山口真弘の電子辞書最前線

スマートフォンやタブレットとの連携機能を搭載した電子辞書、カシオ「XD-Y6500」

カシオ「XD-Y6500」。カラーはシャンパンゴールドのほか、ブラック、ホワイト、レッドをラインナップする

 カシオ「XD-Y6500」は、140コンテンツを搭載した生活・教養モデルの電子辞書だ。スマートフォンやタブレットとの連携機能を搭載し、単語の検索履歴や学習の進捗状況などを、スマートフォンやタブレット上で確認できることが特徴だ。

 スマートフォンやタブレットとの連携といっても、Wi-FiやBluetoothなどを用いるわけではなく、もちろんケーブルで接続するわけでもない。本製品では、単語の検索履歴や学習の進捗状況をQRコードに変換して電子辞書の画面に表示し、それをスマートフォンアプリ側で読み取るという、ユニークな連携方法を採用している。

 今回は従来機種の「XD-K6700」と比較しつつ、スマートフォンやタブレットとの連携により、一体どのようなメリットが生まれるのかを見ていこう。なおメーカーから借用したサンプル機材での評価となるため、市販品とは若干相違がある可能性があることを、あらかじめご了承いただきたい。

上蓋を閉じたところ。丸みを帯びたボディは従来モデルと同様のデザイン
手に持ったところ。従来モデルとサイズは同じ
前面。ラッチもなくすっきりとしている
左側面。イヤフォンジャック、Micro USBコネクタを装備。従来までのモデルにあった音声出力切替スイッチが省かれている
右側面。microSDスロット、ストラップホール、タッチペン収納スロットを装備。従来モデルではmicroSDスロットは2基並んでいたが、本製品では1基に改められている
背面。特に端子類はない
ヒンジ部に単3電池×2を収納。エネループおよびエボルタ充電池も利用できる。USB給電にも対応しており、電池を外した状態でも使用可能
タッチペンは本体右側に収納できる。素材はプラスチックに変更され、やや太く握りやすくなった

キー周りが大きく刷新。ホームボタンの追加、キー配置の見直しも

 本製品はハードウェアについても従来モデルから大きく刷新されている。まずは外観と基本スペックから見ていこう。

 上蓋を閉じた状態での外観は、従来モデルとそうは変わらない。しかし蓋を開くとあらゆる箇所に手が加えられていることがわかる。従来はキートップが平坦な、昨今のノートPCでもおなじみのアイソレーションキーだったが、今回のモデルではキートップがわずかに凹みのあるキーが採用されている。同社が「バーティカルストローク機構」と呼ぶこのキーは、指へのフィット感も高く、非常に押しやすいことが特徴だ。

 上段のファンクションキーは、従来は横に細長い形状で、割り当て内容を示すテキストラベルがキーの上部に書かれていたが、本製品ではキーが大型化され、テキストラベルはキートップに直接印字されるようになった。キーが押しやすくなったのはもちろん、ラベルも格段に見やすくなった。従来モデルと比べると、なぜ今までこうではなかったのかと不思議に思うほどだ。

 ファンクションキーの右端には、新たに「ホーム」ボタンが追加された。この「ホーム」画面については後述するが、従来までファンクションキーの左端にあった「かんたんサーチ/複数辞書検索」はこの「ホーム」に統合される形で消滅し、ファンクションキーは広辞苑や英和和英など、特定ジャンルのコンテンツを直接呼び出すキーだけが並ぶように改められている。これも大きな変化と言っていいだろう。

キーボード部を従来モデルと比較したところ。キー形状の変化、上部ファンクションキーの大型化、右上「ホーム」ボタンの追加、下段「戻る」ボタンの位置変更など、変更箇所は多岐にわたる
キーの起伏を右下方向から見たところ。独特の隆起は指先になじみやすい
左横方向から見たところ。キートップが平坦ではないことが分かる
従来はキーの上部に書かれていたファンクションキーのラベルは、キートップに直接印字されるようになった。また右端にはホームボタンが追加されたのも特徴
上段ファンクションキーはコンテンツを直接呼び出すためのキーだけが並ぶようになり、その結果として従来は左端にあった「かんたんサーチ/複数辞書検索」のキーがなくなっている

