Hothotレビュー
手のひらサイズでリッチな超小型PC「NUC 11 Pro」。第11世代Core i5搭載モデルをレビュー
2021年4月9日 06:50
手のひらサイズで場所を取らず、どこにでも置ける「超小型デスクトップPC」は、大型のミドルタワーやミニタワーケースを置くようなスペースはないが、拡張性やメンテナンス性の低いノートPCは使いたくない、というユーザーから支持を集め、最近では1つのジャンルとして定着した感がある。
今回紹介するIntelの「NUC 11 Pro(開発コードネーム : Tiger Canyon)」シリーズもその1つだ。第11世代のノートPC向けCoreシリーズ(TigerLake)やPCI Express 4.0対応のM.2スロット、デュアルチャネル対応のメモリスロットを搭載しながらも、コンパクトな筐体サイズを実現している。
メッシュ構造で冷却効率をアップ、ディスプレイ端子が豊富
Intelの「NUC」(Next Unit of Computing)は、同社が提唱する小型PC用のマザーボードやベアボーンPC、完成品のブランド名のようなものだ。2012年にNUC対応のベアボーンPCやマザーボードが発売されて以来、継続的に新製品が投入されている。
最新のNUC 11 Proシリーズでは、第11世代Coreシリーズを搭載することで基本性能や内蔵GPU性能が大きく向上した。搭載するCPUやLANポートの数、筐体のサイズや2.5インチベイの有無などによっていくつかのモデルを用意しているが、今回はCPUに「Core i5-1135G7」を搭載し、M.2対応SSDのみを利用できるミドルレンジの小型PC「NUC11TNKi5」のレビューキット試す機会を得た。
執筆時点ではNUC11TNKi5はまだ店頭では販売されていないようだが、以下の記事にあるように、Core i3-1115G4を搭載するモデルはすでに購入できるようだ。いずれ店頭に並ぶことを期待したい。
NUC 11 Pro NUC11TNKi5のスペック | |
---|---|
CPU | Core i5-1135G7(4コア/8スレッド、4.2GHz) |
メモリスロット | DDR4 SO-DIMM×2(DDR4-3200対応、最大64GB) |
ストレージ | M.2(2280、PCI Express 4.0 x4)、M.2(2242、SATA) |
通信 | Wi-Fi 6、Bluetoothv5.1、2.5Gigabit Ethernet |
おもなインターフェイス | Thunderbolt 4(DisplayPort Alt Mode対応)、Thunderbolt 3(DisplayPort Alt Mode対応)HDMI×2、USB 3.1×3、USB 2.0 |
本体サイズ | 117×112×37mm(幅×奥行き×高さ) |
重量(実測値) | 518g(メモリ、SSD含む) |
NUC11TNKi5は、かなり頑丈な箱に入っていた。箱を空けてみると内部は2段に分かれており、上段にはベアボーンPCの本体、引き出しになっている下段にはACアダプタや電源ケーブル、VESAマウンタ、保証書などが入っていた。別途ACアダプタを用意する必要はなく、メモリとSSDを組み込めばPCとして利用できる。
本体のサイズは幅が117mm、奥行きが112mm、高さは37mm。今までのNUCと同様に非常にコンパクトで、まさしく手のひらサイズだ。薄型なので液晶ディスプレイの下に置いてもよいし、VESAマウンタを使って液晶ディスプレイの背面に組み込んでも、ジャマにはならないだろう。
左右両側面と背面には、冷却性能を高めるため風通しのよいメッシュ構造を採用。前面には電源ボタンとUSB 3.1ポート、背面にもUSB 3.1ポートや2.5GBASE-Tの有線LANポート、いくつかの映像出力端子を備えており、デスクトップPCとして利用する上では必要十分のインターフェイスを備える。
とくに映像出力端子はかなり豪華だ。HDMI 2.0ポートを2基備えるほか、DisplayPort Alternate Mode対応のThunderbolt 4ポートとThunderbolt 3ポートを1基ずつ備え、4台までのマルチディスプレイ環境が構築できる。またそのどれもがリフレッシュレート60Hzで4K解像度(3,840×2,160ドット)の出力が可能であり、4K対応ディスプレイを複数台組み合わせたリッチな作業環境を作れるのはうれしい。
