山田祥平のRe:config.sys

新型コロナがあぶり出した新しい働き方のためのインフラ整備

 働き方改革のためにはインターネットインフラが不可欠だ。そして同時に求められるのは意識の改革だ。政府は在宅勤務やテレワーク、時差出勤などを要請、都市の構造改革を進めようともしているが、新型コロナウイルスはそのリハーサルなしのぶっつけ本番を余儀なくしている。

感染対策をIT的に前向きにとらえる

 先週から今週にかけて多くのオンラインプレスイベントが開催されている。新型コロナウイルス感染拡大の抑止のために、リアルイベントを回避するためだ。ほぼ一方通行でプレゼンテーターがコンテンツを披露するセミナーや発表会などは、どのツールを使っても同じようなものだが、リアルタイムでの質疑応答や複数拠点からのプレゼンテーションなどが統合されたイベントでは、ツールのインタラクティブな面での使い勝手が問われる。

 そのあたりについては、各ツールを使ってみてもまだまだだという感じが否めない。リアルイベントと同等の臨場感というのは、はなから無理というものだが、オンラインならではの特性を活かした別の方向性を今後は考える必要があるだろう。

 個人的にはこの騒動のなかでも、先週まではできるだけ現場に行くことを考えていたが、今週はコミュニケーション機会が提供されるかぎり、できるだけ現場に行かないことを実践してみた。ITの可能性を確認するいい機会だと前向きにとらえることにする。

まだまだ少ない在宅勤務実施企業

 さて、首相が新型コロナウイルス感染症の対策本部を開き、多数の観客が集まるスポーツ・文化イベントについて、主催者に対し今後2週間は中止や延期、規模縮小などの対応をとるように要請する方針を明らかにし、また、企業には時差出勤やテレワークの利用も要請することを表明したのが2月26日だった。さらに翌日、全国の小中学校と高校、特別支援学校に臨時休校を要請した。

 さらにその2週間が経過した3月10日になって、大規模イベントなどの自粛を3月19日頃まで「10日間程度」継続してほしいと表明している。

 これが直近のタイムラインだ。通勤ラッシュは緩和されているとか、そうでもないとか、また、新幹線はガラガラといった声がSNSで聞こえてくる。飛行機の国内線も需要が落ち込み、減便拡大が顕著だ。国際線も運休路線が目立つ。

 もっとも、実際に一般的な通勤時間に電車に乗ってみると、多少はすいていることを実感できるのだが、ガラガラという感じではない。だが、ある程度の効果は出ているのだろう。

 日本経済新聞の調査では、原則または一部で在宅勤務を実施する企業は46%に上り、本社勤務にかぎれば約12%が原則、約32%が一部で在宅勤務にしたという。また、全社員の半数に相当する約8,000人を原則在宅勤務にしたKDDIなどの民間企業の例もある。外出しての営業については約4割の企業が自粛し、国内出張も約6割が禁止しているようだ。

24時間働けますか

 PCベンダーの取り組みとしては、3月11日にレノボ関連グループが4社合同のテレワークデーを実施。同日、その説明会をオンラインとリアルイベントとしてプレスに公開した。

 テレワークでは、離れた場所からVPNで企業ネットワークに接続し、企業内のリソースや企業のファイアウォールに守られた状態でのクラウドアクセスが求められる。仮に全社員がテレワークに取り組んだ場合、単純に考えても、社屋内に社員がいる場合に比べると倍の帯域が必要になる。レノボでは当然それを想定し、そのトラフィックを吸収できるインフラを常時確保しているという。

 一方で、テレワークは従業員に対して24時間いつでも働けるという環境を与えてしまう。そのことは従業員に心理的な負担を与えることにならないのだろうか。この不安に対して、レノボでは管理職とのコミュニケーション次第だと考えているようだ。すなわち、これから仕事をはじめる、これで今日は仕事を終わるといったコミュニケーションを密にとることで仕事の束縛と解放の区切りを明確にするというのだ。

 在宅勤務ではたとえ通勤しなくても洋服を着替えて自分自身の戦闘状態をスタートさせるというノウハウもあるようだ。人それぞれだとは思うが、なんらかの工夫でその心理的負担を解消しようとしているのだろう。

 とは言え、テレワークレディな環境をすでに持っているのは大企業だけだと言ってもいい。日本を支える多くの中小企業は、そこにふみこむノウハウも予算も確保が難しい。

平日昼間のトラフィックが20%増

 そして、インターネットインフラは、この状況にどんな貢献をしているのだろうか。

 ISP大手のIIJに問いあわせてみたところ、同社が提供するフレッツサービス網におけるブロードバンド回線において、3月2日の週以前と以降では、平日昼間のトラフィックが従来に比べて増えている傾向を確認したそうだ。法人においてもブロードバンド回線の利用が少なくないため、完全に傾向を把握できるわけではないものの、トラフィックのピークが夜というのは以前と同様だが、3月2日以降は平日昼間の時間帯に従来は見られなかったトラフィックが観測されるようになったという。

