大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

Windows 11のマーケティング施策は成功しているのか?TV CMの楽曲がバズる想定外の成果も

PCメーカー各社から発売されているWindows 11 PC

 Windows 11が、2021年10月5日にローンチしてから約5カ月を経過した。だが、Windows 11のローンチ以降も、国内PC市場は低迷を続けたままであり、需要回復の起爆剤にはなり得ていないのが実情だ。

 とはいえ、日本マイクロソフトでは、コロナ禍における新たなマーケティング手法への取り組みや、学生などの新たな需要層の開拓などの施策を展開。一定の成果をあげていることを強調する。その一方で、日本で制作したWindows 11のTV CMの楽曲がバズり、新たな顧客層への認知が高まるといった想定外の成果も生まれているという。年末年始商戦に続いて、進入学需要を軸とした春商戦に突入するWindows 11のコンシューマ向け施策について、日本マイクロソフト 執行役員 コンシューマー事業本部長の竹内洋平氏に話を聞いた。

Windows 11発売も過去最低の出荷実績

竹内氏

 国内PC市場は厳しい状況の中にある。それは、Windows 11がリリースされた2021年10月以降も変わらない。

 一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)のデータによると、2021年10~12月の国内PC出荷実績は前年同期比51.8%減の171万台。2022年1月の出荷実績も前年同月比60.2%減の55万1,000台と大幅な落ち込みを見せている。この背景には、前年同期にGIGAスクール構想による特需があり、その反動が大きく作用していることがあげられる。

 だが、それだけが前年割れの状況とは言い難い。GIGAスクールの影響を直接的に受けない量販店などのデータを集計するBCNによると、Windows 11が発売となった2021年10月の販売実績は前年同月比21.1%減、11月も12.8%減、12月も17.5%減と、前年割れの状況が続いており、2022年に入っても、1月は24.3%減、2月は23.1%減と、20%台の大幅な減少が続いているのだ。

 また、JEITAのデータを見ても、2021年12月の実績は、調査対象が現行体系となった2007年度以降、絶対数として過去最低の実績となっている。GIGAスクールの反動を除いたとしても、国内PC需要は、年間最大の商戦期である年末商戦において、最も出荷台数が少ない厳しい状況になっているのだ。

 日本マイクロソフト 執行役員 コンシューマー事業本部長の竹内洋平氏は、過去2年間の国内PC市場を振り返り、「2020年1月のWindows 7のEOS(延長サポートの終了)に伴う買い替えが集中したあとには、大きな反動があると予測していた。Windows XPのEOSの際には、4年間に渡って需要が低迷した。それが2021年3月までは、GIGAスクール構想による低価格PCの導入と、コロナ禍におけるテレワークの浸透で高機能PCが売れ、大きな需要が続いた。その結果、反動の波がさらに大きくなって、2021年4月以降を迎えている」と分析する。

 さらに半導体不足による品不足も、販売実績の減少に影響しているという状況だ。

Windows 11により高機能モデルの販売に拍車

 その一方で、「それでも、Windows PCの現状には、強い手応えを感じている」と語る。

 日本マイクロソフトのSurfaceや、最新機能を利用するのに最適化したモダンPCは、堅調な売れ行きを見せているのが理由の1つだ。

 「Windows 11の新機能を利用するのに最適化した高機能モデルの売れ行きは比較的好調であり、コンシューマ市場における平均単価も上昇傾向にある。Windows 11の発売以降、モダンPCの構成比が約6割に達している月もある」とする。

 また、Windows 11に対する評価が高まっている点も強調する。

 米Microsoftの発表によると、Windows 11にアップグレードしている人は、Windows 10の時と比較して2倍のペースで増加。これまで出荷されたWindowsのバージョンのなかで、最高の品質スコアと製品満足度を獲得しているという。さらに、Windows 10と比較して、40%も長い時間、Windows 11 PCを使用し、Windows 11のユーザーの約半数が新機能のスナップレイアウトを使用。Windows 11ならではのマルチタスクと生産性向上の利点を享受しているという。

