■山田祥平のRe:config.sys■
Windows 8のベータリリースが2月に決まったようだ。今年(2012年)のCESはスマートを称するデバイスであるTVやスマートフォンで持ちきりだが、もっともスマートであるとされるUltrabookも負けてはいない。
●大きく変わった通信環境今年も例年通りCESのためにラスベガスにやってきた。最初にCESに来たのは2000年のことだったので12回目だ。この12年間にはいろいろなことがあったが、ラスベガスという街でもっとも変わったのは通信環境だ。
最初はホテルや会場のプレスルームの有線LANを使うしかなかった。移動中のインターネット接続などは夢の夢だったのだ。そのうち、プレスルームではWi-Fiのアクセスポイントが設置されるようになり、ホテルの部屋もそうなった。でも、接続する人々があまりにも多すぎて、ラスベガスのWi-Fiは使いものにならないというのが通説になった。
そのうち、グローバルケータイを入手しプリペイドのSIMを使ってBluetooth経由で3G通信ができるようにしたが、当時の3Gのエリアは狭く、いつでもどこでもインターネットというのはなかなか叶わなかった。
そこに一石を投じたのがWiMAXで、日本の登録ユーザーであれば、ClearのWiMAXサービスが無料で使えるようになった。これは画期的で、もうホテルのLANはいらないと思ったし、会場内外の主立ったところでは、ホテルの奥まった記者会見会場などでも、ほぼ問題なく使える点はうれしかった。
今年もそのWiMAXは健在で、取材中にノートPCを開けば、もうつながっているという状況はとても心強い。エリアに関しては申し分なく、カジノのスロットマシンの林の中でつなごうとでもしない限りは大丈夫だ。人が多すぎて、Wi-Fiはもちろん、3Gも実用にならない中で、何の問題もなく使えるインターネット接続という点で、WiMAXは頭一つ抜き出ている。
ただ、WiMAXの難点は内蔵PCでしか米国での利用ができない点で、ここがMacBook Airを使ったり、データローミングなしでiPhoneを使いたいユーザーのネックになっていた。でも、今年はClearが専用モバイルルーターを99.9ドル+税で発売しているのを量販店頭で見つけ、多くの知り合いが入手していた。1カ月50ドル、1週間25ドルといったプリペイドプランが用意され、短期旅行者でも利用できることがわかったからだ。ただし、初回の登録には1カ月50ドルプランの申し込みが必須で、それに加えて日本のクレジットカードでは登録ができないため、量販店のVISAプリペイドギフトカードに日本のクレジットカードでチャージした上で申し込むというトリッキーな方法をとる必要がある。追加チャージができるとのことだが、来年の今頃、オンラインでのチャージが、日本のクレジットカードで直接できるかどうかがちょっと心配だ。
ちなみに今年はWiMAX環境に加えて、VerizonのLTEルーターを持参した。グローバルWiFiというベンダーが、モニターキャンペーンを実施、無償でレンタルができるというので申し込んでみたところ、幸いにも当選したので、バックアップの体制も万全だ。
借りられたルーターはLTE専用機で、エネループなどもいっしょにパックになっていた。Samsung SCH-LC11という型番で小さくコンパクトな筐体は持ち歩いても苦にならない。ただ、バッテリの持ちはお世辞にもいいとはいえず、実用的に使うならエネループは必須となるだろう。
WiMAXとの比較では、スピード、エリアともにほぼ互角といったところだろうか。ただ、WiMAXが使えないところでも、ごくまれにLTEは大丈夫というところがあったのも事実だ。今回はLTE専用機だったが、これに3Gを併用できればまさに無敵となるかもしれない。ただ、それはまともに3Gが使えればという話であって、CES開催時の3Gのパケット詰まりを思うと、圏内にあっても使えないのなら意味が無い。
それに、WiMAX内蔵PCを常に持ち歩いている立場からすれば、コンパクトであるとはいえ、ルーターを別に持ち、そのバッテリのことまで心配しなければならないのは面倒だ。だから、今回は、モバイル利用のほとんどすべてをWiMAXですませたが、ホテルの部屋ではLTEをルーターとして重宝した。
●Microsoft最後のCESの夜さて、Windows 8の話だ。今年はMicrosoftがCESの基調講演を担当するようになって15回目になるのだそうだ。そのうち11回をビル・ゲイツ、4回をスティーブ・バルマーが登壇しているが、今年は、同社最後のCES参加となるとのことで、恒例となったCES開幕前夜の基調講演がどんな内容になるのかわくわくしていたのだが、肩すかしもいいところで、新しい情報は何も出てこないに等しかった。製品発表のタイミングなどの理由でCESを撤退するということなので、それも仕方がないことなんだろう。
