山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
CPUが強化された34,800円の第8世代「iPad」の使用感をチェック
2020年9月25日 06:55
Appleの「iPad(第8世代)」は、10.2型のiOSタブレットだ。iPadファミリーのなかでエントリーモデルにあたる製品で、従来モデルの外見や基本スペックを踏襲しつつ、CPUの強化が図られている。
製品発表会では、フルモデルチェンジした新型iPad Air(第4世代)の影に隠れてあまり目立たなかった本製品だが、税別34,800円からというリーズナブルな価格を維持しつつパワーアップしたことで、製品としては一段階ランクアップした印象だ。
今回は筆者が購入したWi-Fiモデル(32GB、シルバー)を用い、電子書籍ユースにおける従来モデルとの違いのほか、iPadOSのマウス機能を使ったハンズフリーでのページめくりの方法などを紹介する。
相違点は実質CPUのみ
まずは従来モデルとスペックを比較してみよう。参考までに従来のiPad Air(第3世代)についても並べている。本製品と同時発表の新型iPad Air(第4世代)ではないので留意してほしい。
iPad(第8世代) | iPad(第7世代) | iPad Air(第3世代) | |
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発売 | 2020年9月 | 2019年9月 | 2019年3月 |
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部) | 250.6×174.1×7.5mm | 250.6×174.1×7.5mm | 250.6×174.1×6.1mm |
重量 | 約490g | 約483g | 約456g |
CPU | 64ビットアーキテクチャ搭載A12 Bionicチップ Neural Engine | 64ビットアーキテクチャ搭載A10 Fusionチップ | 64ビットアーキテクチャ搭載A12 Bionicチップ Neural Engine |
画面サイズ/解像度 | 10.2型/2,160×1,620ドット(264ppi) | 10.2型/2,160×1,620ドット(264ppi) | 10.5型/2,224×1,668ドット(264ppi) |
通信方式 | IEEE 802.11ac | IEEE 802.11ac | IEEE 802.11ac |
バッテリー持続時間(メーカー公称値) | 最大10時間 | 最大10時間 | 最大10時間 |
コネクタ | Lightning | Lightning | Lightning |
スピーカー | 2基 | 2基 | 2基 |
税別価格(発売時) | 34,800円(32GB) 44,800円(128GB) | 34,800円(32GB) 44,800円(128GB) | 54,800円(64GB) 71,800円(256GB) |
この表からもわかるように、おもな相違点はCPUが第3世代iPad Air相当にアップグレードされたことと、重量がわずかに増えたことだけだ。ストレージは32GBと128GBという従来と同じ構成で、税別34,800円(税込38,280円)からというリーズナブルな価格設定も同様だ。
重量はWi-Fiモデルで490gと、約7g増えた計算になる。ちなみに実測値では従来モデルが479g、本製品が484gということで、公称値とのズレはあれ、数g増えたのは事実のようだ。従来もそうだったが、画面サイズが近い上位モデルとの差別化もあってか、あまり軽量化にこだわっていない様子が見て取れる。
本製品と同時発表になったiPad Air(第4世代)は新たにWi-Fi 6に対応したが、本製品はIEEE 802.11ac、つまりWi-Fi 5のままだ。現行のスマートフォンやタブレットは昨今Wi-Fi 6対応が進んでおり、このあたりにもエントリーモデルらしさが漂う。
このほか、上位モデルではすでに省かれたTouch ID搭載のホームボタンや、イヤフォンジャックを搭載。また背面カメラはシングルレンズだったりと、従来モデル以前から続く意匠をそのまま採用している。Smart Keyboard/Apple Pencil(第1世代)に対応するのも、従来モデルと同様だ。
なお唯一、大きく変更になっているのが付属の充電器およびケーブルで、USB Type-C仕様に改められている(iPad本体側のポートはLightningのまま)。iPad ProやiPhone 11 Proシリーズと同じ最大18Wのモデル(9V/2A)かと思いきや、最大20W(9V/2.22A)という新しいモデルだ。外観はまったく同一で、底面のシルク印字でしか違いがわからない。
表示性能は問題なし。じわじわと増える重量はやや気になる
では使い勝手を見ていこう。電子書籍の表示サンプルは、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、雑誌は「DOS/V POWER REPORT」の最新号を使用している。
画面サイズ(10.2型)や解像度(264ppi)は従来と同じということで、表示性能は従来モデルとまったく同じ。コミックの見開き表示や雑誌の表示は、原寸大よりはやや小さくなるが、細部の表現力にまったく問題はない。注釈などの細かい文字もしっかり読める。
一方、反射防止コーティングが施されていないためiPad Airなどに比べて画面が反射しやすいことや、フルラミネーションディスプレイではないため画面がやや奥まって見える点も、従来と変わっていない。
