福田昭のセミコン業界最前線
ニアラインHDDが牽引する2020年代後半のHDD市場。日本HDD協会セミナーレポート【HDD編】
2025年4月8日 06:01
ハードディスク装置(HDD : Hard Disk Drive)関連の業界団体である日本HDD協会(IDEMA JAPAN)は、2025年3月25日に市場動向に関するセミナーをオンラインで開催した。正式名称は「2025年3月オンラインマーケットセミナー」である。市場調査会社TrendFOCUSと市場調査会社テクノ・システム・リサーチ(TSR)のアナリストがそれぞれ、HDDを中心にストレージ市場の最新動向を解説した。
中でも市場調査会社テクノ・システム・リサーチ(TSR)によるストレージ市場を展望した講演「Updated Storage(HDD and SSD)Market Outlook」が非常に参考になった。そこで本レポートでは、HDD市場を中心に講演の概要をご報告する。講演者はTSRでアナリストを務める楠本一博氏である。
なお、本セミナーの講演内容は報道関係者を含めて録画や配布などが禁止されている。本レポートに掲載した画像(講演スライド)は、講演者である楠本氏と日本HDD協会のご厚意によって掲載の許可を得たものであることをお断りしておく。
2024年のHDD出荷台数は前年比1.3%増の1億2,391万万台に
始めにHDD市場(世界市場)の長期的な傾向(2024年までの実績値)を見ていこう。HDD市場は出荷台数が2010年をピークに減少傾向にあり、出荷金額が2012年をピークに減少傾向にある。一方でドライブ1台当たりの平均価格(ASP)は2010年を底に上昇傾向が続いてきた。また総出荷記憶容量はずっと、増加傾向にある。2010年代はこのようなトレンドが続いてきた。
2020年代に入るとトレンドが変わり始める。まず2021年は、ASPが大きく上昇したことによって出荷金額が前年比でプラスとなった。2022年は出荷(台数と金額)が前年比で大きく減少し、ASPは前年比で上昇する、2010年代のトレンドに戻ったかに見える。ただし2022年からデータセンターに代表されるエンタープライズ向けの需要が急激に落ち込み出し、2022年の総出荷記憶容量は前年比でマイナスとなった。続く2023年は出荷(台数と金額)と総出荷記憶容量が前年比で大きく減少し、さらにはASPも前年比で下降した。
2024年はエンタープライズ分野でストレージへの投資が復活したことで、全体的にかなり良好な実績を残した。出荷台数は前年比1.3%増の1億2,391万台、出荷金額は同41.6%増の177億4,300万ドルである。出荷台数が増加したのは2014年以来、出荷金額が増加したのは2021年以来のことだ。ドライブ1台当たりの平均価格(ASP)は前年比39.8%増の143.2ドル、総出荷記憶容量は同50.3%増の1,256.6EB(エクサバイト)、平均記憶容量は同48.3%増の10,141.3GBといずれも大きく伸びた。
漸減傾向が続くエンタープライズ向け出荷台数
直近の状況説明では、HDD出荷台数を2022年第1四半期(CY2022/1Q)~2025年第4四半期(CY2025/4Q)まで、四半期ごとに製品分野別で示していた。2024年第4四半期(CY2024/4Q)までは実績、2025年第1四半期(CY2025/1Q)以降は予測である。製品分野は「エンタープライズ(Enterprise)」向け、「ニアライン(NL)」向け、「3.5インチATA」向け、「2.5インチモバイル」向けの4つに分けていた。
「エンタープライズ(Enterprise)」向けHDDの出荷台数は2022年に841万台で、全出荷台数の4.9%を占めた。4分野の中では最も少ない。四半期ごとの出荷台数推移を見ていくと2022年第1四半期の271万台から減少傾向が続き、2024年第3四半期には100万台を割り込んだ(同期実績は95万台)。2024年の出荷台数は441万台で全出荷台数に占める割合は3.6%に低下した。
減少傾向は2025年も続く。2025年第1四半期の出荷台数は90万台、同第2四半期の出荷台数は80万台、同第3四半期と同第4四半期の出荷台数は65万台と予測する。2025年通年の出荷台数は前年比32.0%減の300万台になる(予測値)。
ニアライン向けは2024年第4四半期まで5四半期連続で急成長
「ニアライン(NL)」向けHDDの出荷台数は4分野の中で唯一、増加傾向を示してきた。しかし2022年には第1四半期の1,868万台から第4四半期の1,060万台へと急激な減少に見舞われる。減少傾向は2023年も続き、第3四半期には895万台にまで落ち込む。第4四半期は前期比で増加するものの990万台と回復は弱い。
ところが2024年は第1四半期が1,230万台とかなりの回復を見せる。その後も第2四半期が1,381万台、第3四半期が1,852万台、第4四半期が1,653万台と順調に台数を伸ばしていく。2023年第4四半期から5四半期連続で前四半期(前期)を上回った。2024年通年の出荷台数は前年比48.4%増の5,846万台と大幅な成長を見せた。需要の増加に生産の増強が追いつかない状態だとする。
2025年もニアライン向けは好調を維持する。第1四半期は1,640万台と前期から13万台ほど減少するもの、第2四半期は1,670万台、第3四半期は1,720万台、第4四半期は1,770万台と3四半期連続で前期を超えて成長する(予測値)。2025年通年の出荷台数は前年比16.3%増の6,800万台と2桁成長を予測する。