Microsoftが今もっとも熱心にプッシュしているのはWindows Phoneであり、基調講演でも多くの時間がその紹介に費やされた。もちろん、Windows 8もMetroデザインが強力にプッシュされ期待をあおる。それはもう、MetroであらずばWindowsではないという押し出し方で、Microsoftとしては、Windows PhoneもPCも、両方をMetroに向けて昇華させていくという戦略を確認することができた。
IntelはIntelで、今年のプッシュはUltrabookだ。CES開催前日のプレスデーに行なわれた同社のプレスカンファレンスでは、Intel PCクライアントグループ担当副社長のムーリー・イーデン氏が、いつもの調子でUltrabookのコンセプトを語る。ここにも新しい情報は何もなかったのだが、Intelがマーケティング的にUltrabookにいかに力を入れているかは十分に伝わってきた。この春からは大規模なキャンペーンも開始されるようで、同社としては、秋のバック・トゥ・スクールの時期の拡販に力を入れるとのことだ。
Intelは、CEOのポール・オッテリーニ氏がCES初日夕方の基調講演を担当したが、そこでは、IAのスマートフォンとUltrabookにフォーカスされたスピーチ内容だった。ただ、Ultrabookに関しては、印象として、イーデン氏とオッテリーニ氏に多少の温度差を感じたのも事実だ。
というのも、イーデン氏は本命UltrabookがHaswell搭載の来年モデルであるといってはばからないのだが、オッテリーニ氏はさすがにそうではなく、現行のUltrabookが素晴らしいの一点張りだ。
Microsoftも、そのあたりに遠慮があるのかどうか、Metroスタイルのデモンストレーションでは、マルチタッチやキーボード操作に加えて、マウスでも快適に使えることを強調しているように感じた。しかも、Windows 7が稼働しているPCは、すべてがそのままWindows 8に移行できることを誇示する。つまり、現行のUltrabookを手に入れたとしても、Windows 8登場時にはちっとも困らないということを言いたいようなのだ。
個人的には、Windows 8は、Ultrabookの第3世代、つまり、イーデン氏が強力にプッシュしている次のHaswellのプラットフォームとの組み合わせがベストだと思う。イーデン氏の吹聴を信じるとするなら、めくるめくモバイルシーンが現実のものになりそうだし、そこで稼働するWindows 8とMetroアプリの数々、そして、マルチタッチのインターフェイスは大きな魅力となるだろう。それに、スレートPCのプラットフォームだって充実したものになるはずだ。Windows 8をARMで使うのと、IAで使うのとで、どのくらいの違いが出てくるかは現時点では不明だが、Intelはスマートフォンはもちろん、PCもスレートもやっぱりIAに限るよねと言いたいのだ。
●Widows 8カミングアウトのXデイはいつになるのか結局、今年のPCシーンは、Windows 8のRTMが、どのあたりになるのかに大きく左右されるように思う。そして、本格的な商戦は来年にずれこむことにもなりそうだ。Windows 8 Ready PCとして、タッチスクリーン搭載のUltrabookがたくさん出てくることにもなりそうだが、やはり本命はHaswellであることには変わりがない。
ということはHaswell + Windows 8が完成形だということであり、とにかく今は、IntelとMicrosoftの早い仕事を待つしかないというのが、各ベンダーのハラハラドキドキといったところではあるまいか。ただ、いくらなんでもそれを待って何もしないというわけにもいかない。そこにIAによるスマートフォンやタブレットのリファレンスモデルの登場だ。これらはAndroidが稼働することが前提のプラットフォームだが、Windows 8次第では、そのプラットフォームとして使われることも考えられる。それなら今から参入しておいてソンにはならないという算用もありだ。
こうして、いろいろな憶測と願望が入り交じりながら、Windows 8とHaswellが待たれている状況。それが整うのは2013年で、本当なら来年のCESでのテーマだ。それが1年前の今回のCESで見え隠れしている状況は、現在のPCシーンを象徴しているように感じられた。