大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

起爆剤なし、価格上昇で、低迷が続いた2022年の個人向けPC市場を振り返る

 2022年の個人向けPC販売は、年間を通じて、前年同月実績を一度も上回ることができず、市場の低迷ぶりが鮮明になった1年だった。

 量販店などのPOSデータを集計しているBCNによると、2022年のPCの販売台数は、コロナ禍前の2019年に比べて約2割減となり、2021年に比べても15.5%減と前年実績も下回った。

 さらに、部材価格の高騰や円安の影響などもあり、販売価格の上昇が顕著に見られた1年であった点も見逃せない。BCNのデータから、2022年の個人向けPC市場を振り返ってみる。

新OSや新CPUは起爆剤にならず

 2022年は、2021年10月にリリースされたWindows 11が、年間を通じて貢献した1年であったこと、同様に、第12世代インテルCoreプロセッサ(Alder Lake)のラインアップが広がり、これも年間を通じて貢献。さらに、後半には第13世代(Raptor Lake)を搭載したデスクトップPCが発売されて話題を集めた1年でもあった。

 だが、個人向けPC市場は低迷している。BCNのデータによると、量販店店頭などにおける2022年1月~12月の個人向けPCの販売台数は、前年比15.6%減となり、ノートPCも15.5%減、デスクトップPCも16.4%減と、いずれも前年割れの実績となった。

 コロナ禍前の2019年を集計のベースとした場合に、テレワーク需要に沸いた2020年は、ノートPCの販売増加により、11.4%増と2019年実績を上回ったものの、2021年は、2019年比で3.0%減の実績。2022年はさらに落ち込み、2019年比18.1%減という結果になった。

 月別推移でみても、2022年の個人向けPCの低迷ぶりが浮き彫りになる。

 BCNのデータによると、2022年は、一度も前年同月比を上回る実績とはならず、前年割れが続いた。

PC販売台数前年同月比

 2019年は、2020年1月のWindows 7のサポート終了に伴う駆け込み需要があり、それに続く2020年はテレワーク需要が販売台数を押し上げた格好になった。だが、2021年にはその反動が顕在化。2022年はそれがさらに進展した格好だ。

 ただ、2022年11月および12月は、デスクトップPCが前年実績を上回り、個人向けPC全体でも、前年割れの水準は1桁台のマイナスにまで巻き返しており、徐々に回復基調にあることが分かる。2023年1月10日にサポートが終了したWindows 8.1からの買い替え需要もわずかながら貢献しているほか、堅調なゲーミングPCの貢献もありそう

 2023年のどのタイミングで、前年実績を上回る形に転換するか、それがどれぐらいの勢いで、どのぐらい持続するのかが注目されるが、残念ながら、2025年10月14日のWindows 10のサポート終了までは、低迷が続くとの見方が支配的ではある。

GIGAスクールの流れを取り込めず

 2022年の低迷については、PC業界内にも反省はある。

 1つは、2020年からスタートしたGIGAスクール構想により、教育現場での1人1台のデバイス環境の整備が行なわれたものの、これを家庭内におけるPC普及にはつなげられなかった点だ。

 それはBCNのデータからも明らかだ。

 PCの販売台数をOS別に見てみると、小中学校向けのGIGAスクール構想では40.1%の構成比を占めたChrome OSは、個人向けPC市場では1桁台のシェアで推移。2022年12月は、わずか2.5%のシェアに留まっている。この結果からも、GIGAスクール構想の導入成果を、家庭向けの需要拡大へとつなげることができなかったといわざるを得ない。

OS別販売シェア

 2つ目はテレワーク需要を一時的なブームに留めてしまった点だ。

 先に触れたBCNのデータでも2020年には、2019年実績を上回ったことが示されているが、その牽引役は、コロナ禍で一気に普及したテレワーク需要だ。実際、2020年のPC販売台数は、ノートPCが16%増となったが、デスクトップPCは17.1%減となった。これは、ノートPCがテレワーク向けとして重宝され、それが反映されたものである。

 この傾向は2021年も続き、ノートPCは2019年に比べて1.8%増と上回る実績を維持。それに対して、デスクトップPCは33%と大幅な減少をみせた。テレワーク需要は維持されたと見てもいいだろう。

 しかし、これが2022年になると、ノートPCが2019年比で13.9%減となり、テレワーク需要の効果が消滅したことが浮き彫りになった。デスクトップPCに至っては44.0%減となり、2019年実績に比べると半減近くにまで落ち込んでいる。

PCの販売台数指数の推移

 公益財団法人日本生産性本部が2022年10月に実施した11回目の「働く人の意識調査」では、テレワーク実施率は17.2%に留まった。日本生産性本部では、コロナ禍となった2020年5月に第1回の調査を行なって以降、継続的に調査を実施。2022年7月の調査では、テレワークの実施率は16.2%と過去最低を記録。最新の2022年10月調査ではそれに次ぐ低水準のままで推移した。この数字をみると、今後のテレワーク利用の定着や広がりには不安を残す結果となっている。

