笠原一輝のユビキタス情報局
第10世代Coreの複雑怪奇なプロセッサナンバーを理解する
2019年8月21日 22:00
Intelは、8月21日(現地時間)に報道発表を行ない、第10世代Coreプロセッサの追加SKUを発表した。「Comet Lake」のコードネームで知られる同製品は、14nmプロセスルールで製造されるCPUに、ICL-PCHと呼ばれる14nmで製造されるPCHを1パッケージに封入。TDP 15WのUプロセッサ、TDP 7WのYプロセッサの2つのシリーズを用意する。
すでにIntelは8月の上旬に第10世代Coreプロセッサを正式に発表しており、そちらは開発コードネームIce Lakeで知られてきた10nmプロセスルールの製品となる。だが、同じ第10世代の製品であるのに、そのグレードを指し示すプロセッサナンバーのスキームは2つの製品で異なっており、普通のユーザーにはどっちのほうが速いのか遅いのか理解するのは難しい。なぜそうしたことになっているのか、それを解説していきたい。
Core i7-1065G7とCore i7-10710Uはどっちが上?
Intelは、薄型ノートPC向けの第10世代Coreプロセッサの発表を2段階で行なった。まず8月上旬に開発コードネーム「Ice Lake」で知られる製品を投入し、そして今回開発コードネーム「Comet Lake」の追加SKUを発表した。CPU部分は前者が10nmプロセス、後者は14nmプロセスで製造されるというのが大きな違いになる。
やや混乱するのは、プロセッサナンバー(Intelの製品のグレードを示すアルファベットと数字の組み合わせ)が、第10世代のなかで2つの方法があることだ。
ややこしい点は2つある。1つはCPUのグレードを示す数字がIce Lakeが4桁、Comet Lakeが5桁となっていることだ。最初の2つは第10世代であることを示す「10」であるので、これを省くとしても、Ice Lakeは2桁、Comet Lakeは3桁となっているのだ。
きわめつけはそれに続くアルファベット(と数字)だ。Comet Lakeは、従来と同じTDPの違いによるシリーズを示す、U(TDP 15/28W)、Y(TDP 4.5/5.5/7W)を示しているのに対して、Ice Lakeのほうはグラフィックスのグレードを示すようになっており、G7(EU=64)、G4(EU=48)、G1(EU=32)という3つを示すようになっている。
プロセッサナンバー | CPUコア/スレッド | GPU世代 | EU数 | L3キャッシュ | TDP | cTDP up | ベースクロック周波数 | Turbo時最大クロック周波数(シングル時) | Turbo時最大クロック周波数(全コア有効時) | グラフィックスコア | Intel DL Boost/GNA | |
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Uプロセッサ | Intel Core i7-1068G7 | 4/8 | Gen11 | 64 | 8MB | 28W | - | 2.3GHz | 4.1GHz | 3.6GHz | 1.1GHz | ○ |
Intel Core i7-1065G7 | 4/8 | Gen11 | 64 | 8MB | 15W | 25W | 1.3GHz | 3.9GHz | 3.5GHz | 1.1GHz | ○ | |
Intel Core i5-1035G7 | 4/8 | Gen11 | 64 | 6MB | 15W | 25W | 1.2GHz | 3.7GHz | 3.3GHz | 1.05GHz | ○ | |
Intel Core i5-1035G4 | 4/8 | Gen11 | 48 | 6MB | 15W | 25W | 1.1GHz | 3.7GHz | 3.3GHz | 1.05GHz | ○ | |
Intel Core i5-1035G1 | 4/8 | Gen11 | 32 | 6MB | 15W | 25W | 1GHz | 3.6GHz | 3.3GHz | 1.05GHz | ○ | |
Intel Core i3-1005G1 | 2/4 | Gen11 | 32 | 4MB | 15W | 25W | 1.2GHz | 3.4GHz | 3.4GHz | 0.9GHz | ○ | |
