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世界最軽量のモバイルノート「LIFEBOOK UH-X」が生まれた現場に潜入

FCCL生産管理本部の栗林健氏(品質保証統括部 第一製品保証部長)

 634g。圧倒的な軽さを誇る重い値だ。富士通クライアントコンピューティング(FCCL)の「LIFEBOOK UH-X/E3」が13.3型ワイド液晶搭載ノートパソコンとして世界最軽量を更新した(2020年9月1日現在、同社調べ)。その開発の拠点として機能するのが神奈川・川崎市中原区にある同社のR&Dセンターだ。今回、そこに潜入して設備を視察、同社生産管理本部の栗林健氏(品質保証統括部 第一製品保証部長)に、同センターの機能詳細を訊いてきた。

LIFEBOOK UH-X/E3

3つの拠点が連携して機能

 現在、FCCLは東京周辺に3つのオフィス拠点を持っている。1つはセールス&プロモーションの拠点となるオフィスで東京にある。また、もう1つは、プランニング&クリエーションの拠点としての本社オフィスで、社長室などの経営陣のためのオフィスであると同時に、製品の企画検討などを行なうメンバーを集め、新川崎で稼働している。

 そして、もう1つの拠点が今回訪問したJR南武線武蔵中原駅に隣接するR&Dセンターだ。今回の最軽量値である634gは、「武蔵(むさし)」の語呂合わせにエンジニアたちがこだわった結果だという。このセンターのミッションは製品の開発・実験、評価で、実験装置が機能的に配置されたなかで、協力各社などを含めた技術者が一堂に集まるセンターとして機能している。

 FCCLではGood Village Officeというコンセプトを提唱する。さまざまな匠が集うコミュニティとして機能的、効率的に業務ができるようにするとともに、エンジニアの向上心を刺激する仕掛けを随所に盛り込み、ひらめきを逃さない世界観で包み込む場所だ。

 ビルは4フロアから構成されている。1Fと2Fは実験室フロア、3Fはエンジニアらの執務とコミュニケーションを担う場所、そして、4Fは会議室と応接室フロアとなっている。

 もともとは、駅の反対側の富士通川崎工場にあったR&Dセンターが、このビルに移転してきてからちょうど1年になる。今回の世界最軽量パソコンは、開発期間を考えると、まさに、この場所で産声をあげて生まれたことになるわけだ。

応接室フロア。顧客対応のみならず集中する環境としても重宝されているようだ
会議はできるだけオンラインでするように求められているため、会議室はガランとしている
何の変哲もない会議スペース。この会議室を使わず、突発的に執務エリアで行われることで機動性の高さが発揮される
一風変わったスペースも確保し、コミュニティスペースとして機能する

 現状も深刻な状態のコロナ禍ではあるが、取材時点でも各フロアには意外にエンジニアが数多く業務に携わっていることに気がつく。

 「どうしても業務の性格上、通勤が必要な社員が多いんですよ。たとえば装置の評価のためには測定器などが必須です。だから、在宅勤務というわけにはいかないのです」と、栗林氏は説明する。

 「非常事態制限の頃も、出勤している社員数としては同じような状況でした。テレワークが難しいのです。でも、感染拡大を防止するために通勤を回避するために周辺のホテルを60室ほどおさえて対応しました。おかげで、いまに至るまでFCCLでは1人も感染者を出していません」(栗林氏)。

磨りガラスの向こうは、セキュリティレベルの高い業務に使われる
近づいても何も見えない

フリーアドレスが「決まる速度」を向上

 R&Dセンターは、このビルに移転してきたのを機に、フリーアドレスに移行した。3Fのエリアは多くのエンジニアが常駐しているが、すぐにその環境に慣れたようだ。フリーアドレスに慣れるには半年程度の時間が必要なはずだが、そうでもなかったようだと栗林氏はいう。

 「固定デスクに置いておかなければならない書類はそれほど多くないですし、印刷して書類を増やすことももはやありません。実験室については動かせない設備などがあるので、ある程度例外として席が固定されていますが、他のメンバーはすべてフリーアドレスとなっていて、その環境に慣れ親しんでしまったようですね」(同氏)。

執務エリアは完全なフリースペース。慣れるには半年かかるといわれているが、そうでもなかったという。打ち合わせスペースもたくさんある
めいめいのエンジニアが自分の好きな席について作業する

 エンジニアは基本的に東京、新川崎、武蔵中原の3つの拠点のどこに出勤してもよくなっているそうだ。稼働開始後、新型コロナへの対策を万全にした上で、開発と品質管理をより近い位置にして開発スピードをあげることが目的で、このセンター構築となったという。

 また、このセンターは製品の出荷前と出荷後のフィールド対応で、現地調査を含む不具合指摘に対して対応していくセクションとしても機能する。顧客からのクレーム内容だけでは、すぐにトラブルが再現しないことが多く、そんな難解な問題を解決することが目的だ。たとえば自転車のカゴにパソコンを入れて持ち運んで生じたトラブルや、机に置いたときのガタツキなどをあらゆる方法を使って再現し、その解決にはどうすればいいのかを対策として考えるわけだ。

 本体が軽く薄くなったから壊れやすいといったことを言い訳にはできないと栗林氏はいう。もっとも薄くて軽いからこそ、実はショックを受けにくいといった面もあるかもしれないと栗林氏は笑う。最軽量ならではの恩恵かもしれない。

ノートパソコン本体に一定の振動を与え続ける試験装置
各社の拷問テストでお馴染みの落下試験機も用意され、過酷な試練を与えている
開閉試験のための装置

 出勤したエンジニアたちは、上着をコート置き場に置き、個人ロッカーからお道具箱を取り出してフリーアドレスの席につく。このお道具箱はノートパソコンが入るサイズで、身の回りの文房具や書類などが収納できるものを選んで調達したという。各席には据置の外部モニタが設置され、ノートパソコンの窮屈気味な画面を拡張し、広々としたデスクトップで作業ができるようになっている。

庶務スペース。各種文房具はここで調達
ノートパソコンをはじめ、業務に必要な雑貨を収納できるお道具箱
ノートパソコンを入れることを前提に設計された個人ロッカー
個人ロッカーの中にはコンセントも設置され、夜間にノートパソコンを充電しておける

 このR&Dセンターが稼働し、コトが決まるテンポがはやくなったと栗林氏。製品の開発と評価の部門が同じビルの各フロアに一堂に会し、必要があれば、すぐに身近なスペースでミーティングができることが功を奏しているようだ。