山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
「AQUOS zero」は電書に理想な“6型以上150g以下”の大型軽量スマホ
2019年5月3日 10:00
シャープの「AQUOS zero(SH-M10)」は、有機ELディスプレイを採用した、Android 9 Pie搭載のスマートフォンだ。6.2型という大画面ながら、4.7型のiPhone 8(148g)を下回る146gという軽量筐体が特徴だ(シャープ、初の自社製有機EL搭載で世界最軽量の6.2型スマホ「AQUOS zero」参照)。
最近は電車内などで、スマートフォンを使って電子書籍を楽しんでいる人をよく見かけるが、スマートフォンで電子書籍、とくにコミックを快適に読みたい場合に1つの目安となる画面サイズは「6型」だろう。
最近のスマートフォンは画面が縦に長く、画面サイズを表す数字に比べると、実際のページサイズは意外に小さい。横幅に合わせてページ全体が縮小されるためで、これより画面サイズが小さいと、コミックの細かい描写やセリフが読み取りにくいことが多い。
ただし6型ともなると、スマートフォン本体の重量が200g近くになりがちなのがネックだ。片手で長時間持っても苦になりにくいスマートフォンの重量は、筆者的には「150g以下」だと思うのだが、そのラインを大幅に超えてしまう。現実的には、この2つの条件を両立するのはまず不可能で、どちらかを妥協せざるを得ない。
今回紹介する「AQUOS zero」は、この「6型以上」、「150g以下」という条件をともに満たした類稀なスマートフォンだ。6.2型という画面サイズは、Googleの「Pixel 3 XL(6.3型)」とほぼ同じながら、146gという重量は、その小型モデル「Pixel 3(148g)」よりも軽い。“大画面×軽量”を地で行く、空前絶後の製品である。
この製品、昨年(2018年)冬の発売からしばらくはソフトバンクのみ取り扱いだったが、今年4月になってSIMロックフリーモデル(SH-M10)が登場したことで、ぐっと入手しやすくなった。今回は、メーカーからSIMロックフリーモデルを借用できたので、電子書籍用途での使い勝手を中心に紹介する。
大画面×軽量に加えてスペックも文句なし
まずは競合製品と比較してみよう。6型オーバーの大画面スマートフォンとしては筆頭に挙げられる「iPhone XS Max」のほか、冒頭でも述べたGoogleの「Pixel 3 XL」も併せて比較する。
AQUOS zero | Pixel 3 XL | iPhone Xs Max | |
---|---|---|---|
メーカー | シャープ | Apple | |
OS | Android 9 Pie | iOS 12 | |
発売年月 | 2019年3月 | 2018年11月 | 2018年9月 |
サイズ(幅×奥行き×高さ) | 154×73×8.8mm | 76.7×158×7.9mm | 77.4x157.5x7.7mm |
重量 | 146g | 184g | 208g |
CPU | Qualcomm Snapdragon 845(SDM845) 2.6GHz(クアッドコア)+1.7GHz(クアッドコア) オクタコア | A12 Bionicチップ 次世代のNeural Engine | |
RAM | 6GB | 4GB | 4GB |
ストレージ | 128GB | 64/128GB | 64/256/512GB |
画面サイズ | 6.2型 | 6.3型 | 6.5型 |
解像度 | 2,992×1,440ドット(538ppi) | 2,960×1,440ドット(523ppi) | 2,688×1,242ドット(458ppi) |
Wi-Fi | IEEE 802.11ac | IEEE 802.11ac 2x2 MIMO対応 | |
コネクタ | USB Type-C | Lightning | |
防水防塵 | IPX5/IPX8、IP6X | IP68 | |
認証方式 | 顔認証、指紋認証 | 指紋認証 | 顔認証 |
駆動時間/バッテリ容量 | 3,130mAh | 3,430mAh | インターネット利用 : 最大13時間 ビデオ再生(ワイヤレス) : 最大15時間 オーディオ再生(ワイヤレス) : 最大65時間 |
最近のスマートフォンは製品ごとに画面のアスペクト比が異なる上、ノッチまわりのエリアの画面サイズへの算入方法も事業者ごとに異なるため、同じコミックを表示しても、公称画面サイズの小さい製品のほうが大きく表示されたり、その逆だったりすることがある。
