大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

なぜ「FMV LOOX」が生まれたのか?FCCL開発者が目指した新たなタブレットの姿とは

富士通クライアントコンピューティングの「FMV LOOX

 富士通クライアントコンピューティング(FCCL)の「FMV LOOX」が、いよいよ正式に発表された。約10年ぶりにLOOXのブランドを復活させるとともに、富士通パソコンの発売40周年を記念したモデルに位置づけられるFMV LOOXは、「想像を超える軽さと、創造できる賢さ」のキャッチフレーズ通りに、13型Windowsタブレットとしては世界最軽量、世界最薄を実現しながら、Windows 11 Proや第12世代インテルCore i7プロセッサの搭載のほか、ワコムの次世代Active ESペン技術「Wacom Linear Pen」を世界で初めて採用。性能面にも妥協がない。

 今回の取材には、富士通クライアントコンピューティング プロダクトマネージメント本部の小中陽介本部長代理のほか、同社コンシューマ事業本部コンシューマ事業部第三技術部の日浅好則部長、プロダクトマネージメント本部第一PM統括部第三技術部の青木伸次シニアマネージャー、同第二技術部の内田哲也マネージャーが対応してくれた(以下、敬称略)。

 「LOOXの名に恥じない40周年記念モデルが投入できた」と自信を見せる富士通クライアントコンピューティングのFMV LOOX開発チームに話を聞いた。

富士通クライアントコンピューティング プロダクトマネージメント本部の小中陽介本部長代理

開発の原点はタブレットの新たな姿を目指すこと

――FMV LOOXは、当初から40周年記念モデルとして開発したものなのですか。

内田 FMV LOOXの開発は、2021年1月からスタートしており、当初は、タブレットの新たな可能性を追求することを目指して開発が始まりました。様々なアイデアが生まれ、新たな機能を模索したり、新たな使い方を提案したりといったことが行なわれていました。ただ、高い目標を持って取り組んでいましたから、新たなものが生まれては、差し戻され、また新しいものを生むといったことが、最初の半年間ほど繰り返されました。この期間は試行錯誤の連続でしたね。私もショックを受けるような大きな差し戻しが3回、完全に挫折したことが1回ありました(笑)。

富士通クライアントコンピューティング プロダクトマネージメント本部第一PM統括部 第二技術部の内田哲也マネージャー

 開発をスタートした時点では、まだ40周年記念モデルになるということは決まっていませんでしたし、LOOXというブランドを付けることも決まっていませんでした。それが、開発の途中からLOOXというブランドが与えられることが決まり、40周年記念モデルに位置づけられることが決まりました。スタート時に比べると、開発現場が背負うものがどんどん重たくなっていきました(笑)。同時に、経営層からの期待やハードルが大きくなっていくこともヒシヒシと感じました。

小中 歴代のLOOXを見ても、最初からLOOXというブランドを付けて開発するのではなく、途中からLOOXのブランドを与えられることになり、開発にドライブがかかったことが多かったといえます。今回もそれと同じだといえますね。

 むしろ、最初からLOOXを作るとなると、LOOXはこういうものだという固定した考え方の中でモノづくりする危険性があります。LOOXという製品を出すのではなく、LOOXといえる製品を出し続けることが大切だといえます。開発の途中では、何度もちゃぶ台をひっくり返しましたし(笑)、それがいい意味で機能したと思っています。

 そして、開発チームのメンバーは、それにめげずに次の挑戦に挑んでくれました。自分たちの思いが伝わるものにしたいというのが開発チームの基本姿勢です。裏を返せば、そこに妥協があると、妥協した部分がそのままの思いとして伝わることになるわけです。ですから、開発チーム全員が妥協しない姿勢で挑みました。

FMV LOOXは「CES Innovation Awards 2022」を受賞

内田 今回のLOOXのブランドには、「Look at “X” perience」という意味を持たせています。Xには、変化や無限の可能性、体験といった意味を込め、2022年を起点に、未来の変革を見据えた革命的なデバイスになることを目指しました。

