山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
実売3万円台で電書もイケる6.3型Androidスマホ「ASUS ZenFone Max Pro(M2)」
2019年5月7日 12:01
ASUSの「ZenFone Max Pro(M2)」は、SIMロックフリーの6.3型Androidスマートフォンだ。Snapdragon 660を採用したミドルクラスの製品ながら、実売3万円台で入手できるリーズナブルな価格設定が大きな特徴だ。
前回紹介したシャープ「AQUOS zero」は、150g以下、かつ6.2型の大画面ということで、電子書籍ユースにはもってこいの製品だったが、いかんせん実売価格が7~9万円前後ということで、メインのスマートフォンとして導入するならまだしも、電子書籍など用途を絞ったサブ機として入手するには無理があった(「AQUOS zero」は電書に理想な“6型以上150g以下”の大型軽量スマホ参照)。
今回紹介するZenFone Max Pro(M2)は、画面サイズや重量こそ平均的で、同等サイズのスマートフォンと比較して突出した特徴はないものの、3万円台というリーズナブルな実売価格を実現している。
これでいて、CPUにはSnapdragon 660を採用するなど、ミドルクラスとしての性能を備えているほか、最近のハイエンドモデルでは少なくなったメモリカードスロットを搭載するなど、電子書籍を楽しむデバイスとしてポテンシャルの高い1台だ。
今回はこの製品について、メーカーから機材を借用できたので、電子書籍ユースを中心にチェックしていく。カメラ機能を中心としたレビューはすでに西川氏のコラムで取り上げられているので、そちらを参照いただきたい(ノッチつきとなり画面占有率アップ、AI対応カメラ搭載の「ZenFone Max Pro (M2)」参照)。
最大のメリットは価格。トリプルカードスロットにも注目
本製品はミドルクラスの製品という位置づけだが、今回は違いをわかりやすく見ていくために、過去に取り上げている「iPhone XS Max」や「Pixel 3 XL」など、画面サイズがほぼ等しい、各社のハイエンドモデルと比較する。
ZenFone Max Pro(M2) | AQUOS zero | Pixel 3 XL | iPhone Xs Max | |
---|---|---|---|---|
ASUS | シャープ | Apple | ||
OS | Android 8.1 | Android 9 Pie | Android 9 Pie | iOS 12 |
発売年月 | 2019年4月 | 2019年3月 | 2018年11月 | 2018年9月 |
サイズ(幅×奥行き×高さ) | 75.5×157.9×8.5mm | 73×154×8.8mm | 76.7×158×7.9mm | 77.4×157.5×7.7mm |
重量 | 175g | 146g | 184g | 208g |
CPU | Qualcomm Snapdragon 660 (オクタコアCPU) | Qualcomm Snapdragon 845(SDM845) 2.6GHz(クアッドコア)+1.7GHz(クアッドコア) オクタコア | Qualcomm Snapdragon 845 2.5 GHz + 1.6 GHz、64 ビット オクタコア | A12 Bionicチップ 次世代のNeural Engine |
RAM | 4GB | 6GB | 4GB | 4GB |
ストレージ | 64GB | 128GB | 64/128GB | 64/256/512GB |
画面サイズ | 6.3型 | 6.2型 | 6.3型 | 6.5型 |
解像度 | 2,280×1,080ドット(400ppi) | 2,992×1,440ドット(538ppi) | 2,960×1,440ドット(523ppi) | 2,688×1,242ドット(458ppi) |
Wi-Fi | IEEE 802.11b/g/n | IEEE 802.11ac | IEEE 802.11ac 2x2 MIMO対応 | |
コネクタ | Micro USB | USB Type-C | Lightning | |
メモリカード | ○(最大2TB) | - | ||
防水防塵 | - | IPX5/IPX8、IP6X | IP68 | |
認証方式 | 顔認証、指紋認証 | 指紋認証 | 顔認証 | |
駆動時間/バッテリ容量 | 5,000mAh | 3,130mAh | 3,430mAh | インターネット利用 : 最大13時間 ビデオ再生(ワイヤレス) : 最大15時間 オーディオ再生(ワイヤレス) : 最大65時間 |
こうしてスペックを見ると、ハイエンドモデルと見比べても遜色ない部分と、そうでない部分にはっきり分かれている印象だ。たとえばCPUはSnapdragon 660ということで、決してローエンドではないが、Pixel 3 XLなどに採用されるSnapdragon 845に比べるとやや分が悪い。
