第12回「日本の電子工作キット」



 皆さんは、電子工作キットはお好きですか? 我々は大好きです。実用品として、また、ある種のレクリエーションとして、いろいろな電子工作キットを作ります。

 電子工作キットの良さは、購入して組み立てればほとんどの場合で動作する点だと感じています。我々は回路の自作もしますが、実際にその回路を作ったとき、動かないケースが少なくありません。つまり失敗するわけですが、動かない原因は何なのか──回路の設計が悪いのか、作成途中でミスをしたのか、それとも部品自体が壊れているのか、そのデバッグに疲れ果てることもあります。

 電子工作キットの場合、説明書どおりに組み立てれば完成し、動作します。とくに国産の電子工作キットの場合、サポートがしっかりしていることが大半なので、安心して購入/組み立てを行なえます。

 日本には多数のキットメーカーが存在しますが、一般によく知られているのは株式会社イーケイジャパンのエレキット共立電子産業株式会社のワンダーキットでしょう。両社ともさまざまなオリジナルキットを発売していますが、全国のホビーショップ、電子部品店、無線ショップなどで購入できる手軽さが魅力です。また、直販専門ですが株式会社秋月電子通商のキットも有名です。これらが日本の三大キットメーカーと言えるでしょう。

 それでは、それぞれのメーカーのキット商品やその特徴を見ていきましょう。

 まずは'70年代から続くエレキットです。手作りを実感しつつ楽しみながら作れる低年齢層向けキットがよく知られるところですが、真空管アンプを始めとするオーディオ系キットでも人気を集めています。センサ、リレー、アンプなど、ほかの回路を組み合わせて使えるタイプのキットも数多く、さらにはロボット関連キットも豊富に揃っています。

【お詫びと訂正】初出時に一部キットの回路図が掲載されていましたので、削除いたしました。お詫びして訂正させていただきます。

エレキットのTU-870。真空管ステレオパワーアンプを自分で組み立てるキットです。入手性の良さと価格の安さで人気を博しました。現在は後継機種としてTU-870Rが発売されています
付属する説明書には詳細な実体配線図が載っていますので、これを見ながら組み上げられます。説明書などの丁寧さやわかりやすさにおいて、エレキットは非常に優秀なキットシリーズです
ハンダ付け初心者のための小冊子「はんだ付けトラの巻き」も付属しています。こういったところも初心者に優しいですね。ただし、回路などのテクニカルな解説については若干の不足も感じられます
TU-870が完成したところ。エレキットのオーディオ系キットは、完成すると既製市販品のような出来映えになります。手作りも楽しめる実用品といった指向です
TU-870付属の真空管が光る様子。オレンジ色の美しい光です。キット組み立てに失敗した場合、エレキットドクターサービスを利用すれば有料で点検・手直し・調整をしてもらえます。また、部品を破損した場合、通販で補修パーツを購入することができます

 エレキットは、説明書のわかりやすさやサポートの手厚さから、初めてキットに触れる人にはとくにオススメです。しかし、その分、電子工作キットとしては販売価格が少し高いように思われます。

 価格の安さを追求すると、秋月電子通商の“秋月キット”が魅力的です。秋月電子通商は、その前身まで含めれると'60年代からある老舗の電子部品ショップですが、我々は各種部品の価格の安さにいつも驚かされます。ある種の部品は世界一安価で小売りされていると断言できるほどです。また、秋月キットについても、例えばモジュール類などは圧倒的な安さを誇るものが少なくありません。

 秋月電子通商は独自のさまざまなキットを販売していますが、基本的には直販なので、入手は秋月電子通商店頭か通販のみとなります。また、一般的な電子工作キットもありますが、モジュール単体のものや、単体で動作しても基板剥き出しのものが多いので、どちらかと言えばある程度電子工作慣れした人向けかもしれません。

秋月キットのなかでは初心者向けとなる多機能デジタル時計の完成形です。デジタル時計として実用的に使うためには、完成後の調整やケースへ収める作業が必要になります
付属の説明書は秋月キット独特の個性(!?)があります。キットの作り方や基本的な説明は網羅していますが、あまり経験のない初心者にとってはぶっきらぼうかもしれません
キットの作成手順なども載っていますが、ロットによっては説明書にある部品と付属する部品が異なる(機能/性能面で流用可能な代替部品である)ことも
実体配線図に加え、回路図やテクニカルな解説も少々載っています。ただし詳しい説明ではありませんので、詳細を理解するためには、説明書をもとに自力で調べていく必要があります