 引き続き調査と検討を続けるとのことだが、「世間の状況を考えると、昼間の新しいトラフィックのトレンドはリモートワークのトラフィックか、平日の日中に家にいる子どもたちが動画を見たりしているトラフィックあたりだろうと想像されるが、現時点ではそれを裏づけられるようなデータは得られていない」とも言い、これはあくまで想像の範囲での分析だ。

 同社は「新型コロナウイルスのフレッツトラフィックへの影響(IIJ Engineers Blog)」で、今回の現象についてのIIJ技術研究所の長 健二朗氏の考察を公開している。

 分析では、平日昼間のトラフィック増加が特定のサービスに起因しているのかどうかを調べるために、2月26日(水)と3月4日(水)の東京都分のSampled NetFlowのデータをチェックしている。小中高、特別支援学校の休校前と後の水曜日だ。

 結果として、ダウンロード量は全体で1.19倍に増えてはいるが、送信元事業者(AS)別に比較すると、CDN事業者からの割合が多少増えている程度で、おもなコンテンツ事業者の構成比はほとんど同じだったという。具体的には、Googleが1.16倍、Amazonが1.16倍、Appleが1.14倍、Netflixが1.17倍、Facebookが1.10倍となっている。つまり、人気コンテンツはほぼ同様に伸びていて、特定のサービスが突出して増えたのではなく、全体が増えていることがわかる。

 また、おもなコンテンツ事業者からのトラフィックが一様に増えていることからは、特定のサービスが増えたというより、平日昼間に在宅している人が増えてインターネット利用全体が増えたと言えるようだと長氏は考える。

 テレワーク、リモートワーク特有の影響としては、平日昼間のアップロードの増加分がおもにビデオ会議ではないかと考えられるが、量的には大きくなく、これは自宅でビデオ会議をしている人がかぎられているからだと同氏は推測する。やはりまだテレワーク実践企業はインターネットのトラフィックに大きな影響を与えるほど多くはないことがわかる。ざっくり2割がテレワークした結果、トラフィックが2割増えたといったところか。

 IIJはMVNOとしてモバイルネットワークも提供しているが、現段階では有意な変化を見つけられていないともいう。理由として、IIJとキャリア間の接続帯域がもともと飽和状態にあるため変化が隠れてしまっているのか、じつはモバイルの利用には変化がないのか、判断をつけかねているようだ。あまりにも正直すぎる回答だ。もちろん、こちらも引き続き検討を続けるという。

 ちなみに、ドコモに問いあわせたところ「その周辺に、目立ったトラフィックの変化はない」ということだった。具体的な値については非公開で、たとえば都心部の基地局トラフィックが激減しているような現象が観測されれば興味深かったのにと思う。

 また、KDDIはもう少し具体的に傾向を教えてくれた。「auひかり+モバイルでのインターネットトラフィック全体の傾向として、平日昼間に明らかな増加傾向が見られるが、ネットワークそのものに影響を与えるほどではない。ただし、首都圏(東京都)では、朝8時台について多少の減少が見られるが、LTEトラフィックに大きな変化は見られず、都心の基地局のトラフィックが激減といった現象はない」とのことだった。

テレワークを支えるインフラ

 ハンズフリーヘッドセットブランドJabraを展開するGNオーディオジャパンは、「テレワーク」に関する実態調査を実施した。インターネット調査によるもので、調査対象は20代~60代の社会人の男女、調査期間は2020年2月21日~2月29日で、全国サンプル数は313だ。

 結果としてテレワークを導入している企業は約2割にすぎず、ヘッドセットなどを持っているユーザーは2割。それにもかかわらず、25.8%がオンライン会議の声の聞こえにくさを感じているという。テレワーク導入企業2割という結果は、IIJの観測したトラフィック増とあわせて納得できる。通勤ラッシュの緩和もそんなところなないだろうか。

 今週は、いくつものオンラインイベントを各種ツールを使って参加してみたが、痛感するのはとにかく重要なのは画質と音質だということだ。画質については720p程度では話にならない。13.3型程度のノートPCにフルスクリーン表示して破綻するようではまずいと感じた。そしてそれ以上に音質は重要だ。PC内蔵マイクに毛が生えたようなものではプレゼンターの説得力が半減する。

 きっと普段から顔見知りの相手とのオンライン会議では違うと思うのだが、いずれにしてもリッチなコンテンツを往来させるにはインターネットの接続帯域が求められる。そういう意味では5Gによる安定した広帯域の環境の整備は重要なインフラになっていくだろう。また、いよいよはじまる家庭での10Gbpsインターネット接続サービス「フレッツ光クロス」にも期待が高まる。とにかく上りの帯域の拡充が求められる。

 テレワークができない職種もある。だから不公平だという意見もきこえてくる。うらやましがられるのはどちらなのかということも考えなければなるまい。

 そして会社と緩くつながる意識の改革。早い話が、オフィスをクラウドに置くことができれば、テレワークなどといった形態は意味を失う。いつでもどこでも誰でも「テレ」。それをかなえるのがインフラとしてのインターネットだ。