大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

「社長と呼ぶな」会議は150人から20人へ。FMVが国内首位に立った“スピード改革”の全貌

FMVシリーズのラインナップ。日本市場に特化した戦略に移行した

 富士通クライアントコンピューティング(FCCL)が、個人向けPC市場において、トップシェアを維持し続けている。複数の調査会社の集計で明らかになっており、軽量モバイルノートや、“全部入り”といわれる16型オールインワンノートPCなどが、同社PC事業を牽引している。

 法人向けPCを担当する富士通が海外PC事業から撤退したことで、同社の事業規模は大きく縮小したが、その一方で、日本市場にフォーカスしたモノづくりへと転換。それも同社の強みを生かすことにつながっている。FCCLの大隈健史社長に、2025年における同社の取り組みと、2026年の抱負について聞いた。

日本のコンシューマ市場でトップシェアに

――富士通クライアントコンピューティング(FCCL)が、国内個人向けPC市場でトップシェアを維持するなど、好調な動きを見せています。FCCLのPC事業の現状について教えてください。

大隈氏(以下敬称略) 第三者機関データに基づいたFCCLの集計によると、2025年度上期(2025年4月~9月)の国内個人向けPC市場においても、トップシェアを獲得しました。Windows 10のEOSを迎え、PCへの需要が高まるタイミングで、トップシェアを獲得したことは大きな意味があると考えています。

富士通クライアントコンピューティング(FCCL)の大隈健史社長

――トップシェアを獲得できた要因はなんですか。

大隈 製品力と営業力の両輪がうまくかみ合った結果だと考えています。これは、FCCLにもともと備わっていた力なのですが、これまでは、その強みがトップシェアにはつながっていなかった反省があります。

 富士通ブランドのPCは、1981年に市場参入して以来、40年以上にわたって、トップシェアを取ったことがありませんでしたし、それでも事業が継続していることもあり、ナンバーワンになるということを強く意識することが薄れていたところがありました。

 FCCLは、世界最軽量のモバイルノートを開発し続けていることからも明らかなように、ナンバーワンといえる商品を市場に投入することができていますし、地方都市の販売店を含めて、長年にわたって培ってきた日本全国を網羅する販売網やサポート網を持っています。

 しかし、これまではトップシェアではないですから、一部製品の強みだけをアピールすることに留まったり、強い営業力やサポート力があったりすることが伝わりにくかったともいえます。

 トップシェアになったことで、市場をリードする立場から、FCCLが持つすべての製品の強みや、営業力の強みを語れるようになりました。ここ数年は、トップシェアを目指すということを明確な目標として掲げ、その間、特定の領域でトップシェアになったことや瞬間風速でもトップになった成果、あるいは個人向けPC市場全体でも1位との差が少しずつ縮まっていったことなど、小さな成功を、社内で積極的に共有しました。

 それが社員の自信につながり、製品力や営業力をさらに生かすという繰り返しが、個人向けPC市場全体でのトップシェア獲得につながったといえます。

――社内に対しては、トップシェアを取る時期を明確に掲げていたのですか。

大隈 それはありませんでした。もちろん、時間をかけてゆっくりやるというつもりはありませんでしたし(笑)、安売りしてまでシェアを取るつもりもありません。不自然な形ではなく、実力でトップシェアを取りに行くことが重要であり、その力はすでに備わっていたと思っています。

 先にも触れましたが、トップシェアを取るという意識を持ち、それに向けて、製品力と営業力がかみ合ったことで実現したものだと思っています。一度獲得したトップシェアは、二度と他社には渡さないという気持ちでいますよ。また、FCCLの業績は公開していませんが、過去最高の利益率を達成しており、しっかりと利益を確保しながら、トップシェアを獲得できています。