 FMV LOOXのコンセプトは、「想像を超える軽さと、創造できる賢さ」です。想像を超える軽さという点では世界最軽量による「Ultra Light」、創造できる賢さでは、世界で初めて採用したペン技術による「Creativity」が挙げられます。さらに、ユニークなPC連携によって、拡がる創造性を実現する「Connectivity」、OLEDおよび4スピーカーの搭載などによって、想像を超える美しさも実現する「Beautiful display & sound」もこだわりのポイントです。また、タブレットではありながらも、キーボードにも妥協はしていません。LOOXのブランドに値するものが完成できたと自負しています。

FMV LOOXのコンセプトは、「想像を超える軽さと、創造できる賢さ」
LOOXのブランドには「Look at “X” perience」という意味を持たせた
FMV LOOXの4つのポイント

軽さ、薄さでWindowsタブレット世界一を目指す

――FMV LOOXのコンセプトをもとにした4つのポイントについて聞かせてください。まずは、世界最軽量の「Ultra Light」ですが、13型Windowsタブレットとして、600gを切り、世界最軽量を実現しました。

内田 599gという重量は、どこまで軽くできるのかといった取り組みを、極限まで追求した結果、達成できたものです。当初は、クラムシェルのUH-Xで達成したモバイルノートPC世界最軽量の634gを最低限の目標に設定し、日々の努力の繰り返しで、コンマ1g単位で軽量化を図っていきました。

富士通クライアントコンピューティング プロダクトマネージメント本部第一PM統括部 第三技術部の青木伸次シニアマネージャー

青木 LOOXのブランドからは、軽いというイメージや先進的であるという印象が強いと思います。LOOXというブランドをいままでとは違うものを作らなくてはならないという気持ちが強くありました。構造設計を担当する私の立場から見れば、それは軽さや薄さで、その観点から、これまでにないものを作るということにこだわりました。

――薄さでは、13型Windowsタブレットとしては世界最薄の7.2mmを実現しました。

青木 最終的な目標はiPadよりも薄くすることでした。しかし、インテルCoreプロセッサを搭載するとなると、条件がまったく異ってしまい、放熱のためにどうしても厚さが出てしまいます。それならば、Windowsタブレットで最薄は絶対に譲らないという姿勢で取り組みました。最初は、もう少し厚みがあったのですが、ここは削りに削って、7.2mmを達成しました。

――設計において、最大の難関はどこでしたか。

内田 放熱部分だといえます。薄型、軽量化のために、筐体やユニット部品、基板それぞれの厚みや構成方法を見直しました。CPUには、第12世代インテルCore i7プロセッサを搭載しましたが、開発当初からファンレス設計としました。CPUの発熱が大きくなる中で、効率よく放熱し、軽量化させるかが大きなポイントであり、何度もシミュレーションを重ね、同時に応力解析も行ないながら最適な設計を目指しました。

青木 CPUの上に薄さ0.35mmの薄型ベイパーチャンバーを配置し、さらに、そこからバッテリを挟み込むように2方向に薄さ1mmのヒートパイプを置くことで、装置を薄型化しつつ、CPUの熱を装置全体に拡散するようにしました。

グラファイトシートをカバー面にも貼り付けて放熱効果を高めている

 ヒートパイプを2本にしたのは、放熱効果とともに、2つあるバッテリセルの片側に熱が集中し、バランスが崩れ、バッテリの劣化につながることを回避する狙いもあります。また、グラファイトシートをカバー面とパネル面に貼り、熱を拡散させています。これによって、ファンレスながらインテルCoreプロセッサをしっかりと冷やすことができる構造としています。ファンレス構造にすることを設計当初から決めていたのは、ファンを搭載した途端に薄さは諦めなくてはならないという理由がありました。インテルCoreプロセッサの放熱を、ファンを使わずに、しっかり行なうために、かなり多くのコストをかけ、さらに重量増にもかなりの影響を与えています(笑)。

