山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
Googleの6型スマホ「Pixel 3a XL」で電子書籍を試す
~実売価格6万円のリーズナブルさが売りの「Pixel 3 XL」弟分
2019年5月17日 11:00
米Googleの「Pixel 3a XL」は、Android 9 Pieを搭載した6型スマートフォンだ。従来の「Pixel 3 XL」の廉価モデルという位置づけながら、CPUを除いたスペックの多くは共通しているほか、評価の高いカメラ機能やFelica対応などの機能も受け継ぎつつ、従来のほぼ半額となる6万円というリーズナブルな価格が大きな特徴だ。
従来の「Pixel 3 XL」の画面サイズは6.3型で、現行のスマートフォンとしてはiPhone XS Maxなどと並び最大級の製品だった。本製品は画面上部のノッチがなくなったことで計算上は6.0型と一回り小さくなっているが、コミックの表示サイズを決める画面の横幅にほぼ変化はなく、それゆえ外出先で気軽に電子書籍を閲覧するには適していると考えられる。
とはいえ、CPUなど一部のスペックはダウンしており、実際に使ってみなければ評価しにくいのは事実。今回はメーカーからSIMフリーモデル(本製品はPurple-ish、Pixel 3 XLはClearly White)を借用できたので、電子書籍ユースを中心にレビューする。
同製品の売りであるカメラ性能やFelica周りの評価は行なっていないので、予めご了承いただきたい(編集部注: カメラなどについてはPixel 3aレビュー記事を参照されたい)。
「全部入り」ではないが高いコスパ
まずはスペックの比較から。Pixel 3 XLに加えて、サイズがほぼ同等であるiPhone XS Maxも併せて比較する。
モデル | Pixel 3a XL | Pixel 3 XL | iPhone Xs Max |
---|---|---|---|
メーカー | Apple | ||
OS | Android 9 Pie | iOS 12 | |
発売年月 | 2019年5月 | 2018年11月 | 2018年9月 |
サイズ(幅×奥行き×高さ) | 76.1×160.1×8.2mm | 76.7×158×7.9mm | 77.4×157.5×7.7mm |
重量 | 167g | 184g | 208g |
CPU | Qualcomm Snapdragon 670 (8コア/2GHz+1.7GHz/64bit) | Qualcomm Snapdragon 845(8コア/2.5GHz+1.6GHz/64bit) | A12 Bionic 次世代Neural Engine |
RAM | 4GB | 4GB | |
ストレージ | 64GB | 64/128GB | 64/256/512GB |
画面サイズ | 6.0型 | 6.3型 | 6.5型 |
解像度 | 2,160x1,080ドット(402ppi) | 2,960×1,440ドット(523ppi) | 2,688×1,242ドット(458ppi) |
Wi-Fi | IEEE 802.11ac 2x2 MIMO | IEEE 802.11ac | IEEE 802.11ac 2x2 MIMO |
コネクタ | USB Type-C | Lightning | |
SDカードスロット | 非搭載 | ||
防水防塵 | IP52 | IP68 | IP68 |
生体認証方式 | 指紋認証 | 顔認証 | |
駆動時間/バッテリ容量 | 3,700mAh | 3,430mAh | インターネット利用: 最大13時間/ビデオ再生(ワイヤレス): 最大15時間/オーディオ再生(ワイヤレス): 最大65時間 |
一般には「Pixel 3 XLの廉価版」とされる本製品だが、確かにスペックダウンしている部分はあるものの、こうして見ると押さえるべきポイントはしっかりと押さえていることが分かる。
たとえばメモリは4GBと同等なほか、ストレージも同じく64GBモデルが基本だ。上位の128GBモデルこそ姿を消したものの、たとえば32GBと64GBの2モデル構成にするなどラインナップ自体を低容量にシフトし、価格が下がったように見せかけているわけではない。
またUSB PDによる急速充電(18W)に対応するほか、Felica搭載でおサイフケータイが利用できるのも、ミドルクラスの製品としては魅力だ。
解像度はやや下がったものの400ppiの大台はキープしており、エントリークラスのスマートフォンに多い250~300ppiクラスの解像度とは一線を画している。画質については後ほど実際にチェックする。
