大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

「NEC村」のなかに建てられた富士通クライアントコンピューティングの新オフィスを見学

FCCLの東京オフィスが入居する三田ベルジュビル

 富士通クライアントコンピューティング(FCCL)が、2019年2月25日から、新設した東京・田町の「東京オフィス」での業務を開始した。営業および広報・プロモーションの拠点を統合。富士通クライアントコンピューティングの齋藤邦彰社長は、「働き方改革の切り口からビジネスをしているFCCLが、自らそれを実践する場として、さまざまな工夫を取り入れたオフィス。効率性を追求するためにデザインにも力を注いだ。ビジネスの成長につなげるオフィスにしたい」と抱負を語る。

 オフィスのデザインを担当したのは、FMVシリーズのデザインを手掛ける富士通デザインの藤田博之氏。FCCLのチーフデザインプロデューサーも兼務する。報道関係者への公開は初めてだ。新設した東京オフィスを突撃取材した。

「NEC村」のなかに富士通?

 FCCLの東京オフィスは、JR田町駅から徒歩4分、都営地下鉄浅草線の三田駅からは徒歩2分の位置にある。

 第一京浜の札の辻交差点の近くに建つ、地上33階建ての三田ベルジュビルの18階フロアが東京オフィスの場所だ。

 田町というと、業界関係者の間ではNECの印象が強い。実際、三田ベルジュビルの隣に建つバンダイナムコの本社ビルは、そのビルが建つまではNECグループが入居していたビルがあり、そこには、旧・NECホームエレクトロニクスが入っていた時期もあった。ちなみに、NECホームエレクトロニクスは、PC-6001シリーズやPC-8001シリーズなどを開発、販売していた会社であり、そのビルがあった隣の場所にFCCLが越してきたというのは、ある意味、感慨深い。

 そして、富士通ブランドのスマートフォン事業を行なっている富士通コネクテッドテクノロジーズも、2018年に東京オフィスを田町に開設。「NEC村」と呼ばれる田町や三田で、富士通の存在感が高まっている。

建物の入口の様子
18階のFCCL東京オフィスの入口の様子
東京オフィスの入口にはFCCLの文字がある
東京オフィスの受付の様子
端末にタッチして受付を行なう
受付の横には最新の製品が展示され、プロジェクタを使った映像でふくまろが出迎えてくれる

働き方改革を実践するオフィスに

 FCCLの東京オフィスに入居したのは、コンシューマ事業本部コンシューマ営業統括部、同ビジネス管理統括部、プロダクトマネジメント本部新規チャネル開発室、コーポレート本部広報・プロモーション室の4つの組織。東京・浜松町の世界貿易センタービルから移転した。

 FCCLの齋藤邦彰社長は、「コンシューマ営業部門からは、山手線内であること、とくに、上野駅から品川駅の範囲が最適だという要望が出されていた。パートナーやサプライヤーの方々に来社していただく際にも、都内の方が便利であり、これまでは、神奈川・川崎市の川崎工場を使ったり、汐留の富士通本社を利用していた。FCCLとして、都内において、パートナー、サプライヤーを迎えることができる環境を整えた」とする。

FCCLの齋藤邦彰社長は、東京オフィスを「働き方改革の実践の場」と位置づける

 FCCLは、2018年5月から、レノボグループが51%を出資、富士通が44%を出資する体制となっており、新生FCCLになってから開設した最初のオフィスということになる。

 齋藤社長は、「働き方改革は、FCCLのPCビジネスにとっては、重要な切り口の1つになっている。それをFCCL自らが実践する場として、さまざまな工夫を取り入れたのが東京オフィス。効率性を追求するためにデザインにも力を注いでいる。新たな働き方によって、効率性を高め、ビジネスの成長につなげることができるオフィスにしたい」と語る。

 同社初となるフリーアドレス制を採用するなど、働き方改革の実践の場として位置づけた新オフィスは、富士通という冠が社名につく会社としては、異例ともいえる思い切ったレイアウトとデザインを採用している。

 富士通グループでは、オフィスのレイアウトや、そこで利用する照明、机や椅子、床の色などに、一定の基準がある。そのため、外資系企業やスタートアップ企業が用いているような新たな働き方に対応したオフィスが作りにくいという環境にあるのが実態だ。オフィス提案を行なっている富士通エフサスが先進的なオフィスづくりをしているが、それ以外は、残念ながら「昭和」のイメージから脱し切れていないオフィス環境が多かった。