 これらのキットメーカーと比べると“若いブランド”と言えるのが共立電子産業のワンダーキットで、'80年頃からのブランドです。

 ワンダーキットはエレキットと同様、全国のショップで購入できます。ラインナップは、ラジオキット、赤外線リモコン、人感センサなどベーシックなものから、電源やアンプのモジュール、各種ゲーム、ロボットまで幅広いものの、初心者~中級者を意識したシンプルなものが多いようです。

 説明書などに関しても中庸を得ているという印象で、実体配線図や作成手順に加え、回路図や応用回路の説明が加わっているキットが少なくありません。エレキットほど初心者寄りではないものの、秋月キットほどはぶっきらぼうでない、というのが我々の率直な印象です。価格的もバランスが取れていると思われるので、我々もよく購入します。

ワンダーキットの導通チェッカーキットTU-7GL。全国のショップで購入できるキットです
キットの中身と説明書。キットが収まるケースも付属しています
説明書には組み立て手順や回路図などが載っています
ケースへ収める作業や、穴開け位置も説明されています。細かな解説まではありま
せんが、応用のための参考回路なども載っています。シンプルながら、ツボを押さえ
た説明書という印象です
ハンダ付け初心者のための手引きも付属していました
ワンダーキットの組み立てに失敗した場合、メーカーのサポート(有料)が受けられます。入手性の良さやサポートの手厚さは、ワンダーキットとエレキットが肩を並べているようです

 共立電子産業からは、ワンダーキットのほか、直販専用のデジットキットやシリコンキットと呼ばれるシリーズも発売されています。これらはワンダーキットよりも専門的だったり、モジュール指向が強かったりする、中~上級者向けのものが多いようです。例えば、デジットキットならギターエフェクターキット6管蛍光表示管キット、シリコンキットならサーボモータ関連のメカトロキットがあります。

デジットキット(デジットオリジナルキット)の1つ、デジタルボルトメータ基板キットです。測定した電圧を4桁の7セグメントLEDに表示することができます
このキットにはNECの78KマイコンであるμPD78F9222が使われています。マイコンはプログラム書き込み済みです。デジットキットの説明書はワンダーキットほど平易ではありませんが、ハンダ付けができ、部品表や回路図の読み方がわかれば初心者でも作れるでしょう

 共立電子産業の各種キットシリーズ──ワンダーキット、デジットキット、シリコンキットは、それぞれ別の個性をもったラインナップになっています。どう個性的かを言い表すのは難しいのですが、例えばデジットキットではAVRマイコンが多く採用されていて、シリコンキットにはPICマイコンが使われているものが多いなど、それぞれ違った流れを持つキットシリーズだと感じられます。

 同じメーカーが作っている別個性のキットシリーズ、ということを考えると、あるいは共立電子産業は最も幅広いジャンル/指向のキットを持つメーカーと言えるかもしれません。なお、これらキットは同社のネット通販ショップである共立エレショップから購入できます(全てのキットが購入可能というわけではありません)。

 さて、最後に我々が最近作ったなかで、最も印象的なキットを1つご紹介しましょう。ワンダーキットのスーパーオルゴールキットORG-L436です。

ワンダーキットのスーパーオルゴールキットORG-L436。共立エレショップ(共立電子産業の通販サイト)では1,260円で販売されているようです
完成したところ。単三形乾電池×2本で動作します。16bit D/Aコンバータを使用し、恐らくサンプリング音声を鳴らしているようです
【動画】キットから聞こえるオルゴールの音。こんなにリアルな音の電子オルゴールキットは初めてです
キットにはこのような導線とスイッチが付属しています。キットを箱に収め、本物のオルゴールのように箱を開くと音がなるようにするためです。早速、箱に入れてみましょう
電源線(赤/黒)の隣にある-とTの接点に付属のスイッチを接続すれば、スイッチの開閉でオルゴールの音が鳴る/止まるようになります(これは説明書でも解説されています)
スイッチを付けた状態
木箱に入れてみたかったのですが、適当な木箱がなかったので手近のミント缶を使うことにしました
このブリキ缶のなかに、スーパーオルゴールキットや電池、付属スピーカーがちょうど入りそうです
キットの固定は両面テープおよびポリイミドテープ(右)を使いました。ポリイミドテープは耐熱性を持つ絶縁テープです。基板と金属シャーシなどの絶縁目的にも利用できます。
ミント缶にスーパーオルゴールキットを収めた様子
【動画】キットを缶などの入れ物に収めると、このようにオルゴールっぽく扱えます