ここで比較している3製品はその典型例で、公称6.2型の本製品と、公称6.5型のiPhone XS Maxは、コミックの実表示サイズがほぼイコールだ。また公称6.3型のPixel 3 XLも、これら2製品よりわずかに大きいが、その違いは1mmあるかないかだ。
つまり3製品とも(コミックの表示においては)実質的に同等サイズと言えるわけだが、その上で重量を見ると、もっとも重いiPhone XS Maxと、本製品の差はなんと約62gにも達していて驚かされる。ざっくり計算すると、iPhone XS Max×2台と、本製品×3台が、ほぼ同じ重量というからすさまじい。
ちなみに本製品の重量は、Touch IDを搭載していた4.7型クラスの歴代iPhoneともほぼ同じだ。具体的には、iPhone 8(148g)より軽く、iPhone 7(138g)iPhone 6s(143g)よりわずかに重い程度だ。画面サイズが公称6.2型であることを考えると、これは驚異的な軽さと言える。
一方で本製品は厚みが他製品に比べてプラス1mmほどあるのだが、この軽さに加えて、両サイドがやや薄くなったラウンドフォルムを採用しているためか、実際に手に持ってもまったく厚いとは感じない。この点が製品選びでネックになることはないだろう。
スペックも抜かりはない。Snapdragon 845を採用しているのはPixel 3 XLと同じだが、クロック数はこちらが上だ。さらにメモリは6GB、解像度は500ppi超えと、フラグシップモデルに相応しいスペックだ。防水防塵機能は、等級の表記方法が異なるため厳密に比べられないが、実質的に同じ使い方ができると見てよいだろう。
一方、軽量化を重視したせいか、無接点充電に対応していないのは、iPhone XS MaxやPixel 3 XLとの大きな違いだ。またほかの2製品と同様、イヤフォンジャックがないことや、メモリカードスロットがない点は、実際の製品選びにおいてネックになるという人がいるかもしれない。
背面のカメラおよび指紋認証センサーの配置はやや疑問
OSはPixel 3/3 XLと同じAndroid 9 Pieということで、インストール手順および操作方法はほぼ同じ。ホーム画面は同社オリジナルの「AQUOS Home」だが、プライベートでPixel 3を使っている筆者からすると、あまり操作方法の違いは感じず、Android 9 Pieのデフォルトに近いようだ。
さて、製品を手にしてまず感じるのが、やはりその異常な軽さだ。こうした軽量な製品を形容する表現として「異次元の軽さ」という表現がよく用いられるが、それでは物足りない印象だ。「別次元の軽さ」とでも言えばいいだろうか、筐体のなかになにも入っていないのでは、と疑いかねないほどの軽さだ。
こうした軽さゆえ、6.2型という大画面のわりに、筐体が大柄に感じないのもおもしろいところだ。実質的なサイズはiPhone XS MaxやPixel 3 XLと変わらないのだが、手に持った印象はそれらの小型版である、iPhone XSやPixel 3に近く感じる。デバイスの重さが、いかに体感サイズに影響を与えているかがわかっておもしろい。
筐体は現行のトレンドに沿ったベゼルレスのデザインで、上にノッチと呼ばれる出っ張りがあり、顔認証などを行なうためのカメラが埋め込まれている。さらに指紋認証を行なうためのセンサーを背面に搭載しているため、ふだんは顔認証、マスクをしているときは指紋認証といった具合に使い分けられる。さきほどの2製品と比較した場合の大きなアドバンテージだ。
やや特徴的なのが本体背面だ。アラミド繊維を採用することで、軽さと頑丈さを両立しているのだが、織物のようなパターンが斜め方向に入っており、最近のスマートフォンにはめずらしいマットな色調を採用している。このこと自体にとくに問題はないのだが、手の脂がつきやすく、また軽く拭いただけでは取れにくいのは、神経質な人だと気になりそうだ。
個人的に気になったのは背面カメラと指紋認証センサーの配置だ。というのも、指紋認証センサーはカメラレンズの直下に配置されており、その距離は実測で12mmしかないため、指紋認証センサーを指先で探しているときにレンズをべたべたとさわってしまいがちだ。これだと、うっかり指紋がついたまま撮影し、写真がボケてしまいかねない。
カメラと指紋認証センサーはおうとつの違いはあるとはいえ「これは突起があるからカメラだな」と指先で認識できた時点で、すでにカメラレンズの端はさわってしまっているわけで、デザインによってこれを解決できなかったのは、ユーザビリティ的にいただけない。カメラを左右どちらかの端に移動させるか、せめてもう10mm程度は両者の距離を離すべきだろう。
軽さゆえの手/腕の疲れにくさは秀逸、品質も文句なし