重量は約17g軽くなっているほか、バッテリ容量も約1割アップするなど、むしろ進化している点もある。とくに後者は、廉価モデルということで露骨に容量が減っていてもおかしくないだけに好印象だ。またイヤホンジャックが追加されていることを評価する人もいるかもしれない。
その一方で、ワイヤレス充電機能が省略されたほか、防水防塵機能がIP52へダウングレードされたのは、注意しておきたいポイントだ。CPUもエントリークラスでこそないものの、ハイエンドクラスの製品とは明確な差があり、ベンチマークの数値にもはっきりと現れている。少なくともPixel 3 XLのような「全部入り」のハイエンドモデルではない。
しかしその結果、従来のほぼ半額となる6万円というリーズナブルな価格を実現しているのは驚きだ。
おそらく先に売価を決めて、そこから逆算してスペックを削ったと推測されるが(ちなみに海外ではPixel 3 XLの899ドルに対して本製品が479ドル)、もう1~2万円程度は高くてもおかしくない印象だ。既存のPixel 3 XLのユーザの中には「こちらにしておけばよかった」という人もいることだろう。
ノッチの廃止など外観面に相違はあるが実用面での影響は皆無
本製品は、見た目のデザインもPixel 3 XLと瓜二つで、手元に両方があると取り違えることもしばしばだが、両者を並べると細かい違いの存在に気付かされる。
まずはなんといっても画面上部、ノッチがなくなっているのが最大の違いだ。高さおよそ8mmほどあるノッチの左右部分が塗りつぶされた形になっているため、そのぶん画面サイズは小さくなっている。ただし横幅に変化はほぼないため、コミックを中心とした電子書籍の表示サイズへの影響は実質皆無だ。後ほど詳しく見ていく。
筐体はポリカーボネート製で、従来に比べると背面を中心にプラスチック感が強く、好みが分かれそうだ。一方で背面パネルと側面が1つのパーツとなったことで、両者の継ぎ目がなくなった。無接点充電に対応しなくなったことで、別パーツに分ける必要がなくなったのだと考えられるが、見た目にもスマートになった。
筐体サイズの違いについては、実際に使っていても体感できるレベルではないが、実機を横に並べると、意外に差があって驚く。本稿執筆時点ではまだケースやアクセサリ系は出揃っていないが、Pixel 3 XLに作られた保護ケースを流用するのは不可能だろう。
せっかくなのでセットアップ手順を比較してみた。オプション項目を除いた主要画面に限った比較だが、フローの数はまったく同じ、文言もざっと見た限りでは違いはなく、SIMカードの挿入位置を示したイラストの違いを除けば相違点はない。
唯一の違いといえば、セットアップ完了後の壁紙のデザインが異なることぐらいである。
表示まわりやレスポンスも差はなく、電子書籍ユースに適する
続いて電子書籍ユースについて見ていこう。とくに断りがないかぎり、ストアはKindleストアを利用している。テキストコンテンツのサンプルには太宰治著「グッド・バイ」を、コミックのサンプルにはうめ著「大東京トイボックス 1巻」を用いている。
本製品に限らず、現行のスマートフォンの画面は本の判型よりも縦長であるため、上下に余白ができるのが常だ。
本製品はPixel 3 XLと違って画面上にノッチがなく塗りつぶされた状態にあるが、余白が減っただけで、コミックの表示サイズには影響しない。またテキストコンテンツも、このエリアにまで表示が及ぶわけではないので、表示できる情報量への影響は実質皆無だ。
ちなみに同じコマを表示した場合の横幅の差については、Pixel 3 XLはもちろん、前回までのレビューで取り上げたZenFone Max Pro(M2)やAQUOS zero、さらにはiPhone XS Maxともほぼ同等で、誤差は2mm以下に収まっている。
コミックをなるべく大きく表示できるスマートフォンという意味では、格好の製品と言って良いだろう。
解像度はどうだろうか。本製品は402ppi、Pixel 3 XLは523ppiと差はあるものの、ここまで画素密度が高くなると、見た目の違いはほとんど感じない。もちろんじっくり見れば斜め方向の線の粗さなどで判別は可能なのだが、実際の読書において気になるレベルではない。
また前回のZenFone Max Pro(M2)などで懸案となっていた、ページめくりで利用する音量ボタンの配置も、電源ボタンが上、音量ボタンが下という配置であるため、通常の持ち方では指が届かないこともなく、ページをめくりやすい。少なくとも、音量ボタンでページめくりをするために特殊な持ち方をする必要はない。
レスポンスもとくに問題はなく、コミックを数冊単位でダウンロードした場合の所要時間もほぼ同等だ。