 テレワークの課題としては、「部屋、机、椅子、照明など物理的環境の整備」、「Wi-Fiなど、通信環境の整備」をあげる人が、それぞれ34..9%と3分の1以上を占めていること、前回調査に比べて、「Web会議などのテレワーク用ツールの使い勝手改善」、「営業・取引先との連絡・意思疎通をネットでできるような環境整備」、「押印の廃止や決裁手続きのデジタル化」、「仕事のオン・オフを切り分けがしやすい制度や仕組み」などを課題にあげる人が増加している。

 ただ、その一方で、同調査では、在宅勤務によって「効率が上がった」、「やや上がった」と回答した人は61%に達し、自宅での勤務に「満足している」、「どちらかと言えば満足している」の回答の合計は80%となっている。

 テレワーク利用者の満足度が高いことは、PC業界にとっては追い風だ。そして、まだ解決できる課題が多いということは、裏を返せば、そこにビジネスチャンスがあるともいえる。減速感のあるテレワーク需要を、再び需要の柱にできるかどうかが、個人向けPC市場においても重要な取り組みになる。

個人向けPC市場でASUSが3位に定着

 このほか、BCNが提供したデータから、いくつかの傾向を見てみたい。

 先に触れたように、OS別シェアでは、Chrome OSの苦戦が感じられるが、その一方で、Windowsについては、Windows 11への移行が着実に進展。2022年12月のデータでは81.3%と初めて8割を超えた。日本マイクロソフトでも、Windows 10の時よりも、新OSへの移行が早いことを示している。なお、2022年12月のWindows 10の構成比は5.0%、Mac OSは11.2%となっている。

 メーカー別シェアでも、市場勢力図に少し変化が起きている。

 2022年12月のメーカー別シェアをみると、1位がNECパーソナルコンピュータ(NEC PC)の23.2%、2位が富士通クライアントコンピューティング(FCCL)の20.3%となっているが、3位には15.6%を占めたASUSが入っている。

PCメーカー別シェア推移

 実は、ASUSは、2022年の年間を通じて3位のポジションをしっかりとキープし続けてきた。とくに、ノートPCでは、NEC PCおよびFCCLと肩を並べる実績を持っており、2022年11月には、ノートPC分野では、18.9%を獲得。18.2%のFCCL、16.9%のNEC PCを抜いて、ノートPCの月間トップシェアを初めて獲得した。個人向けPC全体でも、同月は2位に浮上しており、PC市場での存在感を発揮している。

 なお、2022年12月のメーカー別シェアでは、4位がレノボ・ジャパンとなり10.7%、5位がDynabookで7.7%、6位がアップルで7.5%となっている。

 また、2022年12月の実績におけるノートPCのメーカー別シェアでは、NEC PCの22.8%、FCCLの18.6%、ASUSの16%が上位3社となっている。機種別では、NEC PCの「LAVIE N15」のネイビーブルーが1位、同じくパールホワイトが2位を獲得。次いで、FCCLの「FMV Lite 3515/G」、ASUSの「X515JA」と、15型ディスプレイ搭載モデルが上位を独占した。また、5位には17型ディスプレイを搭載したFCCLの「FMV LIFEBOOK NH77/F3 シャンパンゴールド」が入っている。

ノートPCのメーカー別シェア

 デスクトップPCのメーカー別シェアでは、FCCLが34.5%と、約3台に1台を占め、2位を大きく引き離しトップシェアを獲得。次いで、NEC PCの26.2%、ASUSの12.7%となる。一時期はデスクトップPC分野で20%台のシェアを獲得していたこともあったアップルは4位となり、6.7%に留まっている。

デスクトップPCのメーカー別シェア

 機種別になると、NEC PCの「LAVIE A23」が首位を獲得したほか、3位に「LAVIE A27」、4位に「LAVIE A23 ファインホワイト」と、NEC PCのオールインワンデスクトップが上位を独占。27型ワイドディスプレイを搭載した製品も好調だ。2位にはFCCLの「FMV ESPRIMO FH」、5位にはレノボ・ジャパンの「IdeaCentre AIO 370i」が入っている。

LAVIE A27

PCの価格は1年で約1割の上昇に

 2022年のPC市場においては、部材価格の高騰や、物流費の上昇、円安の影響などによって、価格上昇が見られている。NEC PCやFCCL、パナソニック、日本HP、マウスコンピューター、VAIOは、PCの国内生産を行なっているが、部品のほとんどを海外輸入していたり、ベースモデルを輸入して国内で組み立てる方式のため、物流費上昇や円安の影響は避けられないというのが実態だ。

 では、どれぐらい価格が上昇しているのだろうか。まずは、PC全体の平均単価を見てみたい。

 BCNのデータ(価格はすべて税抜き)によると、2020年1月の平均単価は10万3,900円だったものが、その後、10万円台から11万円台前半を前後しながら推移。だが、2022年2月に、11万3,700円となって以降、11万円台中盤への上昇。さらに、2022年10月には12万3,000円となり、初めて12万円台に突入。12月も12万2,200円と高止まりしている。平均単価の上昇と、急激な円安が進展した時期がほぼ重なっており、取り巻く環境の変化が平均単価の上昇に影響していることが分かる。

