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ポストGIGAの「活用できない」問題を解決。Googleの「教育DXパッケージ」

Google for Education営業統括本部の杉浦剛本部長

 Googleは、教育現場のDXを支援する「Google for Education教育DXパッケージ」を11月10日から提供開始した。Google for Education営業統括本部の杉浦剛本部長は、「Google for Education教育DXパッケージは、学びのDX、校務のDX、セキュリティのDXの実現を支援するもので、研修プログラムおよび導入サポートもあわせて提供する。アカウント管理の自動化、さまざまなアプリとの連携、教育データの分析基盤の提供、校務の自動化や効率化、ゼロトラストセキュリティの実現を支援することができる」とする。

整備したインフラを活用できていないポストGIGAの現状

ポストGIGAスクール構想の現状と課題

 GIGAスクール構想により、小中学校には生徒1人1台環境のデバイス整備が行なわれたものの、現場では教員の負担が増加すると同時に、教育データの利活用も課題となっている。今回のGoogle for Education教育DXパッケージは、教育データを活用したDXや校務の効率化、セキュリティの強化など、デバイスが整備されたあとのポストGIGAスクール構想におけるGoogleの提案だといえる。

 「GIGAスクール構想によって、端末、グループウェア、インターネットといった基礎的なインフラが揃った。だが、学校現場では、データ利活用の具体例の不足、教務や校務でのクラウド利用の制限、ゼロトラストへの理解と実績の不足といった課題がある。導入された端末をもっと生かしたい、教員の働き方改革や教員のクラウドの活用を促進したい、クラウド活用時のセキュリティの不安を払拭したいと考えていても、それが実現できない状況にある。プラットフォームを最大限に活用し、学びを変えていくには、教員が抱えるこれらの課題を解決しなくてはならない。Googleでは、ポストGIGAスクール構想における教育現場での課題を解決したい」と、狙いを語る。

 政府により、教育データの利活用についてのロードマップが示されたり、GIGAスクールで整備された環境を活かした教員の働き方改革の事例集が発行されたり、「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」の改訂により、ゼロトラストへの移行方針が明確に示されたりしている。Google for Education教育DXパッケージは、こうした動きにも呼応したものになる。

Google for Education教育DXパッケージ

 Google for Education教育DXパッケージは、DX支援ツールであるGoogle Workspaceの最上位エディションである「Google Workspace for Education Plus」、DX推進を実践するための無償研修である「DX研修プログラム」、教育DXパートナーによる導入サポートである「DX導入サポート」で構成される。

 DX導入サポートを提供するパートナー企業は、電算システム(DSK)、Ddrive、サテライトオフィスの3社となっている。

学び、校務、セキュリティのDXを実現

 Googleでは、Google for Education教育DXパッケージを通じて、学びの軌跡を可視化することにより、個別最適化された学びを支援する「学びのDX」、クラウドツールをフル活用し、教員の働き方改革を促進する「校務のDX」、在宅ワークや遠隔授業の実施、マルチデバイスの活用など、時代にあわせたセキュリティ対策により、安全なICT環境の整備を実現する「セキュリティのDX」を提供するという。

学び(教育)のDX

 学びのDXでは、教育データプラットフォームの構築の支援、個別最適化された学びのための軌跡の可視化、生徒の学校生活をサポートするテンプレートの提供を行なう。

 「学びにデータを活用しようと思った場合に、教育データのプラットフォーム構築が肝になる。これが、学びのDXを実現するための第一歩になる。点在するアプリケーションを1つのクラウド基盤の中に整えることで、アプリケーションを教育にどう生かすかという議論に移ることができる。これによって、学びの軌跡の可視化が可能になり、個別最適化された学びを実現できる。

 GoogleではBIツールであるLooker Studioを提供しており、教員がどうデータを見ればいいのか、それをもとにどんな指導ができるのかといったテンプレートも用意している。さらに、学校生活に関する情報の多くが紙で提供されているが、テンプレートなどをもとに構築した生徒ポータルを実現することができるほか、生徒の体調や気分、健康状態を可視化するテンプレートも用意している」という。

校務のDX

 校務のDXでは、教務と校務の効率化による働き方改革推進サポート研修の提供、ICT活用の基礎と発展を学ぶGoogle公式認定資格試験の実施、地域や保護者との連携を深めるための校務向けテンプレートの提供を行なう。

 「Googleは、インフラ環境を整えるだけでなく、教員がインフラを活用するための支援を強化していきたいと考えている。具体的には、働き方改革推進サポート研修を通じて、学習ログを活用するためのビジョン設計やコンセプト作りのための管理職向けワークショップ、ペーパーレス化やハンコの電子化などにより校務を効率化するための活用研修などを用意している。

