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トヨタほか24社が汎用ロボット実現に挑む「AIロボット協会」が活動開始

 AIとロボット技術の融合による「ロボットデータエコシステム」の構築を目指して設立された一般社団法人AIロボット協会(AI Robot Association。略称:AIRoA、読み:アイロア)は2025年3月27日、早稲田大学で記者会見を開き、2025年度から活動を本格化すると発表した。

 AIRoAは大規模なロボット稼働データの収集と統合と効率的な学習を可能にする「ロボット基盤モデル」を実現を目指し、大規模データセットを共有/活用できるようにするための枠組みを構築し、「汎用ロボット」を実現することを目指して2024年12月に設立された団体。理事長は早稲田大学 理工学術院 基幹理工学部 表現工学科 教授の尾形哲也氏。

データ収集のためのロボットの1つ、AIREC-Basic。早稲田大学次世代ロボット研究機構AIロボット研究室と株式会社日立製作所が、内閣府ムーンショットで共同開発した双腕ロボット
コントローラで操作できる
HSR(Human Support Robot)。トヨタ自動車が開発した生活支援ロボット。物を拾ったり運んだりする基本的支援が可能
HSRも遠隔操作でデータ収集可能

 理事メンバーは以下の通り。

  • 東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センター/技術経営戦略学専攻教授 松尾豊氏
  • 京都大学 大学院情報学研究科教授、立命館大学 総合科学技術研究機構 客員研究教員(教授) 谷口忠大氏
  • 株式会社NexaScience 代表取締役、オムロン サイニックエックス株式会社 リサーチバイスプレジデント 牛久祥孝氏
  • Telexistence株式会社 取締役CTO 佐野元紀氏
  • トヨタ自動車 R-フロンティア部 アドバンスドロボティクス研究領域 研究長 尾藤浩司氏
  • 株式会社松尾研究所 経営戦略本部 マネージャー 乃木愛里子氏

 3月27日時点での会員企業は合計24社で、詳細は以下の通り(50音順)。

正会員企業(基盤モデルの設計、開発の方向性決定に、議決権を通じて影響力を持つ企業)14社

  • 株式会社ABEJA
  • GMOインターネットグループ株式会社
  • KDDI株式会社
  • 株式会社PKSHA Technology
  • SB Intuitions株式会社
  • Telexistence株式会社
  • 川田テクノロジーズ株式会社
  • さくらインターネット株式会社
  • トヨタ自動車株式会社 未来創生センター
  • 日産自動車株式会社
  • 日本電気株式会社
  • 富士通株式会社
  • 株式会社松尾研究所
  • 三菱電機株式会社

育成会員企業(支援を通じてロボット基盤モデルの発展に貢献する企業)8社

  • 株式会社Algomatic
  • FastLabel株式会社
  • 株式会社Jizai
  • 株式会社Preferred Robotics
  • ugo株式会社
  • 株式会社アールティ
  • コネクテッドロボティックス株式会社
  • 東京ロボティクス株式会社
AIRoA理事一覧

ロボットの経験値が高い日本で汎用物理AI開発を目指す

早稲田大学 総長 田中愛治氏

 会見ではまず、早稲田大学 総長の田中愛治氏と、AIRoA特別顧問でもある東京大学総長の藤井輝夫氏が挨拶。早稲田の田中氏は「早稲田はヒューマノイドロボット開発ではトップを切ってきた。能登半島の大震災のときにはロボットの力を借りたいと思った。今日のロボットには半導体工場で使われる産業用ロボットから街中に出てくるヒューマノイドまでさまざまある。AIはクラウドにある時代。AIとロボットが結びついてさまざまな活動をしてくれるのだろう」と語った。

東京大学総長 藤井輝夫氏。AIRoA特別顧問

 東大の藤井氏は「自分は海中ロボットで博士号を取得した。AIは重さのない世界で発展してきた。物理的実体がAIと結びついている例はまだ多くない。今後は大きな意味を持つ。特に日本の産業界にとっては論を俟たない。AIロボットの開発促進が地球規模課題の解決促進に貢献することを期待している」と語った。

AIRoA理事長、早稲田大学 理工学術院 基幹理工学部 表現工学科 教授 尾形哲也氏。産業技術総合研究所 人工知能研究センター 特定フェロー、国立情報学研究所 大規模言語モデル研究開発センター 客員教授でもある

