笠原一輝のユビキタス情報局

“HDMI入力”対応ノートや工夫が光る軽量2in1など、魅力的PCを一挙投入した富士通の開発者に話を聞いてきた

今回お話しをうかがったFCCLのエンジニア。左からコンシューマ事業本部 コンシューマ事業部 第一技術部 マネージャー 奥村崇氏、プロダクトマネジメント本部 第一開発センター 第一技術部 赤見知彦氏、コンシューマ事業本部 コンシューマ事業部 第一技術部 山内順一氏、同第一技術部 佐々木登氏・山崎博人氏・シニアマネージャー 軽石毅氏、同第三技術部 シニアマネージャー 日浅好則氏

 富士通クライアントコンピューティング株式会社(FCCL)は、7月10日に東京都内で記者会見を開催し、夏商戦向け新製品を発表した。17.3型「LIFEBOOK NH」シリーズ、13.3型2in1「LIFEBOOK MH」シリーズ、同じく13.3型2in1「LIFEBOOK UH95」という新しいラインナップを一挙投入しており、昨年(2018年)の4月にレノボ傘下のFCCLがスタートしてから1年以上が経過して、開発体制が加速していく状況がうかがえる。

 今回発表された新製品のなかでもっとも注目したいのが、ペン内蔵の13.3型2in1としては世界最軽量となる「LIFEBOOK UH95」だ。しかし、それと同時にメインストリーム向けのペン対応2in1となるMHシリーズ、そして売れ筋の15.6型ノートPCを狭額縁にしてほぼ同じ底面積で17.3型ディスプレイを搭載したNHシリーズなども要注目の製品と言える。

 今回はこれら新製品を生み出したFCCLの開発陣にお話しをうかがってきたので、その内容をお伝えしたい。

15.6型とほぼ同じ底面積でディスプレイを狭額縁化したことで17.3型にしたNHシリーズ

FCCLの17.3型ディスプレイ搭載ノートPCのNHシリーズ

 LIFEBOOK NHシリーズは、従来FCCLがAHシリーズとして提供してきた15.6型ノートPCの上位版だ。底面積はAHシリーズとほぼ同じだが、ディスプレイを狭額縁化することで17.3型という約1.2倍の表示面積を確保することに成功している。

 富士通クライアントコンピューティング株式会社 コンシューマ事業本部 コンシューマ事業部 第一技術部 シニアマネージャーの軽石毅氏によれば、その製品コンセプトは、「NHシリーズはリビングで使っていただくPCとして企画した。リビングで使うなら大画面がいいだろうと判断し、狭額縁化で17.3型のディスプレイを入れた。われわれとしてはリビングにディスプレイを開いた状態で常設して使ってほしいと思い、HDMI入力も用意した」とのこと。

新しい富士通のNHシリーズに搭載されているHDMI出力と入力の両端子。ノートPCにHDMI入力端子が実装されているのは非常にめずらしい

 従来そこはTVが占めていたポジションだが、一般家庭であればリビングのテーブルの上に置いておくPCとして、1人暮らしの学生や若者であればTVの代わりとなるディスプレイとしての役割を意識した製品となる。一部モデルはTVチューナーを内蔵しており、TV放送を楽しむこともできる。

Aカバー(天板)の裏側にはWi-Fiのアンテナ用のケーブルが通っている。通常は左右を通すのだが、狭額縁のディスプレイの場合は左右を通せないのでパネルの裏側を通している。少しでも厚くならないようにケーブルの下には溝が掘ってある。もちろん強度には影響がない

 モバイルノートPCでの狭額縁は、今やめずらしいものではなくなってきているが、15.6型のノートPCを狭額縁にして17.3型にした製品というのはあまり聞かない。

 それを実現するにあたっての課題として、富士通クライアントコンピューティング株式会社 コンシューマ事業本部 コンシューマ事業部 第一技術部 佐々木登氏は、「最大の課題はWi-Fiのアンテナをどのように配置するかだった。ヒンジのほうにアンテナを持ってくることも解決方法の1つだが、アンテナ利得が下がってしまう。そこで、従来どおりアンテナは液晶の上部に入れることにしたが、最大の関門はアンテナケーブルをどこに通すかだった」と説明する。

 この問題に対してFCCLは、新しいAカバー(天板)を開発して対応したという。具体的にはディスプレイの裏にケーブルを通すのだが、天板が厚くならないようにケーブルを通す溝を掘り、そこを活用している。