 キーボードの手前にあるキー群についても配置が見直され、中央の「訳/決定」ボタンの隣に、新たに「戻る」ボタンが追加された。もともと「戻る」ボタンはその隣、2列×3段に渡って配置された6つのボタンの内の1つだったのだが、プライオリティが一段階上がったことになる。「戻る」の利用頻度の高さを考えると、この配置のほうが妥当だと感じる。

 5型という表示領域や画面右端のパレット、右側面に収納されるタッチペンなどの仕様は従来とほぼ同様だが、2基あったmicroSDスロットは1基に戻された。microSDスロットが2基あれば、複数の追加コンテンツが同時利用できるメリットはあるが、使わないユーザにとっては全く縁がなく、コスト増を招いていたと考えられるため、妥当な判断だろう。ちなみに100MBという内蔵メモリの容量は従来と同様だ。

 重量は約265g、単3電池×2で駆動、電池寿命が約180時間というスペックも、従来モデルと同水準。競合となるシャープ製品が重量約300g、バッテリー駆動で約70時間の電池寿命であることを考えると、カシオ製品の強みと言って良い部分だ。このほか、カシオ製品の伝統だった、スピーカーとイヤホンの切替ボタンがついに廃止されたのも、特筆すべき変化と言っていいだろう。

従来モデルXD-K6700(右)との比較。本体サイズと配色は同一だが、細かい部分ではかなり変化している
従来モデルで2基あったmicroSDスロット(下)は1基(上)へと減らされた
カシオ製品の特徴の1つだった、スピーカーとイヤホンの切替ボタン(下)が本モデルでは廃止されている
競合製品に当たるシャープ「PW-SB3」(右)との比較。同じクラムシェル型の電子辞書だが、本製品のほうが軽量かつ電池が長寿命。一方、シャープ製品は画面が360度回転してタブレットスタイルでも使える特徴がある
同じくPW-SB3(右)との比較。奥行きは本製品のほうがわずかに長い

ホーム画面が追加され、検索性、機能の呼び出しやすさがともに向上

 続いてメニューとコンテンツについて見ていこう。

 画面横にクイックパレットが並んだレイアウトは従来通りだが、メニューの構成などは大きく変化している。最大の変化は、先にも述べたようにホーム画面が新たに追加され、ここから複数のコンテンツの串刺し検索が行なえるようになったことだ。

 同様の複数コンテンツの同時検索画面はシャープの電子辞書にもあるのだが、しばらく使っているとコンテンツ単体で検索するのではなく、この画面ばかりを使うようになるほど便利な機能だ。カシオ製品にもこれまで「かんたんサーチ/複数辞書検索」といった機能があり、ファンクションキーですぐ呼び出せたが、本製品ではそれらがホーム画面に統合された。

 この「ホーム」からは、個別の辞書コンテンツにアクセスできる「メニュー」のほか、設定画面などへもアクセスできるので、とにかく何かあればホームボタンを押せば良いという意味で、非常に分かりやすくなった印象だ。タッチ式のカラー電子辞書に合った新しいデザインが取り入れられており、ショートカットキーも配置できるなどカスタマイズ性も高い。従来製品からの買い換え組はもちろん、新規ユーザにも分かりやすいだろう。

