Hothotレビュー
6万円台からの「第4世代iPad Air」はかぎりなくProに近い高コスパタブレットだ
2020年11月5日 06:55
Appleは10.9型タブレット「iPad Air(第4世代)」を10月23日に発売した。ストレージ64GBのWi-Fiモデルがもっとも安く税別6万2,800円から。
本製品は筐体を一新。iPad Proと同様に4隅を丸めた「Liquid Retinaディスプレイ」を採用することでベゼルを狭額縁化し、ディスプレイを10.5型から10.9型へ大型化している。シリーズの位置づけとしては「iPad」の高級版というより、iPad Proの廉価版というほうが正確だと思う。
今回はほかのiPadシリーズとの機能面、性能面の違いを中心にレビューしていこう。
iPad Air(第4世代)はかぎりなくiPad Proに近づいた
iPad Air(第4世代)は、容量別に以下の4モデルが用意されている。
- Wi-Fiモデル
64GB(税別6万2,800円)
256GB(同7万9,800円) - Wi-Fi+Cellularモデル
64GB(同7万7,800円)
256GB(同9万4,800円)
初期OSは「iPadOS 14」、SoCはNeural Engineを内蔵した「A14 Bionic」を採用。メモリ(RAM)は非公開だが、CPU/GPUベンチマーク「Geekbench 5」のシステム情報によれば4GBを搭載している。
「12.9型iPad Pro(第4世代)」と「11型iPad Pro(第2世代)」は「A12Z Bionic」を搭載している。これはiPad Air(第4世代)が搭載しているA14 Bionicより新しい世代のSoCだが、CPUコアはA12Z Bionicが8コア、A14 Bionicが6コアと前者のほうが多い。実際の性能にどのような影響をおよぼすのかは、ベンチマークの章で検証しよう。
A12Z Bionic | A14 Bionic | |
---|---|---|
CPU | 8コア(高性能コア×4、高効率コア×4) | 6コア(高性能コア×2、高効率コア×4) |
GPU | 8コア | 4コア |
Neural Engine | 8コア | 16コア |
製造プロセス | 7nm | 5nm |
トランジスタ数 | 100億 | 118億 |
ディスプレイは10.9型のIPS液晶(2,360×1,640ドット、264ppi、輝度500cd/平方m、色域P3、True Tone対応)を採用。前述のとおり4隅を丸めたLiquid Retinaディスプレイ仕様となっているが、輝度は100cd/平方m低く、リフレッシュレートを60~120Hzで可変させる「ProMotionテクノロジー」には対応していない。
カメラは背面の広角(1,200万画素、F1.8)、前面(700万画素)という構成で、超広角カメラは搭載されていない。また、フラッシュやLiDARスキャナも非搭載だ。
一方、「iPad Air(第3世代)」と比較した場合の進化点としては、「A12 Bionic」からA14 BionicへのCPUグレードアップ、10.5型から10.9型へのディスプレイ拡大、800万画素から1,200万画素へのメインカメラ画素数向上、「Magic Keyboard」と「Smart Keyboard Folio」への対応、「Apple Pencil(第2世代)」への対応、LightningからUSB Type-Cへの端子変更などが挙げられる。
iPad Air(第4世代)のスペックを総括すると、細かな部分で差別化は図られているものの、かぎりなくiPad Proに近づいたと言える。
12.9型iPad Pro(第4世代) | 11型iPad Pro(第2世代) | iPad Air(第4世代) | iPad(第8世代) | iPad mini(第5世代) | |
---|---|---|---|---|---|
税別価格 | 10万4,800円~ | 8万4,800円~ | 6万2,800円~ | 3万4,800円~ | 4万5,800円~ |
SoC | A12Z Bionic、Neural Engine | A14 Bionic、Neural Engine | A12 Bionic、Neural Engine | ||
ストレージ | 128GB/256GB/512GB/1TB | 64GB/256GB | 32GB/128GB | 64GB/256GB | |
ディスプレイ | 12.9型 | 11型 | 10.9型 | 10.2型 | 7.9型 |
