Hothotレビュー

大人のゲーマー向け?自動車部品メーカー発の高級ゲーミングキーボード「ZENAIM KEYBOARD」

ZENAIM KEYBOARD

 株式会社東海理化から、ロープロファイルゲーミングキーボード「ZENAIM KEYBOARD」が発売される。価格は4万8,180円だ。

 東海理化という社名はPC界隈では聞きなれないが、それもそのはず、同社は自動車部品メーカーである。そして本機の注目点は、同社が独自開発した無接点磁気検知方式のキースイッチ。同社が長年にわたり手掛けてきたセンサースイッチの技術を活かし、高品質なキーボードを開発したというわけだ。

 本機は同社が手掛けるゲーミングブランド「ZENAIM」の最初の製品となる。開発にはプロeスポーツチームの「ZETA DIVISION」が監修を務めており、キーボードと同時にソフトウェア「ZENAIM SOFTWARE」も開発している。

 今回、発売に先駆けて実機をお借りしたので、ハード・ソフトの両面でチェックしていきたい。

無接点磁気検知方式のロープロファイルテンキーレス

 まずは主なスペックの確認から。

【表1】主なスペック
キースイッチ無接点磁気検知方式
キー数93(日本語JIS配列)
押下圧50g
押下耐久性1億回以上
キーストローク1.9mm
バックライトRGB(1,680万色)
本体サイズ380.8×139.2×24.5mm
インターフェイスUSB 2.0
重量723g
価格4万8,180円

 キースイッチは無接点磁気検知方式を採用。押下耐久性は1億回以上としており、接点を持たない方式ならではの高耐久性を謳う。キー配列はテンキーレスの日本語キー配列に、若干の独自キーが加わった93キーとなる。Nキーロールオーバーにも対応する。

 キーストロークは1.9mm。ロープロファイルキーボードはストロークも浅めのものが多いが、2mmを切るのは特に浅い。ノートPCのキーボードくらいのストロークをイメージするといいだろう。

 これだけ浅いストロークでありながら、アクチュエーションポイントは0.1mm単位で調整できるという。詳細は後述するが、スイッチの精度の高さに相当な自信をもっているのが伺える。

 押下圧は50gで、キーの押し込みと戻りの荷重がほぼ同じになるよう設計しているという。戻りの荷重については他社の製品を含めて意識したことがないのだが、そこまでこだわって作っているというアピールなのだろう。

 本体サイズはテンキーレスキーボードとしては標準的。高さも一般的なキーボードに比べればやや低めだが、ベース部分の高さがそれなりにあり、薄さを強調したような製品ではない。重量も軽くはなく、安定感も意識しているのが分かる。

 気になるのは4万8,180円という価格だ。ゲーミング向けのキーボードは、各社の高級モデルで2~3万円程度のものが多く、ワイヤレス接続対応でも4万円を超えるものは稀だ。ゲーミングデバイスに初参入でこれほど高価となると、ユーザー側も余程の理由がないと購入に踏み切るのは難しいように思う。そこも加味して実機を見ていきたい。

1.9mmの浅いストロークでもキータッチは抜群

 実機の外見はとてもシンプルだ。ベースはアルミ合金を使用し、1枚の板の上下を曲げたような形状で、ほかにロゴなどのデザインはない。キートップの文字もかな刻印なしで、全角/半角キーも「E/J」表記を使うなど、徹底して日本語表記を避けている。

 ゲーミング向けの製品は、大抵ブランドロゴをどこかに描いたり光らせたりするが、本機はそれらと異なる機能美を目指しているのだと分かる。

1枚のアルミ板を曲げて作ったようなベースのデザイン。シンプルだが高級感がある

 キー配列はテンキーレスの日本語キーなのだが、最上段のファンクションキーは2段目との隙間がなく、コンパクトキーボードのように詰まった配置になっている。F12キーの右側には特殊キーを2つ配置。おおむねオーソドックスなキー配列ながら、通常右側のAltキーがある場所はファンクションキーのような役割の独自キーになっている。

最上段が詰まったようなキー配列

 主要なキーのキーピッチは実測で19mmとフルキーボード相当。キータッチは底打ちまで荷重の変化がないリニアタッチになっている。

 打鍵してみると、1.9mmというストロークの浅さを強く実感する。サイズ的にはフルキーボードと変わらないのに、感触はノートPCのキーボードを叩いているようで、イメージとのズレに少々混乱する。キー荷重は50gとのことだが、ストロークの浅さもあってか、もう少し軽いように感じられる。

 キーがぶれずにまっすぐストロークする感触はとてもいい。長めのキーを端押ししてもストロークに不都合はない。このあたりは高級キーボードなら当たり前のことではあるが、本機はストロークの浅さも相まって、底打ちした時のぶれが特に小さく感じる。文字入力もとても快適だ。

