第13回「自由なLo-Fi楽器、Drawdioを作ろう」



 今回は「Drawdio」を作ってみましょう。DrawdioはMIT(マサチューセッツ工科大学)のJay Silver氏によるプロジェクトで、単純なしくみながら不思議な音を出せる楽しい回路です。動作する動画をJay Silver氏のDrawdioサイトで見ることができます。

 風変わりな音が出るしくみは、抵抗値を変えて555タイマーICの発信周波数を変えるというもの。ユニークなのが抵抗値を変えるギミックです。ボリュームなどの電子部品で変えるのではなく、身近にある導体──水道水、人体、鉛筆の黒鉛などで抵抗値を変えています。身近な導体を回路の一部として使っているというわけです。

 Drawdioは既に広く知られたプロジェクトで、容易に作成/使用できるキットも売られています。その1つがAdafruit IndustriesのDrawdio kit v1.1です。

 Drawdio kitは、鉛筆の黒鉛をDrawdioの音程調整に利用しています。鉛筆で描いた線の長さ/太さ/濃さによって、紙の上の黒い線(黒鉛)の抵抗値が変わりますが、これをDrawdioの音程コントロールに使っています。

 ではさっそく作ってみましょう。我々の手元には上記のDrawdio kit v1.1ではなく、v1.0がありましたので、これを作ります。なお、v1.0の作成手順はこちらから、現時点で最新版となるv1.1の作成手順はこちらから参照できます。

Adafruit Industriesで購入したDrawdio kit v1.0。現在はv1.1が売られています。価格は17.50ドルですが、別途送料もかかります
キットの中身。10個程度の電子部品や基板で構成されています。慣れている人なら10~20分で作れるでしょう。鉛筆付き
v1.1の基板上にはスピーカーを直付けするスペースがありますが、v1.0にはそれがありません
基板上にはトランジスタを2個使用したアンプ部(プッシュプル増幅回路)もあります
中央に見えるのが、発振用ICであるテキサス・インスツルメンツのTLC551。555タイマーIC互換品ですが、最小1V~最大15Vで動作します。単3形電池×1本でも動かせるというわけです
v1.0の場合、スピーカーはこのように取り付けます。v1.1の場合、この取り付け方法のほか、基板に直付けすることもできます
基板上に電池ボックスを取り付けたところ。これで、とりあえず動作するようになります
基板の両端に大きめの接点が見えます。この間をある程度の抵抗値を持った導体で接続すれば、抵抗値に応じた周波数で音が鳴ります。例えば、この接点間に適当な抵抗値のボリュームを取り付けて回せば演奏のようなこともできます
鉛筆で描いた軌跡により音程を変えるようにするため、完成した基板を鉛筆に取り付けます
接点に銅箔テープを貼ります
接点と鉛筆の芯が電気的につながるようにします。芯と銅箔を画鋲で結び、接点と銅箔はハンダ付けします
もう片方の接点にも銅箔テープを貼ります。銅箔テープは、鉛筆を握る部分に巻き付けます
こちらの接点もハンダ付けします
完成形です

 Adafruit IndustriesのDrawdio kitは、鉛筆の黒鉛(の抵抗値)をICの発振周波数調整のために使っています。上の写真のように、基板の片方の接点が鉛筆に芯に、もう片方の接点が人間の手につながっています。紙の上に何かを描いて、その図柄に鉛筆の芯と(鉛筆を握っていないほうの)手が同時に触れれば、人体と黒鉛を通して回路上の接点がつながって音が出るというわけです。また、描いた濃さ、触れる位置の距離などによって音程が変わります。

描きながら、鉛筆を持っていないほうの手で図柄に触れると音が鳴ります。鉛筆側を固定して、指で触れる位置を変えても同様。アイデア次第でいろいろな遊び方ができるキットです
【動画】作ったDrawdio kitを使ってみました。出る音は決して高音質ではありませんが、「何か描くと、音が変化しながら出る」という体験は新鮮なものでした

 鉛筆の黒鉛を抵抗値(音程)調整用の導体として使う場合、鉛筆の芯が濃くて柔らかいほうが音を出しやすいようですが、黒鉛の含有量や描く濃さにも左右されます。さまざまな種類の鉛筆で試すと良いでしょう。ただし、色鉛筆は黒鉛を含んでいませんので音が出ません。

 さて、Drawdioを別の方法で鳴らしてみましょう。基板の接点間の抵抗値変化によって出る音程が変化する回路ですから、例えば人体を導体と見立てて音を出してみましょう。

Drawdio kitを鉛筆に取り付ける前の状態。手前と奥の接点を、適当な抵抗値を持った導体でつなげば音が出るというしくみです
【動画】2人の人体を導体と見立てて実験してみました

 Drawdioの応用方法がわかったところで、もう少し容易に音程を変えられるようにしてみました。使ったのは、ワニ口クリップとテスター棒(プローブ)を導線で接続したものと、8mmビデオテープです。

 ビデオテープには磁性体が塗られていますが、この磁性体は導体です。これを抵抗値調整に使います。2本のテスター棒でテープに触れ、テスター棒間の距離で音程を調整しようというわけです。原始的なリボンコントローラーといったところでしょうか。

今度はこんなふうに使ってみます。ただし、このままテスター棒どうしが触れるだけだと、同じ高さの音しか出ません
そこで、手持ちの8mmビデオテープを使ってみることにしました。テープに塗られた磁性体を抵抗値調整用の導体として使ってみます
このテープの場合、裏側(カセットの口を開いて見えない側)が導体として使える面でした。表側はコーティングされているようで、電気を通しませんでした。なお、磁気テープによっては表面も裏面もコーティングされていて導体として使えない場合もあります
【動画】机上にビデオテープを裏返しにして貼り付け、これをテスター棒で演奏(!?)しています。なお、磁気テープとテスター棒が擦れ合うため、楽器としては耐久性が低く、10分程度使用すると音が途切れるようになります。まだまだ改良の余地があるようです

 アイデア次第でさまざまな遊び方を試せるDrawdioは、その回路も単純なので、自作も容易です。これまで見てきたDrawdio kit v1.1の回路図はここにありますが、わずかな部品で作れます。

 ただ、上記のAdafruit Industries製Drawdio kitには、555タイマーIC互換品としてテキサス・インスツルメンツのTLC551が使われています。1~15V程度の電圧で動作し、汎用性が高いのですが、前述のように日本国内では手に入れにくいICです。

 そこで、同じく555タイマーIC互換品であるLMC555を使い、ブレッドボード上に作ってみました。LMC555はナショナルセミコンダクター社製の555互換ICで、CMOS版なので省電力です。動作電圧が1.5Vから保証されており、電池1本でも動かせそうです。

 ちなみに、LMC555は共立エレショップ秋月電子通商から通販で購入でき、価格も安価です。なお、LMC555のデータシートはこちらからダウンロードできます。

Drawdioとほぼ同様に動作するプロトタイパーズ版Drawdioの回路図です。当初、ベーシックな555で作ってみましたが、うまく動作しませんでした。回路はオリジナルDrawdioから若干変更しています
ブレッドボード上に回路をまとめたところ
電源は単三形乾電池×2本の3Vとしてみました。電池電圧低下時にICの動作が不安定になるのを防ぐためです
【動画】テスター棒とビデオテープを使って自作Drawdioの音を出してみました。スピーカーを圧電ブザーとしたためか、Adafruit Industries製Drawdio kitとは音質が少々異なるようです