NUC11TNKi5の底面にある4カ所のネジを外すと、内部にアクセスできる。底面側から見える基板にはM.2スロットを3基搭載しており、1基にはWi-Fi 6対応の無線LANモジュールが組み込み済みだ。メモリスロットは2基分搭載しており、デュアルチャネル構成が可能。
マザーボードは両面実装で、天板側にはCPUやCPUクーラーなどが組み込まれているようだ。ユーザーはアクセスできない構造なので、メッシュ構造の側面から覗いてみると、厚みのあるヒートパイプや金属製のヒートシンク、薄型のファンなど、ノートPCで見ることが多い小型のCPUクーラーを搭載していることがわかる。
組み込まれているCore i5-1135G7も、基本的にはノートPCで利用されているモデルだ。CPUクーラーなどの冷却用の部品も、ノートPC向けのものを流用しているのだろう。また高負荷時は天板や側板が暖かくなるため、筐体にも熱を逃がす構造になっているようだ。
Core i5-1135G7の本領を発揮、SSDの読み書き性能も高い
今回試用したテストキットには、容量が16GBでDDR4-3200対応のメモリが1枚と、容量が500GBでSATA接続のM.2対応SSDが組み込まれていた。ただ1枚構成のメモリやPCI Express接続ではないSSDでは、NUC11TNKi5が搭載するCore i5-1135G7本来の力は発揮できない。
そこで今回は、メモリをG.Skill Internationalの「F4-3200C16S-8GRS」(DDR4-3200、8GB×2)、SSDはGIGABYTEの「AORUS Gen4 SSD 1TB GP-AG41TB」(PCI Express 4.0×4、1TB)に換装し、いくつかの代表的なベンチマークテストを行なった。
比較対象は、以前レビューした富士通クライアントコンピューティングの「FMV LIFEBOOK CH90/E3」(以降CH90/E3)と、筆者の私物であるレノボの「ThinkPad T14 Gen1(AMD)」(以降T14)だ。BTOメニューでCPUはAMDの「Ryzen 5 PRO 4650U」(6コア12スレッド)、メモリは16GBのデュアルチャネル、ストレージは1TBのSSDにアップグレードしている。
CH90/E3は、CPUにNUC11TNKi5と同じくCore i5-1135G7を搭載するモバイルノートで、メモリのサイズは8GB。しかし搭載メモリの規格はLPDDR4X-4266対応なので、NUC11TNKi5よりも広い帯域を利用できる。T14が搭載するRyzen 5 PRO 4650Uは、AMDのノートPC向けCPUでは中堅モデルであり、Core i5-1135G7を搭載するNUC11TNKi5との比較なら適切だろう。
NUC 11 Pro NUC11TNKi5 | FMV LIFEBOOK CH90/E3 | ThinkPad T14 Gen1(AMD) | |
---|---|---|---|
CPU | Core i5-1135G7 | Core i5-1135G7 | Ryzen 5 PRO 4650U |
PCMark 10 Extended v2.1.2508 | PCMark 10 Extended v2.1.2506 | ||
PCMark 10 Extended score | 4,248 | 4,001 | 3,995 |
Essentials | 9,623 | 9,259 | 8,939 |
App Start-up score | 13,110 | 11,867 | 11,261 |
Video Conferencing score | 7,733 | 7,658 | 7,828 |
Web Browsing score | 8,792 | 8,735 | 8,104 |
Productivity | 6,321 | 6,260 | 7,370 |
Spreadsheets score | 5,548 | 5,513 | 9,063 |
Writing score | 7,202 | 7,109 | 5,994 |
Digital Content Creation | 4,635 | 4,068 | 4,531 |
Photo Editing score | 6,737 | 6,555 | 6,771 |