 「日本でも同じような傾向が出ている。とくに、月間アクティブユーザーが増えている点は重要な変化である。過去10年間に渡って、スマホやタブレットの利用が増加するなかで、PCの位置づけが徐々に低下してきたが、コロナ禍ではPCの立ち位置が見直され、Windowsが生活のなかになくてはならない存在になってきた。そうした流れに乗って、Windows 11に関心が集まっている」とする。

 また、日本における調査では、Windows 10のときよりも、Windows 11の方がユーザー認知度が高く、購入意向が高いという結果も出ているという。

Windows 11

 「国内の調査では、Windows 11の新機能などを知ったあとに、購入意欲が大きく高まる結果が出ている。また、2021年6月の発表時点の調査と、ローンチされたあとの12月を比較しても、Windows 11に対する購入意欲が高まっている。Windows 11を知ってもらえることが購買意欲の向上につながるという結果が明確に出ている」(日本マイクロソフト コンシューマー事業本部 コンシューマーマーケティング本部の森洋孝氏)とする。

 同社によると、OSがシンプルになり、やりたいことができる点、Teamsが統合されたことで、コミュニケーションツールとして使いやすくなった点に加えて、スタートメニューが中央になったり、スナップレイアウトを採用したり、ウィジェットを用意したりといったWindows 11の新機能や追加機能が評価されており、「販売店からも、Windows 11の発売以降、タッチ機能を搭載したPCが売りやすくなったといった声や、高機能PCが売りやすくなったという声が出ている」という。

従来とは一線を画すマーケティング施策

 注目しておきたいのは、日本マイクロソフトのWindows 11に関するマーケティング施策は、これまでのWindowsの発売時とは一線を画したものになっている点だ。

 かつては量販店店頭やイベント会場で、PCメーカーの関係者やコアなユーザーなどが集まり、カウントダウン販売を実施したり、くす玉割りや鏡割りを行なったりといった発売を盛り上げるための施策を用意。Windows 7では、「7つながり」ということで、ウルトラセブンや水樹奈々さんが秋葉原での発売記念イベントに登場。いまや伝説となっているビーフパテを7枚重ねたバーガーキングのWindows 7 WHOPPERの発売など、数々の派手な施策が行なわれてきた経緯もある。

Windows 7の発売イベントにはウルトラセブンも登場
バーガーキングが用意したWindows 7 Whopperは当時大きな話題になった
Windows 7の発売に合わせて鏡開きも行なわれた
Windows 8の発売日には関係者全員で発売を盛大に祝った

 Windows Vistaの時代から、Windowsのマーケティングに関わり続けてきた日本マイクロソフトの竹内執行役員も、「正直なところ、コロナ禍でなければ、Windows 11でも、もっとやりたいことはあった」と残念がる。

 もちろんコロナ禍では、過去のように多くの人を集めるイベントが開催できないのは明らかである。Windows 11に関するイベントは、グローバルを見回しても派手な仕掛けはほとんどなく、ドバイで大きなタワーにプロジェクションマッピングを実施したプロモーション以外は見当たらない。Windows 10のローンチの際に、サティア・ナデラCEOが、出身地のインドに凱旋帰国して、発売を盛り上げるといったようなことも、今回は行なわれなかった。

 日本においてもそれは同様で、2022年10月5日のローンチにあわせて、日本マイクロソフト自らは、記者会見や発売イベントを開催することはなかった。この日に製品発表会見を行なったのは、PCメーカーでは富士通クライアントコンピューティングの1社だけだった。

 そして、日本マイクロソフト自らがWindows 11に関する記者会見を初めて行なったのは、11月18日であり、年末商戦投入前の時期ではあるものの、ローンチから1カ月半後を経過した異例のタイミングでの実施となった。

