山田祥平のRe:config.sys

軽さは正義、そして執念

 FCCLがLIFEBOOK UH-X/C3を発表、クラムシェル13.3型モバイルノートの世界最軽量を更新して698gを達成した。2017年のモデルUH75/B3からは50gをダイエットしたことになる。たった50gだが、この50gを軽んじてはならない。

ギリギリの実装がかなえた世界最軽量

 748gだった先代は、本当にミニマムといっていい構成だったが、今回のUH-Xはしっかりとプレミアムクラスに君臨している。店頭モデルにおける先代との差分を見てみよう。

・Core i5 → Core i7
・4GBオンボードシングルチャネルメモリ → 8GBオンボードデュアルチャネルメモリ
・Type-C ×1 → Type-C ×2
・PD充電 要60W以上 → 要45W以上
・PD給電
・USB 3.1 Gen1 → USB 3.1 Gen2
・指紋認証 → 顔認証
・バッテリ駆動8.3時間 → 11.5時間
・128GB SATA SSD → 512GB SATA SSD

 また、内蔵バッテリは同じ25Whのものだが、新プロセッサやIGZO液晶の採用などで省電力を果たして駆動時間が延長された。

 普通にスペックをチェックすると申し分ないもののように感じるが、パワーユーザーであれば、SSDはPCIeにしたいとか、メモリは16GB欲しいとか、やはりタッチに対応してほしいといった欲が出てくる。

 タッチ対応のペナルティは10~20gで、バッテリを倍の4セルにすると120gほど重量が増加するそうだ。しかも、これらのカスタマイズでは、新採用されたマグネシウムリチウム合金のシャーシではなくなってしまう。

 タッチとバッテリをあきらめてもメモリとストレージは譲れないという場合、WEB MARTのダイレクト販売でカスタマイズできるようになっている。ちなみに「16GBメモリ」「512GB PCIe SSD」を選択すると、本体質量は約720gとなるそうだ。パーツとしてのメモリ、SSD自体の重量差はほとんどないが、22gも増えてしまうのはなぜか。

 UH-Xの今回の軽量化ポイントとしては、筐体、液晶、基板の3点があるが、そのすべてに最適化されているのは「Core i7」と「8GBメモリ」の組み合わせのみとなっているのだそうだ。メモリを16GBにすると基板上での実装方法が微妙に変わり、それが重量に直結してしまうのだという。カスタマイズに対応させるためのペナルティなのだろう。

 つまり、ギリギリの実装で果たされた世界最軽量ということになる。そこに敬意を表するなら店頭モデルの一択となる。カスタマイズの余地もないほどの50gダイエットだというわけだ。

スマートフォンの重厚長大化

 同社はUH-Xの発表会場で、出席した報道陣に対してミネラルウォーターのボトルを振る舞った。普通のペットボトルよりもちょっと大きいと思ったら、500mlではなく700mlのボトルだったのだ。今回発表された世界最軽量モデルとほぼ同じ重量を体感してもらうために、わざわざ増量ボトルを探して用意したらしい。そのボトルは、UH-Xを手にしたときよりも重く感じた。きっと、UH-Xには浮力が発生しているにちがいない……。

 こんなに軽いPCが出てくるその一方で、スマートフォンは大きく重くなりつつある。大画面がトレンドで、バッテリ容量も増えたことで200gを超える製品も珍しくない。直近では、かろうじてGoogleの「Pixel 3」が5.5型148gとコンパクトな筐体で登場しているが、この製品は、同じ5.5型ながら、134gで2016年に登場した「Moto Z」よりも重い。コンパクトさを期待したいiPhoneでさえ、最軽量モデルのXSが5.8型で177gだ。

 さらに、多くのエンドユーザーは、スマートフォンにケースをつけて使う。そのケースの重さを加えれば200g超を当たり前のものとして受け入れているわけだ。ほとんど肌身離さず持ち歩くデバイスが200g超というのはほんとうに正義なのだろうか。

 ぼくの場合、普段持ち歩くデバイスの中で、もっとも重いものがカメラになってしまった。スマートフォン、PC、カメラがあればたいていの仕事は片付く。普段持ち歩くカバンについてもこの3点が使いやすく収まるかどうかで選んでいる。今の悩みはしっかりしたカバンを選ぶと、カバンそのものが1kgを上回ってしまう点だ。多くの取材現場でスマートフォンのカメラでもそれなりに実用になるのだが、ここ一番というときにシャッターチャンスを逃してしまう。だからカメラ専用機はまだ必要だ。

 そのカメラがついにPCを抜き去ってしまっている。いや抜かれてしまったというべきか。取材時には、カメラはニコンの「D5600」を使っているが、これが506gあって、常用ズームレンズの「18-200DX」をつけると654g増えて1,160gになる。日和って軽量ズームをつけた場合でも、18-55DXで合計737gある。頼りないカメラだがそれでもUH-Xより重い。

 フルサイズミラーレスが注目されている。フルサイズセンサーの魅力は普通の一眼レフで実感しているし、実際に現場に「D850」を持ち出すこともある。だが、ボディだけで1,035g、レンズをつければ2kg近くなるというのはつらい。フルサイズミラーレスは、カメラの小型軽量化に貢献するはずだが、話題のニコン「Z」がボディだけで675g、「EOS R」も660gある。レンズをつければ軽く1kg超えだ。

 それなりのスペックを持つフルサイズPCが700gを切っている今、フルサイズミラーレスも、もう少しダイエットをがんばってほしいと思う。レンズは重さと画質が比例するかもしれないが、ボディはまだ軽量化の余地があるはずだ。光学機器が重いのは当たり前かもしれないが、すでにカメラボディは光学機器ではなくなっているといっていい。

 それに、センサーの技術がもう少し進化すれば、フルサイズにこだわることもなくなるかもしれない。光学ファインダーがなく、電子ビューファインダーに頼るのなら、良質な画質さえ確保できればセンサーサイズはあまり気にしなくなる可能性はある。カメラメーカー各社には、そうした進化の方向も考えてほしい。

13.3型の呪縛

 UH-Xは700g切りというマイルストーンをクリアしたわけだが、取材のさいに、構造を担当したFCCLの松下真也氏(開発本部第一開発センター第三技術部マネージャー)は、軽さには価値があることに確信を持ったと話していた。折しも、働き方改革が叫ばれる中で、モビリティが注目されるようにもなってきているのも追い風だという。

 いつもいうように、モビリティを考えれば13.3型というのはフットプリントの点で大きすぎる。だが、ビジネス志向のモバイルノートが13.3型超をベースラインに敷くのは、多くのビジネスマンにとって会社から支給されるPCが1台だけだからだ。その1台で、オフィスでの仕事も、出先での仕事も、そして、自宅での作業もオールマイティにこなさなければならない。13.3型より小さい画面ではそれは難しい。効率が悪くて仕事にならないはずだ。

 UH-Xの次のステップは、おそらくすでにスタートしているだろうけれど、さらなる軽量化をかなえるアプローチが気になるところだ。個人的にはそのカギを握るのはType-Cではないかと踏んでいる。オフィスには大画面ディスプレイを置いて、戻ったところでケーブル一本を接続するだけで、デスクトップPCのように優雅な作業空間ができあがる。

 おそらくこれまでの軽量化は13.3型という画面サイズが前提になっていただろうけれど、次は、まともに叩けるキーボードの横幅を確保しての軽薄短小化を検討してほしい。執念ともいえる700g切りを素直に称えると同時に、次のステップに大きな期待を寄せたい。