山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

実売3万円台で電書もイケる6.3型Androidスマホ「ASUS ZenFone Max Pro(M2)」

ASUS「ZenFone Max Pro(M2)」。画面の解像度などを抑えた下位モデル「ZenFone Max(M2)」もラインナップしている

 ASUSの「ZenFone Max Pro(M2)」は、SIMロックフリーの6.3型Androidスマートフォンだ。Snapdragon 660を採用したミドルクラスの製品ながら、実売3万円台で入手できるリーズナブルな価格設定が大きな特徴だ。

 前回紹介したシャープ「AQUOS zero」は、150g以下、かつ6.2型の大画面ということで、電子書籍ユースにはもってこいの製品だったが、いかんせん実売価格が7~9万円前後ということで、メインのスマートフォンとして導入するならまだしも、電子書籍など用途を絞ったサブ機として入手するには無理があった(「AQUOS zero」は電書に理想な“6型以上150g以下”の大型軽量スマホ参照)。

 今回紹介するZenFone Max Pro(M2)は、画面サイズや重量こそ平均的で、同等サイズのスマートフォンと比較して突出した特徴はないものの、3万円台というリーズナブルな実売価格を実現している。

 これでいて、CPUにはSnapdragon 660を採用するなど、ミドルクラスとしての性能を備えているほか、最近のハイエンドモデルでは少なくなったメモリカードスロットを搭載するなど、電子書籍を楽しむデバイスとしてポテンシャルの高い1台だ。

 今回はこの製品について、メーカーから機材を借用できたので、電子書籍ユースを中心にチェックしていく。カメラ機能を中心としたレビューはすでに西川氏のコラムで取り上げられているので、そちらを参照いただきたい(ノッチつきとなり画面占有率アップ、AI対応カメラ搭載の「ZenFone Max Pro (M2)」参照)。

製品本体。最新のAndroid 9 Pieではなく、Android 8を搭載する
現行のスマートフォンのトレンドであるノッチを採用する。横幅は一般的な製品に比べるとせまく、左右のアイコンや時計などの表示領域は広めだ
右側面。上に電源ボタン、その下に音量ボタンという、前回のAQUOS zeroと同じ配置。音量ボタンによるページめくりにはやや不便な配置だ(後述)
背面。USB Type-CではなくMicro USBを採用。イヤフォンジャックも搭載している。ちなみに上面にはとくに端子類はない
背面。左上にカメラ、中央に指紋認証センサーがある
左側面にはトリプルカードスロットを搭載。2枚のNano SIMカードとmicroSDを同時に使える

最大のメリットは価格。トリプルカードスロットにも注目

 本製品はミドルクラスの製品という位置づけだが、今回は違いをわかりやすく見ていくために、過去に取り上げている「iPhone XS Max」や「Pixel 3 XL」など、画面サイズがほぼ等しい、各社のハイエンドモデルと比較する。

【表】スペックの比較
ZenFone Max Pro(M2)AQUOS zeroPixel 3 XLiPhone Xs Max
ASUSシャープGoogleApple
OSAndroid 8.1Android 9 PieAndroid 9 PieiOS 12
発売年月2019年4月2019年3月2018年11月2018年9月
サイズ(幅×奥行き×高さ)75.5×157.9×8.5mm73×154×8.8mm76.7×158×7.9mm77.4×157.5×7.7mm
重量175g146g184g208g
CPUQualcomm Snapdragon 660 (オクタコアCPU)Qualcomm Snapdragon 845(SDM845)
2.6GHz(クアッドコア)+1.7GHz(クアッドコア) オクタコア
Qualcomm Snapdragon 845
2.5 GHz + 1.6 GHz、64 ビット オクタコア
A12 Bionicチップ
次世代のNeural Engine
RAM4GB6GB4GB4GB
ストレージ64GB128GB64/128GB64/256/512GB
画面サイズ6.3型6.2型6.3型6.5型
解像度2,280×1,080ドット(400ppi)2,992×1,440ドット(538ppi)2,960×1,440ドット(523ppi)2,688×1,242ドット(458ppi)
Wi-FiIEEE 802.11b/g/nIEEE 802.11acIEEE 802.11ac 2x2 MIMO対応
コネクタMicro USBUSB Type-CLightning
メモリカード○(最大2TB)-
防水防塵-IPX5/IPX8、IP6XIP68
認証方式顔認証、指紋認証指紋認証顔認証
駆動時間/バッテリ容量5,000mAh3,130mAh3,430mAhインターネット利用 : 最大13時間
ビデオ再生(ワイヤレス) : 最大15時間
オーディオ再生(ワイヤレス) : 最大65時間

