山田祥平のRe:config.sys
在宅で働いて出勤で遊ぶ
2021年4月24日 09:50
働き方は新しい局面に
電話で10分も会話すればすむ話に、わざわざオンライン会議を設定し、×月×日の○時からと予定を設定する。おそらく、世の中ではそういうことが当たり前のように行なわれている。設定された時間に遅れるとまずいので、5分ほど前にはPCの前にスタンバイして会議室に入室する。それをしないでほかのことをやっていると、つい時間を過ぎてしまって、いわゆる遅刻をしてしまう可能性がある。
だから、少し時間が早くてもバーチャルな会議室に入室してしまうわけだ。それでも、10分のミーティングのために電車に乗って移動して会議に臨むよりも、はるかに効率的だ。それに、もしかしたら会議の前にメンバーと無駄話ができるかもしれない。
ただ、やっぱり寂しい。暮らしのなかで偶然も起こりにくければ、何もしないでボーッとすることも意識的にする必要がある。わざわざ機会を自分で作らなければならない。贅沢といわれそうだが、その積極性が求められる。受け身でいては何も生まれない。
オンライン会議/コラボレーションツールとしてTeamsを提供するMicrosoftによれば、日本の労働者は在宅勤務などが増えた今、かつてと比べて生産性が下がっていないと思っている人が世界平均と比べて多いとしている。同社の調査では、生産性が下がっていないと思っている人が世界平均で40%のところ、日本では63%に達するそうだ。
その一方で、仕事でより社会的な孤立感を感じ、疲労とストレスを感じている。その点では世界平均より日本平均の方が高い。同社では、脳には休息が必要で、休憩も入れずに会議を次々に詰め込むことがデジタル疲労の要因であるとし、ほんの少しでも休憩時間を入れるだけで疲労がやわらぐとしている(Microsoftの英文記事)。
いずれにしても、働き方は新たな局面に入り、今後ハイブリッドワークに向かう流れは不可避だと同社は考える。
装備次第でデジタルを容易に底上げ
仕事をデジタルに依存すればするほど、その効率は装備に左右されるようになる。もちろんリテラシーやスキルにもよるのだが、基本的には装備だ。装備が充実していればいるほどデジタルな仕事は効率がよくなる。高性能なPCが使えればいいし、大きな画面のディスプレイのほうがいい。じつにシンプルでわかりやすい。
在宅の方が仕事の効率がいいと考えるエンドユーザーは、移動にかかる時間がなくなって家族との時間を以前よりも多く確保できるようになったことで、精神面での安定を得ることもあるだろう。同僚との無駄なコミュニケーションに気を散らされることもなく、作業に集中できるといった面もある。それもさることながら、じつは会社のオフィスよりも、贅沢な装備を使う環境を得られているのではないだろうか。
たとえば、大きくても15.6型程度のノートPC 1台を貸与され、それですべての業務をこなすことを求められていたエンドユーザーが、自宅では、大きな据置ディスプレイをセカンドディスプレイとして使って仕事ができるようになったかもしれない。これまではノートPCのタッチパッドを使っていたが、高級マウスを使えるようになったり、あるいは、自分で使いやすい外付けキーボードをゲットしている可能性もある。マウスにしてもキーボードにしても高級品での作業は疲れにくいというメリットもある。
これらのデバイスは、比較的廉価で入手できる上に、会社にないしょで調達して使っても大きな問題につながることはない。だから、ちょっとラクをしたいと思うなら、自腹で購入して仕事の効率を高め、それで浮いた時間をほかのことに使えるかもしれない。
もちろん、会社がこれらの装備の購入を認めてコストを負担してくれるケースもあるだろう。会社からしてみれば数万円の出費で従業員の働きやすさを担保できるのだから、それをしないほうがおかしいくらいだ。でも、経営側はそのことに気がつきにくく、腹立たしさを感じることも少なくないようだ。