 この会見には、PCメーカーとして、Dynabook、デル・テクノロジーズ、日本HP、富士通クライアントコンピューティング、NECレノボ・ジャパングループの幹部も参加したが、コロナ禍を反映して、完全オンラインで実施。しかも、ここで発表されたのは、コンシューマ向け施策であり、コマーシャル向けの施策は、現時点でも、日本マイクロソフトからは発表されていない。

 実は、Windows 11では、Windowsそのものを前面に打ち出すといったマーケティング施策を見直し、ユーザーを主役と捉え、Windows 11の上で動作するアプリケーションなどにフォーカスする仕掛けへと移行。さらに、Windowsパートナーエコシステムとの連携を重視した展開を強化している。

 その結果、ローンチ時期にフォーカスするよりは、需要が集中する商戦期を強く意識したり、商戦期に中心となる顧客層にターゲットを絞り込んだ提案を行なったりといった取り組みを重視。さらにはPCメーカーから製品が出揃うタイミングで仕掛けを行なうといったことに取り組んだ。

 日本マイクロソフトのWindows 11に関するマーケティング施策も、その考え方を前提にしていたのは明らかだ。そして、まだ公表されていないコマーシャル向けの施策も、製品発表の時期よりも、今後の市場動向を捉えながら、需要が拡大するタイミングで一気に加速する可能性が高い。

量販店で徐々に高まるWindows 11の販売構成比

 では、これまでの5カ月間に渡って、日本マイクロソフトが仕掛けてきたWindows 11に関するコンシューマ向けマーケティング施策はどんなものだったのか。その施策と成果を見てみよう。

 日本マイクロソフトが、この間、重視したのは、店頭におけるマーケティング施策だ。

 日本マイクロソフトでは、PCメーカー各社の独自キャンペーンと連携しながら、年末年商商戦に向けて、量販店店頭などでイベントや体験会などを企画し、Windows 11の販売促進に取り組んだ。

 日本マイクロソフトの竹内執行役員は、「店舗での体験会は、Windowsの新機能の理解を促進する上ではとても重要な取り組みである。それは従来とは変わらない。実際、お客様がPCを購入する際に一番信用しているのは店員の言葉というデータもある。日本マイクロソフトでは、店頭での体験会やイベント開催を、常に重要な施策に位置づけ、多くのマーケティング予算を投入している」とする。第5波が落ちついた11月、12月は、積極的に体験会を開催していたという。

 だが、「コロナ前に比べると、量販店での体験会などの数は、企画段階で8割減ぐらいになっていた。さらに、1月第1週ぐらいまでは体験会を実施できていたものの、それ以降は、オミクロン株による第6波の影響もあり、体験会はまったくできていない状況にある」とする。

 それでも、週末を迎えるたびに、量販店が店舗ごとに独自施策を展開。Windows 11を軸にして、年末商戦のPC売り場を盛りあげてみせた。

 「量販店店頭では、背中には、『Windows 11』という横文字ではなく、『ウィンドウズ11』とカタカナで縦書きした文字を入れた法被を着て接客するなど、日本ならではの展開が行なわれた」としながら、「年末年始商戦では、想定以上にWindows 11 PCの販売比率が高まっている。部品不足の影響がなければ、Windows 11の販売比率がさらに高まっていたのではないか」とする。

 BCNの調査によると、発売月となった2021年10月にはWindows 11PCの構成比は2.5%に留まっており、Windows 10 PCが72.1%を占めていたが、月を追うごとにWindows 11 PCの構成比が拡大。2021年11月には7.9%、12月には17.7%、2022年1月には25.1%、2月には35.5%といよいよ3分の1を突破した。2月の集計ではWindows 10が43.8%にまで縮小。まだWindows 11よりも販売台数が多いが、3月にはこれが逆転することになりそうだ。このペースは、Windows 10の発売時よりも勢いが急速であり、新OSが順調に立ち上がっていることを示している。Windows 11への移行は着実に推移しているとみていい。

