山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
電子書籍に向いた「こういうのでいいんだよ」的なモデル――「13インチiPad Air」
2024年5月22日 06:16
Appleから「13インチiPad Air」が新たに登場した。従来、電子書籍を大画面で楽しもうとした場合、この前後のサイズでは12.9インチiPad Proが選択肢として存在したが、プロユースゆえ価格も高く、電子書籍を読むためだけに入手するにはややハードルが高かった。
今回の13インチiPad Airは、プロユースのiPad Proと、エントリーモデルのiPadの中間にあたるスペックを備えつつ、13型という、iPadとしては最大級の画面サイズを実現している。しかもiPad Proと比べるとリーズナブルと来ている。
いかんせん円安の影響もあり、ベースとなる価格が高すぎるのは困りものだが、同時発売の13インチiPad Proが最小構成で20万円を超えているのと比べ、12万円台から入手可能である本製品は、ハードルが低い選択肢であることに変わりはない。
今回は、筆者が購入した13インチiPad Air(128GB)を、2021年発売の第5世代12.9インチiPad Pro、および同時発売になった13インチiPad Proと比較しつつチェックしていく。
従来の12.9インチiPad Proを「Air化」したモデル
まずはスペックについて見ていこう。ちなみに先日まで現行機種だった12.9インチiPad Proは2022年に発売された第6世代(M2)だが、ここでは機材その他の関係で、2021年発売の第5世代(M1)と比較しているので、必要に応じて読み替えていただきたい。ちなみに第6世代と第5世代は外観上の差はない。
13インチiPad Air | 12.9インチiPad Pro(第5世代) | 13インチiPad Pro | |
---|---|---|---|
発売 | 2024年5月 | 2021年5月 | 2024年5月 |
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部) | 280.6×214.9×6.1mm | 280.6×214.9×6.4mm | 281.6×215.5×5.1 mm |
重量 | 617g | 約682g | 579g |
CPU | Apple M2チップ 4つの高性能コアと4つの高効率コアを搭載した8コアCPU 10コアGPU 16コアNeural Engine | Apple M1チップ 4つの高性能コアと4つの高効率コアを搭載した8コアCPU 8コアGPU 16コアNeural Engine | Apple M4チップ 3つの高性能コアと6つの高効率コアを搭載した9コアCPU 10コアGPU ハードウェアアクセラレーテッドレイトレーシング 16コアNeural Engine |
メモリ | 8GB | 8GB(128GB、256GB、512GBストレージ搭載モデル) 16GB(1TBまたは2TBストレージ搭載モデル) | 8GB(256GB、512GBストレージ搭載モデル) 16GB(1TBまたは2TBストレージ搭載モデル) |
画面サイズ/解像度 | 13型/2,732×2,048ドット(264ppi) | 12.9型/2,732×2,048ドット(264ppi) | 13型/2,752×2,064ドット(264ppi) |
通信方式 | Wi-Fi 6E(802.11ax) | Wi-Fi 6(802.11ax) | Wi-Fi 6E(802.11ax) |
バッテリ持続時間(メーカー公称値) | 最大10時間(36.59Wh) | 最大10時間 | 最大10時間(38.99Wh) |
コネクタ | USB-C | USB-C(Thunderbolt / USB 4) | USB-C(Thunderbolt / USB 4) |
スピーカー | 2基 | 4基 | 4基 |
生体認証 | Touch ID | Face ID | Face ID |
価格(発売時) | 12万8,800円(128GB) 14万4,800円(256GB) 18万0,800円(512GB) 21万6,800円(1TB) | 12万9,800円(128GB) 14万1,800円(256GB) 16万5,800円(512GB) 21万3,800円(1TB) 26万1,800円(2TB) | 21万8,800円(256GB) 25万4,800円(512GB) 32万2,800円(1TB) 39万0,800円(2TB) |
本製品のスペックをざっと見れば分かるように、13型という大画面こそ目立つが、それほどエッジの効いた特徴はない。同時に発売された13インチiPad Proは、史上最薄となる5.1mmのフラットさが大きな特徴だが、本製品は6.1mmということで、従来のiPad Proよりは薄いものの、そこまで強烈なインパクトはない。
またCPUはM2ということで、M4を採用する13インチiPad Proとはしっかり差別化されている。カメラについても同様で、LiDARスキャナなども搭載しないシングルレンズ仕様となっている。従来の12.9インチiPad Proのスペックをほぼ維持しつつ「Air化」したモデルと考えるのが正しい。
従来モデルと異なる点として、前面カメラの位置が短辺側から長辺側へと移動していることが挙げられる。画面を横向きにした場合に中央に来る配置で、同時発売の13インチiPad Proもこの変更を踏襲している。
ちなみに本稿では取り扱わないが、Apple Pencilは、同時発売のApple Pencil ProとUSB Type-Cモデルには対応するものの、従来の第2世代には対応しない。既存のiPad Airから買い替えるとなると、多くの場合はApple Pencilも買い替えが必要になるので要注意だ。
大型版の「Air」。よくも悪くもインパクトはない
実機を手に取った印象だが、画面が大型化したiPad Airということで、よくも悪くもインパクトはない。従来の10型クラスのiPad Airを所有している人であれば、画面サイズが大きくなっただけという理解で問題ない。