3.5インチATA向けの減少傾向は2025年に底を打つか
「3.5インチATA」向けHDDの出荷台数は2020年第4四半期に2,688万台でピークを迎えた。2021年も近い水準を維持したものの、2021年後半から減少傾向が続いてきた。2021年第3四半期から2023年第1四半期まで、7四半期連続で前期比がマイナスとなった。2023年第1四半期の出荷台数は1,115万台で、ピーク時(2020年第4四半期)の41%にまで落ち込んだ。2023年第2四半期は1,210万台とわずかに回復するものの、同第3四半期は1,120万台、同第4四半期は1,020万台と前期比で減少した。
2024年になっても減少傾向は続く。第1四半期の出荷台数は933万台でついに1,000万台を割り込んだ。第2四半期は941万台、第3四半期は912万台と回復せず、第4四半期は787万台に減少した。2024年通年の出荷台数は前年比20.0%減の3,573万台である。
2025年の四半期別出荷台数は第1四半期が820万台、第2四半期が830万台、第3四半期が830万台、第4四半期が820万台とあまり変わらない。2025年通年の出荷台数は前年比7.6%減の3,300万台と予測する。四半期別の出荷台数では、底を打ったように見える。
2.5インチモバイル向けの出荷台数は3年間で半分以下に
「2.5インチモバイル」向けHDDの出荷台数は、「3.5インチATA」向けと同じ2020年第4四半期にピークを迎えた。同期の出荷台数は2,728万台である。しかし。2021年第1四半期以降は2022年第3四半期まで7四半期連続で前期比がマイナスを続けた。同期の出荷台数は968万台で、ピーク時の35%と3分の1強に過ぎない。
2022年第4四半期は1,125万台とわずかに回復するものの、2023年はすべての四半期で1,000万台を割り込み、950万台~712万台の間で推移した。2024年も減少傾向は止まっていない。第1四半期の出荷台数は661万台、第2四半期は609万台、第3四半期は621万台、第4四半期は640万台となり、すべての四半期で前年の最低水準である712万台(2023年第3四半期)に達していない。2024年通年の出荷台数は前年比22.0%減の2,531万台である。
2025年も減少傾向が続きそうだ。第1四半期と第2四半期が570万台、第3四半期が540万台、第4四半期が520万台と予測した。2025年通年の出荷台数は前年比13.1%減の2,200万台である(予測値)。
10年ぶりに前年を超えたHDDの出荷台数
通年(年間)ベースでは製品分野別の出荷台数と出荷金額、ドライブ1台当たりの平均価格(ASP)、総出荷記憶容量、ドライブ1台当たりの平均記憶容量、記憶容量(GB)当たりのコスト(価格)をスライドにまとめていた。スライドには2017年~2024年までの実績と、2025年~2029年の予測を含んでいる。
HDD全体の出荷台数は2017年から2023年まで前年と比べて低下してきた。さかのぼると前年比がマイナスとなったのは2015年から始まっており、9年連続のマイナス成長である。出荷台数は2017年の4億308万台から、2023年には1億2,226万台に減少した。2023年の出荷台数は2027年の3割しかない。2024年はわずかながらも前年を上回っており、10年ぶりのプラス成長となった。
4つの製品分野(エンタープライズ向け、ニアライン(NL)向け、3.5インチATA向け、2.5インチモバイル向け)で2023年と2024年を比較すると、2024年に出荷台数が増加したのはニアライン(NL)向けだけであり、ほかの3分野は前年から減少した。言い換えると、2024年の出荷台数増はニアライン(NL)向けHDDが牽引した。
2020年代後半はニアラインHDDだけが台数と金額ともに成長
2025年以降も、HDD全体の出荷台数はわずかながらも増加していく。予測値は、2025年が1億2,600万台(1.7%成長)、2026年が1億2,880万台(2.2%成長)、2027年が1億3,150万台(2.1%成長)、2028年が1億3,370万台(1.7%成長)、2029年が1億3,590万台(1.6%成長)である。
製品分野別で成長していくのはニアライン(NL)向けのみで、2024年の実績5,846万台から、2029年には9,000万台に増加すると予測している。
HDD全体の出荷金額も2025年以降は増加していく。成長率は台数よりも高い。予測値は、2025年が201億6,700万ドル(13.7%成長)、2026年が225億8,130万ドル(12.0%成長)、2027年が250億3,510万ドル(10.9%成長)、2028年が275億5,830万ドル(10.1%成長)、2029年が301億3430万ドル(9.3%成長)である。直近で最小だった2023年の125億2,700万ドルと比べ、2029年は2.4倍に拡大する。
製品分野別で今後も成長していくのは、金額でもニアライン(NL)向けだけだ。2024年の実績額140億7,200万ドルから、2029年には279億ドルに増加すると予測する。HDD全体の出荷金額に占めるニアライン(NL)向けHDDの割合は2024年に79%と、8割に近い。それが2029年には、93%と9割を超えるようになる。
そのほかの製品分野は出荷金額が減少していく。特に厳しいのはエンタープライズ向けHDDで、2028年の出荷は台数が30万台、金額が3,260万ドルに減少し、翌2029年はいずれもゼロになってしまう。別の表現をすると、性能重視型のエンタープライズ向けストレージはSSDだけになるということだろう。