イベントレポート

革ジャンCEOがまたもや“乗っ取り”。シーメンス基調講演でNVIDIAフアン氏も語った「産業用AI革命」とは?

シーメンスの基調講演で対談を行なうシーメンスAG CEO ローラン・ブッシュ氏(左)とNVIDIA CEO ジェンスン・フアン氏

 ドイツのSiemens AG(以下シーメンス)は、日本でいえばパナソニックや日立といった重電から家電まで手掛けるような巨大電機メーカーだが、近年はデジタルのビジネスに力を入れており、2024年のCES基調講演に登壇した際には産業用メタバースをアピールするなど、さまざまなソリューションを提供している。

 シーメンスでCEOを務めるローラン・ブッシュ氏は、CES開幕初日の1月6日(現地時間)に行なわれた基調講演に登壇し、今年は「産業用AI」(Industrial AI)をテーマに講演を行なった。ブッシュ氏の講演には、最近のトレードショーで他社の講演にゲストとして登壇して主役の座をさらっていくあの人も登壇した。

開幕にQualcomm CEO クリスチアーノ・アーモン氏が登壇

開幕基調講演を前にCESの見どころを説明するCTA会長のキンゼー・ファブリツィオ氏(左)、CTA上席副会長兼CEOのゲアリー・シャピーロ氏(右)

 CESの開幕基調講演は、例年CESが本格的に始まるのを告げる「キックオフイベント」としての役割も持っている。基調講演のスピーカーが講演する前に、CESの主催者であるCTA(The Consumer Technology Association)が各種セレモニーを行なう場でもあるからだ。

 今回の開幕セレモニーでは、CTA上席副会長兼CEOのゲアリー・シャピーロ氏、CTA会長のキンゼー・ファブリツィオ氏の2人が登壇し、CTAの記者会見でも語られた、今年のCESの見どころなどが説明された。

Qualcomm CEOのクリスチアーノ・アーモン氏(右)が登壇

 さらにセレモニーの後半では、Qualcomm CEOのクリスチアーノ・アーモン氏が登壇し、AIのトレンドについてCTAの2人と話をした。

 アーモン氏は「AIはすべてを変え始めている。Qualcommが提供するスマートフォンやタブレットのようなモバイルデバイスも、AIエージェントが大きく変え始めている。今やAIは、我々が見ていること、発言の文脈などを理解し始めており、大きな変革期を迎えている。また、フィジカルAIは次の大きなトレンドになっている。自動車やロボットなどは、新しい個人向けAIデバイスになりつつある。今後私達が関わるものすべてにフィジカルAIが関与することになる。フィジカルAIの市場は巨大で、今では数値化するのが難しいほど潜在的な可能性がある市場だと考えている」と述べた。

 なお、Qualcommはこの開幕基調講演が行なわれた前日に、ロボットなどのフィジカルAIに対応した新しいSoC「Dragonwing IQ10」を発表しており、同社ブースで自動運転自動車やSDV、そしてロボットなどの展示を行なった。

再び他社基調講演を“ジャック”したジェンスン・フアンCEO

シーメンスCEOのローラン・ブッシュ氏

 CTAによるCES開幕セレモニーの後、シーメンスCEOのローラン・ブッシュ氏が登壇し、開幕基調講演を行なった。ブッシュ氏が開幕基調講演に登壇するのは、2024年に次いで2回目で、そのときには産業用のメタバースやデジタルツインなどに関して講演を行なった。

 ブッシュ氏は「industrial AI Revolution」(産業用AI革命)をテーマに講演を行ない、産業用途のAIなどのソリューションについて語り、その顧客事例としてペプシやセブンアップなどの飲料ブランドで知られる飲料メーカーのPepsiCo、Ray-Ban AIグラスのMetaなどの顧客事例に関して説明した。

産業用AI革命
シーメンスAG CEO ローラン・ブッシュ氏の講演に、NVIDIA CEO ジェンスン・フアン氏が登壇

 そして、講演の中で最も時間が割かれたのが、ゲストとして登場したNVIDIA CEOのジェンスン・フアン氏との対談だ。今回両社は共同で「Industrial AI Operating System」(産業用AI OS)と呼ばれる仕組みを構築していく協業を発表しており、NVIDIAはAIを構築するインフラ(AI半導体とAIデータセンターを構築するソリューション)と、AIを構築するためのソフトウェア環境(CUDA-X、Omniverse、NeMoなど)を提供し、シーメンスは数百人規模の産業用AIの専門家や各種のハードウェア/ソフトウェアをソリューションとして提供する。