ちなみに本製品は13インチを名乗っているが、画面サイズは従来の12.9インチiPad Proとまったく同じ。製品名における小数点以下の値が切り上げられているだけだ。またベゼルの厚みも同一で、ここだけ見ていると区別はつかない。
一方で本製品と同時発売の13インチiPad Proは、同じ「13インチ」でありながら本製品よりも画面がわずかに大きく、ベゼルはわずかに狭いなど、非常に紛らわしい。個人的には本製品については12.9インチという呼び方を踏襲していてもよかったのではと思う。
iPad Airの特徴の1つである、電源ボタンと一体化したTouch IDは変わらず搭載されている。ロックが解除されるまでにワンテンポ間があるFace IDよりも、本体を持ち上げて顔の前に持ってくるまでにロック解除が完了するTouch IDのほうが、小回りが効いて使いやすいと感じる人も多いだろう。
重量は公称617g、実測では622g。従来の12.9インチiPad Proと比べると60gほど軽くなっている。スマホにおける60gと異なり、タブレットにおける60gはそれほど大きな差ではないが、それでも空中で長時間保持しがちな電子書籍ユースにおいては、軽量化の恩恵は大きい。
一方で、本製品と同時発売の13インチiPad Proは、重量が公称579gとさらに軽く、いったんこちらを手に持ってしまうと、本製品がやたらと重く感じられるようになる。予算の関係で本製品を選ばざるを得ない人は、13インチiPad Proはなるべく手に取らないようにしたほうが賢明だ。詳細は次回のレビューで紹介する。
なお電子書籍ユースには直接関係しないが、iPad Proとの相違点として、iPad Proはスピーカー4基/マイク4基のところ、本製品はスピーカー2基/マイク2基であることが挙げられる。実際に聴き比べた限り、音のクオリティの差はかなりあるので、動画や音楽の再生などの用途では、考慮したほうがよいだろう。
ベンチマークについては、第5世代12.9インチiPad Proとの比較で、十数%増しとなっている。SoCが本製品はM2、第5世代12.9インチiPad ProはM1なのが主な要因だろう。世代が2つ古いとはいえ、iPad Proを上回っているのは好印象だ。なお最新の13インチiPad Proとの比較は、次回のレビューで紹介する。
余白も少なく画面サイズを生かせる電子書籍向きの仕様
電子書籍ユースについて見ていこう。サンプルには、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、雑誌は「DOS/V POWER REPORT」の最終号を使用している。
画面サイズは13型ということで、iPadとしては最大級のサイズ。最近はこれを超えるサイズのAndroidタブレットも複数市販されているが、それらは画面がワイドサイズゆえ余白が大きく、思ったほど大きく表示できないこともしばしば。本製品はアスペクト比が紙の本に近い4:3ゆえ余白が少なく、表示領域を有効活用できている。
表示のクオリティについては第5世代12.9インチiPad Proとまったく同じで、見比べても違いは感じない。ちなみに同時発売の13インチiPad Proと比べると画面がやや暗いが、これはタンデムOLEDを採用した13インチiPad Proが明るすぎるという解釈のほうが妥当だろう。
このほかiPad Proとの相違点として、リフレッシュレート120HzのProMotionテクノロジーに対応しない点が挙げられるが、これについても電子書籍ユースでは違いを感じることは少ない。
また13インチiPad Proとの相違点としては、先に述べた重量差があるが、これは13インチiPad Pro(公称579g)が軽すぎるからであって、これを本製品のマイナス点として挙げるのはやや筋違いだろう。総じて、電子書籍ユースには十分なスペックという評価になる。
ちなみに大画面のiPadということで、使い方として考えられるのが、画面を分割して表示する「Split View」だ。電子書籍を読みながら、SNSなどをチェックしたり、メモを取ったりと、多彩な使い方が可能だ。新しい機能ではないが、本製品で初めて大画面のiPadに触れる人は、ぜひ試してみたいところだ。
なおしばらく電子書籍ユースで使っていて気になったのは、トップボタンが意外と軽く感じること。同じトップボタン搭載のiPad AirやiPad miniと比べて硬さは同等なのだが、本製品は重量があるぶん持ち上げた状態では手が力んでしまい、ボタンに触れた時の力加減が難しくなるせいではないかと考えられる。
そのためか、トップボタンをうっかり押し込むところまでは行かなくても、指が表面に触れてしまい、想定外の動作をすることは稀にある。必要に応じて設定を変更しておくことで、快適に使えるようになる。
「こういうのでいいんだよ」という仕上がり
以上のように、本製品は従来の12.9インチiPad Proをベースに、フォームファクタをiPad Airに仕立て直したモデルであり、それゆえ電子書籍ユースにおいて不足は何ら感じない。エッジの効いた機能こそないが、大画面表示に適したiPadが欲しかったユーザーからすると「こういうのでいいんだよ」という印象だ。
またiPad Airのフォームファクタに則っているがゆえに、Touch IDが使えるのも利点といえる。前面カメラの配置が変わったとはいえ、Face IDは人によって評価が分かれるだけに、Touch IDのほうが使いやすいと感じる人にとっては、iPad Proではなく本製品を選ぶ動機の1つになるはずだ。
実売価格は最小構成の128GBモデルで12万8,800円。今回比較対象として紹介している第5世代12.9インチiPad Proが2021年に発売された時の価格とほぼ同じで、円安の影響を実感させられる。円安がなければ10万円を切っていた可能性もあり、そこは率直に惜しいと感じる。
とはいえ、「雑誌を原寸大で読めるタブレット」という条件において、現行の最良の選択肢であることに違いはない。今後しばらく、サイズ別のおすすめ電子書籍端末を挙げた時に、常連として名が挙がりつつけるであろう1台だ。