PCの販売平均単価

 ここで、特定の製品を取り上げて、販売価格の変化を見ていたい。

MacBook Air

 一番分かりやすいのが、アップルの「MacBook Air Retina」である。基本的には実売価格の変動が少ない製品であり、M1チップを搭載したMacBook Air Retinaは、2020年11月に発売以来、10万4,000円を切る価格で販売されていた。だが、2022年6月のM2チップ搭載のMacBook Air Retinaなどの発表とともに、従来製品の値上げも発表。M1チップを搭載したMacBook Air Retinaは、その後、1万円~1万5,000円程度、平均単価が上昇。2022年12月には11万8,100円となっている。

MacBook Airの平均単価推移

 NEC PCの人気モデルであるLAVIE N15でも、発売時点での平均単価を比較してみると、値上がりの傾向が分かる。

 2020年7月にAMDのRyzen 7を搭載したモデルを発売した際には13万5,400円からスタート。その後、徐々に価格は下がっていったが、それでも発売1年を経過しても、13万円台を維持した。これに対して、後継機種となった2021年11月発売のLAVIE N15では、18万2,000円の平均価格からスタート。4万6,600円も高い価格となった。

LAVIE N15の平均単価推移

 さらに、2022年10月に発売となった最新のLAVIE N15では、Core i7となったことで直接比較することが難しいが、発売時の平均単価は21万700円となっており、大幅な価格上昇が見られている。2022年12月の平均単価も20万4,500円を維持している状況だ。

 FCCLの「FMV LIFEBOOK AH」でも比較をしてみよう。

 こちらは4世代に渡って観測してみた。一部スペックの変更があったり、CPUの世代が異なったりするが、いずれもインテルCore i7を搭載している製品で比較をしている。

LIFEBOOK AHの平均単価推移

 2020年7月発売モデルでは、平均単価は15万4,300円でスタート。これに対して、2020年10月モデルは16万7,800円が発売月の平均単価となり、1万3,500円も上昇。2021年10月発売モデルでは18万7,300円からスタートしており、さらに1万9,500円上昇した。そして、2022年6月に発売した製品では、発売月は18万8,000円となり、前モデルと比べて約700円の上昇に留まったが、発売半年後の2022年12月の価格は17万5,800円を維持。前モデルが半年後には14万7,600円にまで平均単価が下落していたのに比べると高止まりしていることが分かる。

 こうした価格に関するデータを見てみると、2022年12月のPCの販売価格は、前年同月に比べて10%強の値上がりになっていると見てもようそうだ。

周辺機器の平均単価も上昇傾向に

 PCのほかに、一部の周辺機器にもフォーカスしてみた。

 例えば、液晶ディスプレイでは、2020年1月の平均単価が2万300円だったものが、2020年12月には2万2,200円に上昇。2021年12月には2万8,000円にまで上昇した。液晶ディスプレイの場合、大画面化が進展すると単価が上昇する傾向にあるため、そうした動向も加味する必要があるが、それでも2022年は年間を通じて2万5000円以上の平均単価で推移。2022年7月には2万9,500円と、3万円直前にまで平均価格が上昇した。液晶ディスプレイの調達価格は大幅に上昇しなかった数少ない部材の1つだが、2022年3月以降は急激な円安の影響が、平均単価の上昇につながったことは明らかだろう。

エプソンのEP-884AW

 もう1つは、インクジェットプリンタの平均単価の推移だ。2020年1月の平均単価は1万4,700円だったが、2020年12月には2万4,000円と約1万円も上昇。その後もほぼ2万円台で推移し、2022年12月の実績でも2万500円となっている。

周辺機器の平均単価推移

 一時はコロナ禍におけるサプライチェーンの混乱で部品の入荷が遅れ、売れ筋モデルの生産にも影響。店頭在庫が確保できなという状況が生まれ、販売が高機能モデルに集中したり、大容量インクタンクモデルの構成比が増加するといったことも、平均単価の上昇には影響している。だが、プリンタメーカー各社の戦略が付加価値モデル中心へとシフトしており、今後も平均単価は2万円台で推移することになりそうだ。

市場活性化の打開策はあるのか?

 今回は、2022年の個人PC市場を取り巻く環境を、BCNのデータをもとに見たみた。

 個人向けPC市場は、依然として厳しい状況にあり、それはもうしばらく続きそうだ。また、PCや周辺機器の平均単価も高止まりのままが続くと想定されており、これも需要拡大に向けた懸念材料の1つといえるだろう。

 PCメーカー各社の声を聞くと、成長が続いているゲーミングPCのビジネス拡大や、テレワーク環境などの充実を図るための周辺機器ビジネスの拡大、さらにはサブスクリプションやサービスビジネスの強化による新たな取り組みなどを、市場活性化の起爆剤にしたいとの姿勢が感じられる。

 だが、これらの取り組みだけでは、低迷するPC市場を回復に転じさせるほどの要素にはならないともいえる。Windows 10のサポート終了まで、あと2年10カ月。その間に、個人向けPC市場を盛り上げるためのなんらかの施策が必要だ。