大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

PC出荷台数が50%増で絶好調!2024年は何が起きているのか?

2024年10月の国内PC出荷実績(JEITA調べ)

 一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が発表した2024年10月の国内PC出荷実績が、前年同月比で50%増という大幅に伸びとなった。

 2025年10月のWindows 10の延長サポート終了まで1年というタイミングに入り、PC需要が成長基調に転じているのは、業界内では共通の認識だが、前年同月比1.5倍という、異例ともいえる高い成長ぶりに驚きの声が挙がっているのも事実だ。

 いったい、何が起こっているのか。

台数も単価も好調なPC市場

 JEITAが発表した2024年10月の国内PC出荷実績によると、出荷台数は前年同月比50%増の61万7,000台となった。

 内訳をみると、ノートPCが57.5%増の54万1,000台となり、そのうち、モバイルノートPCが90.1%増の30万1,000台と2倍近くまで大きく伸長。ノート型そのほかも同29.5%増の23万9,000台と、1.3倍に増加している。

 また、デスクトップPCも前年同期比12%増の7万6,000台と前年実績を上回っている。だが、内訳をみると、単体は26.7%増の6万7,000台となったのに対して、オールインワンは同39.5%減の9,000台と、1万台を割り込んだ。オールインワンデスクトップだけが不調という状況だ。

PCの販売台数前年同期比推移

 一方、出荷金額で見ても、需要の好調ぶりが伺える。2024年10月の出荷金額は、前年同月比53.3%増の753億円となり、出荷金額の伸びは、出荷台数の成長を上回った。

 これは見方を変えれば、1台あたりの平均単価が上昇したことになる。

 2024年10月の平均単価は12万2,042円となり、前年(2023年)同月の11万9,175円を上回っている。特に注目しておきたいのが、この1カ月で平均単価が大幅に上昇したという点だ。
 2024年9月の平均単価は11万1,742円であったことに比較すると、この1カ月で平均単価は1万300円も上昇しているのだ。

 これも異例といえる好調ぶりの1つだ。

 JEITAのPC出荷統計では、2024年度第1四半期(2024年4~6月)は前年同期比7.9%増、2024年度第2四半期(2024年7月~9月)も同18.1%増となり、2024年度に入ってから、成長基調に転じているのは明らかだ。また、2024年10月は、好調が続く法人向けPCだけでなく、個人向けPCも前年実績を超えていることをJEITAでは明らかにしており、個人向けPCが前年実績を上回ったのは2024年7月から3カ月ぶりになる。ただ、2024年7月は、前年同期の実績が3割減と大幅に縮小していたことの反動があったことも見逃せない。その点では、PC需要の回復感は、その時とは異なるといっていい。

10月の国内PC出荷台数推移

 とはいえ、2024年10月の前年同月比1.5倍という好調ぶりは、「想定外」であり、「異常値」だったと言わざるえない。

なぜPC市場がこれだけ盛り上がっているのか

 では、なぜ2024年10月の国内PC市場は、これだけ好調な実績となっているのだろうか。それにはいくつかの理由がありそうだ。

 1つ目は、新製品の出荷が集中したという点だ。

 量販店などのPOSデータを集計しているBCNによると、2023年10月に発売となった個人向けノートPCは13機種であったが、2024年10月に発売となった個人向けノートPCは25機種とほぼ倍増しているのだ。

 たとえば、個人向けPC市場でトップシェアを誇る富士通クライアントコンピューティング(FCCL)では、2023年10月には新製品投入がゼロだったが、2024年10月はノートPCをフルラインアップで刷新。新製品を集中投下している。このように、新製品の発売が需要を促進したということができる。

FCCLは10月に新製品を一斉投入した

 2つ目の理由も、新製品の動きにも関連するのだが、Office 2024搭載モデルの初期出荷が、2024年10月に集中した点が挙げられる。日本マイクロソフトでは、Office 2024を10月2日から発売しており、これに合わせてOffice 2024搭載の新たなPCの出荷が増加したと見ることができる。

 ちなみに、個人向けPCの販売指標となるBCNの集計では、2024年10月の販売台数実績は、前年同月比4.5%増となっている。JEITAの統計が「出荷」の実績であるのに対して、BCNは「販売」の実績であるため、数字には若干のタイムラグが生じすること、BCNのデータが市場全体の3割程度となる個人向け市場を対象とした統計であることも考慮する必要がある。

 BCNのデータでは、JEITAの統計に比べると伸び率は少ないが、それでも、前年実績を超えたのは2024年3月以来、7カ月ぶりとなっている。特に、ノートPCは、前年同月比7.4%増と伸び率が高くなっている。BCNのデータからも、低迷が続いていた個人向けPC市場が回復基調にあることが分かる。

法人向けのリプレース需要も本格化

 もう1つの理由は、法人向けPC市場でのリプレース需要が、さらに本格化してきたという点だ。

 あるシステムインテグレータでは、「現場ではバックオーダーが増えており、在庫充足率を高めていく必要がある。こうした販売現場の状況を捉えて、ディストリビュータからメーカーへの発注量が増え、それが数字に表れているのではないか」と推測する。