では本題、電子書籍用途での使い勝手を見ていこう。とくにことわりがないかぎり、ストアはKindleストアを利用している。テキストコンテンツのサンプルには太宰治著「 グッド・バイ」を、コミックのサンプルにはうめ著「大東京トイボックス 1巻」を用いている。
一般的に、デバイスを手に長時間持っていて疲れるのには、「重さによって腕が疲れる」と「本体を握り疲れる」の2つの要因があるが、本製品はその軽さゆえ、前者とはほぼ無縁だ。今回テストをしていて、コミックを3冊ほど同じ姿勢で読み続けてもとくに疲れを感じなかったほどで、読書に没頭するには最適だ。
また、この軽さのため、それほど力を入れなくても本体を保持でき、握力もあまり使わない。背面にバンカーリングなどをつけ、指を通して持つようにすれば負担はさらに軽減されるはずで、どちらの意味でも、電子書籍を長時間読むに当たって手も腕も疲れにくい、優れた製品だと言えるだろう。
このほか、Pixel 3 XLでやや気になった、エッジまわりが敏感すぎてタップやスワイプの誤操作が起こりやすい問題についても、もう一方の手で支える機会が少ないため(言うまでもないが軽量であることがその理由だ)、意図しない反応にうんざりさせられることもほとんどない。ここでもやはり軽量であることが、プラスに作用している格好だ。
解像度は538ppi相当ということで、品質面も文句なし。アスペクト比18.7:9というワイド比率ゆえ、見開き表示は難しいが、6.2型という大型画面だけあって、単ページ表示であれば十分すぎるサイズだ。ただしテキストなどのリフローコンテンツは、上下の余白が使えるぶん、本製品よりもiPhone XS Maxのほうが有利だ。
なお画面はかなり強い光沢があることに加え、画面の左右端は曲面加工が施されており、電子書籍を読んでいると、画面端の写り込みがやや気になる。反射防止の保護シートがあればよいが、この曲面部分まで覆える対応製品があるのかどうかは不明だ。メーカーサイトにサードパーティ製の対応アクセサリのページがあるので、そこから探すとよいだろう。
また、ざっと使ってみた感じかぎりでは、有機ELディスプレイの色合いが、やや濃いように感じられる。これはあくまでもiPhone XS MaxおよびPixel 3を日常使っている筆者の感覚によるものだが、電子書籍のカラーページを表示する場合は、もう少し全体的に薄いほうが、本来の意図に近くなるように思う。必要に応じて設定画面の「画質モード」を調整するとよいだろう。
もう1つ気になったのは、音量ボタンを使ったページめくりがややしにくいことだ。Androidの電子書籍ストアアプリは、デバイスの音量ボタンを使ったページめくりに対応していることが多いが、本製品は音量ボタンがかなり上寄りにあるため、ふだんのように本体の下半分を持っていては、ボタンに指が届かない。
これが右手で握っている場合は、親指で押せるのでそう違和感はないのだが、左手で握っている場合は、スマートフォンの持ち方自体を変えなくてはいけなくなる。しばらく使ったかぎりでは、音量ボタンでのページめくりは、左手にかぎってはあまり実用的でないように感じられた。
最大のネックは「後継製品が期待しにくい」?
以上のように、6型以上、かつ150g以下という条件をクリアしている類稀な端末であり、電子書籍ユースでの使い勝手は秀逸だ。細かいツッコミどころはなくはないが、正直、この画面サイズと軽さだけで、多少の問題は許せてしまう。使っていて本当にネックだと感じたのは、上でも述べた、カメラと指紋認証センサーのまぎらわしさくらいだ。
これだけの製品ともなると、電子書籍用途以外にはまったく使わないことは考えにくいわけだが、筆者が日常的に使う用途、たとえばNAS上の動画のストリーミング再生にまで利用範囲を広げても、十分に実用的だと感じた。性能はiPhone XS Maxにはおよばないようで、コマ落ちはわずかながら発生するが、これはPixel 3/3 XLでも同じである。
ネックがあるとすればやはり価格で、販売元のMVNO事業者にもよるが、7~9万円前後の価格は、サブ機として簡単に手が出せるものではない。メインのスマートフォンとして長期利用することが前提であるならば文句なしにオススメ、あとは予算次第ということになるだろう。価格なりの価値は間違いなくあるが、こればかりは個人の懐事情による。
逆に本製品の最大の欠点と言えるのは、将来的に本製品から別の製品に買い替えることになったときに、この画面サイズと軽さを両立する製品が、その時点で必ずしも存在するとはかぎらないことだろう。本製品を手に入れたユーザーは、慣れれば慣れるほどほかの機種への移行が難しくなるという、完成度が高すぎるがゆえの贅沢な悩みを強いられることになりそうだ。