山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
13型にして超軽量579gのフラグシップモデル!「13インチiPad Pro」
2024年5月24日 06:13
Appleから、12.9インチiPad Proの後継となる「13インチiPad Pro」が登場した。
iPad Proは、この数年間はマイナーチェンジのみで、大掛かりな変更は行なわれていなかったが、今回のモデルは大幅な薄型化と、それに伴う軽量化という目玉がある。ほぼベゼルレスと言っていいデザインゆえ、正面からの見た目は変わらないが、フルモデルチェンジと言っていい進化だ。
今回は、筆者が購入した256GBのWi-Fiモデル(シルバー)を、世代が2つ古い第5世代モデル(2021年発売)、および本製品と同時に発表された13インチiPad Airと比較しつつチェックする。
タンデムOLED採用で輝度も大幅向上。一部後退した仕様も
まずはスペックを比較してみよう。なお従来モデルのiPad Proは、以下の表では直近まで販売されていた第6世代となっているが、写真は第5世代を用いている。外観の相違はほぼないが、ご了承いただきたい。
13インチiPad Pro | 12.9インチiPad Pro(第5世代) | 13インチiPad Air | |
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発売 | 2024年5月 | 2021年5月 | 2024年5月 |
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部) | 281.6×215.5×5.1 mm | 280.6×214.9×6.4mm | 280.6×214.9×6.1mm |
重量 | 579g | 約682g | 617g |
CPU | Apple M4チップ 3つの高性能コアと6つの高効率コアを搭載した9コアCPU 10コアGPU ハードウェアアクセラレーテッドレイトレーシング 16コアNeural Engine | Apple M1チップ 4つの高性能コアと4つの高効率コアを搭載した8コアCPU 8コアGPU 16コアNeural Engine | Apple M2チップ 4つの高性能コアと4つの高効率コアを搭載した8コアCPU 10コアGPU 16コアNeural Engine |
メモリ | 8GB(256GB、512GBストレージ搭載モデル) 16GB(1TBまたは2TBストレージ搭載モデル) | 8GB(128GB、256GB、512GBストレージ搭載モデル) 16GB(1TBまたは2TBストレージ搭載モデル) | 8GB |
画面サイズ/解像度 | 13型/2,752×2,064ドット(264ppi) | 12.9型/2,732×2,048ドット(264ppi) | 13型/2,732×2,048ドット(264ppi) |
通信方式 | Wi-Fi 6E(802.11ax) | Wi-Fi 6(802.11ax) | Wi-Fi 6E(802.11ax) |
バッテリ持続時間(メーカー公称値) | 最大10時間(38.99Wh) | 最大10時間 | 最大10時間(36.59Wh) |
コネクタ | USB-C(Thunderbolt / USB 4) | USB-C(Thunderbolt / USB 4) | USB-C |
スピーカー | 4基 | 4基 | 2基 |
生体認証 | Face ID | Face ID | Touch ID |
価格(発売時) | 21万8,800円(256GB) 25万4,800円(512GB) 32万2,800円(1TB) 39万800円(2TB) | 12万9,800円(128GB) 14万1,800円(256GB) 16万5,800円(512GB) 21万3,800円(1TB) 26万1,800円(2TB) | 12万8,800円(128GB) 14万4,800円(256GB) 18万800円(512GB) 21万6,800円(1TB) |
まず画面サイズは、従来の12.9インチから長辺方向に20ピクセル、短辺方向に16ピクセル大きくなり、これに連動して筐体サイズも従来よりわずかに大きくなっている。従来のように、ベゼルの幅がスリムになったことで筐体サイズは同じながら画面サイズが拡大している──というわけではない。
一方で、筐体の厚みは5.1mmと、iPadとしては歴代最薄になっている。初代iPadが13.4mmもあったことを考えると、この十数年の進化を感じさせる。薄型化で気になる剛性については、Appleは十分な対策をしているとコメントしているが、不安に感じる人は、より強度を重視した保護ケースを選ぶとよいだろう。
ディスプレイは従来のミニLEDから、OLEDパネルを重ねたタンデムOLEDへと変更され、輝度が最大600cd/平方mから1,600cd/平方m(HDR時)へと向上している。電子書籍ユースへの影響は大きくないが、屋外で撮った写真などでは素人目に分かるレベルで見た目の差が現れる。クリエイターならば買い替えの理由になるだろう。
そのほか相違点としては、従来モデルに搭載されていた超広角レンズがなくなり、通常の広角レンズのみへと変更されたことが挙げられる。カメラ機能を重視していたユーザーにとっては、やや機能が後退した格好で、少々気になるところではある。このほか5基あったマイクが4基になったりと、スペックダウンと言って差し支えない箇所がちょくちょくある。
このほかラインナップから128GBモデルが消滅し、最小容量が256GBになったのも従来からの変化だが、これはiPad Airに新たに13インチモデルが用意されたことで、守備範囲の見直しが図られたためと考えてよいだろう。なお1TBモデルと2TBモデルのみ、Nano-textureディスプレイガラスのオプションが追加されている。
歴代最薄5.1mmのインパクトは強烈。軽さもポイント
実機を手に取って驚くのは、やはりその薄さだ。これまでのiPadはエントリーモデルからこのiPad Proに至るまで、どれもほぼ同じ厚みだっただけに、本製品の5.1mmという薄さはかなりのインパクトがある。ちなみに同時発売の11インチiPad Proは5.3mmとのことで、大画面の本製品のほうが薄いのが面白い。