CPUは従来のAHシリーズはUシリーズ(TDP 15W)だったのに対して、NHシリーズはHシリーズ(45W)になり、CPUは4コアから6コアになり、CPUのベースクロック周波数も高められている。上が従来のAHシリーズの冷却装置で、下がNHシリーズの冷却装置

 なお、従来のAHシリーズのCPUはTDP 15WのUシリーズのプロセッサが採用されていたが、新モデルではTDP 45WのHシリーズに強化されている。CPUのコア数が4コアから6コアになっているのだが、それに合わせてCPUファンはかなり大きなものに変更されている。ただ、その結果ファンをゆっくりと回せるようになり、結果的にむしろ静かになるという副次的なメリットもあったのだという。

Cカバーの曲げデザイン「Fライン」はキーボードをより使いやすくするために重要

 また、Cカバー(キーボード面)の加工にも工夫を凝らしている。アルミニウムの素材を利用して加工しているのだが、以下のようにじつに9つもの過程を経ている。

①プレス(曲げ加工など)
②CNC(削り出し)
③タッチパッドの面取り
④研磨(表面を平らにして磨く)
⑤ヘアライン加工
⑥サンドブラスト加工
⑦アルマイト処理、いわゆる塗装
⑧ダイヤモンドカット、周囲をダイヤモンドカッターを利用してカットする
⑨樹脂溶接、キーボードを支える樹脂などを装着する

 たった1枚のパネルを作るだけでこんなに工程があるとは脱帽である。それだけの手間暇をかけて作っているこのCカバーだが、よく見てみると、キーボードの矢印キーのところでヘアラインが曲がっていることに気づく。

矢印キーの下にあるパームレストがぐっと曲がったデザインが「Fライン」、FCCLの社内ではきちんと角度なども規定されているそうだ。

 じつはこのデザイン、最近のFCCLのノートPCでは共通のものになっている。そのことを聞いてみると、「キーボードの矢印キーを飛び出すようにしているのはユーザーの使い勝手を重視しているから。こうすることで操作のしやすさが全然違う」という(軽石氏)。FCCLによればこのカーブは「Fライン」と呼ばれており、きちんとカーブの角度が決まっていて、一種のデザインアイデンティティになっているとのことだった。

 もちろんキーボードにもこだわっており、キーストロークは2.5mmと最近のノートPCとしては深く作られている。さらに、キーの重さは3段階になっていて、[Space]や[Enter]などが一番重く、[F]、[G]、[H]、[J]などの中央にあるキーが2番目、それ以外のキーが一番軽いという設定になっている。これによりタイピング時にすべてのキーを均等な重さに感じられるという。筆者が実際に入力して見たところ、確かに軽やかにタイピングできるといった実感があった。

「HDMI入力」はPCをリビングでいつも使ってもらえるデバイスにするための秘密兵器

17.3型のディスプレイの解像度はフルHD(1,920×1,080ドット)

 NHシリーズのもう1つの特徴は、PC製品ではあまり見たことのないHDMIの“入力”を備えていることだ。これまでHDMI入力を備えている製品はほとんどなかった。そもそもPCのグラフィックス機能(内蔵GPU/ディスクリートGPU)に映像出力機能はあっても、映像入力機能が用意されておらず、まず入力は必要ないと考えられていたからだろう。

本体の右側面にはカードリーダ、USBポート、光学ドライブ、ACアダプタ端子が用意されている
本体の左側面には、セキュリティケーブルホール、イーサネット、HDMIアウト、HDMIin、USB×2、USB Type-C、イヤフォンジャックが用意されている

 だが、NHシリーズはリビングに置いて常に使ってもらうPCというコンセプトがある。そのため、スマートフォンやタブレット、あるいはChromecastとFire TV Stickのようなコンテンツを再生する機器を接続して、PCの画面を外部ディスプレイとして使うというニーズがあるのではないかと考えたという。

HDMIの入力、出力の切り替えはキーボード上部のボタンで行なう

 ただし前述のとおり、PCのGPUは映像入力機能を持っていないため、ハードウェアを追加する必要がある。富士通クライアントコンピューティング株式会社 コンシューマ事業本部 コンシューマ事業部 第一技術部 山内順一氏は、「HDMI入力を実装するにあたり、GPUから来る画像とHDMI入力をスイッチするスケーラICを基板上に実装している。それによりHDCPもサポートし、HDMI入力を実装している」と説明した。なお、HDCPのバージョンは最近の2.2ではなく1.4になっているが、これはディスプレイがフルHDであり4Kに対応する必要がないからだ。