またWi-Fiは5GHz帯に非対応であるほか、コネクタはUSB Type-CではなくMicro USB、またAndroid 9 PieではなくAndroid 8であるなど、全体的にフォームファクタの古さが目につく。防水防塵機能や無接点充電も非搭載だ。
その一方で、メモリやストレージの容量、ディスプレイまわりのスペックは上位のモデルと比べても遜色なく、解像度も400ppiを維持している。筐体サイズも6.3型としては標準的で、極端に大柄だったり、厚みがあるわけではない。重量も、軽さが売りの「AQUOS zero」にはおよばないものの、Pixel 3 XLやiPhone XS Maxより軽量だ。
さらに本製品はトリプルスロットを搭載しており、2枚のNano SIMカードに加えて、microSDスロットも同時利用できる(最大2TB)。今回比較している他製品はいずれもメモリカードには非対応なので、これは大きなメリットだろう。電子書籍ユースの場合、自炊コンテンツのデータコピーや保管に重宝する。
ZenFone Maxシリーズの特徴である大容量バッテリも健在だ。電子書籍ユースにおいてはバッテリ容量はあまり重視される項目ではないが、充電なしで長時間使えるのはプラスだろう。ただしコネクタがMicro USBなので、これだけのバッテリ容量でありながら、USB PDによる急速充電に対応しないのはもったいない印象だ。
そして、最大の特徴と言えるのが価格だ。実売価格は35,500円ということで、今回比較している他社のハイエンドモデルの半額以下だ。どれだけスペックが高くても価格だけで候補から外れがちな他社のハイエンドモデルと違い、現実的な選択肢に上がりやすい製品と言える。
突出した特徴はないが普通に使える。指紋認証/顔認証の両対応が便利
セットアップ手順などは西川氏のコラムに詳しいので本稿では省略するが、全体的にシンプルで、時間を取られる印象はない。指紋認証と顔認証をそれぞれ設定しようとすると、多少の手間がかかるくらいだ。
アプリについても数はひかえめで、電子書籍アプリはプリインストールされていない。アプリ一覧のなかに「まんがお得」という名前の、ebookjapanのアイコンが見えるが、実際にはアフィリエイトサイトを経由する単なるショートカットで、ブラウザが起動してebookjapanのトップページが表示されるだけだ。
実際に使った印象としては、AQUOS zeroにおける突出した軽さのような特徴こそないが、良くも悪くも普通に使える大画面スマートフォンだ。さすがに5型クラスのスマートフォンに比べると重量はあるが、それでもiPhone XS Maxの重さに慣れていると圧倒的に軽く感じるし、ミドルクラス以下の製品にありがちな筐体サイズの大きさも感じない。総じて優秀で、安っぽさもない。
特筆すべきは指紋認証に加えて顔認証にも対応していることで、iPhone XS MaxやPixel 3 XLのようにどちらか一方にしか対応しない製品に比べると、どのようなシチュエーションでも対応できて利便性は高い。試したかぎりではどちらもレスポンスは高速で、実用性は高い。
ハイエンドモデルとの違いということでは、冒頭にも述べたCPUの性能差が気になるが、Sling Shot Extremeによるベンチマークでは各社ハイエンドモデルの半分以下のスコアで、ある意味で価格と正比例した結果になっている。
ただし項目別に見ると、Graphicsでは大差がついている反面、Physicsはほぼ同等だ。つまりCPUの性能はそう悪くないわけで、ゲームなどならまだしも、電子書籍ユースでは悲観するスコアではない。総合スコアだけ見て性能を判断すると、意外な軽快さに驚くことになるだろう。
表示周りの品質は十分。音量ボタンによるページめくりは使いにくい
では電子書籍用途での使い勝手を見ていこう。とくにことわりがないかぎり、ストアはKindleストアを利用している。テキストコンテンツのサンプルには太宰治著「 グッド・バイ」を、コミックのサンプルにはうめ著「大東京トイボックス 1巻」を用いている。
まず画面のサイズについては、6.3型と大きく、またコミックの特定コマの横幅も、前回までに比較したPixel 3 XLやiPhone XS Maxと同等だ。なるべく大きい画面でコミックを読むという目的においては十分なサイズだ。縦長の画面ゆえ上下の余白は目につくが、これはほかの製品でも同じである。
解像度も、ハイエンドモデルのような500ppiオーバーではないものの、400ppiという基準はクリアしており必要十分だ。そもそもiPadなどのタブレットでは、300ppiを超えていれば十分というのが現在の状況なので、問題になるレベルではない。また画面はフラットなので、左右が曲面になっている前回のAQUOS zeroのように、端が反射して見にくいこともない。
一方で気になるのは、音量ボタンが右側面のかなり上に配置されていることで、音量ボタンでページめくりを行なう場合、握り方を変えなくてはいけない。前回のAQUOS zeroでもこの問題はあったが、本製品はAQUOS zeroよりも重量があるため、手への負担はこちらのほうが大きい。音量ボタンによるページめくりは、あまり実用的でない印象だ。
ボトルネックはCPUよりもむしろWi-Fi?
