大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

過去最低を記録した2023年度のPC出荷。打開策は果たして

国内PC出荷実績の推移

 国内PC市場が、過去最低の出荷台数にまで落ち込んだ。

 一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が発表した国内PC出荷実績によると、2023年度(2023年4月~2024年3月)の出荷台数は前年比3.2%減の668万2,000台となり、現在の調査方法となった2007年度以降、過去最低の出荷実績となった。

 だが、業界関係者の間では、「トンネルの出口」を目の前にしたような期待感の方が大きい。その理由は、今後数年間に渡り、国内PC需要が一気に拡大する要素が目白押しとなっているからだ。特に、2024年度からスタートするGIGAスクール構想第2期では、今後3年間に1,000万台規模の更新需要が創出されることになり、国内PC市場活性化の起爆剤になることは間違いない。

 各種調査資料をもとに、PC市場の今とこれからを見てみる。

2023年のPC出荷実績は「過去最低」

 JEITAが発表した2023年度の国内PC出荷実績は、「過去最低」という結果に終わった。

 JEITAの出荷統計は、PCメーカーによる自主統計となっており、Apple Japan、NECパーソナルコンピュータ、セイコーエプソン、Dynabook、パナソニック コネクト、富士通クライアントコンピューティング、ユニットコム、レノボ・ジャパンの8社が参加。市場全体の約7割をカバーしている。

JEITAが発表したPC出荷実績

 現在の集計方法に変更したのは2007年度からであり、それを起点にすると、2023年度は、過去最低の実績となった。

 その理由は、2020年度の特需の反動だ。

 振り返ってみると、2020年度は、PC市場において、複数の追い風が重なった。

 2020年2月以降のコロナ禍におけるテレワーク需要、そして、2020年度から前倒しで導入が本格化したGIGAスクール構想よって小中学校への1人1台環境の整備が始まり、これらがPC需要の拡大につながったのだ。

 さらに、その前年度にも、2019年10月の消費税10%への増税前の駆け込み需要や、2020年1月のWindows 7の延長サポート終了に伴う買い替え需要といった動きがあり、PC需要は2年連続で特需の中にあったと言える。

 実際、2019年度は前年比28.1%増の947万5,000台を出荷。2020年度はさらに前年比27.5%増となる1,208万3,000台を出荷。市場規模が一気に拡大した。

 だが、その後の反動が大きく、2021年度の出荷台数は、前年比41.7%減の716万3,000台と約6割の規模にまで縮小。さらに、2022年度は3.6%減の690万3,000台と縮小し、2023年度も前年比3.2%減の668万2,000台と縮小。3年連続のマイナス成長となり、過去最低の実績となった。特需の影響は2023年度まで続き、この3年間の出荷台数の合計は、2019年度、2020年度の2年間の出荷台数の合計を下回っているという水準だ。

 暗いトンネルが3年間続いていたともいえる。

2024年度は明るい兆し

 だが、2024年度からは、この状況が一転することになる。

 JEITAでは、自主統計とは別の調査として、「AV&IT 機器世界需要動向 ~2028年までの世界需要展望~」を刊行しており、この中で国内PC市場全体の動向を予測。2024年の国内PC需要は、前年比3.9%増の962万台、2025年には前年比40.4%増の1,351万台と大きく伸長。2026年も1,119万台と1,000万台の水準を維持すると予測している。

 一方、MM総研では、国内PC市場の約7割を占める法人向けPCの需要予測を、先頃発表している。これによると、2024年度は前年比19.4%増の916万台と2桁成長を遂げ、2025年度には前年比65.8%増の1,519万台と一気に需要が拡大すると予測。さらに、2026年度も1,191万台と、高い水準を維持することになる。

 この高い成長を下支えするのが、GIGAスクール構想第2期による更新需要である。

マイクロソフト推奨の生徒用PC

 MM総研の予測によると、GIGAスクール構想による出荷台数は、2024年度に130万台、2025年度には474万台、2026年度に455万台程度と予測。3年間合計で1,060万台の出荷規模になると見ている。

 MM総研の予測で注目しておきたいのは、GIGAスクール構想による端末導入の期間が3年間に分散されているという点だ。

 GIGAスクール構想第1期では、コロナ禍において、導入計画が前倒しされたこともあり、2020年度の単年度に導入が集中。MM総研の調べでは、この1年間で915万台が集中して出荷される結果になったという。PCメーカーや販売店などは、この突然の特需によって、デバイスの調達に奔走することになったのは記憶に新しい。

 だが、第2期ではこの需要が分散され、業界の混乱はやや緩和することができそうだ。

 MM総研でも、「Windows 10の延長サポートが2025年10月に終了する予定であり、2025年度は、企業や政府自治体が利用するPCの大型更新需要が予想される。業界では同年度にGIGA スクール端末の更新需要が一斉に集まるのではないかと懸念されていた」として、特需の成果よりも、業界の混乱によるマイナス面を指摘。それが少しでも回避できることは、業界にとってプラス要因になることを示している。

新世代GIGAスクール端末の導入が分散する理由とは?

