大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

各種調査データから見る、国内PC市場の現在、過去、未来

MM総研 国内PC出荷台数シェアの詳細

 国内PC市場に関する市場調査が相次いで発表された。MM総研は、2021年(2021年1月~12月)の出荷実績を発表。GfK JapanもPCとタブレットを加えた2021年の国内IT市場の販売動向をまとめた。また、一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)は、毎月発表される国内PC出荷統計として、最新の2022年1月のデータを発表。さらにJEITAでは、毎年発表する「AV&IT機器世界需要動向調査」を公表し、2026年までの国内PC出荷見通しを明らかにした。これらのデータから、国内PC市場の現在、過去、未来を見てみよう。

2021年はGIGAスクールの反動で大幅減少

 まずは、2021年の実績から見てみよう。

 MM総研によると、2021年(2021年1月~12月)の国内PC市場は、前年比16.9%減の1,322万1,000台となった。

 2020年の出荷実績が、GIGAスクール構想やテレワーク需要によって、1,591万台となり、1995年の統計開始以来、過去最高を記録していたが、2021年はその需要がなくなった反動があり、大幅な減少となった。

 販売ルート別の出荷台数は、個人市場は前年比10.8%減の420万9,000台、法人市場は前年比19.5%減の901万2,000台となり、GIGA スクール需要がカウントされている法人市場の減少幅が大きかった。

MM総研 国内PCのルート別出荷台数の推移

 メーカー別シェアの順位も、GIGAスクール需要の反動が影響したものになっている。

 1位のNECレノボは、前年に引き続き首位を維持したものの、シェアは34.6%から、29.4%と5.2ポイントも減少している。GIGAスクール構成ではトップシェアとなったレノボNECにとっては、その反動が最も大きく出たといえるが、首位を堅持する強さをみせた。

 2位の日本HPは、2020年16.1%から、15.4%へと0.7ポイント減少。部品不足などの影響により、需要に応えきれなかった点がマイナスとなった。国内における2位のポジションを堅持するブランドとして定着してきたともいえる。

 3位は富士通クライアントコンピューティングで、前年の4位から浮上した。2020年には12.1%だったシェアは、2021年には12.8%と、0.7ポイント高めた。GIGAスクール需要全体では、約4割をChromebookが占めたが、2020年にはChromebookのラインアップを持っていなかった富士通クライアントコンピューティングは、GIGAスクール需要においては、3割に留まったWindowsだけで展開。そのため効果が限定的だったといっていい。つまり、大きな影響を受けなかった分、2021年は反動が少なかったともいえる結果だ。前年割れとはなったものの、個人向け需要の好調ぶり、大手企業の需要回復も加わり、職掌幅の規模が少なかった。

 4位は、デル・テクノロジーズであり、前年の3位からは1つ順位を落とした。GIGAスクール需要において、Chromebookで積極的な展開を進めてきたが、その反動が大きかったと言えるだろう。2020年のシェアは14.5%だったのに対して、2021年は12.7%となった。コンシューマ向けChromebookをラインアップしておらず、個人市場での刈り取りにつながらなかったことも要因の1つといえそうだ。

 5位となったのは、Dynabook。前年と同じ5位だったが、シェアは2020年6.1%から、2021年は7.2%と、1.1ポイントもシェアを上昇させた。テレワーク需要や現場型ソリューションなどの需要を取り込んだことがプラス要素になったといえそうだ。

 6位のAppleは、今回の上位ランキングでは、唯一、前年実績を上回った。順位は変わらなかったが、出荷台数は前年比17.3%増となっており、シェアは2020年の3.6%から、2021年は5.0%に上昇した。M1シリーズを搭載した製品の評価が高まり、販売増加に直結している。

MM総研 国内PC出荷台数シェア

タブレットも大幅な減少に

 一方、GfK Japanは、全国の有力家電店およびIT取扱店の販売実績データなどをもとに、2021年のIT市場の販売動向を発表した。

GfK JapanによるIT市場動向

 同社では、PCとタブレットをまとめて「IT・オフィス市場」と定義している。これによると、PCとタブレット端末市場は、前年比13%減の2,290万台となった。「GIGAスクール構想向けの需要が、前年から春頃まで継続したものの、その後は特需が落ち着き前年を下回って推移した」と総括した。

