武蔵野電波のプロトタイパーズ

世界の電子工作スターターキット・イタリア編

 電子工作を始めたい。そう思った人がまず躊躇するのが部品集めじゃないでしょうか。通販を利用するにしても、膨大なカタログから1個1個正しい部品を選ぶのは結構大変。ある程度慣れた人でも、部品を揃える手間を省いて、すぐに工作を始めたい時があるはず。

 そんなニーズに応えてくれる電子工作スターターキットが増えています。ここで言うスターターキットとは、ある作例を実現するのに必要な部品と説明書があらかじめ1つのパッケージにまとめられている詰め合わせ商品のこと。説明書は紙の代わりにWebを参照する形になっていることもありますが、たいていはキットのどこかに記載されているURLを入れるだけですぐにスタートできるようになっています。

 我々は面白そうなスターターキットをイタリア、アメリカ、中国、そして日本から集めました。実際に作りながら紹介しましょう。今回はイタリア編。次回はアメリカ、中国、日本のキットを取り上げる予定です。

 電子工作初心者の視点を確保するために、今回はゲストをお招きしました。飯沢未央さんはアーティストとして「歩く心臓」や「脈動するiPhone充電ケーブル」といった度肝を抜く作品を作っている人です。造形はすべて飯沢さん本人によるもので、樹脂加工の達人といえるでしょう。内部では電子回路も使われているので、電子工作も全くの初心者というわけではないのですが、バラバラの電子部品から自分で回路を組み立てる機会はあまりなかったとのことで、今回紹介するようなキットについては初心者目線で触れていただくことができました。

 それでは、イタリア代表“The Arduino Starter Kit”の箱を開けてみましょう。

The Arduino Starter Kitは紙製の箱に入って送られてきました。ゴールドの印刷が高級感を漂わせます。持つと意外にずっしり
ずっしりの理由は170ページの本が入っているからでした。フルカラーの美しいガイドブックは全15章からなり、難易度の異なるたくさんの作例が収録されています。本を取り出すと、小さな箱に小分けされた部品たちが現れます
Arduino Unoを含む部品は6個の小箱に分けられています。箱の底からは、レーザーカッターで加工された薄い木板と綺麗なパターンが印刷された紙製のパーツが出てきました

 2012年秋に発売されたこのキットはArduinoの開発チームによるもので、我々は本家キットと呼んでいます。Arduino用のスターターキットはSparkfunをはじめ数社から提供されていますが、本家ならではのこだわりと優位性を持ったキットと言えるでしょう。

 国内ではRSオンラインスイッチサイエンスなどで取り扱いがあるようです。我々は調達時に在庫があったRSより7,839円で購入しました。この価格は年度末セールのものなので、変更されるかもしれません。

 キットの内容物は次のとおり。

  • Arduino UNOボード(rev.3)
  • USBケーブル
  • ブレッドボード
  • ジャンプワイヤ(各種70本)
  • 縒り線タイプジャンプワイヤ(2本)
  • 9v電池用スナップ
  • フォトレジスタ(CdS×6個)
  • 半固定抵抗器(10KΩツマミ付き×3)
  • タクトスイッチ(10個)
  • 温度センサ(TMP36)
  • 傾きセンサー
  • キャラクターLCD(16×2文字)
  • LED(6種類29本)
  • 小型DCモーター(6~9V)
  • 小型サーボモーター
  • 圧電素子(PKM17EPP-4001-B0)
  • モータードライバ(L293D)
  • フォトカプラ(4N35×2)
  • トランジスタ(BC547×5)
  • MOSFET(IRF520×2)
  • コンデンサ(3種類13本)
  • 抵抗器(7種類55本)
  • ダイオード(1N4007×5)
  • 半透明フィルム(3色)
  • ピンヘッダ

 LCDやモーターの端子は処理済みで、ハンダづけは不要です。LEDやコンデンサといった細かい部品はお店で売られているときと同じ状態で、ザラッと袋に詰められています。これらの部品をガイドブックを見ながらArduinoボードに接続して組み立てます。

 ガイドブックには15のプロジェクトが載っていて、最初はLED 1個とタクトスイッチ2個からなるLEDチカチカで基本の確認。章が進むにつれ、だんだん高度になっていって、後半ではPCとの通信やモータードライバが登場します。プロジェクトごとの所要時間は30分から1時間。全く初めてという人は、第1章からスタートしたほうが良さそうですけれど、その後は、作りたいプロジェクトに飛んでしまってもたぶん大丈夫。