Rendering and Visualization score | 2,962 | 2,363 | 4,136 |
Video Editting score | 4,990 | 4,347 | 3,233 |
Gaming | 3,124 | 2,939 | 2,306 |
Graphics score | 4,139 | 4,018 | 3,018 |
Physics score | 13,119 | 9,633 | 13,451 |
Combined score | 1,347 | 1,228 | 982 |
3DMark v2.17.7137 | 3DMark v2.16.7113 | ||
Time Spy | 1,409 | 1,442 | 1,068 |
Fire Strike | 3,711 | 3,815 | 2,798 |
Sky Diver | - | 12,180 | 9,902 |
Night Raid | 14,396 | - | - |
Cinebench R23.0 | |||
CPU | 5,194 pts | 3,754cb | 5,610cb |
CPU(Single Core) | 1,362 pts | 1,330cb | 1,170cb |
Cinebench R20.0 | |||
CPU | 2,061 pts | 1,669 pts | 2,158cb |
CPU(Single Core) | 524 pts | 493 pts | 452cb |
Cinebench R15.0 | |||
CPU | 884 cb | 654 cb | 954cb |
CPU(Single Core) | 200 cb | 189 cb | 176cb |
Crystal Disk Mark 7.0.0h | |||
Q8T1 シーケンシャルリード | 4,995.55 MB/s | 2,338.89 MB/s | 3,470.82 MB/s |
Q8T1 シーケンシャルライト | 4,268.41 MB/s | 1,449.1 MB/s | 2,891.2 MB/s |
Q1T1 シーケンシャルリード | 2,469.88 MB/s | 1,514.32 MB/s | 1,517.55 MB/s |
Q1T1 シーケンシャルライト | 3,065.9 MB/s | 1,256.11 MB/s | 1,913.03 MB/s |
Q32T16 4Kランダムリード | 2,806.14 MB/s | 399.25 MB/s | 725.3 MB/s |
Q32T16 4K ランダムライト | 2,320.78 MB/s | 248.14 MB/s | 388.52 MB/s |
Q1T1 4Kランダムリード | 43.28 MB/s | 36.2 MB/s | 44.01 MB/s |
Q1T1 4K ランダムライト | 93.53 MB/s | 65.73 MB/s | 121.54 MB/s |
TMPGEnc Video Mastering Works 7 ※約3分のフルHD動画(ビットレート15~16Mbps)をH264/AVCとH.265/HEVC形式で圧縮 | |||
H.264/AVC | 4分33秒 | 7分20秒 | 3分51秒 |
H.264/AVC(Quick Sync Video/Video Coding Engine有効) | 50秒 | 52秒 | 43秒 |
H.265/HEVC | 7分22秒 | 11分59秒 | 6分50秒 |
H265/HEVC(Quick Sync Video/Video Coding Engine有効) | 56秒 | 56秒 | 41秒 |
Windows 10や一般的に利用されるアプリの使用感を検証できる「PCMark 10」では、全般的にNUC11TNKi5が高いスコアを示した。PCI Express 4.0 x4の高性能なM.2対応SSDを組み合わせたこともあるが、CPUの基本的な処理性能を反映しやすい「Digital Content Creation」では、CH90/E3比では13%以上の性能差を示したほか、よりコア数やスレッド数が多いT14よりも高いスコアだった。