 ただ気になる点が2つある。1つは打鍵音の大きさ。控え目に打鍵してもカチャカチャという高めの接触音がする。さらに本機はストロークが浅いだけに底打ちが強くなりやすく、余計に大きな音を立ててしまう。ゲーム用と割り切ればヘッドフォンをしてしまうと関係ないとも言えるが、打鍵感が良好なだけに、高級キーボードなら静音対策にも配慮が欲しい。

 もう1つはキートップのコーティング。かなりマットな手触りで、滑り止めを施したかのような感触だ。マウスならこういったコーティングの製品を見かけることはあるが、キーボードではあまり見かけない。筆者は打鍵時に指先がざらつくことにやや違和感を覚えるが、滑り止め効果で正確な入力ができるとも感じるので、どちらかといえばポジティブな印象だ。ただ人によって好みは分かれるだろう。

キートップのコーティングは滑り止めの効いたような独特な感触

 本機の説明を見ると、耐久性については車載品と同等の基準をクリアするよう開発しているという。また、耐衝撃性だけでなく、耐摩耗性や耐薬品性も謳っている。キーのコーティングに関しても、耐久性は高いのだろうと思うが、ホームポジションのコーティングが剥がれてしまわないかと不安になるような手触りではある。

 裏面の脚部(チルトレッグ)は、未使用時の0度のほか、4度と8度の3段階に調整可能。脚部を未使用でもフラットにならないキーボードは多いので、傾斜がない方が好みという人には適している。

脚部は2段階に調整が可能。使わなければほぼフラットになる

 バックライトは搭載されており、キートップの上部に書かれた文字部分が透過して光る。光り方は専用ソフトウェア「ZENAIM SOFTWARE」でカスタマイズが可能だ。詳しくは後述する。

キートップ上部に描かれた文字部分が透過して光る

 接続はUSB 2.0で、約1.8mのケーブルが付属。本機側がType-C、PC側がType-Aとなっている。ケーブルはゲーミングマウスなどでよく見る編組のもので、太めながら柔軟性があり、取り回しがいい。ただしUSB Type-C端子は本機右奥部分にあり、ケーブルを挿すとコネクタが2cmほど飛び出す形になる。ほかの方向からはケーブルを出せないので、設置の際には注意が必要だ。

ケーブルは太いが柔軟。編組で耐久性も高そう
本体のUSB Type-Cコネクタにケーブルを挿すと、2cmほど飛び出す

アクチュエーションポイントを0.1mm単位で調整。ゲームごとの切り替えも

 次は専用ソフトウェア「ZENAIM SOFTWARE」について見ていきたい。こちらもハードウェアと同様にシンプルなデザインを採用している。見た目はスタイリッシュさも感じるが、シンプル過ぎて使い方のガイドが足りず、慣れるまでは戸惑う部分も多い。

「ZENAIM SOFTWARE」。見た目はかっこいいのだが使い方の説明が足りない

 ソフトウェアの機能で最も注目したいのが、アクチュエーションポイントの調整だ。本機のキーはストロークが1.9mmで、通常のアクチュエーションポイント(キー入力認識の深さ)は1.5mmに設定されている。また、リセットポイント(キー入力解除の深さ)はアクチュエーションポイントに対して-0.2mmに設定されており、この場合だと1.5-0.2=1.3mmまでキーが戻ると入力が解除されることになる。

 このアクチュエーションポイントを、0.3mmから1.8mmの間で0.1mm間隔で調整できる。リセットポイントも、0.2mmから1.7mmの間で同じく0.1mmごとに調整可能だ。しかも入力されたキーのストロークがどの位置にあるのかをグラフィカルに表示してくれるので、実際にどのくらいの深さで認識しているのかも体感として把握できる。

アクチュエーションポイントを0.1mm単位で調整可能。リセットポイントの設定もできるのがユニーク

 さらにこの設定は全キー一律のほか、キー1つごとに個別設定も可能。例えばW/A/S/Dキーだけはアクチュエーションポイントを浅くする、といった使い方が可能だ。

特定のキーに絞ったアクチュエーションポイントの調整も可能

 ちなみに全キーのアクチュエーションポイントを最も浅い0.3mmに設定した場合、キーをほんの僅かでも押すと入力を受け付けるのが分かる。それでもキー荷重が50gとそれなりにあるので、ホームポジションに置いた指の重さで入力されるようなことはない。文字入力においても誤入力はなく、むしろ軽いタッチで認識してくれるので入力が楽に感じられる。個人的に浅めが好みだというのもあるが、筆者としては常時0.3mmでいいと感じる。

 またこのアクチュエーションポイントの設定では、プロのeスポーツプレイヤーの設定を呼び出すこともできる。本ソフトに登録されているプロの設定を読み込むことで、同じ設定を使えるというわけだ。そのまま使わずとも、実際にどんな設定で使っているのかを参考にするのにもよさそうだ。