 だが、FCCLの東京オフィスは、その殻を破ったものだといえる。そして、このオフィスが、骨組み以外はすべて自由にレイアウトができるスケルトンリフォームであったことも、オフィスデザインの自由度を高めた。

未来を変えることがコンセプト

 FCCLの東京オフィスのレイアウトやデザインを担当したのは、FMVシリーズのデザインを手掛ける、富士通デザインの藤田博之氏だ。長年に渡って、富士通ブランドのPCをデザインしており、現在、FCCLでも、プロダクトマネジメント本部商品企画統括部に兼務で所属し、チーフデザインプロデューサーを務めている。

東京オフィスをデザインしたFCCL プロダクトマネジメント本部商品企画統括部チーフデザインプロデューサー藤田博之氏

 藤田氏は、「東京オフィスのコンセプトは、『We innovate the Future』。未来を作るためのオフィスを目指した」とし、「『We』という言葉に意味がある。これは、FCCLの社員が一丸となって、未来を変えていくという意思を示した」とする。

 だが、続けてこうも語る。

 「未来を変えるという意識を社員が持つためには、企業文化を変えなくてはならない。これまでにも企業文化を変えるために、仕事で利用するツールを変えたり、ドレスコードを変えたり、外出先で仕事ができるようにしたりといったことをしてきたが、結果として、スーツから抜けきれなかったりといったように成果は留まっていた。今回の東京オフィスは、ワークプレイスという箱から変えることになり、そこで働くことになるという強制力がある。これまでは、富士通グループの社員は、与えられた場所で働くということが前提だったが、そこから変えていくことにした」とする。

 オフィスのコンセプトについては、東京オフィスで働くことになる社員が約20人参加して、3回に渡るワークショップを開催。そこに、藤田氏をはじめとする富士通デザインのデザイナーのほか、空間デザインからの意見を得るために富士通デザインに所属する一級建築士やインテリアコーディネータなどがサポートする形で参加。「どんな職場にしたいか」ということを、自分たちで考えてもらった。

 つまり、総務部門が作るオフィスではなく、社員自らが働きたい環境を考え、それを具現化していったのだ。

 ワークショップの参加者の選定には、年齢や職歴、ポジションなどの制限は設けなかったが、「積極的に発言する人」という条件だけをつけた。結果として、若い社員が中心に参加。活発な意見交換が行なわれたという。

 8チームに分かれて自由に意見を出し合った結果、部門を超えたコミュニケーションができること、情報を可視化できること、集中とリラックスができることなど、ポジティブに社内を変えていくための意見が出てきたという。

役員には個室が用意されている
ここが齋藤邦彰社長の部屋
社長室で執務中の齋藤邦彰社長

Good View Officeの意味とは?

 こうした意見を取りまとめて、藤田氏が打ち出したオフィスのデザインコンセプトは、「好きな場所で働く―Good View Office」であった。

 藤田氏は、「ストレートに、『眺めのいいオフィス』という意味でとらえられがちだが」と笑いながら、「人と人が積極的にコミュニケーションする景色や、社員が高いモチベーションを持って仕事ができる環境、仕事がスピード感を持って効率的に行なえる場所、そして、ビジネスを展望できるオフィスであることを目指した。それをGood View Officeという言葉で表現した」という。

 実際、東京オフィスは、活発なコミュニケーションを行なったり、効率的に仕事を行なうための工夫が随所に凝らされている。

 1つは、FCCLとして、初めてフリーアドレス制を採用したことだ。

 管理部門であるコンシューマ事業本部ビジネス管理統括部は固定席となっているが、コンシューマ事業本部コンシューマ営業統括部、プロダクトマネジメント本部新規チャネル開発室、コーポレート本部広報・プロモーション室は、基本はフリーアドレスだ。

 だが、初のフリーアドレス制の導入ということもあり、部門ごとに、ある程度、場所が決められている。営業部門は白い机、コーポレート本部広報・プロモーション室は木目の机である。営業部門の机には、ディスプレイが設置され、同時に、スマートフォンを充電するためのコンセントも用意されている。営業担当者が、東京オフィスに帰ってきて、ノートPCをつないで大画面で作業をしたり、すぐにスマートフォンを充電しやすい環境を整えている。

