大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

AI PCは今後3年でPC出荷全体の60%に。Lenovoのルカ・ロッシが予測

Snapdragon X Eliteを搭載したCopilot+ PCのThinkPad T14s Gen 6

 Lenovoのエグゼクティブ・バイス・プレジデント兼インテリジェンスト・デバイス・グループ(IDG)プレジデントのルカ・ロッシ(Luca Rossi)氏が単独インタビューに応じ、同社のAI PC戦略について言及した。ロッシ氏は、「AI PCは、今後3年間で一気に普及し、2026年にはPC出荷全体の60%を占める」と予測。「AI PCの市場においても、Lenovoはリーダーとしてのポジションを確実なものにする」との姿勢を強調した。

 また、2024年4月からスタートしている同社2025年度のPC事業の取り組みについては、モトローラブランドのスマホのシェア拡大に取り組む一方、AI PCについては、「準備期間の1年になる。ユーザーエクスペリエンスに関する情報を集めることに力を注ぐ」と位置づけた。

Lenovoのルカ・ロッシ(Luca Rossi)氏

AI PCはよりパーソナルなものに進化

――ロッシ氏は長年に渡り、PC事業に携わっています。そうした経験をもとに、AI PCを捉えると、どれぐらいのインパクトを持つものになると想定していますか?

ロッシ(敬称略、以下同) いま私たちは、新たな世界の入口に立っていると言えます。AIの登場や、AI PCの登場は、約30年前にインターネットが登場したときのような大きな変革が起こると予想しています。

 今後、個人が所有することになるAI PCは、これまでのPCよりも比較にならないほど、パーソナライズされたものになり、自分のことを、自分よりも知ってくれるような存在になります。

 AI PCの特徴の1つが、デバイス側でデータを推論できる点です。データをクラウドに送ることがなく、AI PCの中に情報を蓄積し、それをもとにした新たな体験ができるようになります。Lenovoが定義するAI PCには5つの要素があります。

 デバイス上にLLM(大規模言語モデル)を備えたパーソナルインテリジェントエージェントであること、個人の知識ベースを蓄積していること、CPUおよびGPUと、NPUがヘトロジニアスに統合していること、オープンエコシステムによって開発されたAIアプリケーションを利用できること、完全なプライバシー保護とセキュリティ対策を行なっていることです。

 AI PCは、これらの機能を持ちながら、ユーザーがどんな使い方をしたいのかを理解できるようになり、さらに、利用している時間が経過するに従い、アプリケーションそのものがユーザーの意図をベースにして動作するようになります。これは、ユーザーがなにをしたいのかを言わなくても、AI PCが先回りして、必要な情報を用意してくれたり、作業を実行してくれたりするようになります。

 もちろん、この状況がすぐに実現するわけではありません。まずは、クラウドベースで利用しているChatGPTのような使い方が、ローカルのPC上で利用できるというところからスタートし、AI PCが進化を遂げる中で、使い方も変化していくことになります。PCの役割がより個人に寄り添ったものになり、パーソナルアシスタントへと進化することになります。

LenovoはAI PCでもナンバー1に

――LenovoのAI PCの強みはどこにありますか?

ロッシ Lenovoは長年に渡り、AIに対する投資を進めてきました。その結果、独自性を持ったユニークな製品を提供することができます。

 たとえば、Lenovoが開発した独自のソフトウェアにより、デバイスに蓄積されている個人のデータをもとに、生成AIが最適な回答ができるといった仕組みが構築できます。AIエージェントを通じて、独自のAIエンジンやLLMを活用でき、これが差別化要因の1つになります。

 さらに、これまでのPCと同様に、最高の性能や優れたデザインを提供するという点でも、Lenovoの優位性が発揮できます。Lenovoは、世界ナンバーワンのPCメーカーであり、世界の5つの地域のうち、4つの地域でトップシェアとなっています。日本でもトップシェアです。AI PCにおいても、リーダーのポジションは譲りません。シェアをより拡大し、首位の座を確固たるものにしたいと考えています。

――AI PCのリーダーとして、どんなことに取り組むべきだと考えていますか?

ロッシ これまでにも、PCのイノベーションには、率先して取り組んできました。ハードウェア設計やデザイン、さまざまな技術に対して、多くの投資をしてきました。この姿勢は、AI PCでも変わりません。ただ、AI PCでは、ソフトウェアの部分が、さらに重要になりますから、IntelやMicrosoft、AMD、Qualcommなどと連携しながら、ソフトウェア開発のためのエスシステムも構築しようと考えています。

 また、AI PC向けのアプリケーションの不足が指摘されていますが、Lenovoでは、100人以上の開発者がAI PC向けアプリケーションの開発に取り組んでおり、こうした課題の解決にも貢献できると思っています。

AI PCは2026年にPC出荷全体の60%に

Snapdragon X Eliteを搭載したCopilot+ PCのThinkPad T14s Gen 6

――AI PCがPC市場の主流になるのはいつになると予測していますか?

ロッシ AI PCは、この3年で一気に普及することになります。2026年にはPC出荷全体の60%を占めることになるでしょう。

 2024年5月に、MicrosoftがCopilot+ PCを発表し、QualcommがSnapdragon Xシリーズを発表しましたが、今後、AI PCのプラットフォームが増え、プロダクトやサービスの選択肢は増加することになります。こうした複数の要素が積み重なって、AI PCの普及に加速がつくことになると予測しています。

――ロッシ氏自身は、どんなAI PCの使い方を想定していますか?