 システムインテグレータなどでは、Windows 10の延長サポート終了に合わせたリプレース商談については、なるべく前倒しで進めようとする動きがある。これまでの経験から、期限が近づくのに合わせてPCの在庫確保が難しくなること、価格交渉だけの商談になりがちになり、薄利多売のビジネスに陥ることを懸念しており、余裕を持った商談が効果的だと判断しているからだ。

 「OSのサポート期限が来るので、しかたなく端末をリプレースするという考え方ではなく、より生産性を高めたり、セキュリティを強化したり、バックオフィス業務を強化したりといった目的での買い替え提案をするなど、価値を提案することが大切である。そのためには、直前での導入ではなく、商談を前倒しして、提案をする必要がある。サポート終了まで1年を切るタイミングとなり、リプレース商談に弾みがついてきたともいえる」と語る。

 働き方改革に関するアプリケーションの提案や、セキュリティ強化のためのソリューションなどと、新たなPCを組み合わせた提案が増加しているという。

 業界を挙げて訴求している「Windows 10のサポート終了まで、あと1年」というメッセージは、少なからず需要喚起にはプラスに働いたといえるだろう。

 また、取材を通じて得られた回答の中には、さまざまな法改正に合わせて、新たなPCの導入が促進されたり、基幹系システムのモダナイゼーションが加速するなかで、PCのデバイスに対する需要が増加したりといったことを指摘する声もあがっていた。

 たとえば、2024年10月1日からの郵便料金の値上げに合わせて、請求書の発行および発送業務をデジタル化するために、PCの導入を開始するといった需要も見られているという。

AI PCは限定的

 ところで、注目されているAI PCだが、今回の大きな成長率においての貢献度は限定的だと言わざるを得ない。

AI PCの販売台数比

 BCNのPOSデータをもとに、AI PCカテゴリ(AI PCに対応したCPUを搭載しているノートPC)の販売台数実績を見てみると、ノートPC全体に占める割合は、2024年8月はわずか1.6%に留まり、9月は1.7%となった。新製品の発売が増加した10月に入って、AI PCの構成比は若干増加したが、それでも3.4%に留まっている。11月もその傾向にはあまり変化がなく、11月1日~20日までの速報値でも、AI PCの構成比は、ノートPC全体の3.9%に留まっている。
 PC業界の関係者の間では、AI PCによる需要喚起や、それに伴う新たなニーズの創出を期待する声もあるが、現時点では、まだ需要は本格化していないのが実態といえそうだ。

PCの需要は今後も加速

 PC業界の関心は、この勢いが一過性のものなのか、それとも今後も高い成長を継続するのかといった点だ。

 JEITAの出荷統計を振り返ってみると、2024年10月の61万7,000台という実績は、2020年10月の77万8,000台という数字には及ばないものの、2021年10月の46万8,000台、2022年10月の44万8,000台、2023年10月の41万2,000台と、3年連続で40万台強の水準で推移していたのに比べると、1つ頭を抜けだしたのは確かだろう。

 一方で、前年同月比で50%増という高い成長を遂げたタイミングという点で振り返ってみると、2020年11月に、前年同月比51.5%増を記録した時期までさかのぼることになる。これ以降、国内PC市場は一気に需要が増大。12月には前年同月比67.6%増、2021年1月には109.8%増、2月に115.5%増、3月に40.9%増と高い成長を維持し、年間では、JEITAの統計開始以来、過去2番目の出荷台数を記録する流れへとつながっている。

 この時は、2020年1月のWindows 7のサポート終了後ではあったものの、コロナ禍におけるテレワーク需要の拡大、GIGAスクール端末の整備のピークを迎えたことが影響している。

 つまり、50%増という高い成長率を突破したのをきっかけに、特需のピークを迎えたというわけだ。

 2024年10月の50%増という実績は、これと同様に需要喚起の狼煙(のろし)という水準に達したと見ることもできるのだろうか。

 だが、新製品の出荷時期が集中したことや、前年同期までが低い水準で推移していたことの反動、Windows 10のサポート終了に伴い買い替え需要の本格化の時期がこれからであること、GIGAスクール構想第2期の需要はまだ本格スタートしておらず、2025年度以降に本番を迎えること、AI PCの需要がまだ停滞していることなどを考えると、今回の50%増という高い成長率を記録したとはいえ、2024年10月をきっかけに、そのまま高い水準で推移するとは考えにくい側面もある。

 しかし、今後、PC需要が一気に加速するのは明らかである。これが、どこで加速するかを慎重に見ておく必要がある。

 MM総研によると、2024年9月末時点で、国内のWindows 10搭載PCは、法人向けPCで約1,300万台、個人向けPCで約950万台の合計2,250万台が残っている。これがリプレース需要の対象となる。また、GIGAスクール構想第2期では1,000万台強の特需があり、これが、2025年度と2026年度の2年間で、ほぼ導入が完了することになる。MM総研の調べでは、2023年度の国内PC出荷全体で、1,077万5,000台の年間出荷実績となっており、そこにこれだけの規模の特需が乗っかるというわけだ。

 それだけに、いまから品不足や、営業およびサポート体制のリソース不足を指摘する声もある。調達、生産、販売、サポート体制が混乱することがないような需要の分散化が求められているのは確かだ。

 その点では、2024年10月の前年同月比50%増という「異常値」の実績は、需要の分散という点で、実は、歓迎すべきものなのかもしれない。