 飯沢さんはガイドブックにザッと目を通した上で、9章と10章のゾートロープ(回転のぞき絵)を作ることにしたようです。

ゾートロープを作ることにしました。まず9章でDCモーターの単純な駆動方法を習得し、10章でより高度なコントロールに挑戦します
はじめに使用パーツのピックアップ。リード部品は1つの袋にまとめられているので、そこから選び出すのに少し時間がかかります。ガイドブックの図が頼りなのに、部品の色が図と違うことがありました。例えば、図中の10KΩ抵抗器は茶色なのに、実物は青です。飯沢さんも戸惑ってましたが、図の色は鵜呑みにしないほうがいいでしょう
抵抗器は値が違うものもすべて1対のテープでまとめられています。さらにダイオードもこのテープの端にくっついていて、それに気付くまでずいぶん探しました
最初に必要となった工具はニッパー。テープからの切り離しにはおそらくニッパーがベストです。この作例の場合、ニッパーだけでも最後まで行けます
必要な部品が揃いました。電池だけは自分で用意します。なお、我々が購入したパッケージにはMini USBケーブルが同梱されていて、標準サイズのUSB端子を搭載するArduno UNOと適合しなかったので、手持ちのものを使いました。梱包ミスでしょうか
MOSFETを1個使ってモーターを駆動するシンプルな回路をガイドブックの図に従って作っているところ。ただし説明はすべて英語です。日本語版の登場が待たれます
ブレッドボード上の回路ができあがったら、次は可動部分の工作。モーターの軸に取り付ける台座をレーザーカッターで切り込みの入れられた木材から抜き出します
軽く力を加えると、スポッと抜け落ちます
モーターの金属製ピニオンギアを切り抜いた木片にギュッと押し込むと固定できます。簡単ながら確実な方法
続いて紙の円盤を用意。先ほどのカット済み木材もそうですが、こうした半完成状態のキレイな「機構部品」がいろいろと用意されているところがこのキットの魅力の1つ
紙が硬いせいで、やや組み立てにくかったのですが、クイック&ダーティーにセロハンテープでバシバシ留めていきました
モーターに両面テープで接着。レーザーカットの断面には煤が残っていてテープがしっかり付かないので、一度剥がして煤を取り除いてから再度貼り付けるといいでしょう

 The Arduino Starter Kitは、その名の通りArduinoが主役。ということは、工作の過程で必ずArduinoボードにソフトウェアを書き込みます。このソフトウェアの扱いに難しさを感じる初心者は多いようで、飯沢さんも警戒してました。

 実は、現在配布されているArduino IDE(Arduinoをプログラミングする際にダウンロードして使うフリーのツール)には、The Arduino Starter Kitのサンプルプログラムがすべて収録されていて、メニューからプロジェクトを選んでアップロードボタンを押すだけで、実行可能になっています。自分でソースを探して編集し、書き込める状態にする必要はありません。本家キットならではのメリットと言えますね。

Arduino 1.0.3では、File→Examples→10.Starter Kitと選択すると、ガイドブックの第10章に対応するサンプルプログラムが読み込まれます。自分でソースを入力しなくて済むので、バグに悩まされる心配は無用
今回は実験的にWindows 8タブレット(ASUS VivoTab Smart ME400C)を使ってサンプルプログラムを書き込みました。Windows 8でArduinoを使う場合、デバイスドライバを導入するときに「ドライバ署名の強制」を解除する必要があるかもしれません。その方法についてはスイッチサイエンス・マガジンの解説が分かりやすいでしょう。
狭い10.1型スクリーンにタッチしてArduino IDEのメニューを操作するのは、女子の指でも楽ではない模様。スタイラスが欲しくなります。電子工作端末としてのタブレットは快適とのこと
プログラムを書き込んで完成……のはずが動きません。回路をチェックするも間違いは発見できず
「電池がダメなのでは?」という指摘を受けてテスター出動。電圧を測ってみると、確かに弱ってました。電子工作にテスターは不可欠と再認識
今回使用したのは、DealExtremeから購入したノーブランドのペン型テスター。200mAまでの電流が測れて25.67ドル(送料込み)。ペン型といってもかなり太いので、込み入った部分の測定には不向きという印象です
タクトスイッチを押すと勢いよく回転する円盤。ベースとなるDCモーター駆動回路ができました。このあと円盤が台座からはずれて吹っ飛び、一同のけぞる事態に。スピード調整ができないとキケンですし、ゾートロープとしても機能しなさそう
回るようになった円盤にスリットの入った「壁」を取り付けてゾートロープ化
モーター駆動回路もMOSFET 1個のものから、ドライバICを使ったより複雑なものに変更。Arduinoには半固定抵抗器を接続し、スピード調整機能に対応するサンプルプログラムを書き込みます。前段階で基本的な部分はできているので、改造はすぐに終了
タクトスイッチを押してモーターを回し、半固定抵抗器を調整していくと、ある回転数でスリットの向こう側にアニメーションが現れます
ゾートロープの原理は知っていましたが、動いている様子を見るとちょっとした感動があります。達成感のある作例と言えそうです

 The Arduino Starter Kitを体験した感想を飯沢さんに聞いてみました。

 「デザインが素敵ですね。見た目の良さはやっぱり大事。ゾートロープが入ってるところがヨーロッパぽい。細かいパーツが1つの袋に全部入っていてカオスなのを見たときには、気持ちが躓きました。電線や抵抗の色が説明書と違うのは、初心者の人は困るかも。文字量が多いのも難しく見えます。でも、作り終わったら感動がありました」。

 作例はまだたくさん残っていて、しばらく楽しめそうです。入っている部品の価格だけを考えると割安なキットとは言えないのですが、ガイドブック、レーザーカットされた部品、ソフトウェアといった要素の価値も考慮すると、かなりお得なキットに思えます。

 世界の電子工作スターターキット・イタリア編は以上です。次回は次の4キットを紹介します。

  • LittleBit Teaser Kit(アメリカ)
  • SeeedStudio Glove Starter Bundle(中国)
  • サンハヤト タイマーIC555を使った電子工作セット(日本)
  • テクノ手芸部 羊毛フェルトでふわピカ動物をつくろう(日本)

(武蔵野電波)