山田祥平のRe:config.sys

超ミニモバイルデスクトップパソコンの足を引っ張るACアダプタ

 多くのデバイスがUSB Type-Cによる給電をサポートするようになり、身の回りの電源環境は汎用的でスマートなものになりつつある。とはいうものの、まだまだMicro USBは残っているし、それどころかレガシーな丸型バレルプラグを使って電源を確保する機器は多い。足下には専用のAC電源アダプタがゴロゴロしたままだ。

大きな大きなACアダプタ

 24型ディスプレイだけではあきたらず、ついにぼくがデスクトップPCを持ち運びはじめたのかと思った方にはごめんなさい。でも、デスクトップPCを持ち歩く強者が、それなりの割合でいるのだという。

 にわかには信じられないが、IntelのNUCのようなフォームファクタのPCを見ると、それも納得できる。手元にあるNUC11TNKi5は、第11世代Core i5を搭載した製品で、SSDとメモリを実装した状態の本体重量は518gだった。CDのジャケットよりも小さいフットプリントで、それなりの性能をたたき出す。これならカバンのなかに入れて持ち歩いても大きな負担にはならないだろう。

 自分がPCを使うであろうそれぞれの場所にディスプレイやマウス、キーボードを置いておき、そこに着いたらカバンからPCを出して接続して使うというわけだ。薄軽ノートPCのディスプレイは小さく、効率が悪すぎて仕事にならないといった種類の作業なら、こういう使い方は十分にありだ。

 手元にある初期のNUCは第6世代Core i5搭載のもので2016年の製品だ。重量は500gを少し下回る程度でサイズ的には最新版とそう変わらない。だが、この5年前の製品と比べたとき、新型NUCは性能的に天と地ほどの違いがある。小さいとはいえ、あくまでもデスクトップPCだから薄軽ノートPCのプラットフォームであるEvoとは無縁だが、モダンスタンバイにも対応し、Evo相当のスペックがそろっている。これはもうすばらしいフォームファクタだと思う。

 ただ、当時もがっかりしたが、今回もちょっと落胆した。というのも、添付のACアダプタがあまりにも大きいからだ。最新のNUCであるにもかかわらず、5年前のNUCに添付されていたアダプタよりもさらに大きい。

 アダプタの定格を見ると、19V/6.32Aとなっている。じつに120Wだ。このアダプタに直づけされたケーブルの先にある丸型バレルプラグを使ってNUC本体に電源を供給する必要がある。添付のミッキータイプのACコードを含めて482gと、本体重量に近い。

 NUC11TNKi5には、多くの外部ポートがあり拡張に困ることはなさそうだ。装備された2つのType-Cポートは片方がThunderbolt 4、もう片方がThunderbolt 3ポートだ。

 Thunderbolt 4を名乗るかぎり、少なくとも1つのポートでUSB給電ができなければならないことになっている。ただ、100Wを超えないセットの場合ということで、120Wが必要なNUC11TNKi5は対象外となるようだ。

 USB Power Delivery(PD)の規格の策定時に、どうしてもっと大きな電力のサポートを決めておかなかったのか、ちょっとくやしい。実際に試してみたところ、この2つのポートはUSB PDには対応していたが、PDO(Power Data Object)は5V/3Aだけだった。

USB PDを信頼できないPCの気持ち

 もしもの話で恐縮だが、このNUCが65W程度の電源供給で稼働し、USB PDによる給電で使えるなら、その使い勝手は飛躍的に高まるだろう。USB Type-CによるDisplayPort Altモード対応のディスプレイも増えてきているし、そうした製品の多くは60Wを超える給電もサポートしている。

 また、この1年で一気に充実したモバイルディスプレイも、同様にUSB Type-CによるDisplayPort Alt Modeでの映像入力ができるものがほとんどだ。ディスプレイ本体にUSB Type-Cポートを2つ用意し、外部からの給電を受け、自分の使う分を差し引いて、もう片方にチャージスルーする仕様なら、ケーブル1本を接続するだけでPCが使えるという体験は同じだ。

 でもNUCの気持ちはわかるのだ。デスクトップPCにはバッテリが内蔵されていない。だから負荷が高まって瞬間的にでも大電力が必要になったときにバッテリに助っ人を頼むことができない。となるとシャットダウンしてしまうか、最悪の場合は突然の電源断となって作業中のデータが失われてしまうかもしれない。そんなことはあってはならないというのがコンピュータ側の論理だし、それも当然だ。

 コンピュータ側は電源ソースとしてのUSB PDを絶対的に信頼しているわけではない。ネゴシエーションの途中で電力が瞬断するかもしれない恐怖に怯えながら電力の供給を受けている。USB PDは、やはりバッテリと組み合わせての利用が安心ということなのだろう。

汎用あってこそのスマート

 それでもエンドユーザー体験としては、1本のケーブルを接続するだけで何から何まですべてつながるというのは、きわめて幸せな体験だ。その幸せが得られないどころか、本体と同じくらいの重量のACアダプタを併用しなければならないというのは残念すぎる。

 NUC11TNKi5のTDPは28Wだが、ほかのポートがたらふく電力を食えば、全体の消費電力は平気で60Wを超えることになるだろう。だからこそ120Wの電源アダプタが同梱されている。そのおかげで盛大に電力を食う高性能グラフィックスを堪能できるのだ。

 USB Type-CとUSB PDの応用というか、強引な使い方としては、トリガーデバイスというアクセサリがある。これは、USB Type-C電源アダプタに対して、あらかじめ決め打ちされた電圧と電流を要求し、受け取った電力を、そのままもう片側の丸型バレルコネクタなどに渡す役割を果たすものだ。多くの場合、片側がUSB Type-C、もう片側が丸型バレルプラグという単なるケーブルにしか見えない。このケーブルを使うことで、汎用のUSB PDアダプタを専用電源のように使える。

 検索すれば、一部のパーツショップが扱っているのを見つけられる。こうしたケーブルを使えば、汎用のUSB PD電源を20V/5Aなどの専用電源に見せかけることができる。でも、できるのは電源供給だけなので、ディスプレイとPCを1本のケーブルで結び、PCからディスプレイには映像と音声を、ディスプレイからPCには電力をといった合わせ技は不可能だ。

 個人的には、古いタイプのPCでUSB PD非対応のものを汎用電源で使うために何本かを手元に置いている。万が一、専用の電源アダプタを紛失したり、破損したりしたときの保険にもなる。

専用団子とのつきあいはいつまで続く

 Amazonの新型Echo Show 10の発売がはじまった。モーション機能つきのスマートディスプレイで、自分自身を追いかけるように首を振って回転し、人間に正対するように追随する。先代に比べて音もよくなったし、画質も大幅に向上した。かなりいい仕上がりだ。

 でも残念ながら、電源は専用ACアダプタで丸型バレルプラグを使って供給する。同梱のアダプタは18V/1.67Aの30Wが定格だ。

 スマートスピーカーも初代のころ、Google HomeやAmazon EchoなどはMicro USBでの電源供給だったが、現行製品はすべて丸型バレルプラグと専用ACアダプタの組み合わせに置き換わっている。つまり、業界全体としては、バッテリを持たないデバイスへの電源供給は、USB PDを避ける傾向にあるようだ。

 当面の間、ぼくらの暮らしはレガシーな団子形状のACアダプタとは訣別できそうにないのかもしれない。さらにその代替手段もない。これがスマートな暮らしだといえるのかどうか。USB PDの規格が次に更新されるときには、こうした問題を回避するためのスペックを盛り込み、30年先まで見越した規格として提示してほしいものだ。