約150人の会議を20人程度に減らし意味のあるものに

――2021年4月に、富士通クライアントコンピューティング(FCCL)の社長に就任して以来の約5年間で、なにを変え、なにを変えませんでしたか。

大隈 手前みそになってしまいますが、当時、FCCLに入って最初に感じたのは、外から見ていたFCCLよりも、想像以上に優れた組織であるということでした。

 FCCLの先輩や社員たちが積み上げてきた知見や考え方が浸透しており、能力、スキルの高い社員が多く在籍しています。私自身、PC業界に長く携わっており、同じレノボグループの中からFCCLのことを見ていましたから、それなりに理解していたのですが、財務情報や市場シェアなどの数字だけでは分からない強みを感じましたね。強い誇りを持って仕事に取り組んでいる組織であり、高いプライドを持ち、プロフェッショナル意識を持った社員が多い組織です。これを維持することは変えない部分でした。

 一方で、変えなくてはならないと感じたのは、意思決定のスピードです。私はこれがFCCLの大きな課題であることを、社長就任直後から指摘し、社内に対して何度も繰り返して言ってきました。

 たとえば、当時はコロナ禍でしたから、オンライン会議を行なっていましたが、その中の1つに、幹部全員を含む約150人の社員が参加する会議がありました。毎月開催し、2~3時間にわたる長い会議ですが、話をするのはわずか数人。全員がカメラをオフにして、ずっと話を聞いているというものです。会社の中で、給料が高い上位150人が参加している会議ですから(笑)、もっと意味のあるものにしたいと考えました。

 もともと集団で物事を進めたり、合議制で決定したりという文化がありましたから、どうしてもスピードが遅くなります。「こんな時間の使い方をしていていいのか」という課題を提起する象徴的な改革として、参加者を6分の1程度にまで減らし、時間の使い方を変え、会議の内容もより意味のあるものへと進化させました。

 また、日本の企業に共通したことではありますが、満点を目指す姿勢が強いこともスピードという点で課題を感じました。9割まであっていても、残りの1割の不確かなところを指摘し、突き返すといったことが日常的に行なわれており、現場ではそれを解決するために時間をかけ、人をかけ、資料を作り、議論を繰り返す。結果として、意思決定が遅れることにつながっていました。

 これは、私の経験にはなかったものでしたし、スピードの欠如に直結していたことなので、真っ先に改善する必要を感じました。残りの1割をいくら突き詰めていっても正確なことは誰にも分かりません。ある程度、正確なところが見えているのであれば、どんどん物事を先に進めていこうと。最初のころは、そのことばかりを言っていました。しかし、最近は言う機会が減っていますから、社内にはスピードが備わってきたといえるかもしれませんね。

FMV Note Cを若手に任せて慣習を変える

――スピードを生かして意思決定をしたケースには、どんなものがありますか。

大隈 2025年1月に発表した「FMV Note C」は、若手社員で構成するFMV From Zero Projectが中心となり、若年層をターゲットとしたPCとして開発しました。コンセプトを構築する部分にはじっくりと時間をかけましたが、それが決まった後は、スピード感を持って意思決定をしていきました。

FMV Note C

 たとえば、FMV Note Cでは、紙のマニュアルを廃止しましたが、これは市場調査によって、若い人たちは紙のマニュアルを読まなかったり、そもそも不要だと感じて、すぐに捨ててしまったりという声が多いことを背景にしています。

 言い方は悪いですが、不要となる大量の紙をばらまいていることにもつながっていたという判断ができるわけです。しかし、その一方で、FCCLにはこれまで紙のマニュアルを同梱してきた理由があります。廃止したことによって、ユーザーが困ったときに必要な情報に辿り着けなくなったり、それによってクレームが発生したりといったことが起きたらどうするんだという話が、当然出てくるわけです。

 若者を対象にしたPCであるというコンセプトからすれば、紙のマニュアルの廃止という判断は、7~8割はあっているのですが、残り2~3割のところを詰めなくてはならない。ただ、これを10割にするために、多くの人を巻き込んで検討し、資料を作成し、また会議をやって……といったことを繰り返すと、スピードは出ませんし、やろうと思っていることすらできなくなります。

 また、会議を増やして、合意形成を図ったり、合議制で進めたりすると、誰も責任を取らなくて済みますし、これまでのやり方を踏襲する方向に振れがちです。結果として、新しいことには挑戦しにくい状況も生まれてしまう。紙のマニュアルを付属すべき理由はいくらでも出てきます。