新しく追加されたホーム画面。画面上部からは一括検索が行なえるほか、メニューや設定画面の呼び出しも行なえる。下段は任意のショートカットを配置できる
従来のカシオ製品は、「メニュー」を押すと表示されるコンテンツの一覧画面が最上位の階層だった
こちらはシャープ「PW-SB3」の画面。コンテンツの1つ上の階層に一覧画面があるという構造は、今回のカシオ製品に酷似している
「English Training Gym」では、英語のボキャブラリー、リスニング、スピーキングといったカテゴリごとの学習状況が表示される
例えば「リスニング」をタップすると、「NHKラジオ」や「リトル・チャロ」など、リスニングに関連する搭載コンテンツの進捗状況をグラフで確認できる
「便利な検索」には、電子図鑑の図から検索、ブリタニカの地図から検索など、さまざまな検索方法がまとめられている
一括検索の画面では手書きのインターフェイスも利用できる
こちらは従来モデルにおける「かんたんサーチ」の画面。本製品のホーム画面における検索ウィンドウと比べると、ずいぶんと見た目が変化していることが分かる
このように従来モデルでは「ホーム」にあたる画面がなく、「かんたんサーチ」や「複数辞書検索」へのアクセスはタブの1つとして用意されていた
「メニュー」以下は従来と同様。生活・教養系の140コンテンツを搭載する。トータルの数では変更はないが、日本大百科全書(ニッポニカ)などが増えているほか、世界文学1,000作品がなくなり、代わりに日本文学1,000作品が2,000作品に増えている

検索履歴や学習の進捗をスマートフォンで見られる「クラブエクスワード」機能

 さて、今回の製品から搭載された新機能「クラブエクスワード」について見ていこう。

 これはスマートフォンやタブレットと連携ができる機能で、電子辞書から出力したQRコードを専用のスマートフォンアプリ「クラブエクスワード」で読み込むことで、単語の検索履歴や学習の進捗状況をクラウド経由で他のユーザーと共有したり、検索した単語に関連する学習動画をオンラインで見られるというものだ。電子辞書での学習後に検索履歴をスマートフォンに転送し、帰宅中や帰宅後に暗記に役立てたり、他の人の検索履歴を見て関連語を覚えるなどの用途が想定されているようだ。

 具体的な操作手順としては、電子辞書のホームボタンを押して表示されるホーム画面で「機能」をタップし、「クラブエクスワード」のアイコンをタップ。QRコードが表示されるので、スマートフォン側で起動した専用アプリでそれを読み込む流れになる。学習を進めるたびにQRコードの内容は変化するので、最新の進捗情報をスマートフォンアプリに反映させるためには、その都度QRコードを生成して読み込ませる必要がある。

 アプリ側の画面では、単語の一覧が表示されており、タップするとその単語を検索しているユーザが他にどんな単語を検索しているのかがすぐに分かる。このほか単語によっては、単語の成り立ちなどを解説した学習動画にリンクされている場合もあり、その単語についてより知識を深められる仕掛けになっている。1日1回変化する日替わり動画も用意されるなど、動的な仕掛けも面白い。

利用にあたってはスマートフォンに専用アプリ「クラブエクスワード」をインストールし、ユーザ情報を登録しておく。今回はAndroid版を試用(iOS版は4月以降公開予定)
「クラブエクスワード」のトップ画面。「QRコード」をタップすると読取画面が表示される
電子辞書本体のホーム画面で、検索ウィンドウの直下に並ぶアイコンの中から「機能」をタップ
「クラブエクスワード」をタップ
QRコードが表示された。これを専用のスマートフォンアプリで読み取る
読み取りを行なうと、学習情報がスマートフォンに転送される
スマートフォンアプリで「学習&チェック」を選ぶ。「ヒストリー」と「検索ランキング」の内容は電子辞書との連携で動的に変化する
これは「ヒストリー」をタップしたところ。これまで電子辞書で検索した単語が表示される
こちらは「検索ランキング」。職業選択のオプションで指定した職業もしくは学年において、よく検索される単語が表示される。検索期間(月間/週間)なども指定できる
リストの単語をタップすると、その単語を調べた人がほかにどのような単語を調べているかが表示される。ちなみに、単語そのものの意味はこのスマートフォンアプリでは検索できない
動画アイコンが付いている単語をタップすると解説動画が表示され、意味をより深く理解できる。これはジーニアス英和辞典に紐付けられているもの
このほか、スマートフォンアプリと紐付けられた電子辞書の取扱説明書PDFを参照することも可能。ただしスマートフォンサイズに特化されているわけではないので、実用的なのはタブレット以上のサイズに限定される

