山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
エントリー向け大画面「iPhone 14 Plus」で電子書籍を試す。上位のProモデルとは異なる利点とは?
2022年10月12日 06:29
Appleの「iPhone 14 Plus」は、6.7型の大画面を備えたスマートフォンだ。エントリー向けであるiPhone 14の大画面版にあたる製品で、上位の「iPhone 14 Pro Max」から望遠カメラなど一部の機能を省きつつ、軽量化、および低価格化を実現した1台だ。
新たに登場したiPhone 14シリーズでは、従来のminiモデルがラインナップから消滅し、大画面版のPlusモデルが新たに追加された。開発段階では「iPhone 14 Max」という名称だったとのことで、つまりProモデルではない大画面版iPhoneということになる。
エントリー向けと呼ぶにはやや高性能すぎるこの製品について、今回は筆者が購入した実機をもとに、電子書籍ユースを中心とした使い勝手を、上位の「iPhone 14 Pro Max」と比較しつつチェックする。
iPhone 13 Pro Maxから望遠レンズを外したモデル
まずは上位モデル「iPhone 14 Pro Max」と、その1つ前のモデルである「iPhone 13 Pro Max」との比較から。
iPhone 14 Pro Max | iPhone 14 Plus | iPhone 13 Pro Max | |
---|---|---|---|
発売年月 | 2022年9月 | 2022年10月 | 2021年9月 |
サイズ(幅×奥行き×高さ) | 77.6×160.7×7.85mm | 78.1×160.8×7.8mm | 78.1×160.8×7.65mm |
重量 | 240g | 203g | 238g |
CPU | A16 Bionicチップ 2つの高性能コアと4つの高効率コアを搭載した6コアCPU 5コアGPU 16コアNeural Engine | A15 Bionicチップ 2つの高性能コアと4つの高効率コアを搭載した6コアCPU 5コアGPU 16コアNeural Engine | A15 Bionicチップ 2つの高性能コアと4つの高効率コアを搭載した新しい6コアCPU 新しい5コアGPU 新しい16コアNeural Engine |
RAM | 6GB | 6GB | 6GB |
ストレージ | 128/256/512GB/1TB | 128/256/512GB | 128/256/512GB/1TB |
画面サイズ/解像度 | 6.7型/2,796×1,290ドット(460ppi) | 6.7型/2,778×1,284ドット(458ppi) | 6.7型/2,778×1,284ドット(458ppi) |
Wi-Fi | 802.11ax(Wi‑Fi6) | 802.11ax(Wi‑Fi6) | 802.11ax(Wi‑Fi6) |
コネクタ | Lightning | Lightning | Lightning |
防水防塵 | IP68 | IP68 | IP68 |
生体認証 | Face ID | Face ID | Face ID |
駆動時間/バッテリー容量 | ビデオ再生:最大29時間 ビデオ再生(ストリーミング):最大25時間 オーディオ再生:最大95時間 | ビデオ再生:最大26時間 ビデオ再生(ストリーミング):最大20時間 オーディオ再生:最大100時間 | ビデオ再生:最大28時間 ビデオ再生(ストリーミング):最大20時間 オーディオ再生:最大95時間 |
備考 | MagSafe対応 | MagSafe対応 | MagSafe対応 |
本製品のスペックをあらためて見ると、iPhone 14 Pro Maxよりも、先代のiPhone 13 Pro Maxに極めて近い製品であることが分かる。筐体サイズの違いは厚みだけだし、CPUは同じ、画面サイズや解像度も同様だ。また画面上のノッチなどの仕様も、iPhone 13 Pro Maxと酷似している。