 しかし、新しいことをやろうとしているのに、そこを議論してもまったく先には進まない。大切なのは、紙のマニュアルを読まないユーザーに対して、紙のマニュアルで対応するのではなく、必要な情報に辿り着くための仕組みを用意することです。スマホから電子マニュアルに辿り着き、検索して課題を解決すればいいのです。このように、若者を対象にした製品では、紙のマニュアルがいらないという判断が7~8割あっているのならば、とにかくやってみようという結論を出し、スピードを優先し、新たなことに挑戦しました。

レノボから来た自分を受け入れてもらうために

――約5年間にわたって、社長として、こだわってきたこととはなんですか。

大隈 FCCLの社長に就任するにあたって、2つのことを決めました。1つは、私一人だけでFCCLに行くということです。プロ経営者の中には、自分の右腕となる人を連れてきて、自分は経営に集中し、細かいところは参謀がサポートするといったケースがあります。効率的に経営や改革をするにはいい方法かもしれません。

 しかし、FCCLでこれをやった途端に、私を仲間だと認めてもらえないと考えました。社員の多くが富士通出身者という中に、株主であるレノボグループから来たわけですから、そこに右腕を連れて乗り込んでいったら、なにをやるにも警戒されることになりますよね(笑)。社内の状況をキャッチアップするのに少し時間はかかるかもしれませんが、一人の人間として受け入れてもらうというところにこだわりました。

 もう1つは、私の経験とFCCLの良さを融合したいと思っていたので、自分のやり方だけで判断したり、急いで結論を求めたりしないことです。

 たとえば、1年間は人事には手をつけませんでした。私の見方や、外資系企業の考え方、レノボグループの考え方に照らし合わせると、そのポジションには必ずしも合わないと感じる場合でも、その人にはこれまでの経験があり、それをもとに、そのポジションに相応しいと判断されたわけですから、早急に判断をすると、私の方が間違っている可能性が高いともいえます。役員は私より年上ばかりという中で、急いで判断することはやめようと思っていました。

 一方で、これは社内を変えた部分にもつながるのですが、先にも触れたように、FCCLはプロフェッショナル集団であり、仕事に対して、常に真剣に向き合っている点は高く評価できるものの、その反面、笑顔が少ないことが気になっていました。これは仕事中に笑ってほしいというのではなく、笑顔でお互いがコミュニケーションできる場があれば、もっとつながりが強くなったり、ビジネスにもプラスの影響ができたりするのではないかと考えたのです。

 2023年度から「KIZUNA」プロジェクトを立ち上げ、従業員エンゲージメント活動を強化しています。ここでは社内イベントの開催や、部活動を通じて、社員同士のコミュニケーションを活性化し、社内の笑顔を増やす取り組みを進めています。これまでにも「FCCL Listens」という社内調査を実施して、社員の声を聞いていますが、もともと従業員エンゲージメント調査では、必ずしもいい結果が出ていませんでした。これが、「KIZUNA」プロジェクトを開始するきっかけにもなっています。過去4年間にわたって、従業員エンゲージメントスコアは上昇し続けていますが、まだまだ改善の余地があるというのが私の認識です。

 実は、最初の年にやった取り組みの1つに「社長撲滅活動」があります。

――なんだか、すごいタイトルですね(笑)

大隈 スピード感を持って意思決定をするためには、フラットな組織が必要だと考えており、それに向けた組織改革を進める一方で、私のことを「社長」と肩書で呼ばないことを徹底しました。「社長」と肩書で呼ぶ文化が私は嫌いで(笑)。しかも、社内のやりとりを見ると、肩書を重視するあまりに余計なところに気を遣う風潮があり、それを払拭したいと考えたんです。

 たとえば、メールを送る際に、役職が高い順番に並べないといけないとか、役職名を書き間違えると大変なことになるといった雰囲気があり、そこに気を遣っている社員が多く見受けられたのです。まずは、私を含めて、全員を「さん」づけで呼ぶことにし、お互いに、一人の人間同士として向き合いましょうということを提案しました。

