山田祥平のRe:config.sys

在宅勤務時代のノートパソコン考

 理想的な作業環境を追求するのは難しい。モバイルにいろんな妥協が必要だったように、在宅勤務やテレワークにも別の意味での妥協が求められる。追求しようにも理想的な作業環境が得るのが難しいことも多いからだ。だが、成果の追求については容赦がない。そんな中で、何をどうすればいいのだろう。その解の1つが大きなディスプレイのノートPCだ。

17型というサイズ感

 2006年当時、17型のMacbook Proを携行していたころ、その重量は3kgを超えていた。それでも広い画面は、出張先などでおおいに役だってくれた。以降、17型のノートPCを持ち歩くことはなくなっていたが、その次に、17型の画面を強烈に意識したのはLGがgramの17型版を2019年にリリースしたときだった。そして、今年も、第11世代Coreプロセッサを搭載し、Evo対応したgramが発売され、その健在ぶりが刷新された。

 平成最後の年にデビューした17型の画面を持つgramだが、当時と今では何が違うかというと、やはりコロナ禍がぼくらの暮らしを襲ったことがある。

 もう1つ時代が変わったとすれば、手軽な重量の外付けモバイルディスプレイが容易に入手できるようになったことがある。仮に、13.3型のPCの画面の広さを2倍の広さにしたければ、モバイルディスプレイを1台追加すればいい。アスペクト比が同じ場合、2倍の面積を得るためには、型数を1.41倍にする必要がある。13.3×1.41=18.7なので、13.3型を2画面にするだけで18.7型相当の面積の作業領域が得られるのだ。そんななかで、17型というのはどういう意味があるのか。

タスクとディスプレイのマルチとシングル

 自分自身の作業環境として、マルチディスプレイを便利に使ってきた。ブラウン管のディスプレイディスプレイの頃からそうしてきたし、多いときには24型ディスプレイを4台つないで使っていた時期も長かった。

 ディスプレイが分かれていると便利なのは、気軽にアプリのウィンドウを最大化できることだ。4台のディスプレイを並べていたときには、2台が横置き、2台が縦置きだった。全部アスペクト比16:10の24型フルHDディスプレイで、縦置きにしてWebサイトを最大化表示すると、きわめて使いやすかった。

 このディスプレイはメールとスケジュール、このディスプレイにはWebページ、このディスプレイはワープロやエディタ、このディスプレイはエクスプローラーなどのファイル関連と、それぞれに役割を分担させて使っていた。

 今、その環境は27型と42.5型の2台の4Kディスプレイに置き変わっている。欲をいえば、もう1台、ディスプレイがあってもいいなとは思うが、普段の作業で不便を感じることはないし、贅沢をいえばキリがない。それでも大きなディスプレイは正義だということを痛感する。

 同様のことが17型の画面にもいえる。たしかかに13.3型×2枚のパネルは、17型×1枚よりも広いかもしれないが、17型1枚の方が使い勝手がいいのだ。ケーブルで接続する手間もないし持ち運びもラクチンだ。設置の自由度もある。

 新gramは、すでに13.3型がなく14型になってしまったが、それが999g。標準的な13.3型モバイルノートPCの重量が1kgだとすると、同サイズのモバイルディスプレイは700g未満といったところだろうか。あわせて1.7kgになるが、17型gramなら1.35kgだ。それ単体で大きなディスプレイの使い勝手が得られるのはうれしい。

誰もが求めるマルチタスク

 在宅勤務が求められるようになって、ノートPCの使い方は変わった。何よりも求められるようになったのはマルチタスクだ。というのも、以前であれば、ワープロアプリやスプレッドシート、プレゼンテーションなどの文書を開き、それに専念しながら、たまに調べ物をするのにブラウザーを開き、そこから必要な箇所をコピペするといったことを繰り返していたはずだ。このくらいであれば、タスクの切り替えで対応できる。しかも自分だけのペースで仕事ができた。

 ところが、この1年は、オンライン会議の機会が激増した。人はこれほど会議が好きだったのかと思うくらいに回数が増えた。以前であれば、いきなり電話をして、10分ほど話をして終わった要件も、わざわざメールで何日の何時と会議の予定を決め、TeamsやZoomで会議室を予約して会議に挑むようになってしまった。

 そして、会議は会議で、複数のメンバーが参加するので、互いの顔を見ながら話がすすむ。誰かが画面を共有すれば、それを凝視して吟味する必要があるし、自分も画面を見せなければならない。そして、画面を見せるためには、そのファイルを探し出す必要がある。そうこうしているうちに、緊急案件のメールが届いたりして、こっそり内職する必要があるかもしれない。

 1つのアプリにフルスクリーンを占有させるようなやり方では、こうした会議をこなすのは、なかなかたいへんだ。相当のスキルが必要になるだろう。だが、それが求められるのが今の時代だ。たぶん、コロナは、一般エンドユーザーのPCスキルを数年分進化させたにちがいない。

大きなノートPCを軽快に使う

 gramのような大きな画面のノートPCや、モバイルディスプレイによるマルチディスプレイ環境は、ほんの少しではあるかもしれないが、Windowsというオペレーティングシステムを、まさに複数形のSをつけて複数のウィンドウを並べるPCの使い方をラクにしてくれる。

 たぶん、初代の17型gramがデビューした2019年当時は、モバイルノートPCがもてはやされていた時期で、その機動性が特に訴求されていたはずだ。そんななかでの17型は、カバンに入れて持ち運ぶにも、ちょっと大げさなイメージがあった。それでも新幹線の座席で17型を使っても、まったく問題がないような使い勝手が当時から実現されていたのだ。

 そして今、ノートPCは、据え置きで使われることも多くなり、機動性よりもデスクトップPCと据置ディスプレイ並みの性能や使い勝手が求められるようになった。

 誰もがデスクトップPCと大型ディスプレイを設置した快適な作業スペースを得られるわけではない。ダイニングテーブルやリビングのローテーブルなど、作業中以外は装備の撤去を求められる場所でしか仕事ができない場合もある。さらに、在宅勤務が続いていても、たまの出社時には、そのPCをオフィスに持参する必要があるかもしれない。いろいろな制限の中で、多くの社会人が、コロナと戦っている。

 学業が本分の学生諸君は、絶対に外付けの据置ディスプレイを手に入れたほうがいい。世界観が変わるはずだ。自宅には勉強するためのスペースがないということはないだろう。だが、家族を持つ社会人はなかなかそうもいかない。家族との共有スペースを遠慮がちに使うしかないパターンも少なくないのだ。居宅は仕事をするために考えられているとは限らないからだ。

 雇用側としては、従業員の置かれた状況をきちんと調べ、その状況に応じて装備の選択肢を調達するべきだろう。PCのフォームファクタはいろいろあるし、ノートPCといっても画一的ではなく、それが使われる状況に応じてさまざまなバリエーションがある。以前の10年くらいは、17型のノートPCというと重量級だったが、gramのような製品も出てきているのだ。そんな中でモバイルノートPCは14型前後という決め打ちをしていては、従業員の生産性を支えることはできない。

 アイディアに富んだレアモノグッズで知られるサンコーが、「折りたためるPC台「USBハブ付き高さ角度調整ローデスク」を発売したそうだ。天板サイズは53×30cmだ。15.6型対応とされているが、LG gramのフットプリントは380.2×260.1mmなので、寸法を見るかぎり問題なさそうだ。

 こうした製品が出てくる背景を、企業のシステム部門はもう少し真剣に考えた方がいいと思う。まだしばらくは、こういう状況が続くとすれば、従業員にPCを貸与する組織の側としても、ポリシーを修正する必要がありそうだ。