福田昭のセミコン業界最前線
ニアラインHDDがHDD市場の9割近くを占める時代へ、最新市場動向
2026年4月28日 09:55
ハードディスク装置(HDD: Hard Disk Drive)関連の業界団体である日本HDD協会(IDEMA JAPAN)は、2026年4月21日にストレージの市場動向に関するセミナーをオンラインで開催した。正式な名称は「2026年4月オンラインマーケットセミナー」である。市場調査会社TrendFOCUSと市場調査会社テクノ・システム・リサーチ(TSR)のアナリストがそれぞれ、ストレージ市場の最新動向を解説した。
中でもTSRによるストレージ市場を展望した講演「Updated Storage (HDD and SSD) Market Outlook」が非常に参考になった。そこで本レポートでは、HDD市場を中心に講演の概要をご報告する。講演者はTSRで第1グループのアシスタントディレクターと務める太田健吾氏である。
なお、本セミナーの講演内容は報道関係者を含めて録画や配布などが禁止されている。本レポートに掲載した画像は、講演者である太田氏と日本HDD協会のご厚意により掲載の許可を得たものであることをお断りしておく。
ドライブ1台当たりの平均価格は10年で約3倍に上昇
初めにHDDの世界市場の長期的な傾向(1990年~2025年の実績と2026年~2030年の予測)を見ていく。HDD市場は出荷台数が2010年をピークに減少トレンド、出荷金額が2012年をピークに減少トレンドにあった。一方でドライブ1台当たりの平均価格は2010年を底に、上昇トレンドが続いてきた。2020年代初めまではこれらのトレンドが維持されてきた。
しかし2020年代半ばになると、トレンドが激変する。出荷金額の減少トレンドが2023年で止まり、2024年と2025年はいずれも前年比で金額が増加した。トレンドが増加基調に転換したように見える。出荷台数の減少トレンドにも変化がある。2024年に前年比1.3%増と2014年以来の増加となり、2025年は同0.1%減とほぼ横ばいだった。2015年~2023年の9年間は2桁減の年が5回もあったことを考えると、大きな変化だろう。トレンドは減少から横ばいへと転換したように見える。
金額の増加トレンドで見逃せないのが、ドライブ1台当たりの平均価格だ。2010年代後半にASPは上昇基調に入り、2020年代に初めに上昇ペースが加速し始めた。平均価格は2016年~2017年に60ドル前後だったのが、2025年には180ドルと10年で3倍に上昇した。特に直近2年の上昇が目立つ。2024年は前年比39.7%増の143.2ドル、2025年は同25.8%増の180.1ドルとなった。
2025年のHDD市場は台数が前年比0.1%減、金額が同25.6%増
2025年のHDD市場実績は出荷台数が前年比0.1%減の1億2,375万台、出荷金額は同25.6%増の222億9,100万ドルである。台数は横ばい、金額は大きく増えた。金額の増加は2024年に続いて2年連続となる。
ドライブ1台当たりの平均価格は前年比25.8%増の180.1ドル、総出荷記憶容量は同29.5%増の1,627.9EB(エクサバイト)、平均記憶容量は同29.7%増の13,153.3GB(ギガバイト)となり、前年比で25%~30%の大きな伸びを見せた。
エンタープライズ向け台数は減少傾向が加速
四半期出荷台数の説明では、HDDの出荷台数を2023年第1四半期~2026年第4四半期まで、製品分野別で示していた。実績数値は2025年第4四半期まで、予測数値は2026年第1四半期以降である。製品分野は「エンタープライズ」向け、「ニアライン」向け、「3.5インチATA」向け、「2.5インチモバイル」向けに分けた。
「エンタープライズ」向けHDDの出荷台数は2023年通年で576万台である。全出荷台数である1億2,226万台の4.7%に相当する。2024年通年では441万台と前年比で23.4%の減少となり、出荷台数全体に占める比率は3.6%と1.1ポイント低下した。2025年通年の実績は前年比28.6%減の315万台とさらに落ちた。全体に占める比率は2.5%とさらに低下した。
エンタープライズ向けの縮小傾向は2026年も続くと予測する。出荷台数は前年比29.2%減の223万台、全体に占める比率は1.7%とみる。
ニアライン向け台数は2024年から3年連続の成長へ
ニアライン向けHDDは、4つの製品分野の中で唯一、出荷台数ベースでの成長が期待される分野である。2021年までは比較的順調に台数を延ばしてきたものの、2022年と2023年に2年連続でマイナス成長となった。
出荷台数減は2023年に底を打ち、2024年以降は回復と再成長の途上にある。2023年第4四半期に前期比の出荷台数がわずかに上昇し、続く2024年第1四半期は前期比が明らかに増加した。四半期の出荷台数は2023年第4四半期の990万台から、2024年第1四半期の1,230万台へと増え、同年第4四半期には1,653万台となり、5四半期連続で前期比が増加した。
2025年も増加基調が続いた。第1四半期は前期比でマイナスだったものの、第2四半期以降は3四半期連続で前期を超えた。2025年第4四半期の出荷台数は1,840万台に増加した。2026年も台数増が続くと予測する。四半期出荷台数は2026年第3四半期に1,940万台と、3年前(2023年第3四半期)の895万台と比べ、2倍強に増える予測だ。