電子書籍を表示し、ページをめくったり、本を閉じて別の本を開くといった基本操作においては、上位のモデルとの差は感じられない。ホーム画面に戻る場合などのレスポンスにおいては、ハイエンドモデルのきびきびさには劣るが、これについても横にハイエンドモデルを並べて同時に操作して初めてわかるレベルだ。
一方で、ライブラリから複数のコミックをまとめてダウンロードするなど、ネットワークまわりに負荷がかかる用途では、ハイエンドモデルとの差がはっきりと出る。iPhone XS MaxおよびAQUOS zeroと比較するかぎり、本製品はダウンロード完了までの所要時間が1.5~2倍ほどかかる。
試したかぎり、この速度差はCPUにまつわるものではなく、5GHz帯に対応しない本製品のWi-Fi(IEEE 802.11b/g/n)が原因であるようだ。というのも、AQUOS zeroで5GHz帯ではなく2.4GHz帯を利用するよう設定して比較したところ、ダウンロード完了までの速度はほぼ同じ、場合によっては本製品のほうが速いこともあったからだ。
また電子書籍ユースとは異なるが、Pixel 3やAQUOS zeroで問題なく再生できるNAS上のフルHD動画は、本製品ではかなりの頻度でコマ落ちするのだが、こちらについてもPixel 3やAQUOS zeroでWi-Fiを2.4GHz帯に切り替えると、ほぼ同様の現象が発生する。
こうしたことから、ボトルネックになっているのはむしろWi-Fiで、CPUはあまり問題になっていない印象だ。電子書籍ユースに限れば、ダウンロード済の別のコンテンツに切り替えたり、普通にページをめくって読むぶんには問題ないが、コミックなどデータ量の大きいコンテンツをダウンロードする機会が多いと、ストレスを感じやすいかもしれない。シリーズ単位で一気にダウンロードするような使い方をしているとなおさらだ。
なお本製品はメモリカードに対応しているため、自炊コンテンツをについては、ネットワーク経由でコピーせずにメモリカードで運用することで、これらの問題を回避できる。自炊ビューアとして快適に使えるデバイスを探しているユーザーにとってはメリットだろう。
電子書籍専用サブ機としての導入も視野に入る1台
以上のように、「ハイエンドモデルほどの性能は期待しないが、普通に使えないと困る」というユーザーにぴったりの1台で、これでいて実売3万円台という価格はじつにツボを突いている。MVNO事業者によっては各種キャンペーンなどでさらにお得に入手できるケースもあるようなので、価格と性能のバランスを求めるユーザーに人気があるのも理解できる。
またこの価格ならば、メインのスマートフォンとしての導入はもちろん、電子書籍などをメインに扱うためのサブスマホとして導入する選択肢も現実的だろう。ZenFone Maxシリーズの特徴でもある大容量バッテリも健在なので、コンテンツを楽しむためのサブ機として運用すれば、メインのスマートフォンのバッテリをなるべく減らさずに済む。
なお価格をさらに抑えたければ、解像度が1,520×720ドットで、CPUをSnapdragon 632へと落とした下位モデル「ZenFone Max(M2)」を選ぶ手もある。実機での検証は行なっていないが、Wi-Fiがボトルネックである現状からして、電子書籍ユースでの使い勝手に大きな差はないと見られる。ただし解像度が267ppi相当と、300ppiを切ってしまう点だけは注意してほしい。