Yプロセッサ | Intel Core i7-1060G7 | 4/8 | Gen11 | 64 | 8MB | 9W | 12W | 1GHz | 3.8GHz | 3.4GHz | 1.1GHz | ○ |
Intel Core i5-1030G7 | 4/8 | Gen11 | 64 | 6MB | 9W | 12W | 0.8GHz | 3.5GHz | 3.2GHz | 1.05GHz | ○ | |
Intel Core i5-1030G4 | 4/8 | Gen11 | 48 | 6MB | 9W | 12W | 0.7GHz | 3.5GHz | 3.2GHz | 1.05GHz | ○ | |
Intel Core i5-1000G4 | 2/4 | Gen11 | 48 | 4MB | 9W | 12W | 1.1GHz | 3.2GHz | 3.2GHz | 0.9GHz | ○ | |
Intel Core i3-1000G1 | 2/4 | Gen11 | 32 | 4MB | 9W | 12W | 1.1GHz | 3.2GHz | 3.2GHz | 0.9GHz | ○ |
プロセッサナンバー | CPUコア/スレッド | GPU世代 | EU数 | L3キャッシュ | TDP | cTDP down | cTDP up | ベースクロック周波数 | Turbo時最大クロック周波数(シングル時) | Turbo時最大クロック周波数(全コア有効時) | グラフィックスコア | Intel DL Boost/GNA | |
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Uプロセッサ | Core i7-10710U | 6/12 | Gen9 | 24 | 12MB | 15W | - | 25W | 1.1GHz | 4.7GHz | 3.9GHz | 1.15GHz | - |
Core i7-10510U | 4/8 | Gen9 | 24 | 8MB | 15W | - | 25W | 1.8GHz | 4.9GHz | 4.3GHz | 1.15GHz | - | |
Core i5-10210U | 4/8 | Gen9 | 24 | 6MB | 15W | - | 25W | 1.6GHz | 4.2GHz | 3.9GHz | 1.1GHz | - | |
Core i3-10110U | 2/4 | Gen9 | 24 | 4MB | 15W | - | 25W | 2.1GHz | 4.1GHz | 3.7GHz | 1GHz | - | |
Yプロセッサ | Core i7-10510Y | 4/8 | Gen9 | 24 | 8MB | 7W | 4.5W | 9W | 1.2GHz | 4.5GHz | 3.2GHz | 1.15GHz | - |
Core i5-10310Y | 4/8 | Gen9 | 24 | 6MB | 7W | 4.5W | 9W | 1.1GHz | 4.1GHz | 2.8GHz | 1.05GHz | - | |
Core i5-10210Y | 4/8 | Gen9 | 24 | 6MB | 7W | 4.5W | 9W | 1GHz | 4GHz | 2.7GHz | 1.05GHz | - | |
Core i5-10110Y | 2/4 | Gen9 | 24 | 4MB | 7W | 4.5W | 9W | 1GHz | 4GHz | 3.7GHz | 1GHz | - |
こうしたルールを把握した上で、Ice LakeとComet LakeのSKUを見ていこう。混乱するのは、同じ15Wで両方のトップSKUを比較した場合だ。
両方のトップSKUは、Ice LakeがCore i7-1065G7(4コアCPU、ベース周波数1.3GHz、ターボ時最大3.9GHz、Iris Plus Graphics)であるのに対して、Comet LakeはCore i7-10710U(6コアCPU、ベース周波数1.1GHz、ターボ時最大4.7GHz、Intel UHD Graphics)となっている。
はたしてどっちのSKUのほうがより上位のSKUになるだろうか?