 山内氏によれば一番苦労したのはユーザーインターフェイスの作り込みだったという。PCとHDMI入力の切り替えは、キーボード面にあるスイッチで行なうようにしたが、HDMI入力が有効のときにはキーボードがオフになるようになっている。しかしそれだと音量調整のキーが使えなくなってしまうため、ファームウェアの調整によって対応できるようにしたとのことだ。

廉価な2in1を提供することで、テントモードやペンの利便性を訴求するMHシリーズ

FCCLのメインストリーム向け2in1となるMHシリーズ。テントモードで使うことをユースケースとして提案していく

 LIFEBOOK MHシリーズは、13.3型ディスプレイを搭載したペン対応の2in1デバイスだ。今回FCCLは、同じ13.3型ディスプレイを搭載した2in1として、MHシリーズとUH95という2つの製品を発表している。

 UH95は、昨年世界最軽量698gの13.3型クラムシェル型PCとして発表された「UH-X」の2in1デバイスという位置づけになっている(ついに約698gまで軽量化。強度も増した富士通13.3型モバイルノート参照)。UH-Xのプロセッサは、Uシリーズの第8世代Coreプロセッサ(Whiskey Lake)を搭載しており、ハイエンドユーザー向けのビジネスノートと言える製品だ。

 それに対してMHシリーズは、よりメインストリーム向け製品であり、プロセッサもYシリーズの第8世代Coreプロセッサ(Amber Lake)が搭載されている。このため、MHシリーズの位置づけとしては大学入学で初めて買うPCだったり、ハイエンドなUH-95には価格的に手が出せないものの、ペン対応2in1が欲しいというユーザーをターゲットにしている。

FCCLのMHシリーズ、キーボードも筐体同色になっているのは好感が持てる
本体の右側面
本体の左側面
CPUはYシリーズの第8世代Coreプロセッサ(Amber Lake)を搭載している。このため、ファンレス構造となっている
ヒートシンクだけで放熱する仕組み

 富士通クライアントコンピューティング株式会社 コンシューマ事業本部 コンシューマ事業部 第三技術部 シニアマネージャーの日浅好則氏によれば、「MHシリーズはクラムシェル型PCとして使えるのはもちろんだが、テントモードでビューアーとしても使うといった点を意識して企画した」とのこと。細かい点だが、MHシリーズでは天板の側面上部に滑り止めのゴムがついていて、テントモードでの操作時に画面をタッチしても本体を動かないようにするといった気配りが取り入れられている。

テントモード、富士通のロゴは液晶面にないのでテントモードにしても変なデザインにならない
ディスプレイの上部にもゴム足がついている
マグネットが入っており、それによりディスプレイと首下がピタッと閉じるようになっている

 それだけではなく、MHシリーズにはほかのFCCL製ノートPCのパネル下部にある「Fujitsu」のロゴがない。これはテントモードでも違和感なく使えるようにするため配慮で、クラムシェル時には「Fujitsu」に見えていても、テントモードではロゴがひっくり返ってしまうからだ。

 また、一部PCメーカーの360度回転ヒンジを持つ2in1に多いのだが、ディスプレイを閉じたりタブレットモードにしたときに、ディスプレイが完全に閉じず、本体がグラグラしてしまうものがある。こうした問題を避けるために、本体にマグネットが入っており、磁気によって天板とキーボード面がピタッと閉じるように工夫されていることも特筆できるだろう。

 このほかにも、テントモードで音声認識によるアシスタント機能を利用する、などとといった使い方も訴求している。富士通クライアントコンピューティング株式会社 コンシューマ事業本部 コンシューマ事業部 第一技術部 山崎博人氏によれば、「音声認識を確実に行なうため、4つのマイクを入れ、音声認識できる範囲を広げている。また、モダンスタンバイをサポートすることで、使いたいときにすぐにでも使えるようにした」という。

 現在、PCでの音声アシスタントの実装が進んでおり、Windows標準のCortanaだけでなく、Amazon Alexaといったサードパーティの音声アシスタントも利用できるようになっている。FCCLでも「ふくまろ」というキャラクターベースの音声アシスタントを導入しており、キャラクターに話しかける感覚でさまざまなアシスタント機能を利用できるようになっている。