 私は、役職で呼ぶのも嫌いですが、「くん」づけも上下関係があって嫌で、呼び捨ても嫌いで(笑)。そこで、年齢、性別関係なく、「さん」づけで呼ぶことを徹底しました。それにも関わらず、会議では「大隈社長」とか、「社長!」と呼ばれたりして……。その場で、すぐに「大隈さんと呼んでください」と言い直してもらうことを何度も繰り返しました。そこまで徹底したことで、社員のみなさんが、「フラットな文化にしたい」という私の意図が伝わったのではないかと思っています。

結果的に日本に集中して製品を開発

――2025年5月に、3つのマテリアリティを掲げ、その1つに「働きがいがあり、安心して活動できる会社文化」を掲げました。この狙いはなんですか。

大隈 現在の企業において、「働きがい」や「安心して働ける環境」というのは、多様性と強く結びついています。かつての企業では、一括採用が中心であり、同じような学歴であったり、思考であったりする人たちが集まり、似たような人たちと一緒に仕事をすることが、働きがいや安心して働ける環境の実現につながっていました。

 しかし、今は多様性が前提となり、働き方に対する意識が異なり、働きがいの感じ方にも大きな差があります。そうした多様な働き方、働きがいの感じ方を捉えた環境が、安心して働けることの実現につながります。アンテナを高く張って、社員の声を聞きながら、多くの人に働きがいを感じてもらう環境を実現することは、重要なテーマだと思っています。

――一方で、これまでの約5年間で、やりきれなかったことはありますか。

大隈 総括すると全体的には想定以上にうまくいったことの方が多かったといえますが、あえて反省点を挙げるとすれば、海外ビジネスへの取り組みがあります。アジアにおける個人向けPC事業の立ち上げに向けて、8カ国に進出しましたが、スケールすることができず、経営判断として撤退をしました。参入の意思決定をしたのも私ですし、撤退の判断をしたのも私です。

――FCCLの社長に就任する前には、レノボグループにおいて、シンガポールを拠点に活躍していただけに、むしろ、大隈社長の手腕が発揮できる市場だと見ていました。

大隈 FCCLのPCは、川崎で設計、開発し、島根富士通で生産しており、MADE IN JAPANの強みを生かせる市場において、ターゲットを絞り込んで展開する計画でした。しかし、その強みを伝えきれなかった反省があります。実際に、ターゲットとした顧客層からは、「高くてもMADE IN JAPANであれば購入したい」という声が多くありました。

島根県出雲市の島根富士通

 ただ、どうしてもFCCLがやると、「高くてもいい」という価格の範囲を超えてしまい、同じスペックのPCに比べても、2~3万円ほど高くなってしまう。これは、日本から輸出しているという理由だけでなく、現地で保守体制を構築する必要があるなど、さまざまな要素が関係しています。この価格差が、MADE IN JAPANを価値として認めてもらいにくい状況を作ってしまったといえます。

 また、これは分かっていたことなのですが、軽量化に対する価値を、日本ほど認めてもらえない市場であることも影響しています。私はシンガポールにいるときから、レノボに対して、軽量化したThinkPadを作ってほしいと要望していましたが、それをなかなか作ってくれなかった。軽量化に対して、最も価値を認めていただける市場が日本です。

 もう1つ、欧州市場からの撤退がありました。これは、法人向けPC事業を担う富士通の判断によるものですが、約4割の売上がなくなり、それに伴う再編も行ないました。ドイツの拠点は、約140人体制だったものを、20数人規模にまで縮小しています。

――その結果、日本に事業を集中できる体制が整ったともいえますね。

大隈 海外事業からの撤退により、減収になったことについては、もう少しなにかできたのではないかという思いはあります。

 ただ、ご指摘のように、日本でのビジネスに集中する体制となったことで、海外のお客様に受け入れてもらうための仕様づくりなどが、すべて取り払われ、日本のお客様に100%フォーカスした製品開発ができるようになったのは確かです。日本のお客様だけを見て開発、生産した、日本のお客様のためのPCブランドであるという形に再定義することができました。