解像度 | 2,732×2,048ドット 264ppi | 2,388×1,668ドット 264ppi | 2,360×1,640ドット 264ppi | 2,160×1,620ドット 264ppi | 2,048×1,536ドット 326ppi |
輝度 | 600cd/平方m | 500cd/平方m | |||
色域 | P3 | - | |||
リフレッシュレート | ProMotionテクノロジー | ProMotionテクノロジー | - | ||
True Tone | 搭載 | - | 搭載 | ||
スピーカー | 4スピーカー | 2スピーカー(横向き) | 2スピーカー | ||
カメラ | 広角(1,200万画素、F1.8) 超広角(1,000万画素、F2.4) 前面(700万画素) | 広角(1,200万画素、F1.8) 前面(700万画素) | 広角(800万画素、F2.4) 前面(1,200万画素) | 広角(800万画素、F2.4) 前面(700万画素) | |
LiDARスキャナ | 搭載 | - | |||
キーボード | Magic Keyboard Smart Keyboard Folio(オプション) | Smart Keyboard | Bluetoothキーボード | ||
Apple Pencil | 第2世代 | 第1世代 | |||
バッテリ駆動時間 | Wi-Fiでのインターネット利用、ビデオ再生 : 最大10時間 携帯電話データネットワークでのインターネット利用 : 最大9時間 | ||||
通信 | Wi-Fi 6 Bluetooth 5.0 LTE(Cellular版のみ) | Wi-Fi 5 Bluetooth 4.2 LTE(Cellular版のみ) | Wi-Fi 5 Bluetooth 5.0 LTE(Cellular版のみ) | ||
SIMカード | Nano SIM、eSIM(Cellular版のみ) | ||||
生体認証 | Face ID | Touch ID(トップボタン) | Touch ID(ホームボタン、第2世代) | ||
端子 | USB Type-C、Smart Connector(背面) | Lightning、Smart Connector(左側面) | Lightning | ||
カラー | シルバー、スペースグレイ | シルバー、スペースグレイ、ローズゴールド、グリーン、スカイブルー | シルバー、スペースグレイ、ゴールド | ||
サイズ(幅×奥行き×高さ) | 280.6×214.9×5.9mm | 247.6×178.5×5.9mm | 247.6×178.5×6.1mm | 250.6×174.1×7.5mm | 203.2×134.8×6.1mm |
重量 | Wi-Fi版 : 641g Wi-Fi+Cellular版 : 643g | Wi-Fi版 : 471g Wi-Fi+Cellular版 : 473g | Wi-Fi版 : 458g Wi-Fi+Cellular版 : 460g | Wi-Fi版 : 490g Wi-Fi+Cellular版 : 495g | Wi-Fi版 : 300.5g Wi-Fi+Cellular版 : 308.2g |
Magic KeyboardとSmart Keyboard Folioは11型iPad Proと共用
iPad Air(第4世代)の本体サイズは247.6×178.5×6.1mm(幅×奥行き×高さ)、重量はWi-Fi版が458g、Wi-Fi+Cellular版が460g。筐体の材質は100%再生アルミニウムで、カラーはシルバー、スペースグレイ、ローズゴールド、グリーン、スカイブルーの5色が用意されている。
フットプリントは11型iPad Pro(第2世代)の247.6×178.5mmと同じで、Smart Connectorも右側面から背面に移動しており、Magic KeyboardとSmart Keyboard Folioは同じ製品が使える。また右側面にApple Pencilを充電するための磁気コネクタが装備されており、対応するのは「Apple Pencil(第2世代)」だ。
さらに、iPad Air(第4世代)は端子がLightningからUSB Type-Cに変更されている。現行iPadでLightningを採用しているのは「iPad(第8世代)」と「iPad mini(第5世代)」だけとなった。ロイヤリティービジネスを抜きにすれば、iPhoneを含めてUSB Type-Cに統一したほうがユーザーにはメリットは多いと筆者は考える。
