福田昭のセミコン業界最前線

巨大買収の余波で、激変する半導体ベンダー売上高ランキング

2016年の半導体ベンダー売上高ランキング(速報値)。市場調査会社Gartner(ガートナー)が2017年1月18日(米国時間)に発表したもの

 半導体業界における冬の恒例行事の1つ、半導体ベンダーの売上高ランキングが今季も出そろった。ランキングの真打ちとも言える、米国のハイテク市場調査会社Gartner(ガートナー)が半導体売上高のトップ10社を2017年1月18日(米国時間)に発表した。

 Gartnerのランキングでは、トップと2位が前年(前年)と同じ。トップは米国のIntel(インテル)で、Gartnerのランキングでは25年連続の首位となった。もちろん半導体業界が始まって以来の最長記録で、なおかつ更新中の記録でもある。2位は韓国のSamsung Electronics(サムスン電子)で、同ランキングでは15年連続の2位となった。これもたぶん、「連続2位」の記録としては最長だろう。

 「不動のトップと2位」に比べると、3位以下は最近、変動が激しい。3位は米国のQualcomm(クアルコム)で、前年の4位からワンランク上昇した。売上高の成長率はマイナスだったものの、半導体メモリ大手がSamsungを除くと軒並み大きなマイナスを記録したため、順位が繰り上がった。4位は韓国のSK Hynix(エスケー・ハイニックス)である。前年の3位からダウンした。DRAMとフラッシュメモリが売り上げのほぼ100%を占める同社は、メモリ価格の下落によって2016年の成長率がマイナス12.9%と大きく減少した。

 5位は米国のBroadcom(ブロードコム)で、前年の16位から大きくランクアップした。ただしこれにはカラクリがある。まず、前年の16位とは米国の「Avago Technologies(アバゴ・テクノロジー)」のことだ。AvagoがBroadcomの買収を2016年2月1日に完了させ、統合会社の名称をBroadcomとした。この企業買収によって巨大な売上高のAvago(名称はBroadcom)が誕生したことから、順位の非常に大きな変動が生じた。なおBroadcomは前年のランキング(速報値)では、8位に付けていた。見方を変えれば、8位から5位へのランクアップとも言える。

 6位~8位はいずれも、Broadcomが5位に入ったために、前年に比べると1つだけ順位を落とした企業である。6位は米国のMicron Technology(マイクロン・テクノロジ)、7位は米国のTexas Instruments(テキサス・インスツルメンツ)、8位は日本の東芝である。前年と同様に、日本企業でトップ10社に入ったのは東芝だけとなった。

 9位はオランダのNXP Semiconductors(エヌエックスピーセミコンダクターズ)である。米国のFreescale Semiconductor(フリースケール・セミコンダクタ)を買収したことで売上高が大幅にアップし、前年の12位から順位を3つ上げた。

 10位は台湾のMediaTek(メディアテック)である。スマートフォン向け半導体を中心に売上高を前年比29.7%増と大幅に伸ばし、台湾の半導体ベンダーとしては多分、初めてトップ10社入りした。

 前年にトップ10社入りしながら、今回はトップ10社に入れなかったのは2社である。ドイツのInfineon Technologies(インフィニオン・テクノロジー)とスイスのSTMicroelectronics(エスティーマイクロエレクトロニクス)だ。前者は前年に9位、後者は前年に10位だった。

2016年のメモリ需給バランスは前半と後半で劇的に変化

 米国の市場調査会社による半導体売上高ランキングと言えば、1社はIC Insights(アイシーインサイツ)によるランキング、もう1社はIHS(アイエイチエス)によるランキングが知られている。しかし今季は残念ながら、IHSはランキングを公表しなかったようだ。

 残るIC Insightsは例年、11月に推定値のランキングを発表してきた。今季は、2016年11月15日にトップ20社のランキングを発表した。IC Insightsのランキングは半導体製造請け負い企業(シリコン・ファウンダリ)と米国のAppleを含んでいるので、半導体製品ブランドとしての売上高ランキングとはやや異なる。しかしシリコン・ファウンダリとAppleの動向が分かる点は、有り難いとも言える。また20社までのランキングなので、10社限定のGartnerのランキングとは違って最大手だけでなく、中堅の半導体ベンダーの売り上げ動向が把握できるという利点もある。

 IC Insightsのランキングトップ10社では、シリコン・ファウンダリ最大手の台湾TSMCが3位に入っている。シリコン・ファウンダリを除外すると、11位までが実質的なトップ10社と言える。この10社の顔ぶれは、Gartnerのトップ10社と変わらない。

 両社のトップ10ランキング(TSMCを除く)で違うのはBroadcomとSK Hynixの順位だけである。IC InsightのランキングではBroadcomが上、GartnerのランキングではSK Hynixが上になっている。これは両社の見方が違うわけではなく、発表時期(データを集計した時期)の違いによるものだろう。

 違いは、半導体メモリの需給状況が2016年の前半と後半で大きく異なったことによって生じた。前半はDRAMとNANDフラッシュメモリがともに供給過剰で、価格が下落した。このため、半導体メモリ大手のSK HynixとMicronは業績がかなり悪化した。ところが夏頃から一転してDRAMとNANDフラッシュメモリは供給不足となり、価格が上昇した。2017年初頭の段階でも、半導体メモリの需給は締まった状態(供給不足の状態)にある。このため、データの集計時期が早かったIC Insightのランキングでは、半導体メモリ企業の売上高が少なめに出ている可能性が高い。