左側のCPUの上に薄さ0.35mmの薄型ベイパーチャンバーを配置し、そこからバッテリーを挟み込むように2方向に薄さ1mmのヒートパイプが伸びている

内田 その一方で、基板はレイアウトの見直しと、層構成の見直しで、UHシリーズと比較して、面積で約35%減、重量では約40%減となっています。

青木 ここでは、とにかく無駄な配線をしないような部品レイアウトを心がけました。基板は、正方形につくるのが最もいいと言われており、それを目指して、基板の中央部分にCPUを配置し、配線がまっすぐになるようにしました。

随所に軽量化と薄型化へのこだわりがある

内田 バッテリは、フレームレス構造を採用しています、これも軽量化に効いています。FCCLがフレームレスのバッテリを搭載するのは初めてです。薄さは3.91mmであり、35wの高容量を実現し、長時間のバッテリ駆動を可能としています。

小中 FCCLは、かつて防水タブレットを開発したときに、バッテリの実装方法についてノウハウを蓄積してきた経緯があり、今回は、そうしたノウハウも活用しています。

削り出しのアルミユニボディを初めて採用

――筐体には、アルミのユニボディを採用していますね。

青木 FMV LOOXでは、アルミをフル切削したユニボディを採用し、堅牢性を維持しつつ、0.53mmという薄型化を実現しました。アルミのユニボディは、FCCLとしては初めての挑戦ですが、これはiPadやSurfaceと同じ手法であり、タッチパネルでユニボディに蓋をする構造にすることで狭額縁を実現し、デザイン性に優れたものを作ることにつながりました。

 最初はアルミ以外の素材も考えていたのですが、フレームアンテナを採用することや、強度の問題などから、アルミのユニボディに決定しました。アルミにもいろいろとありますが、その中から高剛性のものを選択しています。また、FMV LOOXでも、FCCLの基準である装置全体への200kgfの加圧、35.7kgfの1点加圧試験をクリアし、堅牢性の面でも安心して利用していただけます。

 落下試験では、持ち運ぶことを想定して91cmの高さからの試験を行なっていますし、何度もシミュレーションを行なって、筐体の応力が集中する部分の設計変更を何度も繰り返しました。また、薄さ0.33mmのタッチパネルガラスを採用したことで、UH-Xのタッチパネルと比較して約40%の軽量化を図っています。

小中 FMV LOOXは、防滴仕様になっているのですが、Type-Cポートに水が入っても保護できる仕様としています。雨が直接あたっても大丈夫なほどです。これも持ち運んで利用することを想定した堅牢性の1つです。

――これらの成果は、今後のノートPCの軽量化、薄型化にも反映できるのですか。

青木 かなりコストがかかっている構造ですから(笑)、そのまま応用するのは難しいかもしれません。いまのノートPCの基板は正方形では作れませんし、バッテリ容量ももっと大きくしなくてはなりません。ただ、ノートPCの軽量化、薄型化に生かせる部分もありまし、使える部品もあります。そうした部分は共有していきますし、次のタブレットづくりにもつながるノウハウだといえます。

――生産を行なう島根富士通では、FMV LOOXにおいてはなにか工夫をしている点はあるのでしょうか。

青木 タッチパネルは、非常に薄いものを使っていますから、通常の工程では貼ることができません。そのための治具を開発してもらいました。そのほかにも、いくつもの治具を作ってもらったり、溶着するための機器を導入してもらったり、島根富士通が持つ匠の技術を活用して、量産化に向けた体制を整えてもらっています。

ペンによって広がる新たなタブレットの使い方

FMV LOOXは本体、マグレットスタンド、LOOXキーボード、LOOXペンで構成される

――2つ目の「Creativity」では、世界初となる「Wacom Linear Pen」の採用がポイントですね。

内田 FMV LOOXでは、開発当初からペンにはこだわりたいという思いがありました。ただ、これまでにもペンを採用してきましたが、従来はどちらかというと、エンジニア寄りの視点で、レイテンシや表面摩擦、視差といった指標をベースに、書き心地を追求していました。