ただしこれらは上位モデルと比べると差異があるというだけで、致命的ではない。とくにフルラミネーションディスプレイは、Apple Pencilを使う上ではペン先と画面が離れて見える問題があるため対応していたほうが望ましいが、電子書籍ユースでは非対応でもとくに問題はない。
気になるのはむしろ重量だろう。10型クラスで490gという重量は、500g以内に収まっているとは言え、決して軽くはない。第6世代が約469g、第7世代が約483gと、じわじわ増えているのも気になる。ちなみに新型iPad Airは約458gなので、それなりの差がある。
電子書籍ユースでは長時間手で保持するのがつらい場合もあり、この点にこだわるようであれば、新型iPad Airのほか、画面サイズが7.9型とふたまわり小さいものの約300.5gと軽いiPad miniを選ぶ手もあるだろう。
CPUが強化されたことで注目される動作速度だが、リンクをクリックしてページが表示されるまでの時間や、複数のコンテンツをまとめてダウンロードする時間などで、従来モデルとの違いを感じる。とは言え、横に並べて同時に実行すればわかる程度でしかなく、単体で使ってみて「オッ、速い」と体感できる人はまれだろう。
ただしベンチマークでは、従来モデルとの性能差はかなりある。iPadOSのバージョンが違う点は差し引く必要があるが、従来モデルの約1.54倍といったところだ。電子書籍ユース以外の用途ではこのくらいの差が出るケースもあると考えておけばよい。余談だが、CPUが同じiPad Air(第3世代)の84%程度のスコアにとどまっているのが興味深い。
iPadの画面に触れずに電子書籍のページをめくるワザとは
さて、本製品の発売と時を同じくして、新OS「iPadOS 14」がリリースされているが、iPadOSの新登場時におけるダークモードやSplit Viewのように、電子書籍まわりで便利に使える新機能は見当たらない。ウィジェットのなかにApple Books関連の何かがないかと思い探してみたが、それもないようだ。
むしろ電子書籍ユースにおけるiPadの使い方を変えるかもしれないのが、iPadOS 13.4で新たにサポートされ、このiPadOS 14でも利用可能なBluetoothマウス機能だ。これを使えば、画面に直接触れることなく、電子書籍のページめくりが行なえるようになる。今回はこの方法を紹介しよう。
やり方はとくに難しいものではなく、BluetoothマウスをiPadとペアリングしたのち、タップでページがめくられるエリアにマウスポインタを置き、デバイスの左ボタンをクリックしてページをめくるだけだ。布団の上でマウスを操作するのが無粋ということであれば、空中で操作するタイプのデバイスを使えばよい。
今回は以前やじうまミニレビューでも紹介した、エレコムのBluetoothハンディトラックボール「Relacon(リラコン)」を使用してみた。これならば、ベッドの枕元にiPadを取り付け、寝転がったままハンズフリーでページをめくるのも余裕だ。
以前はこうした操作1つを行なうにしても、AssistiveTouch機能を使わなくてはいけなかったが、現在のiPadOSではBluetoothマウスを接続するだけで済む。試してみるとわかるが、指先以外を動かさずに1~2時間も平気で読み続けられるので、じつに危険である。床ずれ対策を真剣に考えなくてはいけないレベルだ。
もっとも理想なのは、ページをダイレクトにクリックするのではなく、キーボードの「←」、「→」を使ったショートカットでのページ操作だ。こちらであれば、画面のどこにマウスポインタがあろうが、確実にページをめくることができる。
それゆえ、前述の「Relacon」に近い外観と操作性を持ち、かつ本体内に任意のショートカットキーを記憶しておけるデバイスがあれば、それに「←」、「→」を登録して使うことで、さらに快適にページめくりが行なえるはずだ。筆者も理想に近いデバイスにまだ巡り会えていないので、もう少し探してみたいと思う。
ホームボタンはなくなるの?
以上のように、使い勝手そのものは従来モデルと相違がない。新しくiPadOS 14が搭載されていると言っても、従来モデルもアップデートすれば同等になるので、差別化要因にはならない。第7世代モデルを所有しているユーザーは、買い換える必要はないだろう。
一方、画面サイズが旧来の9.7型で、かつSmart Connectorが非搭載の第6世代以前のモデルを使っているユーザーであれば、検討する価値はある。とくにホームボタン搭載という条件で選ぶのであれば、現行モデルにおける候補は本製品のみになってしまったからだ。
ちなみに今回、iPad AirがiPad Proに近い仕様になり、ホームボタン搭載のiPadは(iPad miniを除けば)本製品のみとなったが、では次期モデルではホームボタン自体が消滅するかというと、筆者はそうは思わない。
というのも、ホームボタンは操作が直感的だからだ。それほどリテラシーの高くないユーザーに操作方法を伝える場合でも「操作中に迷ったらとにかくコレを押すべし」と伝えておけば迷わないのは大きな利点だ。タブレットの操作に不慣れなユーザーがはじめて選ぶ1台として最適なだけに、その選択肢を自らなくす可能性は低いように思われる。
むしろ次期モデルで考えられるのは、今回終息になったiPad Air(第3世代)のような、10.5型への画面サイズの大型化だろう。筐体サイズを維持したまま狭額縁化による画面サイズの大型化は、内部密度の上昇によってコスト増につながりやすい筐体の薄型化に比べれば、可能性は高いように思う。
今回のモデルチェンジで、リニューアルした新iPad Airへと移行するユーザーはかなり多いものと考えられる。個人的にその選択はありだと思うが、同社の製品はマイナーチェンジの翌年にそこそこ大きいフルモデルチェンジが来ることがよくあるだけに、このiPadが次期モデルでどうなるか、そうした次の一手にも個人的には注目していきたい。