一方で望遠レンズが省かれているなどの違いがあるわけだが、そうした意味では本製品は「iPhone 14 Pro Maxから望遠レンズを外したモデル」というより「iPhone 13 Pro Maxから望遠レンズを外したモデル」と表現したほうがより正確だ。ちなみにどのモデルもメモリ容量は6GBなので、そうした点でのハンデはない。
本製品の大きな強みとなるのは軽さだ。203gという重量は、過去に発売されたホームボタンなしの大画面モデルの中でもっとも軽いiPhone XS Maxの208gを下回っており、iPhone 8 Plus(202g)とほぼ横並びだ。大画面を求めつつ軽さも妥協したくないユーザーには、うってつけの製品だ。長時間手に持つ電子書籍ユースには向いた製品と言える。
ちなみに、細かいところをiPhone 14 Pro Max/iPhone 13 Pro Maxと比べていくと、ProMotionテクノロジーに対応しておらずリフレッシュレートが最大60Hz(ほかは最大120Hz)だったり、またiPhone 14 Pro Maxよりも最大輝度がやや低いなどの細かい差がある。使っていてもまったく気づかないこともあるだろうが、違いが望遠レンズの有無だけではないのでそこは注意したい。
なお本製品とiPhone 14 Pro Max、さらにiPhone 13 Pro Maxの3つの製品で、カラーバリエーションはまったく異なる。先にカラーを決めてからモデルを選ぼうとすると、ほかのモデルで気に入っていたカラーが、選んだ製品には存在しない可能性もあるので、色を重視する人は選び方に気をつけたい。本製品には1TBモデルが用意されていないのも要注意だ。
パフォーマンスはiPhone 13 Pro Maxよりわずかに低め
本製品を手に取った時の第一印象は「初めて目にする端末でありながら既視感がある」というものだ。なにせ筐体の大きさはPro Maxシリーズとほぼ変わらず、画面上のノッチ部はiPhone 13 Pro Maxと同じ。さらに背面のカメラ(の見た目)はiPhone 14やiPhone 13などと同じと来ている。新鮮味が感じられないのは当然だ。
ただし明確に違うのが重量だ。前述のように本製品は203gと、歴代のホームボタンなし大画面モデルの中では最軽量で、iPhone 14 Pro Maxと比べると37gも軽い。iPhone 14 Pro MaxとiPhone 13 Pro Maxは持ち比べても違いが分からないが、本製品は重さだけで他モデルと判別可能だ。この軽さは大きな武器になるだろう。
パフォーマンスについては、各種ベンチマークアプリで比較する限り、iPhone 14 Pro Maxから見て15~20%減、iPhone 13 Pro Maxから見て5~10%減というのが平均的な値だ。iPhone 14 Pro Maxよりもスコアが低いのは当たり前として、同じA15 Bionicチップを搭載したiPhone 13 Pro Maxとはもう少し接戦になるかと思っていたのでやや意外だ。
iPhone 13 Pro Maxはすでにモデル自体が終息しているので、本製品との二者択一でiPhone 13 Pro Maxを選ぶ機会はまずないだろうが(将来的に両製品が揃って中古市場に並ぶ時くらいだろう)、望遠レンズの有無といった目に見える違い以外に、パフォーマンス面も違いがあることは知っておくとよいかもしれない。
もっとも、iPhone 14 Pro Maxと比べた場合でも、3割や5割といった大差をつけられているわけではないし、同じ128GBモデルで比較した場合、iPhone 14 Pro Maxは16万4,800円、本製品は13万4,800円と、3万円もの差がある。カメラ機能に重きを置いていない場合に、予算優先で本製品を選ぶという選択肢はありだろう。
コミック向きのサイズ。軽さは大きな利点
では電子書籍ユースについて見ていこう。サンプルには、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、テキストは夏目漱石著「坊っちゃん」を使用している。
解像度は458ppi。上位のiPhone 14 Pro Max(460ppi)とはほんの誤差レベルであり、実機を並べてみても、違いはまったく分からない。最大輝度はやや低いが、直射日光下での見え方に多少影響するかどうかであり、電子書籍ユースで気になることはないだろう。むしろ軽さという利点はそれらを補って余りある。