プロのeスポーツプレイヤーの設定を読み込める

 キーボードバックライトは、色や明るさを自由に設定できる。光り方は単色の常時発光のほか、波やワープといったエフェクトも用意されている。また「自由設定」の項目では、キーごとに異なる色の指定も可能だ。

キーボードバックライトはキーごとの色指定も可能

 ほかにはファンクションキーに任意のキーを割り当てたり、特定のキーを無効化したりできる。キーの無効化については、あらかじめ本ソフトで無効化したいキーを設定した後、キーボード右上にあるキー無効化ボタンを押すことで、無効化のオン/オフを切り替えられる。

ファンクションキーに任意のキーを割り当てられる
特定のキーを無効化できる

 以上のような各種設定は、オンボードメモリに3つまで記憶でき、キーボードの右最上段の3つのキーで切り替えが可能。さらにゲームごとのプロファイルも設定でき、ゲームの起動時に自動でキーボードの設定を変える設定も可能だ。

オンボードメモリでは3つのプロファイルを使い分けられる
ゲームの起動に合わせてプロファイルを自動切り替えする機能も

 これ以外にも、キー入力を記憶・再生するマクロ機能や、画面を録画するキルクリップ機能も搭載している。キルクリップ機能は、キーボード右上段にあるクリップのキーを押すと、画面の録画を開始するというもの。録画する長さやビットレート、解像度、フレームレートの設定も可能だ。

マクロ機能も搭載
簡単に録画できるキルクリップ機能

 キルクリップ機能は1つのキー操作だけで録画できるのは便利なのだが、WindowsならOSやビデオカードの機能でも録画は可能だし、キー無効化が必要ない人もいるだろう。これらの機能には専用のキーが用意されているが、ユーザーが不要な場合に、これらのキーに別の機能を持たせて有効活用する方法があればよかったと思う。

 ゲーミングキーボードによくある機能は一通り押さえられていると感じる。デザイン優先で使い勝手が洗練されていないような部分もあるが、アクチュエーションポイントの調整の自由度は高いし、オンボードメモリやゲームごとのプロファイル設定など融通が利く機能もある。これが同社初のゲーミング製品であることを思えば、かなりがんばっている方だと思う。

初物なりの荒さも残るが、開発者のこだわりが随所に見える

 ハードウェア・ソフトウェアの両面を一通り眺めてみて、開発者が「こういう製品が欲しかった」というメッセージを強く感じた。

 まず特徴的なのが、シンプルさに注力したデザインだ。ゲーミング向けの製品は、比較的若い人がターゲットになることもあって、デザインは派手になりがち。本機はそういう派手さを一切取り入れず、仕事で使っても恥ずかしくないような、シンプルでも高級感のあるデザインがなされている。

 ハードウェアの設計も素晴らしい。ロープロファイルの中でも特に浅いストロークは好みが分かれるとは思うが、唯一無二の魅力になるのは確かだ。その上、無接点磁気検知方式による高耐久キースイッチと、自在に調整できるアクチュエーションポイントで、ゲーミングキーボードとしての性能は間違いなくトップクラスにある。プロのeスポーツプレイヤーでも十分に納得のいく仕上がりだと思う。

無接点磁気検知方式を採用し、ロープロファイルでショートストロークというこだわりの仕様
キートップは上に引くと外せる。独自開発のスイッチ部分が見える

 また普段使いのキーボードとしてもとても優れていると感じる。筆者は普段、荷重30gの軽荷重キーボードを使っていて、それ以外のキーボードを使うと肩が凝って辛いと感じるのだが、本機はそれほど辛さを感じない。これまで触ったキーボードの中でも、軽荷重ファンとして実用に耐えうると感じる数少ない製品の1つになった。

 各所に今までにない要素が盛り込まれていることから、開発者には世にあるキーボードに納得のいかない部分があり、理想を具現化したのが本機なのだろうと感じられるのだ。そうでなければこんな尖った方向性の製品が設計される理由がない。

 それらを総合すると、超強気な価格設定も納得がいく。オモチャっぽさが出る派手なデバイスはできれば避けたい。かといって一般向けの製品では性能が物足りない。最高級の性能と、落ち着いたデザインの両方にお金を払える人のための製品だ。若いゲーマーというより、長年ゲームをたしなんできた“大人な”ゲーマーがターゲットと言えるかもしれない。

 一方で、細部で惜しいところが散見されるのも事実。大きな打鍵音やUSB Type-Cコネクタの出っ張り、ソフトウェアの使い勝手など、初参入ならではの詰めの甘さはある。それでも、キーボードの性能としては十分に満足はいくので、今後の製品ではさらにブラッシュアップして、国産ゲーミングブランドとして成長していくことを期待したい。