 また、コーポレート本部広報・プロモーション室が木目の机に集まるかたちにしたのは、とくに、発表前の製品などにおいて、事前の情報が、出張者を含む他の部門に、むやみに漏れないようにするという狙いがあるという。

東京オフィスの執務エリアの様子
床は落ち着いた配色としている。今後は観葉植物を配置する予定だという
中央部には大きな机を配置。部門を超えたコミュニケーションを行なえるようにしている
簡単なミーティングはファミレス型ソファで行なえる
カラフルな配色が、オフィス内に活気を与える
営業部門の席は白を採用。液晶ディスプレイに接続して作業が行なえ、スマートフォンの充電にも配慮した
木目調の机は、広報・プロモーション部門が利用している
机の中央部にコンセントなどが収納されている
オープンなエリア。仕事をしたり、簡単な打ち合わせができたりする。ちなみに食事はどの席でも可能だ
移動可能なホワイトボードを用意している
窓際に設置されたミーティングエリア。異なる高さの机を配置している
リラックスしながら会話をすることができるエリアもある
集中して仕事をするのに適した集中席。予約制で利用できる
集中席は熱意(赤)、冷静(青)、開放(黄)をイメージした3色を用意

 2つめは、オフィスの中央部分にコミュニケーションができる場所を設置した点だ。

 執務エリアはL字型の形状をしており、固定席の管理部門と、フリーアドレスの営業部門およびプロモーション部門に分かれている。その中央部分にフリーに使えるハイデスクや、オープンなスペースを用意。さらに、近い将来にはコンビニ機能も備えるカフェを設置して、すべての部門の社員が交流できる環境を実現した。ちなみに、飲食はどの座席でもできるようにしているという。

 「L字型の構造となっていることや、奥の部分に管理部門が固定席で配置されていることから、社内が分断されることが考えられた。新たなオフィスでは、人と人が積極的にコミュニケーションすることを目指しており、中央のエリアを活用することで、こうした課題を方決することができる」という。

 昼食時や気分転換したい場合には、このエリアに集まって、異なる部門の社員が会話をするといったことが始まっている。

 3つめは、ミーティングルームの考え方だ。

 扉が閉じられた形で会議ができるミーティングルームは、執務エリアには、わずか1つだけが設置された。あとは、ゲストエリアに設置された40人以上が入ることができる大会議室が1つと、10人強が着席できる中会議室、そして、小会議室が2つ用意されている。

 これまでの浜松町のオフィスでは、合計で11の会議室が用意されていたのに比べると、約半分に減らしている。しかも、従来は、富士通のテクノロジーソリューション部門などが同居していたこともあり、会議室は常に満杯の状態であった。それでも、会議室の数は一気に減らす判断をした。

 その代わりに、社内にはファミレス型のソファを用いたエリアや、窓際の眺めのいい場所などにもミーティングエリアを配置。さらに、すぐに会議できるようなオープンスペースを随所に用意した。これらのエリアは、予約することなく、利用できるようにしている。

 「さっと集まって会議ができる環境を作った。また、会議室を1時間予約すると、議論が終わっているのに、1時間という時間を最後まで利用して会議をしようという流れが生まれがちになる。会議室を減らして、予約が不要なオープンスペースで会議をすることは、こうした効率性の悪さも解決できると考えた」とする。

 ちなみに、5つの会議室には、それぞれ名前が付けられているが、これは世界的に有名な映画をモチーフにしている。「色や山、都市名のほか、生産拠点の島根富士通が『神話の国』である出雲にあることから、神々の名前も検討した。だが、レノボグループからの出張やサプライヤーをはじめとする海外からの来客者にもわかりやすい名前にした」という。

 題材となった映画そのものが、創造性が発揮された作品ということもあり、「会議室から創造性を刺激し、創造性を喚起する場所となること、想像を超えるものを生み出す空間という意味も込めた」という。

 会議室の名称については、パートナーやサプライヤーの方々に来社してもらい、そこで確認をしてもらいたいと期待をもたせる。

大会議室は40人以上が入れる。製品発表などにも利用するという
こちらは中会議室
小会議室は2つ用意されている
社員専用に完全に閉じられた環境の会議室はこの1室だけだ