OS別シェア推移
種類別全体
年月Windows 10Windows 11macOSChrome OS
2021年10月72.12.521.04.4
2021年11月67.17.919.25.8
2021年12月59.917.716.95.5
2022年1月53.125.216.05.7
2022年2月43.835.515.45.3

 現在、Windows 11を搭載した最新PCは、100モデル以上となっており、こうした選択肢の広さもWindows 11PCの販売拡大に貢献している。

Windowsエリアのリニューアルも開始

 日本マイクロソフトでは、量販店との協業により、PC売り場のなかに「Windowsエリア」を設置し、現在、全国67店舗に展開している。

 日本マイクロソフトのSurfaceだけでなく、PCメーカー各社から発売されているPCも展示。製品を比較しながら、最適なPCを選ぶことができる売り場だ。また、全国の量販店などには、5,920人にのぼるWindows 11認定販売員(研修受講済み販売員)が常駐し、購入時に最適なアドバイスを行なってくれる。これも、Windows 11 PCの販売拡大を後押しすることにつながっている。

 さらに、日本マイクロソフトでは、2022年2月下旬から、Windowsエリアのリニューアルを開始している。什器やカーペットのデザインを変更し、2.1mの高さを持ったスタンドも用意。「Windows 11を搭載した最新モダンPCを見て、比べられる場にするというコンセプトはそのままに、より集合展示を充実させ、売り場のなかでも見つけやすく、体験しやすいようにした」という。

 第1弾として、ビックカメラ立川店でリニューアルを完了。今後、約半年をかけて全国のWindowsエリアを刷新していくことになる。

オンライン接客でWindows 11 PCの購入を支援

 こうした店頭での販売促進は、これまでの定番ともいえる取り組みだが、ここに新たな施策が加わっている。それが「オンライン接客」である。

 オンライン接客は、2021年4月から開始しているもので、現在、ビックカメラ、ケーズデンキのサイトから、アクセスすることができる。

 日本マイクロソフト社内にあるスタジオから、オンラインを通じて、プロダクトアドバイザーと呼ばれる専任担当者がリアルタイムに接客する仕組みで、配信用にスマホを使い、PCに近づいた形での説明も実施。利用者は店舗に出向かず、PCやスマホを通じて、PCやアクセサリーの説明、技術的な説明、購入の際のアドバイスを、1対1で聞くことができる。
また、スタジオ内には、実際の店舗にある展示台なども用意して、PCを並べているほか、家庭内での利用シーンを想定した机やソファなども設置。書斎や子供部屋、キッチン、リビングでの使い勝手なども見ることができる。

ビックカメラのサイトからアクセスできるオンライン接客

 当初は、Surfaceシリーズだけを対象にしていたが、PCメーカー各社の協力を得て、スタジオ内の展示機種を広げ、これらの製品の接客も可能としている。

 「店舗に行かずに短時間で説明を受けられることが便利であるといった声や、ユーザーの用途や希望を聞いて、それに最適なPCを個別に提案できる点でも評価が高い。これまでとは異なる購入体験を提案でき、利用者からは想像以上に高い評価があがっている」(日本マイクロソフトの竹内執行役員)という。

 利用者数は、2021年夏と比較すると、Windows 11がリリースされたあとの2021年末には38%も増加。男女比は半々であり、学生の利用も多いという。

 「オンライン接客というと、テクノロジーに詳しい人が利用しているという印象があるかもしれないが、幅広い層の人たちに、気軽に利用してもらっている。コロナ禍で、店頭に相談しに行きにくい、出向くのがちょっと心配だと思っている人にも適したサービスである」とする。

 また、「アドバイスを受けた後、店頭を訪れて実際に商品を触ってみたり、販売サイトに行なったみたりという人も多い。オンライン接客で、Windows 11の訴求ポイントをしっかりと伝えてあるので、店頭を訪れた場合にも、1時間、2時間、売り場で悩まなくても済む。量販店にとっても、接客時間の短縮につながっている。気軽にWindows 11PCの購入アドバイスを受けられる場として定着しはじめているという手応えがある」と語る。