Magic KeyboardとSmart Keyboard Folioのどちらを買うか悩みどころ
iPad Air(第4世代)には純正アクセサリとして、「Apple Pencil(第2世代)」(税別1万4,500円)、「iPad Air(第4世代)・11インチiPad Pro(第2世代)用Magic Keyboard」(同3万1,800円)、「iPad Air(第4世代)・11インチiPad Pro(第2世代)用Smart Keyboard Folio」(同1万9,800円)などが用意されている。
Apple Pencil(第2世代)についてはiPadシリーズの必需品と言えるが、Magic KeyboardとSmart Keyboard Folioのどちらを買うか悩みどころ。筆者は両方使っているので下記にそれぞれの良いところと不足している点をまとめたてみた。。
Magic Keyboardの特徴
- 〇打鍵感がいい
- 〇バックライト内蔵
- 〇トラックパッド搭載
- 〇ディスプレイの角度を無段階に調整可能
- ×Smart Keyboard Folioより重い
- ×キーボード側カバーをiPadの背面に回せない
Smart Keyboard Folioの特徴
- 〇Smart Keyboard Folioより軽い
- 〇キーボード側カバーをiPadの背面に回せる
- ×Magic Keyboardよりストロークが浅い
- ×バックライトがない
- ×トラックパッドがない
- ×ディスプレイの角度は2段階のみ
両者を簡潔に説明するなら、ノートブックとして利用するためのMagic Keyboard、キーボードとカバーの使い勝手を両立させたSmart Keyboard Folioと言える。ロジクールからも「Logicool Folio Touch Keyboard Case with Trackpad for iPad Air(第4世代)」(税別1万7,800円)というキーボードカバーが発売されているので、好みに合わせて選んでほしい。
ディスプレイ画質は高いレベル、120Hz非対応は残念
iPad Air(第4世代)のディスプレイ画質は高いレベルだ。iPad Proシリーズより輝度は100cd/平方m低いが、環境光が変わっても同じ色に見えるように調節する「True Tone」や、「明るさの自動調節」を有効にしていれば、ほぼ同じ発色、明るさで表示される。ただし、筆者の12.9型iPad Pro(第3世代)と比較したときには、iPad Air(第4世代)のほうが少し暖色寄りに見えた。
ProMotionテクノロジー非対応を残念に感じている方は多いだろう。たしかに、ProMotionテクノロジー対応のiPad Proのヌルヌルとした滑らかな描画は癖になる。とくに差が顕著なのがゲーム用途。90fps、120fps対応のゲームをプレイしたいのなら、ストレージを1ランク落として11型iPad Pro(第2世代)というのも1つの選択だ。
サウンドについては、タブレットとして音量は十分だが、低音の迫力などはやはり4スピーカーのiPad Proのほうが1枚上。交互に聴き比べなければiPad Air(第4世代)で十分満足できると思うが、音にこだわりのある方は展示機で実際に試聴してほしい。
カメラ画質を「iPhone 12 Pro」と比較してみたが、ある程度の光量があればiPad Air (第4世代)は健闘を見せる。もちろん階調やボケに差はあるが、比較しなければ気にならないレベルだ。
残念なのはナイトモード非対応なこと。iPhone 12シリーズと同様に、A14 Bionicを搭載するiPad Air (第4世代)なら複数枚の画像を撮影して、明るく、ノイズの少ない夜景画像を生成するナイトモードを余裕でこなせるはずだ。スペック的に可能なら新機能はすべての機種に積極的に搭載してほしいと強く思う。
処理性能は世代が古いSoCを搭載するiPad Proにおよばない
最後に性能をチェックしよう。比較対象機種は、A12Z Bionicを搭載する12.9型iPad Pro(第4世代)、A12X Bionicを搭載する12.9型iPad Pro(第3世代)、そしてiPad Air(第4世代)と同じくA14 Bionicを搭載するiPhone 12 Proだ。
ベンチマークは、CPU/GPUベンチマーク「Geekbench 5」、グラフィックベンチマーク「Basemark Metal Free」、「iMovie」で5分11秒の4K動画を書き出し、無線LANの通信速度、YouTube動画再生時のバッテリ駆動時間の5本。なおバッテリ駆動時間を除いて、すべて3回計測を実施し、そのなかでもっとも高いスコアを採用している。下記がその結果だ。