 そのうちPCについては、前年比14%減の1,470万台と前年から縮小。また、個人向け市場は前年比11%減の410万台。「2020年のWindows 7サポート終了に伴うリプレース需要や、テレワークやオンライン授業による市場拡大の反動を受けた」という。法人向け市場は、前年比15%減の1060万台となり、「リプレース需要やGIGAスクール構想の需要による過去2年間の大幅な押し上げが落ちついたことにより、前年の販売を下回った」とした。

 タブレットは、前年比14%減の820万台。個人向け市場は同23%減の260万台。法人向け市場は9%減の560万台。いずれもマイナス成長となった。「個人向けは前年の需要がテレワークやオンライン授業、在宅時間の増加に伴い高い水準にあったが、2021年は需要が落ち着き前年割れとなった。法人向けは2019年、2020年と急伸した文教向け需要が落ち着き減少したものの、それ以前と比較すると高い水準であった」と分析した。
なお、タブレットを通信方式別にみると、Wi-Fiモデルの数量構成比が6ポイント拡大して69%となり、キャリア回線モデルは29%、SIMフリーモデルは2%となった。

2021年12月は過去最低の実績に

 JEITAでも、2021年の出荷実績を自主統計データとして発表している。これは、Apple Japan、NECパーソナルコンピュータ、セイコーエプソン、Dynabook、パナソニック、富士通クライアントコンピューティング、ユニットコム、レノボ・ジャパンの8社による統計であり、市場全体を捉えたものではないが、推測値が入らない定点観測データとして意味がある。

 本誌でも既報の通り、2021年の国内PC出荷実績では、出荷台数が前年比15.2%減の886万9,000台、出荷金額は9.6%減の7,517億円となった。とくに、2021年12月には現行体系での調査を開始した2007年度以降、12月としては過去最低となり、PC市場の低迷ぶりが顕著であることがわかった。

 このように2021年の国内PC市場は、各社のデータを見ても、前年実績から大きく減少していることがわかる。GIGAスクール構想の反動、テレワーク需要の一巡、部材不足による商品供給の遅れといった要素が影響。さらに、2021年10月にリリースされたWindows 11が起爆剤にはなり得ていない状況が浮き彫りになっている。

 なお、一般社団法人ビジネス機械・情報システム産業協会(JBMIA)が発表した2021年の複写機/複合機の年間出荷実績は、国内が前年比8.9%減の44万5,972台。そのうちカラー複写機・複合機が7.2%減の39万3,194台、モノクロ複写機・複合機が19.7%減の5万2,778台。また、海外の年間出荷台数は前年比1.2%増の314万8,369台となった。

JBMIAの複写機・複合機の出荷実績

 テレワークの増加などにより、オフィスへの出社率が減少したことを背景に需要の勢いが鈍化。さらに、下期には半導体を含めた部材不足が、複写機・複合機本体の調達の遅れにつながっていたのが原因だ。

2022年も出足から厳しい状況が続く

 では、2022年に入ってからの国内PC市場の動向はどうなのだろうか。

 JEITAが発表した2022年1月の国内PC出荷実績は、出荷台数が前年同月比60.8%減の55万1,000台、出荷金額は29.0%減の586億円となった。法人、個人とも大幅に落ち込んでおり、10カ月連続の前年割れだ。しかも、減少幅はこの10カ月間で最も大きくなっている。

JEITA 2022年1月のPC出荷実績

 異例とも言える大幅な落ち込みの背景も、やはりGIGAスクール需要の反動だ。前年同月にGIGAスクール構想による導入が追い込みを迎え、一気に出荷台数が増加。前年同月比で2倍以上となる109.8%増と大幅な伸びをみせていた反動がある。また、1年遡って2020年1月と比較しても、Windows 7のサポート終了があった時期だったため、16.7%減と減少幅は大きい。さらにもう1年遡ってみたが、そこと比較しても2.0%減とマイナスになっている。Windows 11は追い風にはなっていない状況だ。