 今回は、手法を変えて、実際のペンユーザーからのリクエストやSNSへの書き込みなどのフィードバックを改めて分析し、原点に立ち返り、正確に、ズレがなく、描きやすいことを指標とし、描くことの操作性向上を追求することにしました。

 そうした中、出会うことができたのがWacom Linear Penでした。ワコムさんと話し合いを進める中で、ワコムの井出信孝社長兼CEOから、「FMV LOOXにこの技術を使って欲しい」と了承をいただき、世界初となる「Wacom Linear Pen」の採用が決まりました。

ワコムの次世代Active ESペン技術「Wacom Linear Pen」を世界で初めて採用

 Wacom Linear Penは、ペン先形状を再設計し、シャープな形状で筆記面を見やすくし、描画ポイントを正確に捉え、同時に、画面の隅々まで高いホバー精度を維持することが可能です。また、ペン内蔵ICの新設計により、ペンの傾きによる座標ズレを抑えるほか、様々なペンの持ち方に対応することで、最高の手書きを体験してもらうことができます。

 さらに、新開発の高精度タッチセンサー制御ICを搭載し、直線性は約3倍、正確性は約5倍に性能を向上しています。ペンで書くときの違和感がなくなり、これまでとは違う次元の書き心地を実現しています。

 ワコム開発のメモ用アプリケーション「Wacom Notes」もプレインストールしています。書くことに特化したアプリであり、手書き文字に用語マーカーを引くだけで、その言葉の意味を検索したり、手書き文字をテキスト化したりといったことが可能であり、ペンを活用した新たな使い方を提案できると考えています。

小中 Wacom Notesはオフィスワーカーにとっても最適なものですし、ペーパーレス化を促進したり、データが共有しやすくなったりといったメリットも生まれます。ペンを活用することで、使い方の幅が広がりますし、それによって、様々なユーザーに使ってもらえるようになると思っています。学生にも使ってもらいたいタブレットですし、クリエイターにも使ってもらいたいタブレットです。Windowsタブレットの位置づけを変えることができるとも思っています。

クリエイターが利用するWindowsタブレットを目指すという

――新たなペン技術は、軽量化にはマイナスになっていないのですか。

青木 それはありません。むしろ、ガラスを薄くしてもらったり、フィルムを1枚減らしてもらったり、従来技術よりも軽量化につながっています。ワコムさんには、かなり無茶なお願いをしていますが、それを聞いていただいてます(笑)

PC連携が生むタブレットの新たな活用シナリオ

――PC連携による「Connectivity」、は、今回のFMV LOOXでは、かなりこだわった部分だと聞きましたが。

富士通クライアントコンピューティング コンシューマ事業本部コンシューマ事業部第三技術部の日浅好則部長

日浅 今ご説明したように、FMV LOOXの大きな特徴の1つにペンがあります。開発段階では、ペンを多用すると見られるクリエイターの方々に、実際に使ってもらいその意見を反映しました。

 もともと私たちが想定したのは、FMV LOOXを既存のPCにUSB Type-Cケーブル1つで接続し、「ペンタブレット」として使用してもらうということでした。これに対する評価は高かったのですが、ペンタブレットで書いたものを、オンライン会議やリアル会議の場で共有できないかといった要望があがり、さらに、セカンドディスプレイとしても利用したい、デュアルPCとしても利用したいという声があがりはじめ、それならばこれらの要望にも応え、様々な利用シナリオを提案しようということになりました。結果として、開発規模は当初想定していたものに比べて6倍にも拡大してしまいました(笑)。

セカンドディスプレイモードでの利用シーン

 PC連携は、「クリエイティブコネクト」機能と呼び、メインのPCにキーボードやマウスが接続されていれば、FMV LOOXを接続するだけで接続相手のPCのマウス、キーボードを使ってFMV LOOXを操作できる「デュアルPC モード」、会社や自宅のPCのセカンドディスプレイとして接続して使用できる「セカンドディスプレイモード」、そして、オンライン会議やミーティングにおいて、イメージを手書きで表現したり、共有したりできる「ペンタブレットモード」を用意しています。