ニアライン向けの台数がHDD全体に占める比率は2023年に32.2%で、4つの製品分野の中では「3.5インチATA」向けに次いで2番目に大きな分野だった。全体に占める比率は2024年に47.2%で製品分野では最大となり、2025年に54.6%と半分を超えた。ニアライン向けHDDの動向はもう少し詳しく後述する。
SSDの値上がりで3.5インチATA向けの減少傾向に歯止め
次はデスクトップPCやタワーPCなどのいわゆる「据え置き型PC」が搭載する、「3.5インチATA」向けHDDである。四半期ベースでは2020年第4四半期に2,688万台でピークを迎えた後は、2021年後半から減少傾向を継続してきた。2023年~2025年も減少傾向は変わっていない。2023年通年の出荷台数こそ4,465万台(前年比20.9%減)で4つの製品分野で最大だったものの、2024年通年は3,573万台(前年比20%減)に低下し、最大分野の座をニアライン向けに譲った。
2025年通年の出荷台数は3,094万台である(前年比13.4%減)。興味深いのは、2025年第4四半期が835万台と前期(同年第3四半期の717万台)から16.5%拡大したことだろう。四半期の出荷台数が800万台を超えるのは、2024年第3四半期の912万台以来のことだ。NANDフラッシュメモリの記憶容量当たり単価の値上がりに伴うPC向けSSD価格の上昇により、ストレージを安価(記憶容量当たり価格)なHDDに戻す動きがあると見られる。
2026年通年の出荷台数は前年比3.3%減の2,993万台と予測する。台数減は続くものの、減少幅は1桁にとどまる。
2.5インチモバイル向けは前年比で2桁減が続く
次はノートPCを主用途とする「2.5インチモバイル」向けHDDである。「3.5インチATA」向けと同じく、2020年第4四半期に出荷台数はピークを迎えた。同期の2,728万台で「3.5インチATA」向けよりも多かった。その後はSSDによる置き換えの普及とともに出荷台数が急速に減少していく。2022年通年の出荷台数は前年比44.5%減の4,581万台と急低下した。2023年通年の出荷台数は前年比29.2%減の3,245万台、2024年通年の台数は同22.0%減の2,531万台と2割を超える減少幅が続いた。
2025年通年の出荷台数は前年比12.9%減の2,204万台である。3.5インチATA向けとは異なり、四半期ベースでの台数増はみられない。2026年通年の予測は前年比14.7%減の1,881万台である。2桁減が続く。
2024年以降は台数と金額の両方をニアラインHDDがけん引
講演では先述の4分野と全体について、2018年から2030年までを年別にかなり詳しく展望した。2018年~2025年は実績、2026年~2030年は予測である。項目は「出荷台数」、「出荷金額」、「ドライブ1台当たりの平均価格」、「総出荷記憶容量」、「ドライブ1台当たりの平均記憶容量」、「記憶容量当たりの単価」である。
まずは2025年までの実績を見ていこう。HDD全体の出荷台数は2017年から2023年まで前年と比べて低下してきた。さかのぼると前年比がマイナスとなったのは2015年から始まっており、9年連続のマイナス成長である。出荷台数は2017年の4億308万台から、2023年には1億2,226万台に減少した。一昨年の2024年は、わずかながらも10年ぶりのプラス成長(前年比1.3%増)となった。
10年ぶりの台数増に貢献したのは、製品分野別ではニアライン向けHDDである。そのほかの3分野がすべてマイナス成長を続ける中、ニアライン向けだけが2024年に前年比48.4%増の5,846万台と出荷台数を大きく伸ばした。
2025年のHDD出荷台数は前述のように、前年比0.1%減の1億2,375万台とほぼ横ばいにとどまった。同年もニアライン向けHDDは前年比15.7%増の6,762万台と2桁成長した。そのほかの3分野はすべてマイナス成長であり、前年と同様に3分野のマイナスをニアライン向けが補う形となった。
金額でもニアライン向けが成長の主役となってきた。たとえば2021年は全体の出荷台数が微減だったにも関わらず、出荷金額が前年比で16.8%増と2桁成長した。この年、ニアライン向けの出荷台数は前年比24.3%増、出荷金額は同35.9%増と大きく伸びた。なお2021年はエンタープライズ向けと3.5インチATA向けも台数と金額がわずかに増加しているので、厳密にはニアラインだけが伸びたとはいえない。
2024年と2025年はニアライン向けだけが出荷金額を伸ばした。2024年は前年比78.6%増の140億7,200万米ドルである。全体に占めるニアライン向けの比率は79.8%と約8割に達する。ちなみに2020年におけるニアライン向けの比率は50%、2021年におけるニアライン向けの比率は58.2%だった。
2025年の出荷金額は前年比35.6%増の190億8,700万米ドルである。HDD全体に占める比率は85.6%と前年から5.8ポイント上昇した。
「ニアライン一強」の状態は2026年も継続する。2026年にニアライン向けHDDの出荷台数は前年比13.5%増の7,677万台、出荷金額は同27.5%増の243億4,000万ドルと予測する。HDD全体の台数に占める比率は60.1%、金額に占める比率は88.8%となる。金額ベースではHDD市場の9割近くをニアライン向けが占めることになる。