 ただし、これは言い方を変えると、日本のお客様に認められないと、ほかには何も残らず、まさに退路がない状態だともいえます。これまで以上に、日本のお客様のためのPCづくりに取り組む考えです。

――PC事業はボリュームを持っていた方が優位です。海外事業からの撤退により、売上が4割減少し、今後数年は、Windows 10のEOSによる特需の反動もあり、国内PC市場も縮小する方向に向かいます。コスト競争力などに影響しませんか。

大隈 そこはレノボグループの調達メリットを生かすことができます。コスト構造が悪化するといった直接的な影響はありません。海外事業からの撤退によって、PCの価格が上昇することはありません。

カフェでの利用者を増やしたかったFMV Note C

――2025年1月に発表した「FMV Note C」は、若年層をターゲットとした新たなPCとして投入した製品ですが、約1年を経過して手応えはどうですか。

FMV Note Cを持つ俳優の八木莉可子さん

大隈 100点満点というわけではありません。ただ、やりたかったこと、やるべきことの半分程度はできたかなと思っています。FCCLは、個人向けPC市場において、トップシェアを獲得したわけですが、依然として若年層に選んでいただけるPCになっているのかどうかという点では課題があります。

 また、カフェなどの公共の場所で、FMVを使っている人は非常に少ない。「FMV Note C」は、こうした状況を変えたいという狙いから投入したPCですから、現実的にはそこまでにはいたっていない現状をみると、狙っただけのインパクトが出せていないということになります。成果は道半ばです。

 しかし、FMVのモノづくりを変えるという点では、効果が生まれています。紙のマニュアルを廃止したこともその1つですが、プリインストールソフトウェアをなくしたり、継続的に採用してきたFラインと呼ばれるデザインとは異なるデザインを採用したり、筐体にアルミを採用するといったことにも挑戦しました。

 今までやれていなかったことや、やるべきだったができていなかったことに、「FMV Note C」で取り組むことができたわけです。FMVのブランドリニューアルにあわせて投入した製品であり、社外に対しては、新たなFMVの目指す方向性を、具体的な製品として見ていただくことができましたし、社内では「こういうこともできるのか」「こんなことをしてもいいんだ」といったように意識が変わるきっかけにもなっています。これらは、明確なプラス要素だと思っています。

――「FMV Note C」は、若手社員で構成するFMV From Zero Projectによって、企画、設計、開発を進めました。また、若手3人のブランドマネージャーに任命したこともこれまでにない取り組みでした。

大隈 若手に任せてみるというのも新たな挑戦であり、こうした開発手法も、製品によっては活用できるという手応えを得ています。うまく行なったところも、苦労したところもありましたが、ブランドを体現する人が、意思決定をリードしていく手法であったり、フラットな関係の中で、お互いの意見を聞きながら、新たな要素を取り入れてみたりといったように、FCCLの新たなカルチャーをベースに製品化できたと考えています。

――「FMV Note C」では、学生向けという訴求を前面に打ち出しましたが、学生の反応はどうですか。

大隈 実際、「FMV Note C」は、学生たちの声を聞き、こんなPCが欲しいという要望をもとに開発したものであり、ファンレスにしてほしい、不要なアプリを搭載しないでほしいといった要望にも応えています。発売したのが、学生の新生活のスタート時期であり、多くの学生に購入をしていただきました。これはかなり成功したと思っています。ターゲット市場に対して、成果を上げることができ、学生から支持を得た製品になったといえます。

 しかし、あまりにも学生向けという訴求をしたため、新生活シーズンの学生の需要期が終わると、勢いを維持することができなかったことが反省点です。「FMV Note C」は、ビジネスマンを含む若い人たちに最適なPCといえるのですが、クリエイティブの作り方や、訴求対象をかなり絞り込んでしまったため、「自分向けのPCではない」と思ってしまう人たちが多かったようです。若い感性を持っていたり、ノイズレスデザインに関心を持っていたりといった人たちにも、訴求対象を広げていく必要があります。