実際、複数のアプリを併行して使い、あわせてTeamsのようなオンライン会議アプリでミーティングをしつつ、Outlookなどを使って頻繁に届くメールに返事を書き、その間にもポンポンと届くチャットに反応しながら、容赦なく鳴るスマホの着信にも対応するといったことを、ノートPC 1台でこなすのは至難の業だ。
冷静に考えれば、1時間かかる作業が30分で完了すれば残りの時間が別のことに使えるし、休息に回せるかもしれない。それをサボリととるのはどうかと思う。実際、24型モバイルディスプレイを携行して出張していても、自宅に戻っていつもの環境で作業がすると、やっぱり効率は倍だと感じる。もちろん、高速で安定したインターネット接続は何よりも大事だ。
その装備がすぐに調達できない
コロナ禍の直前まで、世の中はあらゆるものがモバイルにシフトしようとしていた。モビリティを確保することで、いつでもどこでも働けることがよしとされていて、それが新しい当たり前になり、それこそが働き方改革として考えられていた。各種のデバイスも、その方向を目指すトレンドにあった。
在宅勤務は、いつでもどこでも働けることの典型ではあるかもしれないが、実際にその状況下に身を置くと、モビリティがいかに多くの妥協によって成立しているかを思い知らされる。そして、到底持ち運びは無理だと思える42.5型4Kディスプレイなどを使ったりすると、その圧倒的な効率のよさと、作業による疲れの少なさにびっくりしたりもするわけだ。
こんなことなら、なぜこの装備をもっと早く手に入れなかったかと後悔もする。もちろん、それができるスペースを確保できる環境ばかりではない。でも、ノートPCと同じサイズのモバイルディスプレイをもう1台調達するだけでも全然違う。その世界を知らずに、毎日苦労しながら在宅勤務は効率が悪いと愚痴っている多くのエンドユーザーは、すぐにでもそこに投資することを考えてほしい。
とはいえ、PCもディスプレイも未曾有の品不足で、どのサイトを見てもきわめて納期が長い。今すぐ欲しいのに、届くまでに数週間といった状況が続いている。ただ、ザッと調べてみると、いわゆる新製品については納期が短い傾向にあるようだ。とはいえ、今欲しいあの商品が必ずしもすぐに入手できるとはかぎらないのがもどかしい。
オフラインのすばらしさがあるからオンラインが活きる
今のコロナ状況を見るかぎり、もうある種の覚悟を決める以外にないようだ。ハイブリッドワークが続くことを前提に、働きやすい環境を自宅に構築して仕事に取り組み、オフィスへのたまの通勤は、無駄な時間を楽しむくらいの気持ちでいたほうが精神衛生上はよさそうだ。もう、オフィスに快適な仕事環境を求めるのは難しそうだし、いつまでもそこにこだわる経営サイドは責められるべきだ。
冗談じゃない、会社に行かなければ仕事にならない、という気持ちもあるだろうし、そうしかできない仕事の種類もある。でも、どちらでもできるのなら行かない選択肢をとるべきだ。それによって、仕事の現場に行かなければならない人たちを守ることにつながる。
懸念すべきは、仕事や遊びのなかでの人と人とのつながりのすばらしさをまだ強烈な人生観として確立していない若い世代の気持ちだ。オンライン授業が続くなど、新しい友だちとの出会いや語らいも制限されて、あのすばらしいモラトリアム的な時期を経験できない学生諸君や、新入社員として配属されても、先輩社員の心遣いも受けられないまま孤独を感じるフレッシュマンも少なくないようだ。
Z世代はそんなことは気にしないとも言われているそうだが、本当にそうなのか。オンラインコミュニケーションはすべてを代替するわけではない。代替ではなく加速するのだ。オフラインコミュニケーションのすばらしさを知っていてこそ、オンラインの便利さを最大限に享受できるはずだ。そこのところを勘違いしていると、ろくなことがない。