4世代にわたって進化してきたIntelの14nm薄型ノートPC向け製品
それを理解するには、Comet Lakeがどういう製品であるのかを理解しておく必要がある。それ以前に、ここ数世代のIntelの薄型ノートPC向けプロセッサがどういう製品だったかを正確に把握しておく必要があるだろう。
上の図は第6世代Coreプロセッサ(開発コードネーム:Skylake)以降の薄型ノートPC向けのプロセッサがパッケージ内部でどういう構造になっていたのかを図示したものだ。
Intelが14nm世代の新しいマイクロアーキテクチャの製品として2015年に投入したのがSkylakeだ。Skylakeは新しいマイクロアーキテクチャを採用しており、従来の製品で採用されていたHaswellに比較してIPCが向上し、省電力が向上した。
当初の予定では、このSkylakeの翌年となる2017年には、微細化版で10nmプロセスの「Cannon Lake」(キャノンレイク)がリリースされる予定になっていたのだが、10nmプロセスは予定どおり立ち上がらず、その代替としてSkylakeの改良版となるKaby Lakeが第7世代Coreプロセッサとして導入されることとなった。
Kaby Lakeでは、14nm+と呼ばれる改良版の14nmプロセスルールで製造されるためクロック周波数が引き上げられたが、基本的なマイクロアーキテクチャはSkylakeと同等になっている。そして、そのクアッドコア版として2017年に投入されたのが、Kaby Lake Refresh(KBL-R)で、第8世代Coreプロセッサとなる。ただ、クアッドコア版のダイは、すでにSkylakeの段階で存在していた。
上の図はIntelの14nm世代のダイバリエーションとなる。CPUコア数とGPUのEU数の違いで複数のダイが用意されており、需要に応じて生産されるというかたちになっていた。
上段がSkylakeの発表段階で投入されたダイのバリエーション、下段の2つが後にCoffee Lake(6コア)、Coffee Lake Refresh(8コア)として投入されたダイバリエーションとなる。
Kaby Lake Refreshで投入されたクアッドコアCPUのダイは4コア+GT2(4+2)と呼ばれるダイで、クアッドコアCPUと24EUのGPUのダイになる。もともと、このダイはHプロセッサ(TDP 45W)向けに投入されたものだが、それをUプロセッサのTDP 15Wにも入るようにベースクロック周波数を下げて投入した。
そして2018年に投入されたのが、同じ第8世代Coreプロセッサのブランド名でありながら改良版となるWhiskey Lakeとなる。Whiskey Lakeの特徴は、CPU側はKaby Lakeと同じながら、PCHが変更されたことだ。
Kaby Lake Refreshまでは、Skylake世代のPCHということで、SKL-PCHと呼ばれている22nnmプロセスのPCHが利用されてきた。しかし、Whiskey Lakeでは、これがCannon Lake世代のPCHということで、CNL-PCHと呼ばれる14nmで製造されるPCHに変更されたのである。
CNL-PCHではWi-FiのMACが内蔵され、CNVIという専用のバスで接続されるRFを接続することで、低コストでWi-Fi 6(IEEE 802.11ax)が実現できるようになったのが最大の特徴となっている(なお、同時発表のYプロセッサ用となるAmber LakeのPCHは、SKL-PCHのままに据え置かれている)。
こうしてみると、10nmの立ち上げがうまくいかない影響を、Intelがあの手、この手で少しでも軽減すべく取り組みを行なってきたことが見て取れる。改良した14nmプロセスの投入(2016年)、クアッドコアダイの薄型ノートPCへの投入(2017年)、14nm PCHの投入(2018年)と、これでもIntelの市場シェアに大きな影響がなかったのは、(少なくとも18年までは)ライバル不在だったからにほかならないだろう。
Comet Lakeの強化点は6コア、LPDDR4X対応、ICL-PCH対応、YプロセッサのTDP
そして今回の主題であるComet Lakeだが、強化点は4つある。1つ目はこれまでCoffee Lake/Coffee Lake Refresh向けだけに投入してきた6コア+GT2(6+2)を、薄型ノートPCに投入したということだ。
ただし、CPUが6コアになれば、それだけ消費電力が大きくなる。このため、6コアCPUのCore i7-10710Uは、ベース周波数が1.1GHzとやや低めに抑えられている。しかし、だからと言って処理能力が低いということは意味しない。