 これらの機能が、現時点で同社の目指すゴールの何合目まで到達しているかは定かではないが、実際に使った限り、現状の機能だけでは、使うモチベーションが湧きにくいというのが率直な感想だ。というのも、本アプリ単体では単語の意味を調べたり、ウェブ上のコンテンツを検索することができず、関連のある語句や動画を観ることしかできないからだ。あくまで電子辞書が本体である以上、本アプリ単体で検索できないのは致し方ないとしても、もう一工夫欲しいところだ。

 関連語や学習動画へのリンクは、意欲的に学習する場合は重宝するが、最新の学習履歴を使うためには、毎回QRコードを読み込まなくてはいけない煩雑さがここに加わると、次第に使わなくなってしまうことが懸念される。学習動画も、あくまでジーニアス英和辞典に紐付いた900単語にとどまっており(3月15日時点での値)、今後ある程度は増えても、全単語をカバーすることは望めないだろう。動画データということで、外出時にモバイル回線で再生すると、相応の転送量が発生しかねない懸念もある。

 もっとも、検索履歴をほかの電子辞書のユーザーと共有できるのは、ビックデータを活用するという観点からは確かに面白い。今後データが蓄積されることで新しい使い方が生まれ、QRコードを毎回生成して転送する手間を上回るだけのメリットが出てくれば、将来的に化ける可能性はある。ただ、現時点ではまだその域には達しておらず、電子書籍に内蔵されていない動画コンテンツを観るための仕組みと理解しておいた方が良さそうだ。とくに学生向けのモデルはまだしも、今回取り上げている生活教養モデルではあまり出番はないと感じる。

「クラブエクスワード」のQRコードの表示には通常では3ステップが必要になるが、クラブエクスワードのアイコンを表示した状態で「シフト」+「登録」キーを押して、ホーム画面にショートカットを作成しておけば、2ステップで呼び出せるようになる。本機能を多用する人はあらかじめ準備しておくと良いだろう

「クラブエクスワード」抜きでも高い完成度

 これまで電子辞書の外部連携機能といえば、PCとUSBケーブルで接続してPC側から検索が行なえる、セイコーインスツル社の「PASORAMA」があったが、時代の趨勢から言って、PCではなくスマートフォンやタブレットとの連携が求められるのは必然といって良い。もっとも電子辞書は、「ネットに繋げないのは不便」という声がある一方、スタンドアロンであるが故に支持されている面もあり、ネット接続は諸刃の剣と言える。

 それ故に今回の製品は、電子辞書としての立ち位置に影響を与えない範囲で、スマートフォンやタブレットとの連携にチャレンジしているわけだが、現時点ではまだ「便利だ」、「使ってみよう」と思わせる粋にまで達していない。そんなわけで、現状では「今後に期待」となってしまうのだが、それを差し引いたとしても、ハード面もソフト面も細かい改良が加えられた本製品は、非常に完成度が高いのもまた事実である。

 とくにキー周りの改良は確実に使い勝手の向上に結びついているほか、新たにホーム画面が追加されたことにより、検索性が向上し、かつ目的とする機能も確実に呼び出しやすくなっている。カシオ電子辞書のヘビーユーザーで、ここ何年かは新しいモデルに買い替えていないという人は、検討する価値は十分にあるだろう。

 次に望むとするならば、パネルの高解像度化だろうか。あらゆる部分が進化した中、文字のドット感だけは数年前からほとんど変化しておらず、スマートフォンやタブレットに慣れてしまった昨今からすると、フォントサイズをきめ細かく変更できないのはややストレスだ。ライバルであるシャープの製品は854×480ドットと、二回りは上の解像度で、小さな文字の表示にも強く、フォントも滑らかだ。画面右側のクイックパレットが液晶化されておらず、暗所などでは見づらいことと併せて、今後の進化に期待したいところだ。

主な仕様
製品名XD-Y6500
メーカー希望小売価格オープンプライス
ディスプレイ5型カラー
解像度528×320ドット
電源単3電池×2
使用時間約180時間
拡張機能microSD、USB
本体サイズ(突起部含む)148.0×105.5×15.7mm(幅×奥行き×高さ)
重量約265g(電池含む)
収録コンテンツ数140(コンテンツ一覧はこちら)

(山口 真弘)