iPad Air(第4世代) | 12.9型iPad Pro(第4世代) | 12.9型iPad Pro(第3世代) | iPhone 12 Pro | |
---|---|---|---|---|
SoC | A14 Bionic(CPU6コア、GPU4コア、Neural Engine16コア) | A12Z Bionic(CPU8コア、GPU8コア、Neural Engine8コア) | A12X Bionic(CPU8コア、GPU7コア、Neural Engine8コア) | A14 Bionic(CPU6コア、GPU4コア、Neural Engine16コア) |
RAM | 4GB | 6GB | 6GB | 6GB |
無線LAN | Wi-Fi 6 | Wi-Fi 6 | Wi-Fi 5 | Wi-Fi 6 |
Geekbench 5 | ||||
Single-Core Score | 1,592 | 1,118 | 1,120 | 1,603 |
Multi-Core Score | 4,226 | 4,695 | 4,699 | 4,131 |
Basemark Metal Free | ||||
Overall | 3,389 | 5,830 | 5,742 | 3,426 |
Lightning | 84 | 80 | 80 | 62 |
Compute | 89 | 88 | 90 | 46 |
Instancing | 97 | 98 | 100 | 76 |
Post-Processing | 86 | 83 | 83 | 74 |
iMovie | ||||
5分11秒の4K動画を書き出し | 3分18秒77 | 2分55秒59 | 2分55秒22 | 3分18秒90 |
無線LANの通信速度 | ||||
iPerf 3でダウンロード速度を計測 | 914Mbps | 789Mbps | 570Mbps | 909Mbps |
バッテリ駆動時間 | ||||
輝度50%でYouTube動画を再生 | 10時間58分31秒 | 13時間9分26秒 | 11時間46分6秒 | - |
まず大前提として、A12Z Bionicを搭載する12.9型iPad Pro(第4世代)とA12X Bionicを搭載する12.9型iPad Pro(第3世代)が全体的に好成績だ。
12.9型iPad Pro(第4世代)はiPad Air(第4世代)に対して、Geekbench 5のMulti-Core Scoreで約1.11倍、Basemark Metal FreeのOverallで約1.72倍のスコアを記録している。また、iMovieの4K動画書き出しは約88%の所要時間で処理を終えた。世代が古いSoCであっても、CPUコアとGPUコアのコア数の差が表われた結果だ。
一方、不可解なのが無線LANのベンチマーク。Wi-Fi 6対応機種のなかで、12.9型iPad Pro(第4世代)だけが800Mbpsを切っている。
無線LANのベンチマークはバッファローのWi-Fi 6対応無線LANルーター「WXR-5950AX12」に、Thunderbolt 3対応10GbE有線LANアダプタ「SANLink3 T1」経由で接続した「16型MacBook Pro」で、「iPerf 3」をサーバーモードで実行して無線LANのダウンロード速度を計測したが、ソフトウェアのアップデートなどによりサーバー側、クライアント側、または両方の実効通信速度が向上した可能性がある。
バッテリ駆動時間については12.9型iPad Pro(第4世代)にはおよばなかったものの、iPad Air(第4世代)のカタログスペックの最大10時間を軽々クリアしている。Appleのバッテリテストも輝度50%で実施しているので、カタログスペックはかなりマージンを確保しているようだ。
コスパで選ぶなら絶妙に差別化が図られた本モデル!
絶妙に差別化が図られているものの、256GBモデルで比較すると、iPad Air(第4世代)のWi-Fiモデルは税別で7万9,800円、Wi-Fi+Cellularモデルは9万4,800円、11型iPad Pro(第2世代)のWi-Fiモデルは9万5,800円、Wi-Fi+Cellularモデルは11万2,800円と、Wi-Fiモデルで1万6,000円、Wi-Fi+Cellularモデルで1万8,000円の価格差がある。
機能差、性能差はたしかにあるが、iPad Air(第4世代)はかぎりなくiPad Proに近い。コスパを重視してiPadを選ぶなら最有力な選択肢と言える。