 オンライン接客では、満足度調査を実施しているが、5点満点中4.8点以上という高い評価を得ているという。

 「店頭でお客様との対話に慣れている人たちが、オンライン接客で対応しており、様々なことを聞きやすく、アドバイスをもらいやすいという声があがっている。利用者は、自分の姿をカメラに映し出すことがなく、利用できる点も特徴。今後は、オンライン接客への入口の動線を増やして、もっと拡張し、より多くの人に使ってほしい」と語る。

日本独自のTV CMが異例の反応に

 日本マイクロソフトでは、2022年10月5日のローンチにあわせて、Windows 11のTV CMを展開した。期間は10月5日~10月11日のローンチ直後と、年末商戦本格化前の11月22日~12月5日までだ。

 このTV CMは、全世界で、日本市場だけが唯一、制作したWindows 11のTV CMとなっている。

第1弾となった「Windows 11 の世界へ」編

 ターゲットは学生で、「未来を担う学生に、最新のWindowsで、明るく、楽しく、自分らしい世界を作ってほしい」というコンセプトで制作したという。「Windows 11の世界へ」編とするこのCMでは、学生が最新のWindowsデバイスを手に入れて、より多くのことを達成するというメッセージを込めている。

 実は、このTV CMでは、想定外の反響が起きたという。それは、CMで使用されている音楽がバズッたというのだ。

 Windows 11のTV CMに関するツイートが想定以上に集中する中でも、とくに楽曲に対するツイートが多くを占め、楽曲を「弾いてみた」といった動画が投稿されたり、音楽を認知してから、これがWindows 11のTV CMであることを知るといった動きもあったという。

 「これまでのような製品訴求や機能訴求とは違う切り口から、Windows 11に関心を持ってもらうことができた。同時に、ブランドに対する好意度も高まっている」(日本マイクロソフトの森氏)という。

 実はこの曲は、今回のTV CMのために書き下ろしたものであり、歌っているのは、アイドルグループ「わーすた」の三品瑠香さん。疾走感があるアップテンポな曲が、10代、20代の若年層に響いたようだ。こうした成果は、グローバルに見ても例がないようで、米本社もこの施策の成果に高い関心を寄せているという。

第1弾「Windows 11 の世界へ」編

 日本マイクロソフトでは、3月2日から、第2弾となる「Windows 11の世界へ ダンスショー」編を公開している。TV CMとしては放映されていないが、AbemaTVやTiktokなど、主要ターゲットとなる高校生などの若年層に、より親和性が高いメディアで展開している。

第2弾「Windows 11 の世界へ ダンスショー」編

 新たなCMでも「あなたの大切を、もっと。」、「さぁ、Windows 11の世界へ」、「あなたにぴったりの、1台を」といった、これまでのメッセージを踏襲。高校でのダンス部新人公演の開催を題材に、Windows 11を活用して、企画を成功させるという内容になっている。

 主人公の女子高校生役は、前作同様、女優の峰平朔良さん。楽曲も変えず、第1弾の流れをくんだ構成だ。ちなみに、この楽曲には現時点でも曲名がない。

第2弾ではマスクをして登場する高校生の姿も

 「映像では、高校生がマスクをして登場するシーンもある。CMでは珍しいシーンだが、リアルにいまの状況に則した内容にすることにこだわった。高校生や大学生が置かれた学校のいまの状況を忠実に再現し、そうした環境においてもWindows 11を使うことで、たくさんのことができること、楽しい学生生活を送れることを示した」(日本マイクロソフトの森氏)という。