 続いて、理事長の尾形哲也氏が総長2人の話を引き継ぎ、「日本は歴史的にはロボットには強いし、早稲田大学は50年の歴史を持っている」と挨拶した。そして「ロボットというと課題解決のツールという話が先に来る。確かにその経験値は重要だ。しかしAIに目を向けると特定目的の『○○用AI』はむしろ少なくなっている。基盤モデルが多様な仕事をし、それによって個別目的の性能も向上する」と最近のトレンドを紹介。

 「ロボットにおいても特にアカデミアではロボット基盤モデルをいかに作るかが重要になっている。ただしデータはまだオープンになっていない。日本はロボットの経験値も高く、集められるデータの可能性も大きい。そのようなデータを協調領域として収集する。AIがフィジカルな領域に出ていく。今まではできなかった汎用的なアプリケーションを実現を目指す。従来はできないと言われていたが、汎用ロボット開発に取り組む。ロボットが次々にデータを集めることで基盤モデルを作っていく」と構想を語った。

「ロボットデータエコシステム」構築に挑むAIRoA

株式会社松尾研究所 経営戦略本部 マネージャー 乃木愛里子氏。AIRoA理事

 AIRoAの概要説明は、理事の1人である乃木愛里子氏が行なった。AIRoAはロボットとAIの融合により技術革新を行ない、ロボット活用を推進することを理念とする。活動内容は大きく2つ。まず1つ目はAIロボット開発のための取り組みとして、データエコシステム運用に必要なデータの取集/保管/管理などを行なうほか、基盤モデルや個別モデルの開発を行なう。2つ目はAIロボット社会普及のための取り組みとして、AIロボットによる効率化効果の検討や安全性評価などを行なう。

「AIロボット」とは「実世界での運動に伴う多様な情報を学習したAI基盤モデルによって制御されるロボット」

 なおAIRoAの言う「AIロボット」とは、「実世界での運動に伴う多様な情報を学習したAI基盤モデルによって制御されるロボット」のこと。「フィジカルAI」とも呼ばれる。従来のロボットのように特定の環境下で特定作業だけを行なうことを目的にするのではなく、多様な環境下で視覚や言語による入力に基づいて動く。そのために活用されるのが「基盤モデル」で、人間が赤ちゃんから成人になるときのように、ロボットに人間に近い汎用的な動作を学習させておく。それを特定環境下でより柔軟にタスクをこなせるよう学習させることでロボットを駆動する。

AIRoAが目指すデータエコシステム

 一方、基盤モデルの構築において重要なポイントが大規模データの収集だ。AIRoAは「データエコシステム」構築を目指し、各事業会社とAIロボット開発企業が共同開発プロジェクトを実施。AIRoAにデータを提供して、基盤モデルとデータセットを共有し、それに基づいてAIロボットを開発する。そして実世界での稼働データをフィードバックすることで、さらに基盤モデルの性能を向上させるというエコシステムを構想している。

 AIロボットが普及する社会を実現するために、方針決定する理事、活用方針を決める委員会、そして利用する会員企業、さらにAIRoA以外のユーザーも含めて、AIロボットが普及する社会を目指す。

実用化のための委員会を立ち上げ

 実用化のために委員会も立ち上げた。データ収集/基盤モデル構築の方向性検討と、社会実装方針の検討を進める。会員企業は正会員、育成会員、賛助会員の3種類。育成会員は設立年月日が若い会社に参加してもらっている。賛助会員数は現在ゼロだが、もっとも普及において重要と考え、広く参画を呼びかける。

正会員、育成会員、賛助会員企業で構成される

 乃木氏は稼働データの収集、基盤モデル開発、ユーザーの利用、ロボットの浸透のサイクルを回していきたいと語った。

稼働データの収集、基盤モデル開発、ユーザーの利用、ロボットの浸透のサイクルを回す

世界のロボット基盤モデル開発背景と、AIRoAの開発活動

AIRoA CTO 松嶋達也氏

 技術的背景とAIRoAの開発活動についてはCTOの松嶋達也氏が紹介した。2023年、Googleと21の研究機関は共同で「RT-X」というロボット基盤モデルを開発して研究を実施し、汎化性能が認められたことから各国で急激に開発が加速した。最近もスタートアップであるPhysical IntelligenceやFigure AIなど各社の取り組みが発表され話題となっている。いずれもさまざまなロボットで多様なデータを集め、モデルに学習させることで汎用ロボットを実現する試みだ。