 こうしてスペックを見ると、ハイエンドモデルと見比べても遜色ない部分と、そうでない部分にはっきり分かれている印象だ。たとえばCPUはSnapdragon 660ということで、決してローエンドではないが、Pixel 3 XLなどに採用されるSnapdragon 845に比べるとやや分が悪い。

 またWi-Fiは5GHz帯に非対応であるほか、コネクタはUSB Type-CではなくMicro USB、またAndroid 9 PieではなくAndroid 8であるなど、全体的にフォームファクタの古さが目につく。防水防塵機能や無接点充電も非搭載だ。

 その一方で、メモリやストレージの容量、ディスプレイまわりのスペックは上位のモデルと比べても遜色なく、解像度も400ppiを維持している。筐体サイズも6.3型としては標準的で、極端に大柄だったり、厚みがあるわけではない。重量も、軽さが売りの「AQUOS zero」にはおよばないものの、Pixel 3 XLやiPhone XS Maxより軽量だ。

 さらに本製品はトリプルスロットを搭載しており、2枚のNano SIMカードに加えて、microSDスロットも同時利用できる(最大2TB)。今回比較している他製品はいずれもメモリカードには非対応なので、これは大きなメリットだろう。電子書籍ユースの場合、自炊コンテンツのデータコピーや保管に重宝する。

 ZenFone Maxシリーズの特徴である大容量バッテリも健在だ。電子書籍ユースにおいてはバッテリ容量はあまり重視される項目ではないが、充電なしで長時間使えるのはプラスだろう。ただしコネクタがMicro USBなので、これだけのバッテリ容量でありながら、USB PDによる急速充電に対応しないのはもったいない印象だ。

 そして、最大の特徴と言えるのが価格だ。実売価格は35,500円ということで、今回比較している他社のハイエンドモデルの半額以下だ。どれだけスペックが高くても価格だけで候補から外れがちな他社のハイエンドモデルと違い、現実的な選択肢に上がりやすい製品と言える。

iPhone XS Max(右)との比較。筐体サイズはほぼ同じ、画面の天地サイズは本製品がわずかに小さい。上部ノッチのサイズは本製品のほうが横幅が短くコンパクトだ
背面。iPhone XS Max(右)と異なり、指紋認証センサーを搭載する。なお無接点充電には対応しない
前回紹介したAQUOS zero(右)との比較。筐体サイズは本製品のほうがわずかに長い。上部ノッチの左右幅がコンパクトなことを除けば、ルックスは酷似している
同じくAQUOS zero(右)と背面を比較したところ。指紋認証センサーを搭載するのは同じだが、カメラの配置が大きく異なっている
厚みの比較。いずれも左が本製品、右上がiPhone XS Max、右下がAQUOS zero。本製品はやや厚みがあるが、手に持った場合はそれほど違いは感じない

突出した特徴はないが普通に使える。指紋認証/顔認証の両対応が便利

 セットアップ手順などは西川氏のコラムに詳しいので本稿では省略するが、全体的にシンプルで、時間を取られる印象はない。指紋認証と顔認証をそれぞれ設定しようとすると、多少の手間がかかるくらいだ。

 アプリについても数はひかえめで、電子書籍アプリはプリインストールされていない。アプリ一覧のなかに「まんがお得」という名前の、ebookjapanのアイコンが見えるが、実際にはアフィリエイトサイトを経由する単なるショートカットで、ブラウザが起動してebookjapanのトップページが表示されるだけだ。

ホーム画面。ZenUIを採用していないため、ASUSのスマートフォンらしくない。GoogleとASUSのアプリがフォルダにまとめられている
画面の切り替えはAndroid 9 Pieとは異なり、右下のタスク/履歴ボタンで行なう
アプリ一覧。全体的に数は少なめですっきりしているのは好印象だ
「まんがお得」というアイコンは、ebookjapanへのショートカットで、アプリ自体はインストールされていない