ペンタブレットモードでの利用シーン

 デュアルPCモードでは、1つのマウスがPCとFMV LOOXをまたいでもスムーズに利用できますし、動画などのデータ編集時にも、保存した動画や画像をもう1つのデバイスにつないで、すぐに編集作業することができます。セカンドディスプレイモードでは、FMVシリーズのオールインワンデスクトップに接続してディスプレイエリアを広げたりできます。縦向きにも、横向きにも置くことができ、複製表示も、拡張表示も可能です。

デュアルPCモードでの利用シーン

 また、FMV LOOXを、FMVシリーズ以外にも繋げたいという要望も出てくると想定しており、他社PCとの接続についても確認作業を進めているところです。できるだけ多くのPCと接続できるようにしたいと考えています。Windows 10搭載PCを利用しているユーザーの場合には、FMV LOOXをメインマシンとして活用するといったこともできますし、タブレットがメインで、PCがサブという利用方法も想定できます。

 もちろん、FMV LOOX同士をつないで、片方をペンタブレットにして利用するといった活用も可能です。PC連携を実現するクリエイティブコネクトによって、FMV LOOXの用途は大きく広がると考えています。

内田 ちなみに、ソフトウェアという点では、米Tileの探し物トラッカー「Tile」機能を搭載しました。万が一、PCが手元から離れてしまっても、Tile機能が有効になっていれば、スマホアプリを使って、FMV LOOXを探すことができます。

マグネットスタンドとLOOXキーボードの狙いとは

――4つめは、「Beautiful display & sound」ですね。

内田 OLEDおよび4スピーカーの搭載によって、想像を超える美しさを実現しています。スピーカーについては、FCCLのタブレットは2スピーカーが標準でしたが、FMV LOOXでは4つのスピーカーを搭載しました。スピーカーの選定においては、聴き比べを行ない、低域の音圧をキープしながら薄型化を実現するため、凹型振動板を採用した薄型スピーカーユニットを採用しました。薄型化や高音質化については、スピーカーユニットのベンダーにも工夫をしてもらい、これまでにない形状のものを採用しています。

 このスピーカーの性能を最大限に発揮するために、様々な工夫を行ないました。例えば、装置側面の開口部に向けた音道の曲がりを少しでも抑えるために、スピーカーユニットを限界まで傾けて設置するという手法を取っています。テレワークやオンライン授業などでの利用時には、人の声を聞き取りやすくするため、声の帯域を中心に強調し、高域では不要なノイズを抑えつつ、声の帯域を強調することができるボイスモードを搭載しています。

 さらに、スピーカーボックスの樹脂には環境に配慮した海洋プラスチックを採用するといった新たな挑戦を行なっています。OLEDと4つのスピーカー、1,258万画素の背面カメラを搭載したことで、動画を撮影し、それをきれいな画面で、しっかりした音で聴くことができるような仕様にした点も特徴の1つです。

――13.3型のOLEDを選択した理由はなんですか。

青木 市場調査から、タブレットにも大画面が求められていることが浮き彫りになっています。最初から13型でやることは決めていました。ただ、当初は液晶パネルを採用することも検討しました。軽量化するという点では、液晶の方が適していますからね。しかし、液晶パネルは導光板が必要なため、厚みが出てしまいます。

 薄くする手段の1つとして、OLEDを採用することにしました。もちろん、漆黒を表現し、ハイコントラストな画が楽しめること、1msの高速応答によるなめらかで美しい映像を表示できるというOLEDの特徴は重要な要素でした。

――背面には、筐体を立てて利用するためのマグネットスタンドを採用していますね。

内田 お客様の使用シーンに合わせて柔軟に対応できるマグネット式スタンドを標準添付しました。スタンドは、チルト角を広範囲でカバーしており、その角度によって、快適なペン描画を実現します。

 また、キーボード底面と同様、 軽快な持ち運びができるようにソフト質感の表面処理をしています。FMV LOOXは、持ち運んで利用することを想定しており、持ち運んだ時の手触りを重視しています。持ち運び時には、キーボードとマグネットスタンドが、本体を挟み込むような形になりますから、そこを同じ素材にすることを重視しました。これは今回のデザインのなかでもこだわりのポイントだといえます。