 また、Google公式認定資格を取得のための研修も行なう。Google Workspaceを利用しているが、理解力が足りていないと感じていたり、個別の教科でもっと活用したいと思っていたりする教員を支援したい。さらに、学校外への情報発信を強化するためのテンプレートも用意している」と述べた。

セキュリティのDX

 セキュリティのDXにおいては、ゼロトラスト環境のセットアップサポート、高度なセキュリティ設定のためのセットアップガイド、モニタリングや早期発見のためのセキュリティダッシュボードの提供を行なう。

 「働き方が多様化する中で、端末の持ち帰りが増えたり、個人端末の利用が増加したりといったことが想定される。そうした状況においても、学校の資産を安全に扱うためのセキュリティ設定が求められる。Googleからゼロトラストセキュリティのセットアップを提案し、高度なセキュリティの設定についてもサポートする。ファイルへの不正なアクセスを防いだり、機微情報を含むファイルの共有状況などを監視したりといったことができ、すぐに対応できるダッシュボードも提供している」という。

 Googleの杉浦本部長は、「Google for Education教育DXパッケージは、学びのDX、校務のDX、セキュリティのDXのどれか1つをやるためのものではなく、すべてのDXをパッケージの中で実現できる」と述べた。

オンラインでも対面と同様の教育を。家庭との情報連携も円滑に

 Google Workspace for Education Plusを活用して、校務のDXおよびセキュリティのDXに先行的に取り組んでいる事例として、茨城県大子町教育委員会を紹介した。

 大子町では、全ての小中学校に1人1台のChromebookを導入。2022年度からGoogle Workspace for Education Plusを導入し、クラウド型の校務支援システムを稼働させているという。

茨城県大子町教育委員会 指導主事の大森和行氏

 茨城県大子町教育委員会 指導主事の大森和行氏は、「新型コロナウイルスの感染拡大により、臨時休業や学級閉鎖などが相次ぐ中で、Google Meetを利用したオンライン学習や個別面談を実施することで、生徒1人1人の学習を保証し、対面の授業と同様の成果をあげることができた。また、子どもたちの心のケアも行なうことができた。こうした活用を行なう中で、Google Meetの機能強化を求める声があがってきた。

 そこで、Google Workspace for Education Plusを通じた追加機能により、録画機能やブレイクアウトルーム、Q&A、出欠席レポートを活用。これにより、協働的な学びや個別最適な学びをさらに推進できた。感染症などにより登校できない生徒へのオンライン授業、授業中に恥ずかしくて質問できない生徒への個別対応、こども議会や読書集会のオンライン開催、海外の小学校との交流、教職員のオンライン研修会の実施などを行なうことができている」とした。

Google Workspace for Education Plus導入の経緯
録画やブレイクアウトルームといったGoogle Meetの追加機能を活用

 また、「コロナ禍で、Google for EducationとChromebookを組み合わせた授業が進む中で、クラウドの良さを教員が理解し始め、校務の不便性が浮き彫りになってきた。モチベーションワークスのクラウド型校務支援システムであるBLENDを導入し、校務の効率化を実現し、災害発生時や緊急時でも利用できる環境が整っている」という。

 生徒の出席記録のクラウド化により、保護者からの生徒の欠席連絡を教員がスマホで確認できるほか、学校からの通知やアンケートを保護者のスマホに配信することもできる。未読の保護者も確認できるため、大切な連絡も漏れがなく伝えられるという。

 さらに、ゼロトラストセキュリティの考え方を採用。「校外から使える機能やアクセス可能なアカウントを機能別に管理者が変更することができ、重要機密を扱う場合には厳しいアクセス制御を実施する一方で、保護者や生徒に一部情報を公開し、学校と家庭との情報連携を円滑にすることができている」という。

クラウド化で家庭との情報連携も円滑に

 今後は、クラウド間でのデータ連携の実現に取り組む考えであり、Google Workspace for Education Plusで提供される分析ソリューションのBig Queryにより、生徒の学習過程、成果を分析し、これまで見えなかった生徒の努力を可視化し、評価に活用するほか、AI教材との連携、校務系データとの連携によって、「クラウド活用により、1人1人に寄り添える学校にしていきたい」と語った。

奈良県教育委員会での活用事例

 なお、奈良県教育委員会では、Google Cloud基盤を活用して学習支援プラットフォームを構築。GIGAスクール運営支援センター整備事業を活かした教育データ活用による個別最適化に向けた取り組みを開始していることも紹介した。