 実際に使った印象としては、AQUOS zeroにおける突出した軽さのような特徴こそないが、良くも悪くも普通に使える大画面スマートフォンだ。さすがに5型クラスのスマートフォンに比べると重量はあるが、それでもiPhone XS Maxの重さに慣れていると圧倒的に軽く感じるし、ミドルクラス以下の製品にありがちな筐体サイズの大きさも感じない。総じて優秀で、安っぽさもない。

 特筆すべきは指紋認証に加えて顔認証にも対応していることで、iPhone XS MaxやPixel 3 XLのようにどちらか一方にしか対応しない製品に比べると、どのようなシチュエーションでも対応できて利便性は高い。試したかぎりではどちらもレスポンスは高速で、実用性は高い。

背面に指紋認証センサーを搭載する。前回のAQUOS zeroのように、配置がカメラとまぎらわしいこともない
顔認証はiOSのように顔の全周を登録するのではなく、正面からのみ撮影する方式。レスポンスは高速だ

 ハイエンドモデルとの違いということでは、冒頭にも述べたCPUの性能差が気になるが、Sling Shot Extremeによるベンチマークでは各社ハイエンドモデルの半分以下のスコアで、ある意味で価格と正比例した結果になっている。

 ただし項目別に見ると、Graphicsでは大差がついている反面、Physicsはほぼ同等だ。つまりCPUの性能はそう悪くないわけで、ゲームなどならまだしも、電子書籍ユースでは悲観するスコアではない。総合スコアだけ見て性能を判断すると、意外な軽快さに驚くことになるだろう。

Sling Shot Extremeによるベンチマークでは、スコアは「1,226」。Pixel 3 XLの「3,414」、AQUOS zeroの「3,488」など各社ハイエンドモデルと比べるとさすがに分が悪いが、劣っているのはGraphicsまわりで、Physicsは同等だ

表示周りの品質は十分。音量ボタンによるページめくりは使いにくい

 では電子書籍用途での使い勝手を見ていこう。とくにことわりがないかぎり、ストアはKindleストアを利用している。テキストコンテンツのサンプルには太宰治著「 グッド・バイ」を、コミックのサンプルにはうめ著「大東京トイボックス 1巻」を用いている。

 まず画面のサイズについては、6.3型と大きく、またコミックの特定コマの横幅も、前回までに比較したPixel 3 XLやiPhone XS Maxと同等だ。なるべく大きい画面でコミックを読むという目的においては十分なサイズだ。縦長の画面ゆえ上下の余白は目につくが、これはほかの製品でも同じである。

コミックを読んでいる様子。背後から握るように持ち、親指で左右スワイプしてページをめくるようにすれば、片手でも操作できる
コマの横幅は55.2mm。iPhone XS Maxでは同じコマが55.6mm、Pixel 3 XLは56.9mm、AQUOS zeroは55.5mmなので、おおむね同等と言っていいだろう

 解像度も、ハイエンドモデルのような500ppiオーバーではないものの、400ppiという基準はクリアしており必要十分だ。そもそもiPadなどのタブレットでは、300ppiを超えていれば十分というのが現在の状況なので、問題になるレベルではない。また画面はフラットなので、左右が曲面になっている前回のAQUOS zeroのように、端が反射して見にくいこともない。

 一方で気になるのは、音量ボタンが右側面のかなり上に配置されていることで、音量ボタンでページめくりを行なう場合、握り方を変えなくてはいけない。前回のAQUOS zeroでもこの問題はあったが、本製品はAQUOS zeroよりも重量があるため、手への負担はこちらのほうが大きい。音量ボタンによるページめくりは、あまり実用的でない印象だ。

前回のAQUOS zero(下)と同じく、音量ボタンがかなり上寄り(この写真では右寄り)に配置されているため、普通に持つと指が届きにくい
音量ボタンを使わない場合は、このように筐体下を握ればよい
音量ボタンでページめくりを行なう場合は、このように筐体の上を握らざるを得ず、かなりの違和感がある
右手で持つ場合は、親指で音量ボタンを操作できるため、左手に比べるとまだ違和感は少ない

ボトルネックはCPUよりもむしろWi-Fi?