――キーボードは、「FMV LOOX キーボード」として、別売りで提供しますね。

内田 ユーザーからは、タブレット向けのキーボードは使いにくいという声が数多く聞かれていました。タブレットだから、あるいは軽量化するからキーボードは妥協するといったことは一切考えず、むしろ徹底的にこだわる部分に位置づけました。

LOOXキーボードでは打鍵感にこだわっている

 PCのキーボードは文字を入力する道具です。そして、キーボートで最も重要に機能は、確実に文字を入力できることです。キーボードは、FCCLのキーボードマイスターである藤川英之が監修し、クラウドファンディングで高い評価を得た「FMV Mobile Keyboard(FMKB)」のノウハウを活用したものになっています。クラムシェルのノートPCと同じ打鍵感を実現できます。

小中 キーボードは直接本体と接続していますから、学校の教室のような多くの人が一斉に利用する環境でも、Bluetoothが混線したりといったことがありませんし、オフィスでも仕事のために快適に、心地よく、そしてしっかりと入力できる環境を実現しています。

――本体、マグネットスタンド、キーボードを組み合わると1kgを超えてしまいますね。
青木 そこはなんとか切りたいと考えていました。実際、それを実現する案もありました。しかし、量産性が悪かったり、使い勝手を犠牲にしたりするため見送りました。

タブレットの新たな使い方を提案できるか?

――2021年5月20日に、富士通パソコンの第1号機「FM-8」の発売から40周年を迎えています。FMV LOOXは、40周年記念モデルですから、2022年5月20日までに発売しなくてはならなかったと思うのですが(笑)、提供開始日が2022年6月中旬になっていますね。

小中 ご指摘のように、本来ならば2022年5月に発売しなくてはならないのですが、サプライチェーンの混乱が続いており、一部の部品の調達に遅れが生じたのが原因です。6月中旬には確実に出荷を開始します。

――製品発表から出荷まで、約3カ月の期間があります。FCCLの開発チームは、発売直前まで追い込んでいく風土があります。さらに軽量化する可能性もあるのではないでしょうか。

小中 そこは、開発チームで話をして、発表時点の数字を最終スペックにしました。開発チームにもさらに突き詰めたいという思いはあったのですが、ここにも、部品確保という問題があり、あまり粘りすぎると、今度は部品が調達できなくなるという課題が発生する可能性があります。

 また、マグネットスタンドの採用をはじめとして新たなことにも挑戦していますから、いままでよりもモノづくりの部分に時間を取りたいといった要素もあります。今回発表したスペックが最終のものになります。

FM-8

――FMV LOOXは、国内PC市場に、どんなインパクトを与えることになりますか。

小中 FMV LOOXによって、新たなタブレットの使い方を提案できると考えています。私たちが想定した使い方はありますが、それだけでなく、ユーザー自らがこんな使い方があるということを見つけてもらえるのではないかと思っています。FMV LOOXは、もこれまでのタブレットの考え方に留まらず、様々な形で利用できるマグネットスタンドを付属したり、打鍵感のあるキーボードを用意したり、PC連携も様々な形で行なえるようにしました。

 USB Type-CやThunderboltの搭載、5Gへの対応などもあります。こうした機能を組み合わせることで、タブレットの使い方が変わったり、使えるエリアが広がったりということが生まれてきたら、FMV LOOXを開発した意味があり、開発チームにとっても達成感といえるものが感じられると思います。

 タブレットは低価格な製品が多いのですが、FMV LOOXが狙っているのは、きちっとしたものを出して、認めていただけるユーザーの方々に使っていただき、そこから使い方を広げていく製品になることです。そうした広がりの中から、製品のバリエーションが生んでいきたいと思っています。私は、FMV LOOXを、タブレットの世界において、ゲームチェンジにつながるデバイスにしたいと思っています。将来につながる新たなタブレットになることを期待しています。