 最初に、学生に特化したアプローチをした点は正しかったのですが、少し特化し過ぎたところが、あとあとに影響してしまいました。購入していただいたお客様や、購入していただけなかったお客様を分析しながら、2025年後半からは、マーケティングの対象を、もう少し広げる形に微調整しました。

 とはいえ、まだ製品ライフサイクルの半分ぐらいです。失敗や反省点はつきものですから、これから修正するところは修正して、もっともっと若年層の方々に、FMVを選んでいただけるようにしていきます。若年層の領域ではまだトップシェアを取れているわけではありませんし、若い世代に使っていただくことが、将来にわたって、FMVを活用していただけることにつながります。

 2026年においても、若年層に対するアプローチは重要な取り組みになります。単発的な取り組みで終わらせるつもりはありません。継続的に投資をしていきます。

法人で強いLIFEBOOK Uシリーズ

――個人向けPC事業ではトップシェアを獲得しましたが、一方で、法人向けPC事業の取り組みはどうなっていますか。

大隈 富士通ブランドのPCは、個人向けPC事業はFCCLが担当していますが、法人向けPC事業に関しては、富士通が販売を行ない、FCCLが開発、生産したPCを提供しています。

 法人向けPC事業は、FCCLにとって重要な事業です。ざっくりと、7割弱が法人向けPC事業であり、この事業がなくては、FCCLは成り立ちません。今でも法人向けPCでは、差別化できるPCを投入していると自負していますし、法人向けPCであるLIFEBOOK U9系は、競合してもほとんど負けない強い製品です。モバイルノートでありながらも、有線LANポートを搭載するなど、さまざまなインターフェイスを持っている点も、日本の法人ユーザーが求めるニーズに合致し、高い評価を得る理由の1つとなっています。

日本のニーズに合致したモバイルノートとして高い評価を得ているFMV Note U

 また、これらの軽量ノートPCは、個人向けPCと同じ技術基盤を活用し、同じ生産拠点で作っており、それによる技術面、コスト面などでのシナジー効果も生まれています。個人向けPCだけのビジネスでは、コストが合いませんが、法人向けPC事業があるからこそ、個人向けPCの競争力を高めることができます。

 富士通にとっても、法人向けPCは収益を確保できるビジネスとなっていますし、富士通の事業モデルである「Uvance」を推進する上でもPCの存在は重要です。法人向けPCの国内シェアも高めていきたいですね。

FMVはPCだけでなく周辺機器の展開も視野に

――2025年度の国内PC市場は過去最高の出荷台数が見込まれていますが、2026年度は、その反動もあり、マイナス成長となる見込みです。そうした市場環境の中で、FCCLはどんなビジネスを展開していきますか。

大隈 FCCLが主体的に行なっている個人向けPC事業を捉えると、いきなり潮目が変わって、一気に反動減に陥る状況にはならないと見てます。

 実際、古いOSのままという個人向けPCは、まだ数百万台規模で残っていますし、さらに、AI PCという新たなデマンドが生まれています。過去最高という水準は維持できないことは明らかですが、堅調な需要はもうしばらく続くと見ています。

 むしろ、個人向けPCのトップシェアメーカーとして、FCCLが、PC需要を下支えしていくリーダーとしての役割を果たさなくてはならないと考えています。

 そのときのキーになるのは、やはりAIだといえます。PCを通じて、AIをどう使うか、どんな役に立てるのかといったことを、もっと分かりやすく示す必要があります。AIボットやAIエージェント、あるいはスクリプトなどといっても、多くの方々がなにを言っているのか分からないというのが現状だと思います。

 AIによる恩恵をもっと分かりやすく伝える必要がありますし、AIという言葉は使っていなくても、AIを気軽に体験できたり、知らないうちにAIが生活に役立っていたりといった状況を作らなくてはなりません。

 PCは、普及率が高い製品であり、買い替え需要が、国内PC市場を支えることになります。「このままで使っていてもいいかな」とか、「買い替えはもっと先でもいいや」というユーザーが増えると、PC市場全体が停滞します。PCを買い替える価値を提案し、買い替えのメリットを訴求することが大切であり、そこにもマーケットリーダーとして果たすべき役割があります。AI PCは、新たな価値を提案するには最適な製品だといえます。