ロッシ Windows PCでは、まずは、Copilotキーをクリックすれば、アシスタントが開きますから、そこで、すぐに質問することができます。さらに、LenovoのAI PCであれば、AIエージェントがより細かい作業を助けてくれますし、Lenovo Creator Zoneによって、画像生成を支援してくれます。私自身、いまは、そんな使い方を想定しています。

――2024年4月からスタートした2025年度のインテリジェンスト・デバイス・グループ(IDG)は、どんな点に力を注ぐことになりますか。

ロッシ IDGでは、PCだけでなく、タブレットやスマホなど、さまざまな事業を行なっていますが、今年は、あらゆる製品分野において、AIが重要な要素になると見ています。AIはあらゆるデバイスを変化させていくことになるでしょう。

 そうした中で、今年度、注力する領域の1つが、モトローラブランドのスマホになります。すでに成長が始まっていますが、日本においても高い目標を設定し、シェアを伸ばしていきます。

――今年度のAI PCの事業計画はどうなっていますか?

ロッシ AI PCについては、今年度は、あまり数値は重視しません。出荷台数は、LenovoのPC全体の10%以下に留まると見ています。今年度、重視するのは、ユーザーエクスペリエンスに関する情報を集めていくことです。ユーザーが、AI PCにおいて、アプリケーションをどう利用するのか、どこに改善の余地があるのかといったことを知るために時間を使います。

 2026年のAI PCの普及に向けて、この1年は、それに向けた準備期間になると位置づけています。将来のLenovoのAI PC事業において最も重要な要素は、ユーザーエクスペリエンスをしっかりと作り出すということです。人々の生活をより良くすることに、真に貢献していく製品にすることを目指します。

 これを実現することで、結果として、LenovoはAI PCによるリーダーとしてのポジションを獲得できるようになりますし、出荷台数の増加とトップシェアの維持にもつながると考えています。

 AI PCはより多くのメモリを必要としますし、高い性能が求められますので、必然的に単価が上昇します。これは売上増加、利益増加にも貢献することになります。

――Lenovoでは、非PC領域の事業拡大が注目されています。PC領域を担うIDGからのメッセージが隠れがちのように感じます。

ロッシ IDGは成功を続けている事業ではありますが、Lenovo全体としては、PCでの成功だけに留まらず、さらに高い成長を遂げることで、より大きな成功を目指しています。

 その結果、サーバーやストレージなどを担当するISG(インフラストラクチャ・ソリューション・グループ)や、ITソリューションやマネージドサービスなどを提供するSSG(ソリューションズ&サービス・グループ)の成長が重要な鍵になっています。

 これは、言い換えれば、Lenovo全体が掲げているビジョンである「Smarter Technology for All(すべての人にスマートなテクノロジを提供する)」の実現に向けて重要な取り組みです。IDGのPC事業やスマホ事業と、ISGやSSGの事業が相乗効果を生み出すことも重要であり、そのために、いまはISGやSSGに関するメッセージを強く打ち出しています。全体でエコシステムを構築し、それによって成長を遂げるというのがLenovoの方針ですから、私はいまの状況はまったく問題がないと思っています。

日本ではビジネス面でNECブランドが躍進

――一方で、日本におけるPC事業の課題はなんでしょうか?

ロッシ 日本におけるLenovoブランドの認知度は高まっているものの、日本のユーザーは、日本のメーカーの日本のPCブランドを好んで利用するという傾向があります。

 そこで日本ではNECブランドによるビジネスを推進しています。日本のPCビジネスは順調であると判断していますし、2024年および2025年は、Windows 10のEOSがあり、日本のPC市場が大きく成長する年になります。

――Lenovoグループとしてみると、日本では、Lenovo、NEC、富士通の3つのPCブランドがあります。3つも必要なのでしょうか?

ロッシ 現時点で、この戦略を変えるつもりはありません。今後も3つのブランドで、日本におけるPC事業を展開していくことになります。Lenovoの戦略は、1年間でのプラン、3年間でのプランなどがありますが、これらはすべて毎年見直しを行なっています。2027年以降は、日本のPC市場が縮小することが見込まれていますが、それぞれのタイミングで、なにが最適な戦略なのかということを考えていきます。

――教育分野においてはGIGAスクール構想第2期がスタートすることになります。GIGAスクール第1期では、Lenovoグループが教育分野においてトップシェアを獲得しましたが、第2期もその座は譲りませんか?

ロッシ もちろんトップシェアの獲得を目指します。ただ、単にトップシェアにこだわるのではなく、教育分野におけるイノベーションにも力を注ぎたいと思っています。その1つが、「Lenovo・メタバース・スクール」という新たなソリューションです。

 メタバースのテクノロジを活用することで、実際の教室に通わなくても、いつでもどこでも、学びたい時に、安心して学べる環境を整えています。学校に行って、対面で教育が受けられない生徒が、バーチャル空間で教育を得られる機会を提供できます。

 すでに、日本では東京都教育庁を始めとして30自治体で展開をしています。大阪教育大学との連携により、この仕組みをさらに進化させる取り組みも開始したところです。

――最後に、日本のPCユーザーにメッセージをお願いします。

ロッシ Lenovoは、最高の品質と最高のデザイン、最高のイノベーションによって、日本のPCユーザーに対して、喜びを届けていきます。そこにコミットしていきます。そして、新たなAI PCの世界においても、それは同様です。これからLenovoが投入する製品に、ぜひ期待していてください。