従来のロボットと、ロボット基盤モデルを活用したロボットの違い
Googleほかが開発したロボット基盤モデル「RT-X」

 中国でも同様に多くの取り組みが大規模に進められている。米中はそれぞれ独自のデータセットを作って、独自の基盤モデルを作ろうとしている。一方AIRoAはデータをオープンにして、より多くの環境でユーザーが使えるようなエコシステム実現を目指す。

世界中で汎用ロボット開発が進められている
米中で汎用ロボット開発が加速

 開発ロードマップは3段階を想定する。2025年内に実施する初期開発はベースとなる汎用スキルデータセットと汎用動作を生成できる基盤モデルの公開を目指す。2026年~2029年は社会実装段階。活用しながらフィードバックを返すことでスケールさせる。2030年以降はAIロボット開発コミュニティの活性化を目指す。

開発は3段階を想定

 具体的には最初は汎用ロボットでデータを収集。それを使って基盤モデルを作り、個別モデルを作る。2025年度はモバイルマニピュレータのHSRを主に使って、基本的なデータを収集する。タスクの例としては物体や道具の操作、全身運動などを想定する。そして検証を行なう。

 松嶋氏は松尾研究室での家事手伝い、部屋の片付け、水汲み、遠隔操作などの様子を示した。汎用性の高いタスクを学習させることで精度を高めることができるという。

汎用ロボットでデータを収集してモデルを作り、個別モデルで社会実装する
2025年度はモバイルマニピュレータでデータを収集

 基盤モデル開発においては、コンペティションの開催を予定している。数万時間分の実世界データセットを使って、6チームに分かれてモデルを開発する。サブプロジェクトとしてロボット基盤モデル開発ができる人材の開発も目指す。そして個別産業に役立つような基盤モデル作成を目指す。

データ種集の様子の例
コンペでロボット基盤モデルを開発

 具体的にどのような計算基盤やアーキテクチャを採用するのかといった話やコスト負担に関する話は今回はなかった。

ロボットのためのAI基盤モデルの必要性

パネルディスカッションには AIRoA理事が登壇

 第2部としてパネルディスカッションも行なわれた。テーマは「ロボットのためのAI基盤モデルの必要性 について」。パネリストとしてAIRoAの理事全員が登壇した。モデレーターはABEJA CEO / AIRoA 委員会委員長の岡田陽介氏。

ABEJA CEO / AIRoA 委員会委員長 岡田陽介氏

 まずABEJAの岡田氏は「なぜ今なのか」と質問した。尾形氏は「データドリブンのロボティクスは、ずっと基礎研究だと思われていた。いま受ける質問は2種類。『できないからやるな』と『海外ではもうできているから、もう遅い』。ということは今は真ん中。応用は見つかってない。日本は応用先をたくさん持っている。今がドンピシャ」だと語った。

京都大学 大学院情報学研究科教授、立命館大学 総合科学技術研究機構 客員研究教員(教授) 谷口忠大氏

 尾形教授と並んで登壇することも多い京大の谷口氏は「私もずっとデータドリブン研究をやってきた。知能は経験したデータから知能が作られないといけないと考えている。尾形先生がおっしゃったように昔は本当に『(できないのに)なんでそんなことすんねん』という目が多かった。そして今は『いまさら……』と言われる。

 国内のアカデミアの事情を見れば、日本はロボットが強かった。だがそれは機械としてのロボット。機械としてのロボットと、情報系、AIとしてのロボット、それぞれのアプローチには垣根がある。そこに1つの山を作らなければならない。それが AIRoAになっているのかなと思う」と述べた。そして「基盤モデルは米中に引っ張られている。ロボット基盤モデルはある種、これからのOSみたいなものになる。そのレイヤーを日本が抑えられるかどうかは非常に重要だし、国内でしっかり持つことが重要」と語った。

東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センター/技術経営戦略学専攻教授 松尾豊氏

 続いて、現状のロボット基盤モデルの状況は、AIにたとえれば2012年くらいの状況にあたるのではないか、何をやるべきかと問われた東大の松尾豊氏は、「こういうものを作ることが重要なのは間違いない。言語の世界でLLMが出て、これだけ世の中を変えている。自己教師あり学習でnext word predictionをやって巨大なモデルを作れば汎化性がめちゃくちゃ高い、それをロボットの世界に持ってきていろんなセンサやアクチュエータのデータも入れれば汎化性能の高いモデルができるに違いない。