名実ともに、「Good View Office」を実現

 東京オフィスには、そのほかにも、いくつかのこだわりがある。

 社員は、持ち物を1人1人に与えられたロッカーに入れることになるが、そのエリアを区切ったかたちにすることで、そこを通過するさいにも声をかけて社員同士が挨拶しやすい環境を作ったり、眺望の良さを活用して、リラックスしながら会話ができるエリアを用意したりといったことも行なった。会議に使用するホワイトボードも稼働式としている。

 一方で、集中して仕事をするのに適した集中席を用意。これは予約制として、1人の社員が独占しないように配慮した。

社員用のロッカー。社員の備品はここに入れておく
社員の備品はこの箱のなかに入れて移動する仕組みだ
ロッカーのなかでは、ノートPCの充電ができるようになっている
ロッカーの反対側にはコートをかける場所を用意。狭いエリアとして区切ったのは、ここをきっかけに社員同士の会話が始まるという狙いもある

 さらに、仮眠ができる休憩ルームや、医師などによる指導を行なうためのヘルスコンサルテーションルームも用意している。

 また、ゲストエリアは、長めの廊下を設置して、そこにさまざまな情報を発信できる場所に活用することを想定したり、会議室の前には、FCCLの最新の製品を展示し、プロジェクターを使った映像でふくまろが出迎えたり、FCCLに関する最新情報を放映するといった工夫を凝らした。

ヘルスコンサルテーションルームを用意
こちらは休憩ルーム。仮眠ができるようになっている
カフェを社内に設置。今後、簡単なコンビニの機能を持たせるという
現時点では電子レンジとポットだけが置かれていた

 ちなみに、近隣のビルに比べても高層化されたビルのため、18階からの眺望はいい。フロアの四方は、大きな窓ガラスで構成されており、それぞれの角度から東京の景色を見ることができる。東京タワーやレインボーブリッジなどを見ながら、リラックスして仕事ができる環境も整えられているというわけだ。

 名実ともに、「Good View Office」を実現しているといっていいだろう。

オフィスからの眺望。東京タワーやNEC本社、東芝本社が見える
建設中の高輪ゲートウェイ駅も見える

FMVのデザインとの共通項は?

 FMVのデザインを担当してきた藤田氏にとっても、オフィスのデザインはさまざまな学びがあったという。

 そこで、新東京オフィスに、FMVのデザインのノウハウがどう生かされているのかを聞いてみた。

 藤田氏は、「その点は、あまり意識はしてしなかった」と前置きしながらも、「固すぎず、遊びすぎずという点では、FMVのデザインの考え方と共通する部分がある」とする。

 これまでにはない固くない雰囲気を持ったオフィス環境を実現しながらも、外資系企業やスタートアップ企業のオフィスにありがちな、卓球台やビリヤード台を置いたりといったことは行なわず、遊び要素は持ち込まなかった。

 「FMVシリーズは、人に寄り添うコンピューティングの実現を目指している。人に寄り添うPCを創造するための、人に寄り添ったオフィスが実現できたと考えている」と振り返る。

 じつは、JR南武線の武蔵中原駅前にある富士通川崎工場内の開発部門は、2019年10月をめどに、同じエリアの新オフィスへ移転する予定だ。また、東京・浜松町の世界貿易センタービルにいる残りの部門も、新たな武蔵中原のオフィスと、田町の東京オフィスへと移転することになる。

 武蔵中原の新オフィスについても、今回と同様に働きやすい環境を模索する予定であり、東京オフィスでのノウハウを活用する一方で、東京オフィスと同様に、そこで働くことになる社員の意見を反映するために、すでにワークショップを開催しているという。

 FCCLは、2019年10月以降、設計、開発、営業、マーケティング、管理のすべての部門が新たなオフィス環境で働くことになる。そこから生まれるFMVシリーズが、どう変わるのか。今後のオフィスのさらなる進化とともに、FMVの進化にも注目したい。

文具類は1カ所に統合。個人では持たずに使い終わったらこの場所に返す
複合機は利用者が個人認証して利用できるようにしている
オフィスサービスセンター。出張のさいのチケットの手配なども行なってくれる