 MM総研が、3年間に、導入が分散すると予測した背景には、いくつかの理由がある。

 1つ目は、2020年度から政府によって導入されたGIGAスクール端末は、累計で1,200万台を超えており、そのうち小中学校に導入された950万台については、耐用年数をもとに、2024年度以降、順次更新するという仕組みになっている点だ。1年間で950万台が導入されたものの、配備は自治体によって時間差があり、それが活用開始時期が分散したことが背景にある。

 2つ目には、2024年度以降のGIGAスクール端末の更新は、都道府県単位での共同調達が予定されており、これまでの公立小中学校の運営主体である市町村単位での調達とは異なるという点だ。

 従来方法では、事務手続きや調達仕様策定の煩雑さ、自治体それぞれでの運用負担の軽減などの課題が残ったが、文部科学省では、今回の端末更新においては、更新財源を県単位の基金として複数年で運用し、基金下に市町村のデジタル教育環境整備責任者が参加する協議会の設置を求める仕組みとしている。

 ただ、都道府県単位での共同調達によって、調達単位が拡大するため、自ずと時期を分散して、段階的に更新や整備を行なっていくという仕組みを採用するのは明らかだろう。

 一方で、MM総研では、こうした仕組みを踏まえた上で、都道府県への電話調査などを実施。2025年度中に財政措置が必要となる自治体が44.8%に留まっていることや、文部科学省の端末の更改期限と財政措置年度の見通しから推測。さらに、直近となる2024年度の導入見通しについては、各都道府県の予算書や予算案を参照し、補助率などを勘案しながら、予算で入れ替えが実施可能な台数を推定して、予測に反映したという。

 現時点では、調達協議会の設置率が34%に留まっており、各都道府県に協議会が設置された段階で、「一定の幅で修正が必要となるとも考えられる」とするが、第2期の端末整備では、第1期に比べて、期間が分散することになるのは間違いないといえる。

第2期はChromebookに注目

 GIGAスクール構想第2期では、1,000万台規模の更新需要が生まれることになる。

 そのため、GIGAスクール端末におけるシェア争いは、国内PC市場におけるメーカー勢力図にも大きな影響を及ぼす。

 特に台風の目となるのが、Chromebookである。

さまざまなChromebook

 GIGAスクール構想前までは、国内PC市場において、ほとんど存在感がなかったChromebookだが、GIGAスクール構想では、Windows PC、iOS(iPad)とともに導入対象のひとつに選ばれ、小中学校への導入が一気に進展。文部科学省の発表によると、Windows PCが30.4%、iOSの29%に対して、Chrome OSは40.1%と、トップシェアを獲得した。Windows PCが圧倒的シェアを誇る国内PC市場全体とはまったく異なる市場構成になったのだ。

 想定外の動きは、メーカー勢力図に影響を与えた。

Chromebookをリリースする各社

 GIGAスクール市場におけるWindows PCの領域では、世界規模のスケールを生かして調達力に長けたレノボや、教育分野にフォーカスした事業戦略を打ち出したDynabook、Windowsに絞り込んだビジネスを展開した富士通クライアントコンピューティングなどが上位を占めたが、Chromebookでは、GIGAスクール構想でトップシェアとなったレノボや、海外においてChromebookで高い実績を持つ日本HP、国内市場にいち早くChromebookを投入したNECのほか、日本エイサーやASUS、デル・テクノロジーズなどが躍進したのが目立った。

 先頃、Google Educationが行なったGIGAスクール構想第2期に関するメディア向け説明会では、7社10機種のChromebookが第2期向けに用意されていることを発表。第1期のスタート時には、Chromebookのラインアップは、6社14機種であったのに比べると、メーカー数ではすでに上回っている。

 さらに、これらは、基本パッケージに対応した第2期向けChromebookであり、これ以外に、マウスコンピューターが、応用パッケージで提供を行なうChromebookを発表し、この分野に初参入。文教向けChromebookとしては、8社が揃っていることになる。第2期の導入が本格化するに従い、さらに、製品ラインアップは強化される見込みで、Chromebookの選択肢が広がることは、メーカー勢力図の変化に影響を及ぼすことは間違いない。