というのも、現代のCPUはTurbo Boostのような機能が標準装備で、実際に動作しているときのクロック周波数はベースクロックよりも高いところで安定して動作するからだ。とくに、Comet LakeではcTDP(Configurable TDP)のup(上限TDP)が25Wになっているので、OEMメーカーがそれをターゲットに設計すれば、もっと高いクロックで安定して動作する。なお、スペック上はシングルコア時の最大クロックは4.7GHz、4コアすべてが有効の場合には3.9GHzとなっている。
2つ目はUプロセッサ向けSKUだけだが、LPDDR4Xに対応した点だ。LPDDR4Xは、Ice Lakeでも対応している最新の低消費電力のDRAMで、14nm世代のCPUとしては初めての対応となる。ただし、Ice LakeがLPDDR4とLPDDR4Xの両方に対応し、メモリのデータレートも3,733Mbpsまで対応しているのに対して、Comet Lakeでは2,933Mbpsまでとなる。
3つ目は、PCHが強化されていることだ。Whiskey Lakeでは14nmのCNL-PCHになっていたが、Comet Lakeではさらにその改良版となるICL-PCH(Ice Lake用のPCH)に変更されている。CNL-PCHとICL-PCHの違いは、FIVR(Fully Integrated Voltage Regulator)への対応と、Wi-Fi 6 Gig+への対応となる。
4つ目はYプロセッサのTDPが拡充された点。ベースのTDPは従来のAmber Lake世代の5.5Wから拡充されて7Wになっているが、cTDPでIce LakeのYプロセッサと同じ9Wないしは、Amber LakeやKaby LakeのYプロセッサと同じ4.5W/5.5Wに設定することも可能で、OEMメーカーの熱設計次第では超薄型のクアッドコア搭載タブレットという設計も可能になる。
CPU重視とGPU重視という2つのスキーム
さて、それでは冒頭の疑問である「Ice Lake、Comet Lake、どっちのほうが上なのか?」という疑問に戻ることにしよう。すでに述べたとおり、Ice LakeのトップSKUはCPUが4コア、Comet LakeのトップSKUはCPUが6コアだ。4桁と5桁のプロセッサナンバーのCPUグレードを示す数値でも前者が1065、後者が10710で、6と7なら、7のほうが上だと基本的にIntelは位置づけていることがわかる。
だが、GPUに関しては完全に逆の関係になる。というのも、Comet Lakeに採用されている14nmの6コア+GT2(6+2)は、GPUはIntel GPUのGen9(第9世代)のGT2となっているからだ。Intelの内蔵GPUは、GT2、GT3、GT4と複数のモデルが用意されており、その最大の違いはEU(実行ユニット)の数となっている。EUの数が大きければ大きいほど並行処理できる性能が向上する。Skylake/Kaby Lakeなどに採用されているGen9では、GT2のEUが24、GT3が48、GT4が72となっている。
それに対して、Ice LakeのGen11 GPUでは、同じGT2でも最大で64EUと、数が大きく増えている。モデルによっては48EU、32EUとなっているが、これはダイ上でその部分が無効にされているだけだ。このため、Ice LakeではGPU性能が大きく強化されており、IntelがAMDの内蔵GPU製品と比較してうちのほうが上だとアピールするほどだ(別記事:内蔵GPU性能、第10世代CoreはRyzen 7 3700Uを上回る参照)。
ではComet Lakeとの比較で言えばどうかと言えば、単純にEU数で比較しても、24 vs 64なので2.6倍以上増えていることになり、それだけでも大きな性能のジャンプだ。さらに、Gen11 GPUではアーキテクチャ的な改良も入っているので、それも含めれると、さらにIce LakeのGPUのほうが圧倒的だと言える。
したがって、冒頭の疑問に答えるとしたら、CPUに関してはComet LakeのCore i7-10710Uが上である可能性が高いが、GPUに関してはIce LakeのCore i7-1065G7が上、ということになるだろう。そうしたことを表現するために、こうした複雑なプロセッサナンバーになっているのだろう。
わかりやすくするために、逆により複雑になってしまいわからないという批判は避けられないとは思うが、どちらのほうが人気になるのか、動向を見守っていきたい。