 また、AI PCを中心としたハードウェアに注力する一方で、ハードウェアに閉じないビジネス展開にも力を入れたいと思っています。この先、PC本体の販売台数が必ずしも増えないということであれば、「PC一本足打法」ではないビジネスの形態を作る必要があります。サブスクリプションを活用した新たなビジネスモデルや、ソフトウェアや周辺機器によるビジネス拡大も視野に入れます。いずれもFMVのブランド価値を高めるビジネスにつなげることができますから、中長期的な視点で、新たな柱として確立します。

――周辺機器のカテゴリでもラインナップが増えることになるのですか。

大隈 今はモニターやキーボード、マウスなどを用意していますが、FMVのブランド価値を訴求していくためには、PC本体だけの「点」よりも、広い製品ラインナップによる「面」で展開していくことが大切ですから、周辺機器についても、「面」展開を意識した形で、新たな領域に踏み出すことを考えていきます。

 具体的に、なにをいつまでに出すということは、現時点では明確にはできませんが、周辺機器を拡充していく方針は間違いありません。ラインナップは、徐々に増やしていくという方向で考えています。

島根富士通の工場がレノボの生産拠点に組み込まれる

――FCCLは、国内で最大規模のPC生産拠点である島根県出雲市の島根富士通において、国内生産を続けています。これが強みにもなっていますね。

大隈 島根富士通は、2025年2月に累計生産台数が5,000万台に到達し、トップシェアを支える重要な生産拠点となっています。信頼性やカスタマイズ対応の柔軟性、MADE IN JAPANならではの品質を実現しており、神奈川県川崎での企画、設計、開発と、島根富士通による生産が密に連携することで、日本市場に適した製品と、高い品質を追求することができています。島根富士通は、国内最大のPC生産拠点というだけでなく、日本のモノづくりの誇りを象徴する場所だと自負しています。

島根富士通の累計生産5,000万台を記念した特別モデル

 2026年5月に向けて、島根富士通のITインフラの刷新を進めています。これまでは、富士通グループのITインフラを活用してきたのですが、これをレノボグループのITインフラへと移行する全社プロジェクトを推進する中で、島根富士通も同様に移行を進めることになります。

 これは、島根富士通にとって大きな変革となります。これまでは、ある意味レノボグループと富士通のジョイントベンチャーにおける生産拠点だったものが、生産システムや製造プロトコルという意味では、レノボグループの生産拠点に組み込まれるといえます。つまり、言い換えると、理論上、レノボグループの製品であれば、いつでも生産ができる状況になります。

 ただ、具体的にレノボの製品を作ることは、現時点ではありません。しかし、これまでにはできなかったレノボグループの世界中の生産拠点と島根富士通が、お互いが持つ生産能力を活用しあったり、BCP(事業継続計画)の観点から利用できたりといった環境が整うことになります。

 レノボグループが持つ世界最大のPCサプライチェーンネットワークの中に、島根富士通が位置づけられ、そこでMADE IN JAPANの強みが発揮できることは、大きなメリットを生むことになります。島根富士通の新たなシステムのカットオーバーに向けて、いまはテストなどを実施しており、しっかりと移行を推進していきます。

新世代のFCCLで取り組む

――2026年のFCCLは、どんな点に力を注ぎますか。

大隈 重要なのは、マーケットリーダーとして、新たな価値を提案し、PC市場の勢いを維持するということです。その中で、高いシェアを確保し続けることにも力を注ぎます。

 また、新たな世代のリーダーシップチームの構築を進め、次のFCCLを再定義していくことにも取り組んでいきます。2025年10月からは、富士通出身の栗田克彦氏に、執行役員常務/COOとして経営に参加してもらいました。新しい風を吹き込んでもらいながら、新しい世代のFCCLはなにか、ということを考えるフェーズに入ってきたと考えています。

 2026年も、FCCLは進化させていきます。新たな製品の投入もあります。ぜひ、楽しみにしていてください。

FCCLの経営体制