市場調査会社IC Insights(アイシーインサイツ)が2016年11月15日に発表した半導体売上高ランキング。シリコン・ファウンダリとAppleが含まれている

巨大な企業買収によって2016年はランキングが大きく変動

 IC Insightsのランキングトップ20社を2014年から2016年まで見ていくと、最近になって巨大な企業買収が増えてきたことが見て取れる。

 2014年のランキングでは、大型買収と言えばMicron Technologyが、経営破綻したエルピーダメモリを吸収合併したことくらいだ。それも事業を継続中の企業同士ではなく、エルピーダは会社更生法を適用されていたので、救済措置は避けられなかった。その点では最近の企業買収とは、意味合いが違う。そのほかの買収案件は、かなり小粒なものだった。

 2015年のランキングでは、パワー半導体大手のInfineon Technlogiesがこれもパワー半導体ベンダーのInternational Rectifier(IR)を買収したことで、やや大きな変動があった。2014年の13位から、2015年には11位にランクアップした。またGartnerの売上高ランキングでも、Infineon Technlogiesは2015年に9位に入っており、2014年の12位から上昇した。

 そして2016年は既に述べたように、NXP Semiconductorsによる企業買収とAvago Technologiesによる企業買収が、ランキングを大きく変動させた。11位以下のランキングでも、パワー半導体ベンダーのON Semiconductorがトップ20社入りするといった影響が出ている。

2014年から2016年の半導体売上高ランキング20社の推移(IC Insightsの調査データによる)と企業買収の影響。緑色の企業名は企業買収による売上高が加算された企業を示す。また緑色の矢印は、順位の変化を表現している

2016年の世界半導体市場は辛うじてプラス成長に

 Gartnerはランキングの発表と同時に、2016年の半導体市場規模(世界市場)と成長率を公表している。2016年の世界半導体市場規模は3,396億8,400万ドル、成長率は1.5%である。

 市場調査会社では米国のVLSI Researchが、2016年10月18日(米国時間)に半導体市場の推定値を発表した。2016年の世界半導体市場規模は3,494億ドル、成長率は0.8%である。また半導体メーカーの業界団体で、地域別の需要(市場規模)を公表しているWSTSは、2016年11月29日(日本時間)に半導体市場規模の推定値と予測値を発表した。WSTSによる2016年の世界半導体市場規模は3,349億5,300万ドル、成長率はマイナス0.1%である。

 前年(2015年)の世界半導体市場は2012年以来のマイナス成長だった。同年に関するGartnerの確定値ではマイナス2.3%、WSTSの確定値ではマイナス0.2%である。2016年の速報値と推定値を見る限りでは、2年連続のマイナス成長は辛うじて避けられたようだ。

2016年の世界半導体市場規模(推定値)

前半マイナス続き、8月以降プラスの2016年

 2016年の経過をもう少し細かく見ていくと、2015年に続いて当初は前年同月比でマイナスの出荷額が続いていた(WSTSの統計の一部を米国の半導体工業会(SIA)が公表したデータによる)。例えば2016年1月の半導体出荷額は前年に比べてマイナス5.8%となっていた。この傾向は2015年後半から2016年前半まで続いた。このため2016年の市場予測は当初、かなり弱気なものとなっていた。

 前年同月比の出荷額が底を打ったのは2016年5月である。前年と比べてマイナス7.7%まで落ちていた。これが同年6月にはマイナス5.8%、同年7月にはマイナス2.8%と回復基調が明らかになる。そして同年8月には前年に比べてプラス0.8%となり、成長軌道へと乗る。最新のデータは2016年11月なのだが、プラス7.4%である。わずか半年で15.1ポイントも戻すという、急激な回復ぶりだ。

2016年の世界半導体市場予測の推移。GartnerとWSTSによる予測値と公表期日の推移。2016年半ば頃は一段と弱気になっていたことが分かる

2017年の世界半導体市場は3%~7%の成長を予測

 今年(2017年)の世界半導体市場はどうなるのだろうか。半導体業界では、昨年後半に始まったメモリの供給不足は、短くとも今年の前半までは継続するとの見方が強い。つまり、しばらくは市場の成長が続くということだ。

 Gartnerは2017年の世界半導体市場は7.2%成長するとの予測を2017年1月23日(米国時間)に発表した。同社の予測はかなり強気で、メモリ価格の高止まりと供給不足は2017年いっぱいまで続くとする。

 WSTSは昨年(2016年)11月29日(日本時間)に2017年の世界市場予測を公表した。成長率は3.3%とGartnerに比べるとやや低い。WSTSはMOSメモリ製品の需要を2016年のマイナス3.8%から、2017年にはプラス4.4%に転じると予測しており、半導体メモリに関してはGarnerと基本的には同じ傾向の予測になっていることが分かる。

2017年の世界半導体市場予測(GartnerとWSTS)

 2015年に半導体業界で巨額の企業買収が相次いだ結果、2016年の始めには、巨額買収は一段落したとの見方が業界では強かった。しかし実際には、業界人をさらに驚かせるような企業買収が相次いだ。2017年以降のランキングには既に、QualcommによるNXPの買収が反映されることが分かっている。また2016年に順位を下げた半導体メモリベンダーは、2017年には順位を上げてくるだろう。巨額買収の行方と半導体メモリの需給バランスが、2017年の半導体業界を大きく左右することになりそうだ。