 また、注目しておきたいのは、Google EducationがGIGAスクール構想第2期向けに発表した「Google for Education GIGA スクールパッケージ」である。

 同パッケージは、Google Workspace for EducationとGoogle GIGA Licenseに加えて、GIGA スクール サポートパックを用意。ここでは、現状の環境を確認し、更新する「継続導入サポート」のほか、これまでChromebookを使用したことがない学校を対象に、端末貸出や実証をサポートする「トライアルサポート」、Google Workspace for Education 環境の初期設定やアカウントの作成、移行支援を行なう「新規導入サポート」、現状把握から研修計画立案までを支援し、各種ニーズに合わせた研修を提供する「Kickstart サポート」、第1期端末の無償回収や処分を行ない、更新を行ないやすくする「リサイクルサポート」を用意。

GIGA スクール サポートパック

 つまり、Chromebookからの更新だけでなく、Chromebookを導入していなかった学校に対しても、導入のハードルを下げる各種施策を準備。さらなるシェア拡大に向けた体制を整えていることが感じられる点が注目される。

 Google for Education営業統括本部の杉浦剛本部長は、「GIGAスクールパッケージは、シェアを伸ばすよりも、自治体や生徒に満足してもらい、より使いやすく、活用率が高まることを目指して用意したものである」と語り、シェア拡大が目的ではないことをアピールしながらも、「端末の切り替えは重労働であり、現場の負荷を減らすことが大切であると考えた。今後も、運用面での課題や、切り替えにおいて懸念されることを現場から聞き、そのフィードバックをもとに、今回発表したパッケージ提供には留まらない柔軟な対応をしていきたい」と、現場の声をもとにGIGAスクールパッケージやChromebookの浸透を図る姿勢を示す。

Google for Educationのメリット
Google for Educationのクラウド教育用アプリ

法人向けシェアの拡大が課題

 GIGAスクール構想でトップシェアを獲得したChromebookだが、その一方で課題となっているのが、国内PC市場全体でのシェア拡大にはつながっていないという点だ。
先に触れたように、GIGAスクール構想では、40%のシェアを獲得しているChromebookだが、法人向け市場や個人向け市場では、依然として存在感が薄い。

 全国の主要量販店などの販売データを集計しているBCNによると、GIGAスクール構想がスタートする前の2019年度のChromebookの店頭販売(個人向け)市場におけるシェアは、ノートPC分野において1.3%だったが、2020年度は2.4%に拡大。2021年度には6.4%にまで伸ばしてきた。

 だが2022年度になると3.2%に縮小。2023年度の集計でも3.2%となっている。2023年度実績で、Windows PCは82.7%、Macは12.9%だったという数字から見ても、Chromebookは、教育分野のような勢いが見られていないのが実態だ。

OS別のシェア変遷

 Googleでは、「第1期の成果によって、日本におけるChromebookの認知度が高まったのは明らかだが、コンシューマ市場や法人市場において、マーケティング施策として連動したものはなかった。だが、コンシューマ市場などに向けては、よりパワフルに、多くの機能を搭載したChromebook Plusを、2024年2月から、国内市場にも投入。ハイブリッドワークのニーズにも対応し、ハイエンド市場でのシェア拡大にも取り組んでいるところである」とする。

 GIGA端末は、自治体ごとのポリシーにもよるが、自宅に持ち帰って利用することが推奨されており、個人用PCからのアクセスが認められていない場合も多い。結果として、自宅用にChromebookをもう1台購入するという需要は生まれにくい。

 だが、Chromebookに慣れ親しんだ子どもたちが、卒業した際に、自分用のPCとしてChromebookを選択するという流れは十分に考えられる。実際、GIGAスクール構想で高いシェアを獲得し、教育現場からも高い評価を得ている状況を見れば、用途によっては国内PC市場に受け入れられるポテンシャルが証明されているとも言える。

 2025年10月には、Windows 10の延長サポートが終了し、Windows PCでは大きな買い替え需要が見込まれる。これはある意味、Chromebook陣営にとって、シェア拡大のチャンスでもある。誰もがAI PCが欲しいという状況ではないことは明らかで、そこにChromebookならではの提案の余地がありそうだ。

 GIGAスクール構想第2期でのきっかけに、Chromebookの国内PC市場全体にも勢力図の変化が波及するのか。PC市場全体の活性化という点でも、Chromebook陣営の今後の仕掛けには注目しておきたい。