他社タブレットでは5mm台のモデルもいくつかあるが、見慣れたiPadのデザインでこの厚みであるインパクトは大きい。かつて初代iPadがiPad 2にモデルチェンジした時、あまりの差に驚いたことがあったが、その再来と言ってよい。
もっともここまで薄いと、その剛性が気になるところ。これら堅牢性を検証している海外動画を見る限りでは、長辺よりもむしろ短辺側、特に中央のUSB Type-Cポートの部分から折れやすいという結論が出ているようなので、USB Type-Cポートのある位置に垂直向きの強い力が加わらないよう注意したい。
またこの薄型化により、重量も579gと、従来モデルよりも大幅に軽くなっている。10型クラスのタブレットでも重い製品は500gを超える場合があるので、本製品の異常な軽さが分かる。本体の厚みと違い、重量は手で長時間保持する場合にダイレクトに関係してくるので、実利用への影響はこちらのほうが大きい。
ちなみに別売のApple Pencilは、従来と同じく、本体上面にマグネットで吸着させて充電を行なう仕様になっている。もっとも本体が薄くなりすぎたせいで、側面に吸着させたApple Pencilの径のほうが太いという、逆転現象が起こってしまっている。このあたり、異常ともいえる薄さがあちこちに影響してきている印象だ。
パフォーマンスについて、同時発売の13インチiPad Airとの差を参考までに掲載しておく。やはりM4のパワーは圧倒的で、ベンチマークのスコアもかなりの差がつく。電子書籍ユースではこのパワーを生かす場面はあまりないだろうが、その他の用途では活きてくるだろう。
以下、本製品と第5世代12.9インチiPad Pro、および13インチiPad Airとの外見の違いを写真で紹介しておく。ざっとご覧いただければ分かるように、厚みの差、およびカメラの違いは目立つものの、全体としてはそっくりで、並べてようやく気づく違いも少なくない。
没入感の高い読書が可能。雑誌の見開き表示にも対応
では電子書籍ユースについて見ていこう。サンプルには、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、テキストは夏目漱石著「坊っちゃん」、雑誌は「DOS/V POWER REPORT」の最終号を使用している。
画面サイズは13型ということで、タブレットとしては最大級と言っていいサイズ。最近は15.6型など、さらに大型のAndroidタブレットも登場してはいるが、本製品はアスペクト比が4:3と紙の本に近いため余白部分が少なく、それゆえ没入感も高い。アスペクト比16:10であることが多いAndroidタブレットではこうはいかない。
解像度は264ppiと従来と同じで、雑誌を見開きにした状態でも、細かい注釈部分を問題なく読むことができる。文字がまったく潰れないというと嘘になるが、きちんと意味が通じるレベルでは読み取れるし、仮に読みにくい場合でもピンチインアウトの操作はスムーズに行なえる。
本製品と同時発売の13インチiPad Airと比べた場合はどうだろうか。13インチiPad Airもアスペクト比は4:3であるため、差別化ポイントにはならない。また画面サイズや解像度、画面のコーティングなどの仕様もほぼ横並びときている。リフレッシュレート120HzのProMotionテクノロジーは非対応だが、電子書籍ユースでこの違いを感じる機会はあまりないだろう。
唯一大きく異なるのは、タンデムOLED採用による画面の明るさだ。具体的には、本製品が最大1600cd/平方m(HDR時)、iPad Airが最大600cd/平方mと差があり、屋外で撮影した風景写真を表示すると、600cd/平方mでは表現しきれない雲の細かいディティールが、本製品であれば描写されたりする。
ただしそれらの差が出るのは色域の広い元写真あってのもので、電子書籍ユースでは単に白い部分がより明るいという程度の違いしかない。グラビアの多い雑誌などではディティールが見えやすくなる可能性はあるが、読書体験に差をもたらすかというと微妙なところだ。
逆に本製品はまぶしすぎて、明るさを下げなくてはいけないなど、必ずしも強みにならない場合もある。特にふだんから画面の輝度を下げて読書しているユーザーであれば、このタンデムOLEDのメリットはいまいち実感しにくいだろう。
なお本製品は、1TBと2TBモデル限定で、反射率の低いNano-textureディスプレイガラスという専用オプションが用意されている。今回は試用していないので具体的な性能は未検証だが、これを追加することでiPad Airとの差が出る可能性はある。価格差は1.6万円とそこそこ高価だが、選択肢に入れておきたい。
電子書籍ユースに限ればiPad Airと大差なし
以上のように、同じ13型であっても、同時発売の13インチiPad Airとは数々の差があるが、電子書籍ユースに限るのであれば、わざわざ本製品に手を出さなくとも、iPad Airで十分、というのが本稿の結論だ。
もし電子書籍ユースでiPad Airではなく本製品を選ぶ理由があるとすれば、それはズバリ軽さと薄さを優先する場合だろう。せっかく購入するのであればハイエンドな製品を選ぶという考え方を否定するものではないが、最小構成で約9万円という価格差は、相当大きなハードルとなるはずだ。
もっとも本製品の場合、本来の利用目的が別にあり、そのついでに電子書籍のビューアとして使うケースが多くを占めるはずで、むしろそちらを基準に判断したほうがよいだろう。今回試用したのは256GBモデルだが、1TBモデルと2TBモデルはメモリ容量が倍の16GBということで、ハイエンド指向のユーザーは考慮に入れておきたい。
なお同じiPad Proからの買い替えに関しては、やや慎重に判断したほうがよい。というのも超広角レンズが省かれていたり、マイクの個数が減ったりと、ハードウェア面で従来よりもスペックダウンしている場合があるからだ。後継だからといって従来モデルをあらゆる面で上回っているわけではないことは、買い替えの場合は特に、念頭に置いておいたほうがよさそうだ。