前回紹介したZenFone Max Pro(M2)は、本製品とCPUが同等ながらダウンロード速度が非常に遅かったが、これは5GHz帯非対応のWi-Fiが足を引っ張っていたことが理由で、本製品ではそのような現象は見られなかった。電子書籍ユースでCPUの性能差を感じることはまずないだろう。
また「Pixel 3 XL」はベゼル周りの反応がかなり敏感で、握り方によっては意図しないままページをめくられることがあったが、本製品は数日試用した限り、そうした症状はほぼ皆無だった。左右ベゼルの幅は変わっていないように見えるが、構造が異なるためか、敏感な反応がみられない。筆者のように片手持ちにこだわるユーザにとってはプラスと言える。
守備範囲が広くおすすめできる製品
以上のように、Pixel 3 XLと比べて削られている部分はあるが、電子書籍ユースにおいては影響は実質皆無だ。
本稿では評価していないカメラ機能はPixel 3 XLと同等と言われており、それだけの機能と性能を備えたモデルがPixel 3 XLの約半額というのは、かなり思い切った価格戦略であることは間違いない。
本製品が一定の成果を上げれば、iPhoneの次期モデルの価格設定に影響を与える可能性もあるかもしれない。
ところで、実際に製品の購入を考えるに当たってライバルになるのは、ハイエンドモデルに分類されるPixel 3 XLではなく、むしろ前回紹介したZenFone Max Pro(M2)などのミドルレンジモデルになるだろう。CPUやメモリ、ストレージなどのスペックは酷似しており、画面サイズもほぼ同等で、解像度も近い。それでいて本製品より4割ほど安価な、実売3万円台と来れば見逃せない。
製品 | Pixel 3a XL | ZenFone Max Pro(M2) |
---|---|---|
メーカー | ASUS | |
OS | Android 9 Pie | Android 8.1 |
発売年月 | 2019年5月 | 2019年4月 |
サイズ(同) | 76.1×160.1×8.2mm | 75.5×157.9×8.5mm |
重量 | 167g | 175g |
CPU | Qualcomm Snapdragon 670 | Qualcomm Snapdragon 660 (8コア) |
RAM | 4GB | |
ストレージ | 64GB | |
画面サイズ | 6.0型 | 6.3型 |
解像度 | 2,160x1,080ドット(402ppi) | 2,280×1,080ドット(400ppi) |
Wi-Fi | IEEE 802.11ac 2x2 MIMO | IEEE 802.11b/g/n |
コネクタ | USB Type-C | microUSB |
SDカードスロット | - | 搭載(最大2TB) |
防水防塵 | IP52 | 非対応 |
認証方式 | 指紋認証 | 顔認証、指紋認証 |
駆動時間/バッテリ容量 | 3,700mAh | 5,000mAh |
もっともZenFone Max Pro(M2)は、Wi-Fiが5GHz帯非対応ゆえダウンロード速度が著しく遅かったり、コネクタがMicro USBであるため同製品の売りである大容量バッテリをUSB PDで充電できないなど、フォームファクタの古さが足を引っ張っている箇所が多々ある。電子書籍ユースに限れば、音量ボタンによるページめくりが行ないにくいのも痛い。
またPixel 3a XLが最新のAndroid 9で、OSアップデートおよびセキュリティアップデートが最低3年間保証されているのに対して、ZenFone Max Pro(M2)はAndroid 8であり、またFeliCaは非搭載であるなど、ソフト面でも機能面でも大きな開きがある。
逆にZenFone Max Pro(M2)が勝っているのは、SDカードスロットを搭載していること、バッテリ容量が多いこと、および顔認証にも対応することくらいで、トータルで見るとやはり価格相応の違いがある印象だ。
ただ、電子書籍ユースでポイントとなる画面まわりのスペックだけを見れば遜色はなく、CPUがほぼ同等、ベンチマークの結果も酷似しているので、付加機能を必要とせず電子書籍ユースに絞るならば、そちらを選ぶという考え方もなくはない。
いずれにせよ、実際に製品を選ぶ場合は「Pixel 3 XLか、もしくはPixel 3a XLか」という選び方をすることは考えにくく、本製品に近いミドルエンド機との比較になるはず。その場合、電子書籍ユースに限らず、さまざまな使い方を想定して自分に合ったモデルを選択することになるが、ミドルエンド機で本製品ほど守備範囲の広い製品はあまり見当たらず、そうした意味でもおすすめできる製品と言えそうだ。