 前年同月にGIGAスクール構想の影響が大きかったことはノートPCでの落ち込みが特に大きいことからも証明される。ノートPCは前年同月比65.2%減の44万4,000台となっており、さらに、その内数として発表されているモバイルノートは、前年同月比76.3%減の19万9,000台と、4分の1以下の水準になっている。モバイルノートは、GIGAスクール構想で補助金の対象となる仕様にあてはまるカテゴリであり、GIGAスクール構想の反動が、直接影響する形になっている。

 その一方で、デスクトップPCは、前年同月比0.2%増の10万7,000台とほぼ横ばいとなっている。内訳をみると、オールインワンが34.0%減の2万6,000台と3分の2にまで減少しているのに対して、単体では20.6%増の8万1,000台と増加している。デスクトップ単体の需要が伸びているのは特筆できる動きだといえよう。

 一方、主要量販店などの販売データを収集しているBCNによると、2021年1月の実績は前年同月比24.3%減、最新データとなる2022年2月も23.1%減と、やはり前年割れとなっている。店頭販売などに限定されているため、GIGAスクール需要の影響を直接受けない市場の動向を捉えたデータだと言えるが、それでも前年割れの状況となっている。しかも、20%台の大きな落ち込みだ。

 BCNの集計では、2021年4月以降、11カ月連続での前年割れとなっており、2021年10月5日にリリースされたWindows 11の効果は出ていないといえる。

BCNのPC販売動向推移データ

2022年の年間出荷も2桁減の予測

 2022年の年間出荷の見通しについては、MM総研が予測を発表している。

 これによると、2022年の国内PC出荷は、前年比14.4%減の1,132万1,000台とし、2年連続での大幅な前年割れを見込んでいる。

 JEITAのデータでも明らかなように、2022年1~3月は、前年同期がGIGAスクール構想の需要が最も集中した時期であり、その落ち込みは、年間を通じてもリカバリーできず、大幅な前年割れになるという見方だ。

 MM総研では、2022年1~3月の大幅な出荷台数の減少を指摘しているが、法人の買い替え需要は大手企業を中心に堅調であり、2022年4~6月からは、減少幅が縮小し、市場は回復基調に転じると予測している。

 MM総研の中村成希取締役は、「2022年のPC市場は、2年連続の減少が見込まれるが、市場は底打ちし、回復トレンドに向かう1年になる」としながらも、「コロナ禍による部品の供給不足や、価格高騰の影響に加えて、ウクライナでの軍事衝突なども影響し、サプライチェーンが不安定な状況が続くだろう」と、市況回復に向けた懸念材料をあげている。また、「2023年には年間で1,200万台以上となるほか、2024年にはOSの更新や、GIGAスクールなどの入れ替えがはじまることから、年間で1,400~1,500万台規模にまで、PC市場が再成長することが見込まれる。それに向けて、安定した製品供給網の確立が、メーカーには求められる」とコメントしている。

 MM総研では、2023年以降の国内PC市場の回復を見込んでいるが、別のデータから、将来の国内PC市場の動きを見てみよう。

 JEITAでは、毎年、「AV&IT機器世界需要動向調査」を発表しており、今年も2月25日にこの内容が公開され、2026年までの需要動向が示された。

JEITAの「AV&IT機器世界需要動向調査」の説明資料より
JEITAの「AV&IT機器世界需要動向調査」の説明資料よりその2

 表紙が黒いことから、業界内では「黒本」と呼ばれており、1991年の初版を発行して以来、今年が32版目になる。調査協力は富士キメラ総研が行っているが、業界団体が発表するデータという側面から、予測値などは、もともと保守的に見ている傾向が強い点は考慮しなくてはならないだろう。