iPhone 14 Pro Max、本製品、iPhone 13 Pro Maxという3台を並べてみると、テキストコンテンツの1行あたりの文字数などは、iPhone 14 Pro Maxだけがわずかに異なっており、本製品とiPhone 13 Pro Maxは同一だ。これは前回のiPhone 14 Pro Maxのレビューでも指摘した、上部のダイナミックアイランド部の配置の関係で、表示エリアが若干下がっている影響だろう。
本製品の小型版にあたるiPhone 14との比較ではどうだろうか。iPhone 14は6.1型で、画面の横幅は実測64.5mm。本製品は6.7型で、画面の横幅は実測71mm。横に並べるとかなりの差がある。こうしたことから、コミックに関しては、本製品では問題なく読めるがiPhone 14では小さく見づらいと感じられる場合は少なからずある。
一方、テキストのようなリフロー型のコンテンツは、文字サイズを大きくすれば済むので、特に支障はない。本製品が軽いというのはあくまでも画面サイズの割にというだけで、iPhone 14はそれをさらに下回る172gなので、長時間手で持っていた時の負担がまるで違う。テキストしか読まないのであれば、iPhone 14で十分だ。就寝前に寝転がって頭上にかざして読むようなスタイルだと、ますますこれらの差を実感することになる。
以上のようにコミックの表示に適した本製品だが、とはいえコミックを見開きで読むのは難しい。解像度的には問題なくとも、絶対的なサイズが小さすぎるのだ。実際、コミックを見開きで表示した時の1ページのサイズは、iPhone SEやiPhone 13 miniで単ページ表示した時より二回りほど小さくなってしまう。素直にあきらめ、iPad miniなどのタブレットを調達すべきだろう。
ちなみに意外なところで「6.7型/203g」という本製品のスペックに近いのが、E Ink電子ペーパー端末であるKindle Paperwhite(6.8型/205g)だ。アスペクト比が異なるので見た目はまったく違う上に、そもそも性格が違いすぎて比較するような製品ではないのだが、見た目がまったく違うにも関わらず、電子書籍ユースでポイントになる重さがほぼ同じというのはなかなか興味深い。
「Proでない大画面iPhone」は受け入れられるのか
以上のように、面白みがあるとは言えないが堅実な作り、というのがざっと使った上での評価になる。特に軽さはひとつのポイントだ。裏側からコンコンと筐体を叩く限り、内部はPro Maxほどの密度はなく空間が多少あるようで、iPhone 14 Pro MaxおよびiPhone 13 Pro Maxとそっくりの外観でありながら軽いのも納得できる。
もっとも、予算が決まっている状況下で本製品の比較対象となるのは、画面サイズが同等のiPhone 14 Pro MaxおよびiPhone 13 Pro Maxではなく、むしろiPhone 14 Proなのかもしれない。というのも、同じ128GBモデルだとiPhone 14 Proが14万9,800円、iPhone 14 Plus(本製品)が13万4,800円と、価格はほぼ横並びだからだ。
これに加えて重量も、前者が206g、本製品が203gと大差はない。望遠レンズを取るか、それとも大画面を取るか。予算が決まっている場合は、現実的にこれらの二者択一になることも多いのではないだろうか。
この例からも分かるように、本製品はほかのiPhoneを検討する時に比較対象になりやすいモデルだが、実際にそうした取捨選択を勝ち抜いて購入にまで至るかは分からない。なにせiPhone 14シリーズはどのモデルも10万円を超えており、「どうせならいちばん高機能・高性能なものを」という心理が働くケースも多いと考えられるからだ。
その一方、「iPhone 14でさえあればいいのでもっとも安いものを」という選び方をされた場合も、本製品は対象から外れてしまう。製品自体は悪くなくとも当て馬止まりで最終的に選ばれないというパターンはIT系の製品ではよくある話で、それにハマる危険もまたあるように感じる。新しく加わった「Proでない大画面iPhone」という選択肢が今後受け入れられていくのか、もう少し見守る必要はありそうだ。