 日浅氏によれば、将来的にはふくまろをロック画面でも利用できるようにしたいそうだ。ただ、現状はWindows 10(バージョン1903)側の制約で、ロック画面で音声アシスタントを利用できるのはCortanaの一部機能だけになっており、Alexaやふくまろのようなサードパーティ製はアシスタント機能は利用できない。そこにはセキュリティとのトレードオフという側面はあるものの、実装のために引き続きMicrosoftに働きかけを行なっていくとした。

タブレットのように背面カメラを利用してスライドやホワイトボードの撮影が可能な「UH95」

FCCLのUH95、13.3型ディスプレイを搭載したペン対応2in1PCとしては世界最軽量の868gを実現

 FCCLのフラグシップクラムシェル型モバイルPCとなるUH-Xは、13.3型ディスプレイを搭載したノートPCとしては世界最軽量を実現した698gを実現して大きな話題を呼んだ(「LIFEBOOK UH-X/C3」が実現した、たかが50g、されど50g参照)。

本体の右側面
本体の左側面

 今回FCCLが発表したLIFEBOOK UH95は、シンプルに言えばそのUH-Xに360度回転型ヒンジとタッチディスプレイ、内蔵デジタイザペン(AES方式、4,096段階)の機能を追加した製品だ。タッチ用のガラスなどが加わっているため、同じバッテリ容量(2セル=25Wh)で868gと約170gほど増量しているが、それでも13.3型ディスプレイを搭載したペン対応2in1としては世界最軽量の868gとなる(7月10日時点、FCCL調べ)。

AES方式、4,096段階の筆圧検知を行なうデジタイザペンを本体に内蔵して持ち歩けるのはスマート
キーボードの上部にはペンの機能を呼び出すボタン(実際にはWindows 10で規定されているペンショートカットボタンをペンから本体側に移したもの)も用意されている。ペンでも押せるように窪んでいるなど芸が細かい

 2in1版のUH-Xと言えるUH95だが、UH-Xにはなかった部分も見受けられる。それはカメラが2つ搭載されていることだ。1つ目のカメラは一般的なディスプレイ上部にあるカメラで、Skypeなどのビデオチャットなどに利用できるほか、赤外線センサーを搭載しており、Windows Helloの顔認証機能を利用できる。

なんだこのカメラは?

 そして、気になるのはキーボードの上のほうにもう1つのカメラがついていることだ。最初にこのカメラを見たときには「なんでこんなところにカメラが……」と思ったのだが、タブレットモードにしてみてすぐそのメリットがわかった。タブレットモードにすると、このカメラが背面カメラとして動作するのだ。

 これはとても便利で、たとえばOneNoteやEvernoteなどのアプリを利用してメモを取っているときに、プレゼンテーションのスライドやホワイトボードの書き込みなどをカメラで取り込みたいという場合がある。スマートフォンやタブレットではすぐにできることだが、これまでの2in1デバイスではそうはいかなかった。タブレットモードにしたときの背面カメラがなかったからだ。

答えはタブレットモード時にリアカメラとして利用できるカメラ

 しかし、UH95なら2in1でもそれが問題なくできる。ちょっとしたアイデアと工夫で生産性の向上が実現されているわけだ。

 もちろんペンの使い勝手にも隙はない。富士通クライアントコンピューティング株式会社 プロダクトマネジメント本部 第一開発センター 第一技術部 赤見知彦氏によれば、「ペンは本体に内蔵させたときに充電できるようになっており、15秒の充電で90分利用できる」と、ペンを内蔵した状態からすぐに取り出して使えるようにしている利便性をアピールした。

ヒンジ
基盤やバッテリなどはUH-Xと共通になっている
Aカバー(天板)
Dカバー(底面)
底面のネジを外すだけでシステムコンポーネントにアクセスできるメンテンナンス性の良さもUH-X譲り

 なお、今回のUH95でも裏蓋を外すとSSDなどのストレージにすぐにアクセスできるという保守性の高さは、UH-X譲りとなっている。ユーザーがSSDなどを外した場合には保証対象外になるが、保証期間終了後にストレージを交換したいといった場合に、SSDが簡単に交換できるというメリットは見逃せないところだ。