3Dグラフィックスの表示性能を計測できる「3DMark」では、微差ではあるがCH90/E3がもっとも高い成績を残した。第11世代Coreシリーズで内蔵GPUを利用する場合、より広い帯域をサポートするメモリを搭載するほうが性能が高くなるため、順当な結果だ。またこれまで内蔵GPUの性能ではAMDに一日の長があったが、第11世代CoreシリーズではIntelに軍配が上がった。
一方でCPUの純粋な処理性能を反映する「Cinebench R15/20/23」と、動画エンコードの処理速度を測る「TMPGEnc Video Mastering Works 7」では、どのテストでもT14が勝利している。Core i5-1135G7は4コア8スレッド対応であるのに対し、Ryzen 5 PRO 4650Uは6コア12スレッド対応だ。こうした違いが大きく反映した結果とは言え、NUC11TNKi5がT14に肉薄した処理速度を実現していることにも注目したい。
ところで前述のとおり、NUC11TNKi5とCH90/E3ではCore i5-1135G7という同じCPUを搭載している。またメモリ帯域はCH90/E3のほうが広いことを考えると、CH90/E3のほうが優れた結果になるほうが普通のようにも思える。
この疑問に答えるのが、最近のIntelのノートPC向けCPUで採用されている「コンフィグラブルTDP」という機能だ。たとえば今回のCore i5-1135G7では発熱の目安となるTDPが12W~28Wの範囲内で設定されている。もっともクロックを低くすれば対応TDPが12WのCPUクーラーでも運用できるし、最高性能を発揮させたい場合は28WのTDPに対応できるCPUクーラーが必要になる。
Webサイトに掲載されているPDFの資料を見ると、NUC11TNKi5では最大の性能を発揮できる28Wの設定を採用していることが確認できる。しかしCH90/E3のような薄型のモバイルノートでは高性能なCPUクーラーを搭載できないため、たとえば12WのTDPの範囲内で動作するようにクロックが調整されていることが予想できる。
同じCPUを搭載しているPCであっても、メーカー側の設定によって性能がこのように大きく変わることもあるということだ。購入前にはわかりにくいことではあるのだが、注意したいポイントの1つである。
PCI Express 4.0 x4対応のM.2対応SSDも、本来の性能を十分に発揮していた。また、SSDと底面の間にはサーマルパッドが組み込まれており、底面や側面にSSDの熱を逃がす構造になっている。「CrystalDiskMark」の試行回数を9回に増やしたテスト中の最高温度は64℃であり、テストが終わると1分後には44℃まで下がった。
小型ながらもデスクトップPCの自由さを存分に楽しめる
今まで一般的なノートPCやデスクトップPCを使ってきたユーザーからすると、NUCに代表される小型PCに対しては性能面の不安を感じることはあるだろう。しかし少なくともNUC11TNKi5ならば、そうした不安はまったくの杞憂と言ってよい。
今回の検証でWindows 10の操作や応答性に不満を感じる場面はまったくなかったし、3DMarkの結果を踏まえて考えれば、設定しだいではPCゲームだって遊べる。4K対応ディスプレイを組み合わせたマルチディスプレイ環境も構築可能で、テレワークも快適にこなせるはずだ。
ただ、ベンチマークテスト中など作業負荷の高い状況でファンが最大回転数で動作しているときは、動作音が気になることはある。とは言え、書類作成やWebブラウズといった一般的な軽作業時にそうした状態になることはほとんどなく、ほぼ無音状態で利用できるのもメリットの1つだ。
ノートPC向けのCPUを搭載していることもあり、消費電力も低めだ。アイドル時は5~6W、CinebenchなどCPU負荷の高いベンチマークテスト中の消費電力は、65~70Wだった。今までテストしてきたCPU内蔵GPUを利用するタイプのデスクトップPCと比べると、おおむね30~40Wくらい低いという印象だ。
最近は1~2TBの大容量SSDもかなり安くなっており、こうしたSSDを組み合わせれば、メインPCとして利用するにも十分のスペックに仕上がる。NUC11TNKi5は、液晶ディスプレイやキーボード、マウスなど各種周辺機器を自由に組み合わせて利用できるというデスクトップPCのメリットと、置き場所に困らず消費電力が低いというノートPCのメリットを両立できる、優れた小型PCキットと言ってよいだろう。