsなどと総称される)を開発してきたが、同社ブランドの最初の世代となるGen1がIntel 740として単体ビデオカードとして出荷された例外を除き、いずれも同社のCPUやチップセットに統合される「統合GPU」として利用されてきた。その最新版がGen11で、第10世代Coreの10nmプロセスルール版となるIce Lake(アイスレイク、開発コードネーム)に内蔵されている。
Ice Lakeに内蔵されているGen11では、内部のアーキテクチャも演算ユニットの数も従来に比べて増やされており、大きく性能が向上していることが特徴となる。以前の記事(内蔵GPU性能、第10世代CoreはRyzen 7 3700Uを上回る)でも紹介したとおり、第2世代Ryzen Mobileを上回るという、Intelの内蔵GPU史上で見られなかったような状況が発生していた。
XeアーキテクチャはHPCからモバイル端末までスケーラブルにサポートする仕組みになっている
そうした従来のGen1~Gen11までのIntel Graphicsは、おもにCPUやチップセットに統合して生産させる内蔵GPUだけをターゲットにして設計されてきた。しかし、Intelが現在開発している次世代GPUアーキテクチャXeは、単体GPUもターゲットに見据える。
Intelのラウシュ氏は「Xeはスケーラブルなアーキテクチャとして設計されている。たとえば深層学習の学習向けといったHPCから、モバイル向けの薄型製品までカバーする。そうした共通のアーキテクチャとして設計されている」と説明する。こうした開発手法はIntel独自ではない。NVIDIAも1つのマイクロアーキテクチャからHPC向けのTesla、サーバーワークステーション向けのQuadro、ゲーミング/ノートPC向けのGeForceへと派生させている。
ISV向けのDG1:Software Development Vehicleを第1四半期中に出荷
AMDやNVIDIAはゲームメーカーなどと長年強力なパートナーシップを構築しており、新しいメジャータイトルごとに、新しいドライバをリリースして最適化などを行なっている。Intelもそれを重視しており、ここ最近はドライバが従来よりも早いタイミングで更新されるようになっている。しかし、今後AMDやNVIDIAと競争していく上では、さらにそれを強化していく必要がある。
そしてISV(独立系ソフトウェアベンダー)側も、十数年振りに出てくるIntel製単体GPUに、サポート体制がどうなるのかなどを含めて状況を注視している。IntelはそうしたISVの要望に応えるために、DG1向けのソフトウェアを開発するISV向けに、開発用ハードウェアとして「DG1:Software Development Vehicle」の提供を開始する。
ラウシュ氏は「ISVが機能やソフトウェア互換性などをチェックするための環境として提供する。性能などはまだ評価する段階にはない」と、あくまで開発用のボードであって、最終的な製品として提供するものではないとする。
このビデオカードには一般的に見られる追加の電源コネクタがなく、PCI Expressが供給できる65Wの電力でまかなえる消費電力だと考えられる。このため、DG1:Software Development Vehicleは、ノートPC向けと考えられる。
今回公開されたDG1:Software Development Vehicleでは、3Dゲームが動いていた。第1四半期中にISVに対して出荷を開始される予定だ。
なお、Intelが次世代プロセッサとしてCES 2020でデモしたTiger LakeにはXeアーキテクチャの内蔵GPUが内蔵されている。ラウシュ氏によれば「Tiger LakeのXeベースの内蔵GPUは前世代に比べて倍の性能を発揮する」とのことなので、Ice Lakeで倍になったGPUの性能はTiger Lakeで再び倍になることになる。
同じ10nm世代(厳密に言うとTiger Lakeは10nm+だが)で製造されながら、性能が倍になるということは、それだけアーキテクチャの拡張が大きいことを意味している。Tiger Lake搭載ノートPCでは、薄型PCやポータブルPCでも本格的にメジャータイトルがそれなりに楽しめるようになる可能性が高く、期待したいところだ。