 また、JEITAが毎月発表している出荷統計が自主統計であり、統計参加企業による実績値だけを集計し、市場全体の約7割をカバーしている数値であるのに対して、黒本では推定値が加わり、市場全体を網羅している。そのため、自主統計のデータと黒本のデータには、あまり整合性がないといっていい。例えば、2021年の国内PC出荷実績は、自主統計では前年比15.2%減の886万9,000台となっているが、黒本での統計は、前年比23.4%減の1,110万台と、大きな差がある。また、GIGAスクール構想による旺盛な需要が加わった2020年の実績は、自主統計では前年比7.4%増とプラスになっているが、黒本では2.0%減とマイナス成長としており、その見方には乖離があることに注意しておく必要がある。ちなみに、昨年の黒本では2020年実績を12.8%減として発表していたが、今年の黒本では2.0%減と、実績値を約11ポイントも修正しており、最新のデータを使用することにも留意しておきたい。

JEITAのAV&IT機器世界需要動向調査によるPC市場予測

 今回の黒本のなかで示された国内PC市場予測によると、2026年までの年平均成長率はマイナス2.2%となっており、2026年の市場規模は994万台と想定している。

 2022年は前年比16.2%減の930万台と、2021年まで維持してきた1,000万台の大台を割り込み、2023年も0.3%減の927万台と減少。だが、2024年には1.2%増の938万台とプラスに転じ、Windows 10のサポート終了に伴う買い替え特需が見込まれる2025年には5.5%増の990万台、2026年には0.4%増の994万台としている。

JEITAのAV&IT機器世界需要動向調査による世界PC市場予測推移

 調査を行なった富士キメラ総研 第二部 担当課長の塩原一平氏は、「2022年も需要の減少傾向が続き、この需要減少傾向は、2023年まで続く。だが、2024年から2026年にかけては、2025年のWindows 10のサポート終了にあわせて買い替え需要の増加や、2020年から2021年にかけて発生したリモートワーク向け需要の買い替えサイクルを主な要因として、需要は微増傾向に転じる」と予測。さらに、「2026年にかけては、動画配信コンテンツを視聴するために4Kディスプレイや有機ELディスプレイなどのテクノロジーが活用される。また、コネクテッドへの対応が必須となり、それにあわせて、高性能演算処理や高画質ディスプレイを生かした利活用シーンが拡大。さらに、e-Sportsやメタバース、動画配信の視聴、リモートワークやオンライン授業、オンラインミーティングの広がりが需要拡大の要素として期待できる」と述べた。

好調な世界需要もマイナスに転じるのか

 一方、黒本では、世界のPC需要についても予測している。

 これによると、2021年は前年比8%増の3億700万台となったが、2022年はマイナスに転じ、前年比5.7%減の2億8,950万台と予測。2023年も8.3%減の2億6540万台とマイナス成長を予測した。

 「2021年は、2020年に引き続き、新型コロナウイルスの感染拡大によるリモートワーク向けのノート型需要が大幅に増加した。半導体や液晶パネルの供給不足も一部で見られたが、PC全体の需要としては前年と比較し大幅に増加した。また、新OSであるWindows11が登場したことで、一部のユーザーがハードウェアの買い替えを進めたことも需要増加を後押しした」としたほか、「2022年は、全体需要が前年より減少し、2023年まで減少傾向が続くと見込まれる」としている。

 2024年は前年比0.2%増の2億6,600万台、2025年は0.2%増の2億6,650万台、2026年は0.6%増の2億6,820万台と微増で推移すると予測。「2024年から2026年は、2025年のWindows10サポート終了を控えての買い替え需要が増加。リモートワーク関連需要増加の買い替えサイクル期にあたることから、需要は再度微増傾向に転じると見込まれる」としている。

 国内PC市場は、2022年度は依然として厳しい状況が続き、2024年度から2025年度にかけて、一気に需要が回復するという見方が一般的だ。

 その背景にあるのが、Windows 10のサポートが2025年10月14日に終了するのに合わせた買い替え需要が見込まれること、ハイブリッドワーク環境に最適化したPCへの需要が継続すると見込まれること、さらには、GIGAスクール構想の買い替え需要の予算措置が取られれば、そこに大きな買い替え需要が発生するとの期待感もある。

 需要の山がいつから立ち上がり、その山がどれだけの高さになるのかが、これからの焦点であり、そこに向けてPC業界全体で、どんな仕掛けができるのかが重要となる。