 電子書籍を表示し、ページをめくったり、本を閉じて別の本を開くといった基本操作においては、上位のモデルとの差は感じられない。ホーム画面に戻る場合などのレスポンスにおいては、ハイエンドモデルのきびきびさには劣るが、これについても横にハイエンドモデルを並べて同時に操作して初めてわかるレベルだ。

コミック表示時の比較。左が本製品、右がiPhone XS Max。表示サイズはほぼ同等だ。本製品はiPhoneと異なり、上部のノッチ周りが塗りつぶされた状態になる
こちらは左が本製品、右がAQUOS zero。同じAndroidということで、どちらも上部のノッチが塗りつぶされた状態になる
テキスト表示時の比較。左が本製品、右がiPhone XS Max。ほぼ同じフォントサイズ、行間、余白に設定しているが、iPhone XS Maxのほうが若干情報量が多い
画面中央をタップしてオプションを表示すると、上部ノッチ周りの塗りつぶしが解除され、画面の情報量が増える
こちらは左が本製品、右がAQUOS zero。見え方の傾向はまったく同じで、オプション表示時に上部ノッチ周りの塗りつぶしが解除されるのも同様だ

 一方で、ライブラリから複数のコミックをまとめてダウンロードするなど、ネットワークまわりに負荷がかかる用途では、ハイエンドモデルとの差がはっきりと出る。iPhone XS MaxおよびAQUOS zeroと比較するかぎり、本製品はダウンロード完了までの所要時間が1.5~2倍ほどかかる。

 試したかぎり、この速度差はCPUにまつわるものではなく、5GHz帯に対応しない本製品のWi-Fi(IEEE 802.11b/g/n)が原因であるようだ。というのも、AQUOS zeroで5GHz帯ではなく2.4GHz帯を利用するよう設定して比較したところ、ダウンロード完了までの速度はほぼ同じ、場合によっては本製品のほうが速いこともあったからだ。

 また電子書籍ユースとは異なるが、Pixel 3やAQUOS zeroで問題なく再生できるNAS上のフルHD動画は、本製品ではかなりの頻度でコマ落ちするのだが、こちらについてもPixel 3やAQUOS zeroでWi-Fiを2.4GHz帯に切り替えると、ほぼ同様の現象が発生する。

 こうしたことから、ボトルネックになっているのはむしろWi-Fiで、CPUはあまり問題になっていない印象だ。電子書籍ユースに限れば、ダウンロード済の別のコンテンツに切り替えたり、普通にページをめくって読むぶんには問題ないが、コミックなどデータ量の大きいコンテンツをダウンロードする機会が多いと、ストレスを感じやすいかもしれない。シリーズ単位で一気にダウンロードするような使い方をしているとなおさらだ。

 なお本製品はメモリカードに対応しているため、自炊コンテンツをについては、ネットワーク経由でコピーせずにメモリカードで運用することで、これらの問題を回避できる。自炊ビューアとして快適に使えるデバイスを探しているユーザーにとってはメリットだろう。

電子書籍専用サブ機としての導入も視野に入る1台

 以上のように、「ハイエンドモデルほどの性能は期待しないが、普通に使えないと困る」というユーザーにぴったりの1台で、これでいて実売3万円台という価格はじつにツボを突いている。MVNO事業者によっては各種キャンペーンなどでさらにお得に入手できるケースもあるようなので、価格と性能のバランスを求めるユーザーに人気があるのも理解できる。

 またこの価格ならば、メインのスマートフォンとしての導入はもちろん、電子書籍などをメインに扱うためのサブスマホとして導入する選択肢も現実的だろう。ZenFone Maxシリーズの特徴でもある大容量バッテリも健在なので、コンテンツを楽しむためのサブ機として運用すれば、メインのスマートフォンのバッテリをなるべく減らさずに済む。

ブルーライトをカットする読書灯モードも搭載している

 なお価格をさらに抑えたければ、解像度が1,520×720ドットで、CPUをSnapdragon 632へと落とした下位モデル「ZenFone Max(M2)」を選ぶ手もある。実機での検証は行なっていないが、Wi-Fiがボトルネックである現状からして、電子書籍ユースでの使い勝手に大きな差はないと見られる。ただし解像度が267ppi相当と、300ppiを切ってしまう点だけは注意してほしい。