 2022年度は、高校版GIGAスクールによって、高校における端末整備が進められることになるが、小中学校の整備が国家予算で行なわれたのとは異なり、調達方法は「国や自治体が全額補助する整備」、「保護者の一部負担」、「生徒が所有しているデバイスの使用」など、自治体ごとに様々な形態で行なわれる。個人が購入したスマホも含めて、自由に端末を持ち込むBYOD(Bring Your Own Device)方式を採用する自治体も多く想定され、高校生が学校で使用するPCを自ら選択して、購入するといった動きも広がりそうだ。その点で、高校生に対して、Windows 11の認知度を高めることは、春商戦においても重要な施策になる。

春商戦ではモダンPCでWindows 11を訴求

 日本マイクロソフトでは、春商戦に向けたマーケティング施策をすでにスタートしている。

 日本マイクロソフトの竹内執行役員は、「今年の春商戦は、例年よりもスタートが早い」と前置きし、「学生には、4月を過ぎてしまうと、欲しい仕様のPCが購入できないということが伝わっているだけでなく、今年の場合は、部品不足で商品供給の遅れがあり、例年以上に、人気のPCから在庫が無くなってしまう傾向がある。それが商戦の前倒しにつながっており、学生が家族とともに、店頭を訪れる姿が見られている」とする。

 さらに、モダンPCの販売比率が上昇し、高機能モデルの人気が高いことも指摘する。

 「Windows 7のEOSの際には、モダンPC以外の低価格のPCの売れ行きが目立ったが、コロナ禍では、テレワークへの対応などもあり、モダンPCが売れている。とくに、生産性が求められる用途や創造性を発揮する用途では、モダンPCの価値が理解されている」とし、「モダンPCの比率は、毎年3月、4月に上昇する傾向にあるが、今年は、昨年以上に大きな山になると予測している」と語る。

 また、ここにきて、国内PC市場には、もう1つの傾向が出ている。それは、PCの買い替えサイクルが短くなっている点だ。

 これまでのPCの買い替えサイクルは約7年とされていたが、日本マイクロソフトの調べでは、これが1年ほど短くなっているというのだ。

 「これまではWordやExcelが利用でき、検索やメールができればいいという使い方だったが、在宅勤務や在宅学習が増え、家庭でも生産性を高めたり、Teamsなどを利用するために、性能が高いPCを求める傾向がある。それも、買い替えサイクルが短くなっている要因の1つではないか」とする。だが、「海外の買い替えサイクルは約4年であり、もっと短くしていく必要がある」とも語る。

竹内氏

 こうした市場環境の中で迎えた春商戦において、日本マイクロソフトでは、Windowsエリアのリニューアルを含めた店頭販売の強化、それをサポートするオンライン接客の強化、TV CMの新たな展開や屋外広告の強化などを進めるとともに、PCメーカー各社と連携したキャンペーンの推進にも取り組んでいくことになる。

 「品不足の影響や価格上昇といったマイナスの影響もあるが、モダンPCを前面に打ち出して、Windows 11を提案していく姿勢は変わらない。とくに、2~6月の期間は、新規でPCを購入するお客様が増えるタイミングである。春商戦では、学生や新社会人をはじめとした新規のお客様に、しっかりとWindows 11PCを手に取ってもらうことが重要だと考えている。高校生にも、モダンPCを選んでもらい、創造性を発揮できる環境で学習してもらいたい。そのために、オンラインと店頭との連携提案や、PCメーカー各社のキャンペーンとの連携を通じて、Windows 11の良さを伝えたい。初めて購入するPCに、Windows 11を選んでもらうことで、エコシステム全体でのWindowsシェアを高めていきたい」とする。

 Windows 11の普及施策においては、既存ユーザーのWindows 10からの無料アップグレードもしっかりとサポートしていく姿勢をみせるが、それ以上に、最新デバイスの方が、Windows 11の体験ができることの訴求や、学生や新社会人にWindows 11の良さを知ってもらうことを重視することになる。

 厳しい市場環境のなかで迎えた2022年の春商戦では、新たな顧客をどれだけ獲得できるかが、Windows 11PCのマーケティング施策のポイントになる。