 もちろん技術的にはチャレンジングなところもあるが、大枠で間違いないということはChaGPTが出てきた瞬間から分かっていた。ChatGPTが出てきて、もう2年くらい。だからもう明らかにやるべきでしょう。全然早くはないが、世界でいえば、それほど負けてないタイミング。広く建設や農業、いろいろな領域に広がっていくと思うので良い影響、そこでの強みを取り戻すことにつながれば」と答えた。

産業応用の可能性

株式会社NexaScience 代表取締役、オムロン サイニックエックス株式会社 リサーチバイスプレジデント 牛久祥孝氏

 今後、基盤モデル、個別モデルを使ってAIロボット産業を作るには、産業応用される必要がある。「アカデミアと産業の真ん中にいる人」として、オムロンの研究子会社であるオムロンサイニックエックスの牛久祥孝氏に話が振られた。

 牛久氏は「FA ものづくりでは、ロボットをいかに活用できるか開発が行なわれていて、事業所の一部では双腕ロボットで血圧計を作っていたりする。一方で人間の方がまだまだフレキシブルであることも事実。ものづくりに活用していくにはハードルを下げていく必要がある。1つ目は価格。2つ目はフレキシビリティ、少量多品種生産への対応。そして3つ目はロボットの専門家でないとシステムが組めないという状態からの脱却」と述べた。

 「私が研究しているロボット駆動科学でも同じ。人間の助手相手なら言葉ですむ。ロボットにやらせようと思うとプログラミングや制御の知識が必要。人間同士のようなコミュニケーションでいかに作業させるかが製造業でも本質的には重要なところ」と語った。

Telexistence株式会社 取締役CTO 佐野元紀氏

 Telexistence CTOの佐野元紀氏は同社が開発しているコンビニ向け商品陳列ロボットにマシンラーニングを使っていると紹介。そして「さらに推し進める必要が実産業にもある。我々のロボットは自動操作と遠隔操作を組み合わせているが、イレギュラーは発生する。それをルールベースで書くときりがない。人間の暗黙知は非常に優れている。人間の知性をいかにデータ化していくかが重要。まずはデータがないと始まらない。従来の技術では難しかったことができる、より高い次元のAIロボットが実現できれば」と語った。

トヨタ自動車 R-フロンティア部 アドバンスドロボティクス研究領域 研究長 尾藤浩司氏

 「スタートアップではない大企業の目から見るとどうか」と問われたトヨタ自動車の尾藤浩司氏は、「ロボットは製造現場でも活用しているが調整しながら行なっている。実際の製造現場では職人のコツや世界のモデル化は難しい。ベテランが調整しているのが現段階。AIロボットの技術ができることで、ベテランのノウハウを学んで今までできなかったことができるようになるのではないか。人を豊かにするロボットもこのような技術によって実現できるのではないか」と答えた。

株式会社松尾研究所 経営戦略本部 マネージャー 乃木愛里子氏

 「作っていきたいAIロボットの未来はあるか」と質問されたAIRoA理事の乃木愛里子氏は、株式会社松尾研究所 経営戦略本部 マネージャーとしての自己紹介を含めて「多くの産業でいろいろな課題を拝見してきた。小売や介護などの現場では一社だけの取り組みだけでは解決できないものが多い。アカデミアで開発した技術を社会に実装していく第一歩のところに事務方スタッフとして携われていることが嬉しい。ドラえもんや鉄腕アトムが育ってきた日本でAIロボットが育っていくこと自体が希望がある」と述べた。

AIRoA理事長、早稲田大学 理工学術院 基幹理工学部 表現工学科 教授 尾形哲也氏

 ABEJAの岡部氏は「本当に今のタイミングでこういうことをやるのが大事」と再度強調。尾形氏は「データドリブンで動くロボットの時代は来ている。特に若い人たちは相当に興味を持っている。どのトップカンファレンスでも『フィジカルAI』というキーワードが出てきている。日本の産業用ロボット市場のポテンシャルとくっついたら大きな可能性がある」と語った。

 最後に早稲田大学次世代ロボット研究機構の大谷淳機構長が登壇し「日本のこの分野のステイタスをどんどん上げてほしい。機械系と情報系の統合が重要」と会を締め括った。

早稲田大学次世代ロボット研究機構 大谷淳機構長
関係者記念撮影