 これにより、顧客企業が産業用のAIやデジタルツインなどを活用可能になり、工場の生産性向上が実現できるという。

両氏はAIやデジタルツインを利用した工場のスマート化などを議論

 NVIDIAのフアンCEOは「両社のソリューションにより、工場はいってみれば1つの大きなソフトウェア定義(Software Defined)のロボットになる。そうしたソフトウェア定義のロボットが、ロボットを動かし、ロボットを生産する……そうしたものが将来の工場になる」と述べ、両社の提携が工場の形を大きく変えていくと説明した。

 ブッシュ氏は「エアランゲンにあるシーメンスエレクトロニクス工場でこの両社の提携によるモデルケースを動かしていく」と述べ、まずはシーメンスの自社工場で両社のソリューションを動かし、それをシーメンスの顧客工場にコピーしていく形で両社のAIソリューションを世界中の工場に展開していくと説明した。

 なお、いつものことでもあるが、フアン氏が登場してからはほとんどフアン氏がしゃべっているような状況で、昨年のCOMPUTEXのFOXCONNやMediaTekの基調講演に登壇したときと同じように「フアン氏オンステージ」状態になって、シーメンスの基調講演を聴いているというよりはNVIDIAの基調講演を聴いているかのようであったことを付け加えておく。

PepsiCoやMetaなどの顧客事例を紹介。Microsoftとは産業用Copilotで提携

MetaのAIグラスを装着するブッシュ氏

 フアン氏が降壇した後、ブッシュ氏はほかのシーメンスのAIやデジタルツインのソリューションに関して説明を行なった。

 「Digital Twin Composer」は、Siemens Xcelerator Marketplaceで今年の半ばに提供開始される予定のデジタルツインツールで、物理的な工場とデジタル空間を簡単に連動できるようになる。

 それを採用した最初の顧客事例として、飲料メーカーのPepsiCoが紹介され、ブッシュ氏とPepsiCo ラテンアメリカ地区CEOのアシナ・カニオウラ氏がPepsiCoの飲料工場でデジタルツインが活用される様子が説明された。

 カニオウラ氏は「生産効率は20%改善し、Capex(筆者注: 資本的支出、いわゆる設備投資のこと)は15%少なくて済んだ」と述べ、デジタルツインを利用した工場を作ることで、生産効率が改善され、同時に設備投資も抑えることができたと説明した。

PepsiCo ラテンアメリカ地区CEO アシナ・カニオウラ氏(左)
PepsiCoのデジタルツイン飲料工場

 また、Armとの提携も発表されており、今回の講演で「PAVE360 Automotive」という自動車メーカーがADAS(先進運転支援システム)や自動運転などの機能を搭載したSDV(Software Defined Vehicle)をデジタルツインで開発するためのツールが紹介された。

 なお、それはArm Zena CSS(Armが提供する自動車向けのIPスイート群)に基づいており、Arm Zena CSSを採用した自動車用半導体を利用したSDVなどのデジタルツインでの開発が容易になる。

PAVE360 AutomotiveでArmと提携

 MicrosoftとはCopilotを活用したソリューションで提携を行なうことを明らかにし、Copilotをベースにした産業用チャットボットを提供していくと説明。Microsoft CEOのサティヤ・ナデラ氏がビデオで登場したほか、Microsoft プラットフォーム&ツール Core AI担当上席副社長のジェイ・パリック氏が登壇し、両社のパートナーシップに関して説明を行なった。

Microsoftと産業用Copilotで提携

 さらに、ブッシュ氏はMetaが提供している、Ray-BanブランドのAIグラス向けのデジタルツインツールを紹介した。それによれば、工場向けなどに提供されているソリューションで、たとえば工場の機器に異常などが発生した場合、AIグラスに問題点が表示され、トラブル時の処置方法がAIグラスに表示されるという。ブッシュ氏は、サングラス型のAIグラスをかけて会場を笑わせた後、そうしたソリューションを紹介した。

産業用にAIグラスを活用